姫さんの事情
チビの攻め(足の指と指の間ペロペロ)に、顔を真っ赤にしながらも、身体に力が入らない姫さんは必死で這いずり回っている。何この意味不明な地獄絵図。
あのう、そろそろ本題に入りたいんだけど。
着物でぱんつも履かずに、這いずって転げているから下半身が丸出しなんだよなぁ、10代のうら若い一国の姫さんが。
万能さん、彼女に下着と擬似的なものでいいから軽い鎧風なお召し物を出して下さい。
…なんでまたこんなレースふりふりの現代的なブラを出したんですか?
形状記憶合金ワイヤー入りエンジェルのブラです。少し小さめのお姫様にも安心。多い日も安心。
またあっちこっち危険なところを攻めましたね。
「私にも頂戴よ。私がつければ女神のブラ。」
君、スポーツブラもいらないでしょ。
ブラ付きキャミソールでも余ってるのに。
後でユニクロで買っときます。
「なんだとお!見よ!私の美しいおっぱいを。あら、着物だと出しやすいわ。」
いいからこれ持っていって、姫さんの腰が抜ける前に着替えさせなさい。
あと、着物を着るならきちんと和装下着と襦袢を来なさい。
上半身剥き出しの女神と、下半身剥き出しの皇女がいるこの家はなんなんですか。
「トールが着替えさせた方が喜ぶと思うな。」
君も早く着替えてらっしゃい。打ち合わせがいつになっても始まりません。
あと、ブラの付け方なんか私は知りません。
「あら、知らないんだ。」
私も成人ですし年相応の経験はありますけど、外した事はあっても着けたり着けさせたりした事はありません。
寄せたり入れたり仕舞ったり、大変らしいじゃないですか。
「寄せたり入れたり仕舞ったりするおっぱいが無くて悪かったわねぇ!」
自分の言葉に激昂し始めたら更年期も近いですよ。
「あひぃぃ。」
あ、姫さん忘れてた。
「こ、こ、こ、こんな下着は初めてです。少しは、は、破廉恥では無いですか?」
「トール様が作ってくれた大切な下着ですよ。おっぱいが垂れる事を防ぎ、更に大きく見える。つまりこれはトール様の好みなんです。」
「ご主人様の好み(ゴクリ)。でしたら、が、が、頑張ります。」
「あんな鉄の胸当てで潰してたら、クーパー靭帯が切れちゃっておしまいよ。」
いや、万能さんの好みでは無いかな。
聞いてるのも面倒くさいから、座敷牢の鉄格子は外して扉をつけよう。バタン、はいもう何も聞こえません。
しばらくして着替えを終えた二人が出てくる。
ミズーリはいつもの白いワンピース。姫さんにはジャージにセラミック製軽々鎧を胸の部分だけ、ちゃんと紋章も付けてある。
万能さん、何故にジャージ?
