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神々の無責任な後始末  作者: compo
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牡蠣鍋とポメラニアン

ミズーリはソファにうつ伏せになり、尻を突き出してウニャウニャ言い出した。

あんなお子様に食いつけと言われてもなぁ、うん無いな。

「失礼ね。」

君、気を抜き過ぎです。

「トールにしか見せないから良いの。」

そうですか。全然嬉しくありません。


さて、今日の晩飯はどうしようかなぁ。

TKG、ハンバーガーときたから、少し落ち着いてじっくり攻めよう。

朝は卵、昼は肉、とくれば夜は魚介で。寿司、焼き魚、刺身は作ったから次は煮物にしようか。

ならば鍋にしよう。煮付けも良いけど気分は今、鍋になった。石狩鍋、あんこう鍋、魚介鍋にも色々あるけれど、思い付いたのは下処理も簡単な牡蠣鍋。味付けは味噌で。


牡蠣の剥き身、糸蒟蒻、にんじん、椎茸、エノキ、白菜、ネギ、春菊、豆腐を用意。

剥き身は水洗いして、野菜は適当に切り分ける。このお手軽さも鍋の魅力。

鍋に水を張り、出汁と味噌を投入。

最初は豆腐からゆっくりと、野菜は火の通りにくい順に入れて、最後に牡蠣を投入。蓋をして中火で煮込んで完成。


味噌の匂いに釣られたうちのへっぽこ女神がまた四つん這いでやってくる。軟体動物のまま椅子によじ登る。

味噌被りするので、汁物はさっぱりと椎茸、三つ葉だけの清汁にする。冷蔵庫からは玄米茶を多めにピッチャーで出しておく。鍋は身体が温まるからね。私には日本酒も冷やで。

「いただきます。」

「いただきます。」

最初は手酌でと思ったが、いち早く見つけたミズーリが楚々と私に注いでくれる。彼女は私と約束した事は絶対に守りたい主義なんだ。


「美味しい。何このプニャプニャしたの。」

「牡蠣という貝だよ。貝は大抵美味しい出汁が取れるし、勿論、食べても美味しい。」

「キノコもこないだと全然違う。」

「貝とキノコのバター炒めとい

「予約、それ明日のご飯に予約。」

また食いぎみだ。

「この苦い野菜も美味しい。」

「お豆腐美味しい。」

「このお汁美味しい。」

お気に召して何より。でもまだあるんだよ。

「〆にはこれだ!」

鍋に残りのご飯投入。ミズーリから悲鳴が上がる。テーブルをバンバン叩きながら、

「なんて事をしてくれるの。おじや、おじやなのね。美味しいに決まってんじゃないの。」


お腹をポンポンに膨らませたミズーリが、テーブルの下に寝転がって溶け始めたのを放置して風呂場を覗く。

湯船のお湯が白濁してた。美肌、疲労回復と効能書きが貼ってあるぞ。万能さんは仕事が細かい。

部屋に戻ると、立ち直ったミズーリがシンクで食器を洗っている。これもミズーリが私とした約束。

洗い終わった食器を万能さんが片付けていくから、食器がどんどんこの空間から消えていく謎光景も見慣れたね。

後片付けを終え、お風呂に入ってミズーリはしばらく出て来ませんでした。

美肌の湯の効能書きが効いたのでしょう。

君、女神だし一応絶世の美女なんですけどね。お子様だけど。


私はソファに腰掛け地図をチェックする。

どうやら人間よりも人間外の存在が私達に用事があるようだし。

この領の正規軍を全滅させてからは人間はおとなしい。まだ日が経っていないから対応し切れていない可能性も高いが、私達ならどうとでも出来るから無視していいだろう。

ならばこのまま。人家の少ない場所だけを歩いて王都に向かおう。

人外からのアプローチがあるなら受け入れよう。それでいい。

補給の必要が無い私達はどこをどう進んでも何の問題もない。反則も良いところだが、最初からその条件で私はこの世界に来た。

そもそも誰も何をしたらのか何処へ行ったらいいか分からない、滅茶苦茶な旅なのだ。

だから、それ以上は思考停止。

現実の方が非常識過ぎるからね。


風呂から上がったミズーリは冷蔵庫から飲み物を取り出すと、私の隣にちょこんと座る。

