調味料vs東部方面軍
夕刻、木々が少しずつ疎らになって来た。
空の広さや、木につけられている切り口を姫さんが確認している。
その行為の意味するところは、前世の映画で私も知っていた。雪山で行軍訓練をしていた連隊が遭難する映画だ。
その中で、木樵か猟師が枝を切って曲がり角の目印としていたものを、疲労で判断力の落ちた兵が見間違えるという描写だったと思う。結果、連隊は僅か数キロの山道を彷徨い歩き、兵は次々と凍死していくという話だった。
私が生きていた時代は、人工衛星からの信号を受け取る事によって現在地点を用意に確定出来る機能が既に一般化していた訳であるが、空すら飛べないこの世界では夢のまた夢だ。
経験則と実物が全てのアナログ世界。
私とミズーリは簡単に凌駕しちゃうんですけどね。
「旦那様、間もなく森を抜けますが、どうされますか?」
東部方面軍が丸ごとポンコツになった為、昼からこっち何にも起きなかったからなぁ。
「ここからは、コマクサ侯の私兵と我らの挟み撃ちになるぞ、旅人おおおお。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
何か言い始めたゼル君を鬱陶しがったミズーリが、剣を高く放り投げては手元に戻し、高く放り投げては手元に戻しと、剣でゼル君お手玉遊びを始めた。
ゼル君は顔じゅうからあらゆる体液を流しながら謝り続ける。
「ゼル君さあ、後ろから来る君の味方。ちょっと変な事になってますよ。」
お肉を食べ終わった兵隊達が、私達の後を追って続々と集まってきているんだけど。
ミズーリが面白半分に剣を大人3人分の高さに伸ばした為、ゼル君は高い高いされながら、後方の東部方面軍の状態を確認させられた。
私達も振り返ると、そこには私達に土下座している兵隊さんが。
ウェーブの如く、前から順番に土下座していく。
「姫さん?何ですか?これ。」
「私が旦那様に全面降伏した様に、東部方面軍も旦那様に降伏したものと思われます。」
2日に及ぶ死の恐怖と、食べた事の無い美味しい焼肉に彼らも自己洗脳・隷属しましたね
まさしく飴と鞭です
彼らは純粋過ぎますね
解説をありがとう万能さん
「姫さんだけでいいのに、むくつけき男達に隷属されても嬉しくないなあ。」
「わ、私だけでいいんですか?」
あれ?言葉の選択肢間違えたかな?
姫さんが真っ赤っかになっちゃった。
「ちなみに生体スキャンをしてみたところ、8%は女性よ。夜伽に呼ぶのはいいけど、まずは私達を優先しなさいよね。」
そういえば、へっぽこ女神救出の褒美に夜伽OKってのがありましたね。
ミズーリが色々アレ過ぎな幼女でしたし、天界の神族の倫理性に強烈な疑問を持ちましたけど。
神様なんか碌なもんじゃないと思い知らされましたね。
「で、どうします?このままコレットの街のコマクサさんに殴り込みをかけますか?
後ろの彼らが一緒に参戦してくれそうですが。」
「そこまで行ったら、それはもう帝国に対する叛乱です。旦那様。」
君には、私の第二皇妃になりたいから、皇帝にとって代われと唆された覚えがありますが。さすがに本格的に事を構える勇気はありませんか。
私達は大袈裟になると、後始末が面倒くさいからやらないだけですが。
私は特にミズーリの後始末をしている最中ですし。
あ、ここにもう一人帝国関係者がいましたね、そういえば。
「ゼル君は帝国貴族だそうですが、何か言いたい事はありますか?」
ところが、剣から吊るされた帝国貴族様は
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
ありゃ?壊れちゃった?
