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神々の無責任な後始末  作者: compo
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卵とハンバーグ師匠

「卵はトールが持つべき。」

万能さんには手掛かりと言われたし、ミズーリの提案に異議はないがしかし、なんかさすがに疲れたなぁ。

馬くんに家まで戻って貰い、万能さんに湖の水を戻して貰う。とりあえずこれで現状復帰。

家に戻って少し考える。

助けを求める為に私を呼び出した謎の女鬼。湖水にたむろっていた謎の化け物さん達、湖底に沈んでいた謎の卵。卵は今、ローテーブルの上に転がしてある。

一日で処理するにはキャパオーバーもいいとこだ。昼過ぎには釣りで騒いでいたのに。

夜は刺身で晩酌を楽しんでいたのに。

「トール、お風呂へ行ってらっしゃい。二枚目が見れたモノじゃないわ。」

私のどこが二枚目だと返す気力がちょっと足りない。あと、二枚目って言い方古くない?

ミズーリにタオルを首に掛けて貰うと大人しく入浴した。

こんな夜の為に入浴剤がほしいなあ。このお風呂、温泉にならないかなぁ。とダラダラ湯船で呆けてたら万能さんに怒られた。休む時は休みなさいと。最近、万能さんに意思の存在を感じるけど、どういう事なんだろう。


部屋着に着替えて出てくると、パジャマ姿のミズーリが私の手を引きベッドに誘う。

きちんと服を着ているから、悪ふざけモードでは無いのだろう。

いつもなら、足を絡ませたり腕を抱えたり、自身の身体をなるだけ私に密着させようとするミズーリだが今日は違った。私の頭を抱えているのだ。

「女神ミズーリが命じます。トールに安寧を。

トールに安らぎを、トールに…」

ミズーリの優しい声を聴きながら、私は直ぐ意識を落とした。童女が女神力を積極的に使うほど、私は酷い顔をしていたらしい。


起きた。目の前に私を見つめるミズーリの顔があって驚いた。

「ごめんない。」

謝られる必然性あるかな。

「トールが無理してると気が付きませんでした。」

私も無理してるとは気が付きませんでしたよ。

「大丈夫だよ、ミズーリ。私が疲れたら私の女神が癒してくれる。それが私達だろう。そう二人で決めただろう。…とは言えね。」

身体を起こすと大きく伸びをする。

「まだ色々考える事が多すぎる。多過ぎたんだ。沢山人を殺して、神やら鬼やら人外の存在が毎日の様に顔を出すしね。きちんと整理出来たら君に話すよ。」

ミズーリが私に抱きついて来た。

何も言わずに泣きだしてしまった。やれやれ、私は相棒失格だ。

涙を落とし続けるミズーリに静かに話しかける。

「万能の力を身につけているとはいえ、私はこの間までただの人間だったんだよ。人間を辞めてまだ数日しか経っていない。

でもその数日間は、私の常識外の事ばかりだし、私の思考能力では追いつけない事ばかりだ。で、色々悩んでた。考えた。その結果、私は頑張らない事にする。私の心では理解出来ない事があまりに多過ぎたたから。

昨日お風呂でそう決めたんだよ。でもね、ミズーリ。」

「…ん、何?」

「また私が酷い顔をしてた怒って欲しいな。そして癒して欲しいな。それは君にしか出来ないから。」

「…うん。」

「OK。じゃあメシだメシ。」

ミズーリをお姫様抱っこしてベッドから出る。

「リクエストはあるか?」

「トール的朝ごはんの定番を食べさせて。」

はいよ。


私の朝食の定番か。なんだろう。

ご飯、お味噌汁、お漬物。これは基本。

朝の主菜は卵なんだよね。目玉焼きにするか、卵かけご飯にするか。目玉焼きのお供はハムかベーコンかソーセージか。

卵かけご飯なら、少し塩辛さアップで、チョリソーかタラコか明太子。

うん。決めた。卵かけご飯に生タラコがメインだ。ツナキャベツサラダに胡麻ドレ。

お味噌汁はこの間後回しにした、たけのこの水煮とネギを白味噌でシンプルに、たけのこの歯応えを楽しもう。口直しに白アスパラをマヨネーズで食べよう。缶詰の奴ね。

ミズーリは卵かけご飯に興味津々だったが、TKG専用出汁醤油がホームランだったようだ。

タラコをお茶碗に乗せて朝からおかわり3杯目。マヨ好き女神はアルパラの繊維質な食感も気に入ったみたいね。また私の分も皿ごと持っていった。お味噌汁ではたけのこをいつまでもコリコリ楽しんでいた。