この子はこの子でやはり女の子だ。お風呂上がりで、とてもいい香りがするね。

「でしょ。」

はい。つうか、勝手に人の思考を読み解くな。  


今夜のお楽しみDVDにドリフをリクエストされたので、荒井注が出てくる頃のコントを選ぶ。

涙まで流して笑っていたミズーリは笑い疲れて眠ってしまった。普段疲労なんか感じない身体なのになぁ。ちょっと不思議。お姫様をお姫様抱っこでベッドに運ぶと私も入浴。

ああ、温泉っていいなぁ、少し硫黄の匂いまでするし、湯の花まで浮いている。

ありがとう万能さん。心の底からリラックス出来るよ。

ベッドに入ると、寝ている女神がいつものように自動的に絡み付いてくる。

こんな静かな夜も私達の大切な日常。


翌日は雨だった。

ここから先、王都まで街道を外れて行くならは田畑と農道になる。

足元は悪くなるだろう。

今朝はミズーリが先に起きていて、私の顔をいじって遊んでいた。

唇を指でビルビル弾いていれば目も覚める。

「…何をひへひるほかな。」

喋りにくい。

「暇だから。起きて。ご飯食べよ。」

分りましたよ。

「それとも、またする?」

私に何かしたんですか?ミズーリさん。


雨といっても嵐のレベルだ。風が強いので、傘くらいではびしょ濡れになるだろう。

トースト、目玉焼きとカリカリベーコン、ブロッコリーとコーンのマヨサラダ、牛乳の、そろそろ我が家の定番化してきた朝食を食べる。

マーガリンをトーストに塗りながら今日の指針を話あうが、雨が止むまで停滞で一致。


停滞なら停滞でどうしようか。

洗い物を終えたミズーリは既にソファで溶けている。アイスクリームの空きカップが二つローテーブルに置いてある。

朝から何やってんだか。この女神は。


家の充実でも図ろうか、でも何か欲しい物あったかな。

私の元の家を思い出していて、一つ見つけた。あれが欲しい。逢いたい。でも、これは大丈夫なのだろうか。

万能さんに確認すると問題ないと言う。

ならば、と。

私は愛犬チビを呼び出した。


本物のチビは私の死後は実家に引き取られたと言う。このチビは万能さんがトレースした、チビの記憶を完コピのポメラニアンだ。チビは久しぶりの主人との再会に歓喜を隠さず私に体当たりして来た。

「きゃーきゃーきゃーきゃー。」

ミズーリも歓喜を隠さず私に体当たりして来た。

「この仔なに?可愛い可愛いどうしよう私この仔可愛い過ぎておかしくなりそう。」

チビはミズーリに抱き締められると、歓迎しますよと顔をペロペロ舐める。

そういえばコイツは人見知りをしない、人が大好きな犬だったな。番犬には全くの役立たずだった。

「名前はチビ。前世での私の愛犬だ。」

「チビちゃん。チビちゃん。」

ミズーリ名前を呼ぶたび、チビはワンワンと返事をする。

マッタリとした雨の朝は、すっかり賑やかになってしまった。


ケージをベッドの足元に置きシートを敷く。

トイレの躾は済んでいる。外に出せば全部出し切って帰ってくるので、私の在宅時は庭を自由に出入りさせていた。チビはご近所のアイドルで、姿を見かけると皆話しかけてくれた。

チビも毎回お座りしてお相手するので、我が家の外務大臣を一手に引き受けていた。

大好物はさつまいも。

コイツは毎食のフード以外のおやつは大事に取っておく習性があって、特にさつまいもは一日かけてゆっくり味わう変な犬だった。

さつまいもを出すと、ミズーリの腕から逃れて私の前でお座りをする。

私がうなづくとワンと一言。

この呼吸が私達。チビの目の前に置くと、さつまいもにお手をして私を見る。

よし、と言うとチビは芋を咥えてケージに入り一口齧る。が、直ぐケージから出て来る。


チビはお芋さんより、私との再会と新しい出会いが嬉しいと見えて、尻尾を振り振り私達を見比べている。

その姿にミズーリが敵う訳もなく、また抱き締める。

絨毯と犬に蕩ける女神様。

新しい仲間の合流である。あ、馬くん拗ねないかな。


大丈夫だぜご主人。


そうですか。どこから私に話しかけているんですか?あなた。

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