「大丈夫。後で直しとくから。まだ取り返しがつくから。」
まるで割れたお皿を接着剤でくっ付けるみたいな言い草ですが、お願いしますよ女神様。
ならば、この場を一番穏便に治める事が出来るのは姫さんしかいませんね。
「え?私?」
「そうです。彼ら、兵達の話を聞く必要があります。姫さんより彼らの代表を選び呼びつけてください。」
色々骨抜きになっている姫さんですが、そこは腐っても帝国第四皇女かつ東部方面軍司令官、ミク・フォーリナー殿下。(アレ的に腐り始めているって話もありますが、知らぬ存ぜぬ)
ゼル君の次の位階だと言う男性が2名、私達の前に跪きました。
「右より、カピタンそれからアマーネと申します。私、ゼルと並ぶ東部方面軍五将を務めております。旦那様。」
姫さんは私の左後方に半歩下がると、剣を地面に突き刺した。この国における主君を守る騎士の位置らしい。
念の為に鎧を着て貰っててよかった。
ジャージだとカッコ悪かったよな。
「カピタン。東部軍の現況報告を。」
「は、あ、あの。どちらの方に報告すればよろしいのでしょうか。」
「旦那様は我が主を成すお方です。旦那様を認めたくないなら私に。認めるならば旦那様に報告なさい。」
「旦那様を蔑ろにしたら、二度とさっきのお肉は食べられないけどね。」
あ、こらミズーリは余計な事言うな。
「我が主。東部方面軍は貴方に忠誠を誓います。」
「誓います」「誓います」「誓います」
やっぱりこうなったか。大勢の誓いますも鬱陶しいな。宣誓が終わんないじゃないか。
「カピタン、旦那様が不快に思われています。」
アマーネの方がさっさと立ち上がると右手を上げる。途端に鎮まりかえる兵隊さん。
その間も焼肉を食べ終わると合流に来た兵隊が、後から土下座に加わるのが見える。
いや、杣道ならともかく、薮の中にも大量の兵隊さんが土下座してんだけど。
「コマクサ侯爵様はお怒りです。あくまでも我が主の殺害を望んでいます。今朝がたの命令では、我が主の死体を持ち帰らねば、東部方面軍を反逆者として処分するとまで。」
「それで、全軍に出動命令が降ったと。」
「先発隊は姫閣下を含め、全員行方不明。昨日の総攻撃は歴史的大敗。最早これまでと全員斬り込みの命令をゼル将軍から頂きましたか、ゼル将軍は…。」
うん、ミズーリの剣の先っちょで謝り続けてよね。
「死ねと命ずる貴族と、姫閣下が従い、我らに糧を与えて下さる我が主。東部方面軍は我が主について参ります。」
「参ります」「参ります」「参ります」
やれやれ。
私達は今、東部方面軍指揮官室にいる。
何故か。
あのままだと兵隊さん達全員がコレットの街までついてきちゃうからだ。
さすがに人数が多すぎて、末端まで制御し切れない。いや、私達なら出来なくもないけど、面倒くさいじゃん。
そうしてたら、最後方を指揮してた東部方面軍五将最後の1人、サクライさんが合流した。私の顔を見た瞬間に土下座しながら近寄って来るという、薄気味悪い登場をした年配の男性だった。
私達の話を聞くと開口一番、
「ならば我らの駐屯地においで願えば良いではありませんか。」
と言い出したので、そうする事にした。
朝決めた指針では近寄らないと決めた筈なんだけど。
捕まろうと思ったら捕まえちゃうし。
近寄らない様にしようとしたら招待されちゃうし。
世の中はままならないなぁ。
「本当よねぇ。」
いや、ミズーリ。本来なら君が余計な事をやらかさなければ、私は今頃、日本で心健やかにサラリーマン生活を送って、奥さんの1人もそろそろ考え始めていたんですが。後輩ちゃん、元気かなぁ。早く新しい恋愛見つけて欲しいな。
「今だって、女神にお姫様にと、上質な嫁候補・妾候補が勢揃いじゃん。なんなら、アリスって言ったっけ、キクスイで鬼から逃げて来た娘。あの女騎士だってトールになら靡くわよ。」
「なんですって。旦那様にはキクスイ国に現地妻がいると言うのですか。」
内緒話のはずなのに姫さんが後半部分だけデビルイヤーになっちゃた。
まったく、人聞きの悪い事を一国の姫さんが言うんじゃありません!
「ならば、私にも帝国の現地妻の可能性がある訳ですね。それなら頑張ろうと言う気にもなるものです。」
「ここの女性兵くらいまとめて食べちゃえるのがトールという男よ。気をやり過ぎて、気を失う覚悟くらいはしておきなさい。」
「覚悟なら既に済んでおります。目指せ一姫二太郎以下8人。」
一姫二太郎を何故知ってる?あと8人も?目標二桁?