よく寝てよく食べる。男女なのに男女の関係になれない私達は何より大切にしないといけない事だね。今日も笑って美味しいご飯を作ろう。


「卵。」

「卵。」

卵かけご飯の朝食を食べ終わりゆったり食休みを取っていた私達は、ローテーブルの上に転がっている卵を見つめる。

「何の卵だろ。何で卵だろ。」

これさ、どうやって持ち歩けばいいんだろう。いい加減に持ってたら割れそうだし。

「割れたらどうなるんだろ。何か生まれんの?」

ローテーブルまで、グリグリ這って行った怠け者の女神は、目線を卵に合わせてグデる。

満腹感と絨毯の感触に半分以上溶けてる。

「温めたら孵るのかな。」

「昨日まで湖の底にあったのに?」

「よねぇ。」

ちょっと待ってね、というとミズーリは卵に両手をかざしてみる。

「えっとね。死んでないよ。この卵。でも生きてないの。」

意味が分かりません。

「卵の形をした何らかの装置、という見方があってるのかな。」

意味が分かりません。

「死を司ってる筈の私にも、意味が分かりません。」

何だそりゃ、…あ。これ分からない事だ。考えない考えない。そうすると決めたんだ。

「保留だ保留。つい最近ブレインストーミングと称して塩ラーメンの具を話し合った気がするが、あの時の残った議題を含めて全部保留。」

「また塩ラーメンご飯が食べたいです。」

幼い身体には良くなさそうなので控えなさい。

「おっぱいが膨らみ始めているから、それほど幼くもないつもりなんだけどなぁ。」

で、今日の指針だけど。

「一応、王都に向かうべきなのかしらね。」

「今日も観光するか。」

「いいの?」

「ちょっと頭を冷やしたい、何もしなくてもどうせ向こうから判断材料が駆け足で追いかけてくるだろうし。」

「ならば。トール地図地図。」

ミズーリは再び四つん這いで食事を食べていたテーブルに帰ってきた。

「考えてみたら女の子が四つん這いで部屋の中を歩いてる姿は、裸でなくとも少しいやらしくないですか?ご主人様ぁ。」

余計な事は考えないと決めたんだ。

「私は余計な事か!」


神界謹製マップルを広げる。

「湖から出ている川が一本だけあるの。この川は丘陵に沿って南下して行くのだけど、

ほらこの部分。」

ミズーリが指指す場所は川が丘陵に切れ込んでいる。

「ここが渓谷になってるの。」

なんで川がわざわざ山ん中に入ってくんだ?

「元々小さな金鉱山があったとこで、開発と生活用水の為に運河を掘った。そしたら鉱山が崩壊して運河に小さな滝が出来た。滝のせいで流れに勢いがついたせいか、そのうち本流がこちらになってしまった。って歴史があるわけね。」

