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神々の無責任な後始末  作者: compo
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焼き鳥やら牛タン定食やら(食ってばかり)

翌朝。ベッドの中で同時に目を覚ました同衾人に声をかける。

ミズーリの体調は回復していた。

「なんで?もう身体は何ともないの。トールと一晩一緒にお休みしたから?」

多分、それもある。あの多幸感による精神の安定は大きいでしょう。

でもね、それ以上の原因としてミズーリの成長に身体が適応したからではないかと思います。この間、君のハイテンションが止まらなくなった時、様子を見に来た創造神様が言ってました。


「今の君は自身の成長に色々追い付かなくなっている面がある」、と。


女神としての君が、どの様な手順で成長して来たのか、それが人間とどう差異があるのか。ただの転生人間の私には分かりません。

でも、人間としての私の経験則から言うと、思春期前後の成長期には自身の成長速度に認識が追い付かず、肉体的な痛みが付随してました。君は女神として、もう一度身体に受け入れ無ければならない事が多すぎるのかも知れません。それが心や身体に自身の想定以上の負担をかけているのではないかなと。

「ふーん。時々アレよね。」

なんですか?

「トールって、女神である私よりも知識や思慮が深いよね。女としては頼れる男のそばに居れるって凄く嬉しいけど、女神としては嫉妬だわ。」

………

「それが出来る女神なら下界に落とされないって思ったな!えぇえぇ、どうせ私は天界史上初の堕天女神ですよ。」

女神がいじけた。泣いて笑って怒って落ちこんでいじける、とにかく感情表現豊富なうちの女神様ですが。

それが私の相方ですし、ちゃんと支えて行きますよ。

お姫様抱っこでベッドから下ろすと、それだけでウチのチョロい女神は機嫌を直した。

チビが朝一番の挨拶をしに来るので、ミズーリはたちまち上機嫌までメーターが上がっている。


鯖の塩焼き(大根おろし付き)、出汁卵焼き、お漬物、納豆、油揚げと豆腐のお味噌汁、ご飯。という、ドが付く定番和朝食をぱっぱっと作る。

この定番和朝食をミズーリはたいそう喜ぶ。単純な好みでいうのならば、彼女のお気に入りはいくつもある。この献立は私が好きなものであり、私が好きなものは(妻たる)ミズーリも好きなものなの!だそうだ。実際トーストの洋朝食よりも、朝はご飯とお味噌汁を彼女は希望する。(自分では作らない)

お味噌汁をズルズル啜るミズーリと今日の指針を話し合うが、一つ私がやってみたい事があった。 


今、私達の家は宙に浮かんでいる。


地図を見る限り今日・明日のルートは変わらず田畑の中の農道だ。毎日毎日、土地の意志だの鬼だの化け物だの、何かが私達の元に来るが、はっきり言って飽きた。飽き飽きだ。

飽きたのは出来事だけにではなく、風景にもだ。遠く霞む山の元まで一面に広がる田畑。たまに農家があるけど見つからない様に迂回する。都市や街は影も形も見えない。

一日で飽きた。最大目標であるミズーリは少しずつ成長している。ならば、今日は思い切り手を抜こう。

だって観光して休もうとしても人外さんが来ちゃうし。


「で、どうすんの?」

今、この家は宙に浮かんでます。

「今更だし、神様の私が言う事でもないけど。めちゃくちゃね。」

今日はこのまま浮かんで王都に向かいます。

「分かりました。それも良し。」

ミズーリに何か意見はありますか?

「だって、どうせ私じゃトールの考え以上のもの浮かばないし。」

まだ少しいじけてる女神様。

「昨日の今日だしね。地表にいても休めないなら、空中で一日乳繰りあってようよ。」

乳繰りあいません。

「あおうよォ。」

これもいつも同じ。


という訳で、私達はのんびり空の旅を味わっている。進行方向にある窓を窓枠ごと少し広げて、景色鑑賞用にソファを動かした。ミズーリは窓枠に肘をついて外を眺めている。チビは私達の足元で丸くなっている。

スピードは人の駆け足くらいで抑えている。

土地の意志さんが今のところ「急げ」と追加注文しに来ないからだ。鬼の女性は、空を飛んでいる限り接触しに来ないだろう。


天気は雲一つ無い快晴。

勿論、姿は見えなくしているので眼下で働く農家の人達も誰一人として私達の存在に気が付かない。

森と草原を歩いて、草原と湖底を馬で走り、湖をボートで漕ぎ出し(漕いでないけど)、今度は空を飛ぶ。次は水中か地中を潜るか宇宙空間に飛び出すか。私達ならなんでもありだ。


