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神々の無責任な後始末  作者: compo
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森のひと

私は今、姫さんの顔を抱きしめている。

姫さんの顔が真っ赤になっているのが耳だけで分かる。

どうしてこうなったかと言うと。


「いいなぁ。トール。次は私を抱きしめて。」

いいからミズーリは実験を終わらせなさい。

以前、小日向の街で拘束魔法を試したら町民の殆どが発狂した事があった。

そこで、魔力量を調整すれば別の使い方が出来るのではないか、という提案がミズーリからされたのだ。で、この6人で試してみたのだが、最初の2人はすぐ発狂してしまった。


とにかく、この世界の人間は常識外の事態に対する耐性がカケラも無い。


実験を続けると、更に2人が完全記憶喪失になってしまったが、最後の2人は無事、直近の記憶のみを消去する事に成功した。

何故か逃亡者になっている私達には、精神制御はそれなりに武器になり得る。というか、無駄に人殺しをしないで済む。

殺人量=ミズーリの成長という仮説を以前に立てた事があるが、今後の実績次第では、その仮説を否定出来る。

神にとって人とはその程度の存在でしか無いだろうけれども、決して肯定したい仮説ではないからだ。

当然、こんな実験を姫さんに見せられる筈がなく、とりあえず惚けさせている訳だ。


記憶を無くした2人はおかしくなった4人の同僚に必死に呼びかけ始めているが、当然私達は放置して先に進んだ。


はい、第二陣到来です。今度は3人。

歩き始めてまだ一時間も経ってないんだけどなぁ。

さて、姫さん?

「私には見覚えが無い人です。それに軍服を着て居ません。」

「敵意はあるけどね。」

はいはい。よいっと。

木の上に隠れていた男達は左足首を切られて落下。言葉一つ発する暇もなく、そのまま墜落死する。

あーあーあーあー。首が面白い方向向いてるし。


「でもアレよね。トールが何かするたびにミクを抱いてたら、私が保たないわ。」

「ごめんなさい。ミズーリ様。私がもう少ししっかりしていたら。」

「でも、トールに抱かれていて幸せだったでしょ。」

「…はい。」

「実は、それがトール一番の能力なのよ。だから私は一緒に寝てるの。いつかは3人で寝たいね。トールに可愛がって貰いながら。」

姫さんの顔から煙が出始めたから、ミズーリはその辺で。

多分、姫さん色々想像し過ぎているから。

「ムッツリミクちゃん。」

「ミズーリ様酷いです。」

面白コントはそこら辺にして、コイツらの正体は何かね?

「正規兵でも私兵でもなく第三勢力。キクスイでも散々来たじゃない?」

あゝ、天狗のおじちゃんか。

「ご主人様のところに来たんですか?」

「全部ヤッちゃったけど。」

「それですよぅ。それで来たんです。」

そういえばアイツらなんだったんだ?