セラミック鎧に実用性があるかは別として。
「私如きにこんな高価で美しい鎧を作って頂いてありがとうございます。帝室の家宝にします。」
銀色に光る姿がお気に入りらしく、盛んに私に頭を下げている。
貴方の元の鎧もちゃんとベッド脇に飾ってありますからね。(私との)実戦でボロボロになってましたが、飾りを含めて全て修復してあります。
「ご主人様の優しさに、私、おかしくなってしまいそうです。グズっ。」
あゝ今度はべそかきだした。喜怒哀楽の激しい姫さんだな。
本当に話が進まない。ミク。正座。
「はい!喜んで。」
泣いていたのに、にっこり微笑んですぐ正座しちゃう。
この子、この先大丈夫だろうか。
木に引っかかってた高飛車なお嬢様が何処にも居なくなっているぞ。
「私になれる素質は充分だわね。」
すぐ土下座する皇女様ですか。
「すぐ脱ぎたがる属性も付けちゃおうかなあ。」
よしなさい。
「トールの好みって言えば、この子何でもするわよ。二人で色々仕込みましょうよ。」
勘弁して下さい。
「昨日の事です。」
姫さんに話を聞く。
「東部方面軍駐屯地に、コマクサ侯爵から司令が来ました。キクスイ王国から旅して来る親子連れを捕らえよと。
親子連れが何者なのか、何故捕らえないといけないのか。でも質問は許されませんでした。
「私は選抜した12人を先発隊として送りました。しかし、一緒に派遣した伝令の第一報では隊長以下5人が死亡。7人も私が駐屯地に居た時には帰って来ていませんでした。
「不幸な事に先発隊を率いていた隊長は、コマクサ侯爵の娘婿に当たる人で
侯爵が自らの後継者として可愛がっていた人物でした。
激怒した侯爵は親子連れを捕らえるのてはなく、殺す様に命令を下しました。伝令の情報以外には何も分かっていなかったのにです。
「東部方面軍は全戦力の4分の1を投入しましたが、ご主人様の前に全滅したのですね。」
一つ確認したい。皇女でも侯爵の令を断る事は出来ないのだね。
「コマクサ侯爵は貴族連合の序列3位に当たるお方です。皇帝家と言っても所詮はお飾りの傀儡皇帝。実権は貴族連合が握っています。ましてや第四皇女なんか継承権も無いのです。
貴族に降嫁させられるか、飼い殺しのまま一生を送ります。
「作戦が失敗した私にはもう帝国に居場所はないでしょうね。
何しろ公爵の娘婿を守れなかったのですから。多くの兵を守れなかったのですから。
薬漬けにされ、精神が壊れるまで犯され、首を落とされるでしょうね。」
万能さん、これはちょっと居心地悪くないですか?
いや、その隊長さんとやらは私でも仲良くする気は有りませんでしたし、何かしら成敗するつもりでしたけどね。
情が移るから、だから、この世界の人とは極力交流を持たなかったのに。
どうしますか。派手にやっちゃいますか。
「それしか無いかもね。なんなら帝国そのものに一戦交えても良いわよ。」
とりあえず、その公爵家とやらを滅ぼそう。
姫さんの処遇はその後考える。
「捕まって犯されるくらいなら、トールさんが囲っちゃうのが一番手っ取り早いけどね。彼女もきっとそれを望むわ。」
どれもこれも、全部その後考える。
テーブルの上に万能さん特製地図を開き、姫さんと土地の詳細を確認する。
「なんですか。この精密で正確な地図は。帝室でも軍でも見た事ありません。」
うるさいので唇を指で撫でてあげると、惚けた顔して黙った。
「あ、いいなあ。」
ミズーリさんもうるさい。
この森はコマクサ公爵領の5分の1を占める面積がある。広葉樹林であるが落葉しないので、一年中薄暗いそうだ。
そんな森の中の主となる産業は林業と狩猟。
東部方面軍駐屯地はここから北西に5キロ離れたところにあり、木々に隠される様に半地下という形で建設されている。
コマクサ公爵の屋敷は森が尽きた外の平野部に街があり、その中心にある。
それだけを頭に叩き込むと、家の高度を上げ地図と実際の地形を見比べる。
これで良し。
という訳で私達は森の中を歩いています。
「家が空を飛んでいますぅ」とか、
「ご主人様とミズーリ様が家から飛び降りましたぁ」とか、
「ご主人様がお姫様抱っこで私を降ろしてくれましたぁ」とか、
「お姫様抱っこを私に取られたミズーリ様にヤキモチ妬かれましたぁ」とか、
「家が消えちゃいましたぁ」とか、
姫さんがいちいち大騒ぎしましたが、
「貴方のご主人様には不可能が無いの。」
「私にも不可能は無いのよ。」
「だからミクは私達に全てを頼れば良いの。」
というミズーリの滅茶苦茶な説得にひたすらハイ、はい、ハイ、はいと、機械的に頷いてるうちに、なんだかどうでも良くなったみたいです。実際、そういう物だと開き直らないと駄目な事は私自身が感じているところでしてね。騒いでいるとストレス解消にもなりますしね。
さてまずはやる事があります。万能さんと相談しようとすると、
「あ、あの。ご主人様…。」
はい、ミク。何ですか?