お茶の水近辺の神田川か。川廻しって土木工事は江戸時代から全国でやってるし、北海道にはダムが壊れて出来た滝もあったな。

「観光客はそれなりにいるけど。ただの観光なら一時間くらい楽しめるわ。」

ミズーリ勝手に観光協会が、だんだん便利になってゆく。


卵は万能さんに専用ポーチを作って貰い腰からぶら下げた。

ミズーリは腰に抱きつかない様に。

「お腹に抱きつくから平気。」

同じです。

家と馬くんを収納すると湖畔に沿ってのんびりと歩き始める。今日の予定は川に街道の合流地点の手前で昼食。午後には峡谷を散歩して今晩のキャンプ地を探す。

そんなんで行こうか。

ミズーリの言う川は小川だった。

湖から一本だけ流れ出す川というから、

諏訪湖から流れる天竜川をイメージしていたけどこれは細いなぁ。昨日のボートをこっそり出して流れようと思っていたのに。仕方がない、大人しく歩きますか。

「ボート出しても、此処じゃ浅過ぎない?」

ですね。


さて、お昼ですが。ハンバーガーです。

「なぜだろう。なぜかしら。」

女神様が私の世界の児童書を何故知っているんだろうか。

「なぜかしら。」 

放置の方向で。

「なぜかしら。」

私が食べたくなったからです。

「私をほったらかしたら大変な事になるわよ。」

ハイハイ。

「泣くわ。」

「抱くわ?」

「うん抱いて。」

毎日大体こんな感じ。


ハンバーグは挽肉から作ります。豚牛合い挽き肉を円形に整えていたら

脇からミズーリに横取りされてペッタンペッタン。以前にハンバーグサンドを作った時に興味を持ってみたい。楽しそうに空気を抜いている。少し厚めにするとボリュームが出て満足度増しますよ。粗挽きにしてあるから。

「はーい。」

バンズは胡麻入りとプレーンの2種類を準備、表面を軽く炙っておきます。

朝は卵かけご飯だったから少しだけ重めに。

スライスチーズ、スライストマト、レタスを並べて、ピクルスとマスタードでアクセント、ダブルチーズバーガーの完成です。バンズからバーグと厚切りトマトが少しはみ出す威風堂々な見た目が頼もしい。その間には付け合わせにフィッシュアンドチップスを作り、飲み物はいつもの黒い炭酸水。

美味しく焼けました。


なんとなくテーブルではなくレジャーシートを地面に敷いてピクニックスタイルなお昼。一口食べると久しぶりに土下座を始めたミズーリは置いといて

「置いとかないでよ。何これ。こないだのサンドより全然美味しいわ。」

その為のバンズですしね。

「あとレジャーシートの上で正座するの気持ちいい。思わず土下座しちゃったわ。」

川沿いだし天気も良いし、木々が適当に陽を隠してくれてるし。視線を下げて休みたかったんですよ。

「ハンバーグ美味しい。お肉美味しい。ポテト美味しい。特にハンバーグ美味しい。」

叫んだら盗作ですからね。

「…」

あぶないあぶない


綺麗に完食したらミズーリは率先して後片付けに入る。実質片付けているのは万能さんですけど。

「これも妻の役目だから。」

と、愛妻童女アピールの一環だそうなので任せておく。

「童女で愛妻ってギャップが萌えない?」

だから私の性癖はノーマルなんです。

一通り始末を終えて、そのまま後ろに倒れ込み、

ふう。と溜息を吐いたミズーリは、だらしが無く伸ばしっぱなしの私の腿に頭を乗せる。

膝枕はお互いが差しつ差されつしているが、

テーブルを使わない地べた座りにはもってこいだった。今の今までこの子は愛妻アピールしてた気もしますが。

「20分!」

そう宣言するとミズーリは直ぐに寝息をたて始めた。何かと精神の上げ下げが激しい私達だから、リラックスする時は心底リラックス。それも私達が決めた二人の約束。

では、その間ミズーリの美しい金髪を撫でているのも素敵ですが、何してますかね。

少し考えてドローンを出した。動けないのでバーチャル空中散歩をしようと決めたのだ。


ドローンのカメラを私の視神経に接続させる。万能さんに最初に設定させた事であるが、今日は少し技能を拡張してみた。

音声を追加したのだ。ドローンを飛ばす。

ネズミな似た小動物が駆け回り、鳥達が囀る。そんないつもの静かな午後。

私の足元で甘える女神ミズーリは娘にしか見えないが、そんな親子的な触れ合いは前世が独身のまま終わった私には新鮮な喜びでもある。さて、ドローンさんのカメラだけど。

嫌だな。あの鬼の女の人が見える。

私達の後に着いてきたと見える。ならばそういう事なのだろう。

だが、彼女には悪いが保留。全部後回しだ。

そう決めた。

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