小日向の街でミズーリさんが全滅させた誘拐組織の仲間です。

正確には別系統の組織にあたりますが、まぁ悪の組織内での横の繋がりという事で。


万能さんが答えを教えてくれました。

「組織、ですか。」

どうしました姫さん。

「組織は犯罪組織の略です。国家が犯罪組織を管理する事で犯罪の暴発を抑える。組織は国家に管理される事で国家の介入を抑える。

そんな相関関係が何処の国にもあります。」

それは私の前世にもあったよ。 

「それはまた、国を超えてまでご苦労な事だが、私達に用があるなら余計な殺気を出さないで大人しく来れば良いのに。」

「話す気なんか最初からないんでしょ。私達を殺す事だけが目的の様だし。」

「ならば、全方位に宣戦布告と行きますか。」

万能さん万能さん。コイツらのアジトはどこですか。


…。

それは分かりやす過ぎです。

「何処なの?」

「公爵邸。」

「まぁそれはそれは。」

「あの、ご主人様ミズーリ様?何をおっしゃっているんですか?」

「あゝ、トールさんは謎の存在とコンタクト出来るの。」

「はあ。」

「もうさ、真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しいでしょ。

貴方のご主人様は一から十まで非常識だから

もう、そう言うなんでも有りな人だと決めつけなさい。逆に言えば、ミクの願いを何でも叶えられる人だから、しっかり甘えときなさい。」

「なんだか分かりません。」

「分からない方がいいわよ。分からない人だから。」

色々酷い言われようだ。


「ミクはもう、何を見せても大体大丈夫よトールさん。」

精神制御が可能な女神様の言う事だ。雑談と言う形ながら、姫さんの精神強化をしていたのだろう。

それなら、ほいっと。

3人の死骸が目の前から消える。

姫さんの様子を伺うが問題は無さそうだ。

「彼ら居なくなっちゃいましたね。どうされたのですか?」

「返品返品。」

「返品?」

「また、面白い事してのけたわねえ。」

「?」

「あゝ、公爵に返品した。だだし切り離した左足首だけね。後は内緒。」

「えーと?」

「現地に行けば分かるわよ。さっ、先行こう先。おかわりは片っ端から殺しちゃうから。」

「あの、一応同国人なので手荒な事はなるべく控えて頂けると。」

「善処します。」

「善処してみようかなぁ。」

「ミズーリさまぁ。」

身長さはかなり差がある2人だが、姫さんがミズーリにしがみつく姿を見ていると、仲の良い姉妹みたいで、それはそれで微笑ましい。


確かめておきたい事が一つある。東部方面軍駐屯地をどうするかだ。

勿論、こちらからちょっかいを出す事は無いし、あちらからちょっかいをかけられたら粛々と撃退するだけであるけど。

ちょっかいかけられたら、かけられたで鬱陶しい。


姫さんに聞いてみた。


「東部方面軍は、基本的にキクスイ王国軍との備えとして設立された部隊です。

キクスイ王国からいらっしゃったご主人様、ミズーリ様には言う必要もないと思いますが、キクスイは基本的に平和な国です。建国以来、他国と戦火を交えた事は有りません。実際の仕事は、この森を中心としてのコマクサ伯領の警備隊ですね。キクスイ・帝国両国を旅する商人を守り、コマクサの街を守る。それが私達の任務です。」

一国の軍隊を自家警備隊にしてた訳だ。

「そういう国ですから。」

諦めと共に苦笑する皇女。

「貴族は皇族より偉い。それがこの国の不文律です。」

皇都を遠く離れた辺境軍で、皇子でもない皇女がおざなりに指揮官として据えられるほど皇族の扱いが軽い。そういう事だ。

「お飾りの指揮官だったとはいえ、あそこは私の家でしたし、あそこに居るのは私の家族だった人です。一方的にご迷惑をお掛けした指揮官が言えた義理では有りませんが、出来れば御慈悲を賜りたく…。」

姫さんの語尾に力が無くなっていく。

改めて、この娘がその細い両肩に背負わされていたものに気がつく。

私達はその背負わされていたものくらい幾らでも吹き飛ばせるし、現に吹き飛ばしたから、帝国第四皇女が私達と旅を始めた訳だが。


「割と責任感の強い方なのね。」

「間違えて誰かをこの世界に送っておいて、その誰かに飯をたかってばかりの誰かさんよりはずっとね。」

「むううう。あまり本当の事言うとなくぞ。

ハットリくんのシンちゃんみたいに。」

君、どこからそんな情報を拾ってくるんですか?

「オバQのOちゃんでも可。」

それは私も見た事ない古い漫画ですよ。

「万能さんで検索してコミックを取り寄せました。今、全集が少しずつうちの本棚を侵食しています。」

それは気がつかなかった。今晩早速読んでみよう。

「あの、ご主人様ミズーリ様。私を置いていかないで下さいよう。」

寂しがり屋の姫さんが私達に割り込んで来て、ミズーリの頭を後ろから抱きしめる。

これはこれで、新しい関係が出来始めたようだ。


それでお次の方なんですが。

いつもと少し違います。

鬼の女性以来、久しぶりの人間以外の何かです。身長1メートル前後の小さな女の子です。

身長20センチくらいの、もっと小さな娘もいます。

「これは…。」

姫さんの食いつきが激しい。

私の右腕に自身の左腕を絡ませると、右腕を彼女達に伸ばして居る。

女の子は姫さんの右腕を不思議そうに眺めて居る。


「これは何だい?誰だい?」

「森の人ですよ。森の人。人前には滅多に姿を現してくれない、森の精霊です。」


森の精霊ですか。姫さんが私に無理矢理貼り付きながら森の人さんに手を伸ばしているポーズにどんな意味があるんですか?

「ご主人様、ほら。」

小さい方の森の人がふわふわと宙に浮き、私の顔のに前で礼をしてくれた。

「普通、森の人は人間に近寄りません。目撃情報は昔から数限りなくあったのですが、こんなに近寄ってくれる事なんか聞いた事ありません。これはご主人様かミズーリ様が居て下さるから。だからご主人様とくっついてご主人様の仲間をアピールしたんです。」

「ふーん。ミクは私よりトールを取ったんだ。女の友情なんて男の前には砂上の楼閣なのね。寂しいわ。」

「そ、そんな事有りませんよぅ。だってほら、ご主人様に森の人は用があるみたいですし。」

「いいもん。いいもん。」

「ミズーリ様ぁ。」

「ツーン。」

「どうしよう。ミズーリ様を怒らせてしまったの。ご主人様、私は育ちなので人付き合いがよくわかんないの。どうしたら良いですが。」

「お風呂。」

「はい?」

「今晩も、私と一緒にお風呂に入ったら許してあげる。」

あ、姫さんがまた真っ赤になった

「私のお風呂のお供になるなら許してあげる。」

「………はい。あ、あの。お手柔らかに。」

君達はお風呂で何してたんた?


森の人、森の少女は何も話さなかった。

ただ私の腕(右腕は姫さんに掴まれたままだったので左腕を)を取ると、じっと私の顔を私の目を見つめている。

小さな妖精は私の左肩に腰かけて私の髪の毛を弄るのに忙しい。

やがて森の少女は身を翻して森に消えて行った。が、森の妖精は私の肩に座ったままだ。

姫さんも森の妖精を見て惚けた表情になったままだ。

森の妖精さん。もしかしたら、私達に同行したいと?

こっくり。

私達に何か頼みがあると?

こっくり。

あ、姫さんが立ったまま失神しちゃってる。

「大丈夫。幸せ過ぎて精神的にイッちゃっただけだから。…替えのぱんつ用意したら方がいいかも。」

なんだかなぁ。

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