捕まえてみよう
・東部方面軍駐屯地には近寄らない
・コマクサ侯の街(今更ながらコレットというらしい)に今日中に到着する
・コレットの街に突入するかどうかの判断は臨機応変に
だけが今日の行動指針として確認された。
要は何も決めていない、行き当たりばったりという事だ。
これは私達が常に受け身であるから仕方がない。
私とミズーリがこの世界に来てからの常である。
姫さんには敢えて紋章付きの鎧を着込んで貰う。本人にも、姫さんは餌と伝えてある。
万能さんや、彼女達との交流の中でわかった事があったので変更点がある。
森の人は自身の意思で姿を消せる能力があった。
いざという時は、私の懐に隠れられる。
(そのせいで私はダブッとした服に着替える羽目になったけど)
姫さんには私(万能)の力で物理的に「手出し」が出来ない状態にする事が出来た。
つまり、私が守る意思がある間は彼女は不死身になるわけだ。
これで、力押しだけでなく色々な手段が取れるようになる。
これは、私と万能さんの無駄話から思い付いた。私と姫さんは生物学上、遺伝子的には本来なら交配が不可能ではある(そのくらい種に差異がある)が、必要に乗じて私の精子もしくは彼女の卵子、あるいはその両方を変質させる事によって彼女を妊娠させる事は可能になる。
などと言う下世話な話を万能さんが始めたので、ならば私の力はどこまで彼女に影響を及ぼすかを思考・確認するうち、彼女自体を私の保護下に置く事で、一時的に一種の使い魔にできるという理屈に気がついた。彼女自身既に隷属化している為、私が使役状態を(彼女の精神に)強める事でファミリアにする訳だ。
彼女の隷属化は彼女の精神防御の為に彼女が無意識に勝手にしているものなので、ぶっちゃけちまえば彼女の記憶を弄れば全て解ける。
その能力はミズーリが既に取得済みだった。
そんな事に使うとか、本人も考えてなかっただろうけど。
まぐわう事で主従隷属化は強化しますよ
ミク皇女の身体能力も飛躍的に強化します
万能さんは余計な事言わないように
なんならミズーリと交われば女神力がリミッター解除しちゃいます
え?そうなの?
天地創造を成し遂げるレベルの女神は大抵男神と関係する事で最大の力を発揮します
へっぽこ女神がリミッター解除させたら、へっぽこ力が上がるだけじゃないの?
否定はしません
なら、勧めるなよ
という事で、姫さんと森の人には彼女達の了承を得て私の影響下に入って貰いました。
「私と交わる事で私の能力が格段に進化すると言うのなら、旦那様の全てを受け止めて差し上げますが。」
誰が私と万能さんの内緒話を姫さんに伝えたんですか?ってミズーリしかいませんね。
「お子が頂けるなら、旦那様がこの国を去ってからでも立派に育てて見せますよ。」
ほら、なんかもう朝から話がズレズレです。
そう言う無責任な事が私は嫌いという話なんです。
「ならばミズーリ様と帝国を乗っ取るというのはいかがでしょうか。私は第二王妃として旦那様のお子を沢山産み育てる所存です。」
おいおい、姫さんなんかマジな顔してんぞ。
ミズーリ、どうすんだ。
「隷属化がかなり奥深いところまで、進行しちゃったみたいね。この子もう奴隷の一歩手前。しまったかな。」
どうでもいいけど、面倒くさいです。
「女の子一人口説き落としといて面倒くさいは、同じ女として業腹物だけど、この世界の人の精神力がそれ程脆いって証左でもあるか。ミクの方は私がちょっと弄っとく。」
という訳で姫さんはミズーリの女神パワーで鎮静させました。
どうも私達は細かく調整しておかないと、守るべき人も不幸にしちゃいそうです。
では、出発。
数分で囲まれました。
一応、敵さんの姿は見えませんが、そんなこたあ私達には何ら通用しないんで。
昨日と同じ軍勢が、私達に見えない様に距離をとって剣を抜いています。
昨日は火攻め矢攻めの力押しが通用しませんでしたからね。
まずは様子見ってとこですかねえ。
「どうすんの?」
「今の姫さんなら、私達と離ればなれには出来なくしてあるし。どうしますかね。こっちも面倒くさいから捕まっときますか。いざとなったら皆殺せば良いし。」
「旦那様、ですからそれは。」
「冗談ですよ。私達はそれだけ絶対という事を姫さんには言っておきますって事です。」
「姫さんでなくミク…。」
余裕がある様で何より。
そんな事より、空で消えて浮いてた私達が直ぐに見つかる仕掛けですが。
「多分、これです。」
姫さんが着込んだ元の鎧についた紋章を指刺す。
ま、想像はついてましたけどね。