飽きた。だって風景が田園風景のまま変わらないんだもん。

とっくにミズーリは私に身体を預けて寝息を立てている。チビもミズーリの膝の上で丸くなっている。今日はサボる日だ。とことん気を抜こう。

歩いて飽きて空を飛んで飽きて、この国はそんな何も無い国なんだろう。

では昼からお酒、といきたかったが

隣にお子様女神がいるし、冷茶でお昼までの時間を過ごす。


お昼は焼き鳥というのはどうだろうか。

「焼き鳥。何食べよかな♪」

ねぎま、もも、皮、ハツ、ぼんじり、つくねを準備。軟骨と手羽先はミズーリさん的に串に刺すものでは無いそうです。

「手羽先は唐揚げで。軟骨はニンニクとホイル焼きでお願いします。」

君、実は呑兵衛でしょう。

「天界にはお酒なんか無いわよ。お供えものを呑んでる人(神)は居たけど、私がお相手する人はねぇ。お葬式に供えられるお酒だし。」

日本のお供えにも日本酒はありますけど。

「神仏に捧げるお酒だけど、死人の穢れを祓う意味もあるお酒だもん。ちょっとね。」

なるほど。

「だからトール。私が大きくなってお酒を呑める様になったら作ってね。

それまで私が貴方の酌で我慢するから。妻として。」

それは私も楽しみにしていますよ。

「夜の方もね。楽しみにしてるから。」

隙あらばこの子は。

「で、味付けですG

「塩塩塩塩!塩でお願いします!」

また食い気味だ。

「タレよりも塩。塩さえ有ればタレなんか要らないわ。」

君、やっぱり呑兵衛でしょう。あと全国のタレ派の人に謝りなさい。

「べーつーにー。なんなら殺しちゃうし。」

食べ物が絡むと死神になるウチの女神さん。


グリルに串刺して食用油を塗った焼き鳥を並べて塩をかける。ぶっちゃけ、それだけ。

グリルをちょこっと細工して炭火焼き仕様に変更。少し遠火にして鳥の脂を少しずつ炭に落ちる様に串を回す。

ミズーリさんは「目に毒なの。」とチビにフードをあげる事に集中している。

付け合わせはどうしようかな。

塩焼き鳥だからさっぱりめに、冷奴と玉子スープといこう。これもう居酒屋のセットだね。お昼ご飯だけど。


「皮塩。ぼんじり。つ・く・ね!」

嬉しそうに焼き鳥の歌を歌い出した女神は、時折私の口に串を突っ込んでくる。

ご機嫌彼女モード発動。なので私は焼に集中する。

「ニンニクも有ると良かったかしらね。」

ああ、ニンニクはニンニクでニンニク主役のご飯を考えているからですよ。

「嬉しい。それは嬉しいの。って言うか、女の子の私をニンニク漬けにしたのはトール。貴方よ。」

ニンニク漬けの女神…。


ミズーリが洗い物を始め、私が地図と眼下の地形を見比べて現在位置の確認をしていたその時。万能さんから注意喚起のアラートが私の意識に割り込んで来た。


このままでは5分以内に衝突します。


何と?有視界内には何も見えませんが。


何かと。


何かとですか。回避行動を。 


しています。…成功。ホーミング装置は無い模様。何かはそのまま直進していきます。 


方向は?


王都方向。このままだと明日には王都に到着するでしょう。


あれ?万能さんと普通に会話してる?