「姫閣下はどうなされたのだ?」
下ネタ満載姫の有り様に、カピタンさんが頭を抱えている。
彼は将軍相当のお偉いさんであると同時に、帝国皇女たる姫さんの秘書と教育係も務めているらしい。確かに3日前までは凛々しい姫武将だったのでしょうね。虫みたいに木に引っかかってましたけど。
あ、それじゃさっきのゼル君と同じだ。
なんかね、ごめんなさい、色々彼女の開けてはいけない扉を片っ端から開けたのは私達です。
でもね、今の姫さんの姿は皇女でも軍人でもない彼女の地ですよ。
よく笑いよく泣いてよく食べて(よく悶えて)、下ネタにも積極的に対応して仲間との縁と空気を何よりも大切にする。
そんなただの女の子です。
「そうは申されましても、姫閣下は皇族であり軍人である事も事実ですから。」
「なら、皇族だろう軍人だろうが、好きに笑える社会にしちまおうか?」
あれ?ひょっとして、この国に来た目的がなんか定まった?こんなテキトーな流れで?
「そんな無茶な事が。
「出来るわね。」
「旦那様ならもしかしたら。」
姫さんとミズーリがカピタンさんに被せて興味深そうに食いついて来た。
問題は持続性・永続性だけど、一個、実は考えがある。創造神は顔を顰めるかも知れないけどね、それはそれ。
私にこんな無茶振りして、おまけに万能の力まで迂闊にも与えてくれちゃった神様が悪い。面白そうだからやってみるかな。
「私も全力で協力いたしますわ。なんならお子を沢山設ける事からでも。」
姫さんは会話の流れに合わせた下ネタをかまして来たつもりだろうけど
うん、そうなるかも知れない。
「え?」「え?」「え?」
まずやらねばならぬ事。言うまでもなく人心掌握だ。姫さんが出撃した時に4分の1を倒したとは言え、まだ1万の兵が健在なこの駐屯地。兵以外の文官や労働者は、聞くと300を数えるという。特に戦場に出ていない高級文官には、私達を捕らえて来たと報告を上げてある。まずはそいつらを全員落とす。
一番手っ取り早いのは、やっぱり飯だ。美味しい飯を一度食わせた後で、既に東部軍は私達が掌握済みだと脅迫する。駄目なら二の手三の手を繰り出すが、それも飯攻撃だけで。
逆らう連中にだけ私のご飯を食べさせない、と言うのが一番平和的だと思う。
それでも言う事聞かない人は、万能さん流に処分しちゃえばいいし。
「私の旦那様は、なんと言う酷い事を思い付くのでしょうか。旦那様からそんなおあずけプレイされたら、私泣いちゃう自信がありますわ。」
私に隷属化した上、ミズーリから精神強化まで受けている姫さんが泣いちゃいますか。
「満々です。」
駄目な方に自信満々な力瘤を作り出す姫さんを呆れた顔で見ていたカピタンさんでしたが
「私と旦那様に呆れたら、旦那様特製の晩御飯抜き!です。」
と、姫さんに宣言されると慌てて土下座をし始めましたよ。魔法使いさんのお友達のよっちゃんかよ。
「まだ、土下座の形が甘いわね。」
何故かミズーリがマウントを取って来ました。さすがは土下座の女神様。
「…ねぇ、トールさん。私がいつかどこかで女神像となる時、その姿は土下座姿なんでしょうか。」
少なくともミズーリの土下座は、誰よりも綺麗で神々しい土下座ですよ。
「ならば良し。」
いいんだ。…いいの?