「帝室の紋章は、帝室の人間の個々一人一人に専門の紋章が与えられ、それぞれに居場所を確認出来る精霊の祝福がかかっています。」
姫さんが言うところでは、そう言う事らしい。
魔法の一種なのだろうか。
魔法という概念が存在しない世界です
あくまでも自然現象を利用した仕組みと言う事ですね
万能さんが解説してくれる
気のせいか、万能さんに怒りを感じるな
その内、意味が分かります
そうですか。深く突っ込むのは止めておいた方が良さそうですね。
では、姫さんを先頭に前進を開始します。
姫さん。私達に人質になっている訳でなく、なんとなく打ち解けて道案内をしている体で行きますからね。
「旦那様、演技と言う物が私苦手です。」
「帝国皇女ならば、政敵相手に虚々実々の化かし合いの一つもしてるでしょ。」
「傀儡帝室の第四皇女なんかただの道具ですわ。そんな事した事ないです。」
「そんなんで軍の指揮官務まらないでしょ。」
「東部方面軍創設以来最初かつ最大の敵は旦那様です。」
「やあ、それは困った。」
こんな雑談が、自分達の指揮官と、敵とされる私達との距離感を錯覚させる訳です。
「さてミズーリ。どうしますかね。」
「何か打ち上げ花火を準備した方が良いわね。」
「私達に手を出すとタダじゃおかないぞと。」
「そう、それ。」
「加減が難しいんだよな。何やろっかな。」
「?。旦那様ミズーリ様、何を為されるんですか?」
「力の差を見せつける方法を考えているんだ。前にキクスイで派手に脅かしたら、正規軍がショックで全滅した事があってね。」
「…ま、まあ。今更旦那様が何しようと驚きませんわ。呆れるかも知れませんが。」
「やったのは私じゃない。ミズーリだよ。」
「ミズーリ様は旦那様より容赦無いですわね。」
「何言ってるのよ。昨日の雨と火と矢だって私が彼らの精神崩壊を制御したから、物理的に戦死した人以外は今日ここにまた攻めて来れてるのよ。ミクだって、私達と旅する様になってたった2日で随分逞しくなったでしょ。」
そうなの?
トール。私だって女神の端くれ、色々考えているんだからね。
「そう言えば、そうですね。ミズーリ様には知るには早すぎる事まで沢山経験させられたので、なんかもう怖い物無くなりました。」
「君達は何をしているんですか。主にお風呂で。」
「ほら、ミクの顔が真っ赤になったわよ。知りたいなら今夜一緒に入る?大歓迎よ。」
「ちょ、ちょっとそれは、まだ恥ずかしいです。」
「まだ、って言うあたりが本音ダダ漏れよね。さすがむっつりミクちゃん。」
「〜〜〜」
「あれ?反論出来ないみたい。」
などと、いつも通りにグダグタと歩いているうちに、森から道に出ました。
踏み固められてはいますが、整備が行き届いている訳ではない杣道です。
「馬や攻城兵器が通れる幅はありますが、基本的には杣人しか通らない道です。年に数度、軍も人を出して草刈りなどをしていますが、国として予算を出して整備している訳ではありません。」
姫さんが解説してくれます。
森の人は姿を消していますが、肩に重みを感じます。
敵さんも私達に追走していますが、今は手を出す気配は有りません。
「このまま、硬直状態維持かしらね。」
「かもな。姫さんの見解はどうなのかな?」
「この先に追分があり、若干ですが広場が出来ています。仕掛けるとしたら、まずそこだと思います。」
「ふむふむ。姫さんに一つ問う。」
「はい。」
「君達は火薬という物を知っているかな。」
「なんですか?それ。」
「何種類かの薬品を調合する事で爆発を引き起こす道具の事だ。」
「爆発?爆発ってなんですか?」
マジか、前世では7世紀には利用されていたはずだけど。この世界の文明レベルがわからない。
爆発という現象すら知らないのか。
「トール?派手になり過ぎない?」
キクスイのエドワードでは、ミズーリの威力0光学魔法で全滅してしまった虚弱人間達ですからね。気をつけないと。
「音だけ、煙だけ。私の国には便利なおもちゃがある。それを一つ作ってみよう。」
子供の頃の思い出と、知識を万能さんで補いながらコヨリを丸く結んだネズミ花火を取り寄せた。
鎌倉時代は元寇の時、ただの焙烙で鎌倉武士がパニックになったという伝承がある。
ミズーリには精神制御をして貰うけれど、これをちょっと試してみよう。
そうこうする内、剣を抜いた万を超える兵が私達に近づいてくる様になった。
手出しこそして来ないが、少しずつ少しずつ間合いを縮めている。
左右、後方。前は一応空いているが、この先待ち伏せしているのは間違いない。
やがて追分の空間に入る頃には、私達から歩いて10歩のところに兵が密集する様になった。
息苦しい。