撃墜は出来ますか?。


可能。この先に溜池と思われる貯水施設があります。そこに落とします。


とうとう空中戦まで出来るようになったか我が家。

何かは何をしに王都に行くのだろうか。

そこにもう一つ。撃墜を勧める万能さんとは別の声が私に流れて来た。


まもなく撃墜ポイントです。撃墜して下さい。


なんだ、私がやるのか。


窓に表示します。


窓に十字が現れてたので、とりあえず右手を照準に合わせて振った。

何も見えない空中から獣の咆哮が響き渡り、まもなく溜池から派手な水飛沫が上がった。    


万能さんの意向で地表に降りてみる。

「なんなのよもう。一仕事終わってトールに甘える算段が崩れたわ。」

「ミズーリはチビを抱いて抑えとく様に。」

「?。はい。」

いち早く外に出ようとするミズーリをまずは引き留める。が、直ぐに外に出てもらう。

そこにいたのは身長4尋程度の鬼の死骸だったからだ。鬼の左足首は無くなっていた。ドローンを飛ばすと離れたところで池の水を汚していた。池の水が鬼の血で染まっていた。

「何をしたのよ。」

陰惨な光景に珍しくミズーリが眉を顰める。

「空飛んでたら、何かとぶつかりそうになったから落としてみた。そしたらその何かは鬼だった。」

鬼の止血をし、清浄の魔法をかけてもらうと

血に染まっていた池の水が透明になっていく。

「何かってどんな表現よ。」

「何も見えなかったんだよ。万能さんの警告で避けて撃墜してみたんだけどね。私が対処出来なかったのは鬼からの敵意がなかったからだな。」

「敵意なかったけど殺したの?…でもこの世界の鬼の有り様から言ってそれが正解か。」

「そうとも限らない。私は鬼から助けを求められた事があるから。」

湖で会ったあの鬼の女性の事だ。

「あの鬼には敵意を感じなかった。ただ、私とコンタクトを取りたい。それだけにしか見えなかった。今回、私が問答無用で鬼に力を振るったのは。」

腰からぶら下がりていた卵を取り出す。

卵が薄く光っていた。その光は私達が見ている目の前で消えていった。

「この卵からも、その撃墜すべきと意思を受け取ったからだ。」


私達は空の旅に戻る。しばらく溜池上空に待機して様子を伺っていたが、誰も近寄って来なかった。

それだけこの辺は人口密度が低いのだろう。 

「卵が鬼だから殺せって言ったのね。」

卵には卵の役割があると言う事だね。

「どうするの?」

「何も変わらない。」

引き続き王都を目指すだけだ。考える事と手掛かりは増えたけどね。でも何も考え無い方針も引き続く。鬼が王都を目指す理由は留意しておく必要はありそうだ。

「鬼って言う存在は、この世界の定義は動物で良いんだね。オーガの様なモンスターでは無く。」

「そうよ。」

「ならば何故、その動物が姿を消せて、空を飛んでいたのだろうか。」

「私はその一連を見てないから何とも言えないけど、トールの世界で言うなら透明な熊が空を飛んでいたって事か。」

シュールだ。空飛ぶ透明熊。

「そんなのが飛んでたら溜まったもんじゃ無いわね。」

あれ?もしかして。

「何?」

この世界では透明な鬼が普段から空を飛びまくっている訳では無いだろうな。

空を飛べる人間が私達しか居ないから誰も気が付かなかっただけで。

「うわぁ。」

うわぁ。


と言っても、私達の方針は何も変わらない。相変わらず駆け足のスピードで王都へ空中移動していくだけだ。そこでまた空飛ぶ鬼とニアミスするかしないかで、それはそれで先程の嫌な想像と整合性が取れる。万能さんをオートパイロットモードにしておけば良いし。


鬼よりも晩御飯晩御飯。

献立はどうしよう。あの下に見える見覚えのある動物は。

「牛。トールの世界程は家畜として品種改良されてないから、肉牛として洗練されてないけどね。牛乳と農耕が主な役割だし。」

牛か。焼肉、牛丼、ステーキ、炒め物。

決めた。牛タンだタン。とろろご飯にテールシチュー…だとしつこいから、テールスープで。口直しにいつもの胡瓜と茄子の浅漬けを。

タンの味付けは、シンプルに塩胡椒だけ。お好みでレモンもどうぞ。

とろろは万能さん手掘り?の天然山芋をすりおろし、醤油と麺つゆの合わせ調味料でご飯にたっぷりかけていただきます。ご飯は勿論、麦飯で。

テールスープは灰汁取りを万能さんが引き受けてくれたので、じっくり酒と味醂で煮込んだものに塩胡椒で味を整え、白髪ネギを乗せて完成。


「お肉もお米もとろろも、みんな変わった食感ね。」

牛のベロと尻尾と、大和芋ではなく天然山芋で麦。いつもの食事よりは端っこの食材ばかりですから。

「牛も端っこのお肉ばかりだし。」

ベロと尻尾だから端っこといえば端っこだけど。

万能さん特製でなければ。いくらかかるか分からない高級食材ばかりですけどね。

「このスープのお肉美味しい。口の中で蕩けちゃうの。」

最近ミズーリはご飯で余り興奮しなくなって来たな。

「トールに躾られたからね。経験値の積み重ねの賜物です。」

はあ、別に大したもの作ってませんけどね。

「神界の、神の食生活の貧困さを舐めたらいけないわ。」

創造神様に叱られても知りませんよ。

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