昨日から初めて見る真面目な顔を私に向ける。
「同僚達を弔いたい。遺体の回収とか埋葬とかは無理な事は分かってる。せめて祈りの時間が欲しい。」
…敗軍の将としての気持ちはわからないでもない。どうぞ。
「すまない。」
一瞬、元の姿だろう誇り高い皇女の姿を取り戻した様だ。
姫さんは護身用に持たせたセラミック剣を抜き額に当てると目を閉じた。
その背後で私と万能さんは、数百に上る兵の遺体をこっそり全て回収すると、欠損や腐朽を修復し、異世界に時間停止状態にして収納した。
姫さんには悪いが、帝国への脅しに使う為だ。
頃合いを見計らってミズーリがそっと近づき、姫さんの頸から背筋を指でつ〜〜っと撫でる。
「あひゃん。」
あ、腰抜かして座り込んじゃった。
「そろそろ出発するわよ。ミク。」
姫さん、自分で頸を押さえて涙目になってしまった。
「私よりのトールにして欲しかった?」
「……………………(熟考)……うん。」
知らんがな。
歩き始めてすぐ、私達の後ろに控えて居た姫さんがさっと前に出た。
セラミック剣を抜くと私達を守る様に立ちはだかる。おお、カッコいい。
けど意味ないんだよね。私達には。
「何人かな。」
「たった6人。」
「へ?」
「それは今までのうちで最小戦力だな。斥候部隊とかかねぇ?」
「今、矢を撃ったけど?」
「へ?へ?」
「じゃあドームバリア展開するよ。」
「へ?へ?へ?」
瞬時に昨日拵えたドームを張ると、前方から矢が飛んできた。今日はもう一つ細工してみよう。ドーム表明に風を纏わせてみる。
想定通り、矢はドームに擦りもせず弾かれる。
同時に男達が斬りかかってきた。けどドームには傷一つ付けられず、風を強めてみただけで吹き飛んでいく。
これ、出力を調整したら使い道が広がるなぁ。
「ご主人様?一体何をされましたか?」
あ、忘れてた。姫さん、さっきからマヌケなへへへ?皇女になってたな。
「コイツらが待ち伏せしてたのはミクにも分かっただろう。なので防いでみた。まだ積極的攻勢には出てないぞ。」
「これ、なんですか?」
姫さんが刀柄でドームをコンコンと叩く。
「私特製の防護壁だ。鬼が攻めて来ても中で昼寝が出来るくらい頑丈に作ってある。」
「今は透明だけど、不透明にも出来るから、
人前で裸になってもバレないの。」
へっぽこ女神が勝手に使用法を開発し始めた。
「それは興味深いですね。」
姫さんまで何言い出してんの?
「トールさんは、理解不能な新兵器・新道具・新兵法・新料理を次々と開発するから、私達はいかにトールの発明を、いやらしい方向に利用出来るかを考えるのが役目です。」
役目なの?しかも料理で?
「はい!全力で頑張ります。」
全力で頑張っちゃうんだ。
それでミク。彼らに見覚えはありますか?
ミズーリがちゃっちゃと纏めて締め上げて転がした6人を前に聞いてみる。
「彼らは私の部下ではありません。が、見覚えはあります。コマクサ公の私兵だと記憶しています。」
公爵さんが直接手を出して来ましたか。
「さて、どうするの?わざと捕まってみるというのも手っ取り早いよ。」
「いや、それはあまりにも危険ではな…
「考えたけど、それは無しだ。」
「え?考えた?
「私とミズーリなら単独でどうとでも出来るが、姫さんを、ミクを一人にさせたくない。」
「あ…。…。
「最終的には力任せになるにせよ。ミクを守る為に私達のそばに置いておく。ミクを守る。これが今回の最重要事項だ。」
「分かったわ。でもトールさん。」
女神は姫さんの両肩に手を乗せて
「彼女、もう号泣なんだけど。」
知ってる。わざとだ。
…こんなに効いちゃうとは思わなんだが。