という訳で私達は厨房にやって来た。
これだけ多人数の胃袋を賄うだけあって、前世で言う学校の体育館見たいな巨大な台所だった。姫さんとカピタンさんがついているとはいえ、厨房を預かる者には私達が不審な人物である事には変わりない。
兵站担当の兵は私達を歓迎しているが、駐屯地付きの職員の中には威嚇すらしてくる女までいる。
付き合いのあった男でも殺しちゃったかなぁ。仕方がない。私達はもう沢山この駐屯地の人を殺してますから。
厨房に来て一番最初に驚いたのは調味料の少なさだった。砂糖、塩、あとこの茶色いのは醤油か。いや醤だな。
砂糖もこれ、甘味が足りない。
出来損ないの甜菜からでももっと甘味が取れる筈だ。そういえば姫さんはメープルシロップにやたらと食いついてたな。
これはこれで、やるべき事が簡単になった。が、とりあえずは厨房を掌握する事だ。
と言う訳で、今晩の賄いはカレーです。
お米はこの世界にも存在していましたが、あんな甘味と膨らみの足りない痩せた色付き古代米(しかも玄米)ではなく、コシヒカリ、それも新潟産の最高級品種を薪で炊きます。はじめチョロチョロ中ぱっぱ。
カレーはみんな大好きリンゴと蜂蜜が溶けてる前世の市販品。具はノーマルに、玉葱・馬鈴薯・人参・豚肉。そこらに転がっていた大鍋でグツグツ煮出ち始めると、厨房内全体にカレーの匂いが広がっていきます。
カレーって匂いだけで美味しいよね。(2回目)
虚空(万能さん)から次々と食材を出して調理を進める事に、兵以外の人は呆然としてますが、とりあえず死んだり発狂したりする事は無さそうです。
そこらへん、うちのへっぽこ女神とは阿吽の呼吸が出来てますね。
賄い席にいち早く座ったミズーリ、姫さん、カピタンさんの姿を見て、慌ててみんな席に腰掛けたり、席からあぶれた人は床に正座したり。
なんかもう炊き出しみたいな風景ですね。
そうして、先ずはカレー一杯で厨房班が味方になりました。
さっき威嚇して来た女性は目がトロンとなって私に絡み付いて来たので、姫さんにお仕置きをされています。
久しぶりに言いますか。チョロい。
カレーはスパイスの塊。最初にキクスイの草原で作った時はミズーリと騎士のアリスさんがおかしくなったが、さもありなん。
調味料の絶対数が少なく、食材の品種改良という概念自体がない世界だしね。
各種スパイス・小麦粉・肉野菜全てが、文字通り別世界の美味しさな訳だ。
例えそこらのコンビニで買えるお手軽ルーであっても、そこには企業努力が固まっている訳だし。
一度賞味済みのミズーリ以外は全員涙を流している。そういえば最近ミズーリは食べても暴れませんね。
「トールのご飯に私の味覚がマッチして来ただけよ。食べた事の無いご飯出されたら、どうなっちゃうか、今でもわかんないよ。だからトールさん、よろしくね。」
私は別に食通ではありませんから、私の知ってる料理なんてたかが知れてますよ。
行きつけだった定食屋、中華屋、チェーン店、居酒屋メニューとコンビニ弁当くらい。あれ?結構ネタはあるな。
「楽しみにしてますよ。トールさん。」
「あ、なんか羨ましいです。旦那様。私にも私にも食べさせて下さい。ご奉仕でお返しいたしますからぁ。」
そしていつもの馬鹿話。それがいつもの私達。大量虐殺をした私達の素は、下ネタと食い物で馬鹿話をしている馬鹿だと言う事。
何よりも自分達の姫さまが積極的に私とミズーリに絡んでいる事が、仲間を大量虐殺した私達への得体の知れない絶望的な恐怖感を消してくれる。
それまで見せた事のない姫さんの自然な笑顔に、今まで食べた事の無い味に、一同から少しずつ笑みが溢れ出した。
そうとも、私とミズーリは敵対しない者にわざわざちょっかいを出す程暇じゃ無い。
いや、暇なんだけど。
暇なんだから心安らかに暮らしたい。
ミズーリを天界へ帰すと言う大命題がある以上、今後も山の様にトラブルがあるし、人も沢山殺すだろう。
けど、そうで無い時間くらいは仲間と笑っていたいよね。
皆が食べ終えるのを見極めると、次の仕事に入ります。
「姫さん。厨房の責任者を呼んで下さい。」
「分かりました。でも私は姫さんじゃなくミクですからね。」
あゝ面倒くさい。
「マリンさん。こちらに。」
「は、はい。」
中年女性がおずおずと私達の前に立ちました。
「今日の晩御飯は何ですか?」
「乾燥猪肉の塩炒めに野菜スープとパンです。」
うわ、味気無さそう。
「乾燥肉はそのまま炒めずに、もっと薄切りにしなさい。そして塩は控えめに揉み込むだけにして、これで炒めます。」
私が万能さんから出したのは醤油。しかもドラム缶サイズ。これだけあれは足りるだろう。鉄板に乾燥肉を乗せて醤油を掛け回す。実際にその量を実践で理解してもらい、試食してもらうとマリンさんは腰を抜かしてしまった。
勿論、残りの肉にうちの馬鹿姉妹が飛びかかるが放っておく。
野菜スープには片隅に転がっていた猪の骨を煮込んで出汁を取らせて、そのスープに塩を振り、更にそのスープで具となる野菜を煮込ませる。これで野菜の旨味も出てくる。パンはやたら固く食べにくいので、さっと水に潜らせると軽く焼き直す。
これだけの手間で、こんな悪質な料理もわりかし食べれる様になるのです。
乾燥肉の醤油炒めを食べたショックで床に転がったままのマリンさんに、パンと野菜スープを試食してもらうと、美味しいです美味しいです、とまた泣き出したので成功でしょう。
オマケでバターの塊を牛一頭分つけときましょうか。バターってこの世界にもありますよね。
「塩を混ぜないのに、こんな美味しいバターは無いです。旦那様。」
ですか。
「マリンさん。私達に協力してくれるのならば、美味しい味の材料を沢山あげますよ。
辛いの甘いの酸っぱいのしょっぱいの。沢山、沢山ね。ご飯が美味しくなりますよ。」
マリンさんは土下座したまま何度も頭を下げ出しました。
試食コーナーに集っている馬鹿姉妹の襟を掴むと引きずったまま厨房から退散する。
ここからは彼ら彼女らの仕事だ。
邪魔しちゃいけない。
「そうそう、カピタンさん。献立表と現時点の兵糧一覧を後で用意して下さい。出来れば晩御飯の後でコマクサ派の文官と共にね。私達は駐屯地の端っこの家にいますから。」
「家ですか?」
「家です。これから建てます。」
「はあ。」
理解出来てなさそうだ。そりゃあね。
なるべく人気の少ない空き地を見つけると家を展開します。玄関を開けるとチビが飛び付いて来ました。ただいまチビちゃん。
一日お留守番ご苦労様でした。
ワン(任せなさい)
早速ご飯をあげますね。
「トール。私達もご飯。」
さっきカレーライスを食べたでしょう。
「あれはあれ。私達のご飯は、私達家族で食べないとダメでしょ。それにトールは食べてないでしょ。」
「ミズーリ様…」
「何?ミク。」
「私も家族、なんですか?」
「当たり前でしょ。トールのご飯を食べてトールと同じベッドで寝る。トールが家族として認めてくれたから出来る事よ。」
「感激です旦那様。嬉しくて泣いちゃいそうです。」
あーまた何かこう、湿っぽくなるのは嫌だなぁなんとなく。という訳で悪ふざけタイム。
「ミク!椅子!」
「!。旦那様喜んで!」
姫さんが自分からマッサージチェアに沈んで行った。ご飯を食べ終わったチビが早速揶揄いに走る。足裏舐め舐めワン。
「あひゃあああああ〜。」
「完全にミクを飼い慣らしたわね。」
「こんなとこ、軍の偉いさんに見られたら大問題になりかねないけどね。」
「それよりトールは早くご飯を食べちゃいなさい。」
久しぶりのオカンミズーリさん登場。作るのも食べるのも私なんですけどね。
とは言うものの、お昼のBBQが結構重かったので軽く済ませましょう。
薄切りの耳なし食パンで、ベーコン・レタス・トマトを挟んだBLTサンド(トマト多め)で抑えて。コーヒーを楽しむ方をメインにしましょうか。
…何故君達が食卓についているのですか?
「私とトールは一蓮托生でしょ。」
「私と旦那様は家族です。家族なら食事も一緒です。」
さっき賄いカレーを食べたでしょうに。
「あ、トール。ちょっと待って。」
ミズーリが虚空に向かって何か唱えます。
万能さんから出して貰ったものは、なんとコーヒーミルとコーヒー豆でした。モカですね。
「コーヒーは時々トールにご馳走になるけど、色々調べて色々試してみたくなったの。いつもの粉も良いけど、今夜は豆から挽いてみましょう。因みにトールの好きな深煎り焙煎です。」
それは楽しみですね。
「とても良い香りですが、何ですかこの茶色いの。」
「ミクにはまだ早い飲み物よ。処女はミルクでも飲んでなさい。」
「それは旦那様n」
おっと危ない。今のは許容範囲を超えるとこだった。
冷蔵庫から新鮮・そのままでも甘い牛乳と砂糖を出してテーブルに乗せて見たけど、意外な事に姫さんはブラックにハマった。
「ミルクと一緒に飲んでも美味しいんですが、混ぜ物入れると匂いが薄まる様な気がして、何も入れない方が苦いけど美味しいです。」
お子ちゃま女神ミズーリさんは砂糖たっぷりカフェ・オ・レの方が好きなのにね。




