湖の恐怖?
岸に戻るとミズーリは入浴に行った。
馬鹿風呂話をしているうちに入りたくなったらしい。昨日私があげたふわふわバスタオルがお気に入りらしく、嬉しそうに抱えて行った。
さて、と。
私は一人湖に足を運ぶ。
そこに女性がいる。角が一本、目が額にもある三つ目の鬼である。
ただし身長は私達と変わらない。
彼女は待っていた。私達いや、私がここに来る事を。
助けて下さい
それだけ言うと、彼女は身を翻して去っていった。
だからさあ。
何から助けろって言うのよ。分からないよ。どいつもこいつも言いたい事言ったら帰りやがって。
意志も鬼も何故私に助けを求めてくる。
人外の人ならざる存在が。
私はその声に導かれ、女神ミズーリ抜きで動かざるを得ない。創造神は言った。私の選択は正しい。信じると。
ならば私は私を信じる以外あるまい。
それがミズーリの為になるはずだから。
溜息一つ残すと私は家に帰る。
「トールから別の女の匂いがする。」
帰ると鬼ならぬ鬼嫁が待っていた。
童女鬼嫁。何か面白い。
なので私はミズーリに風呂へ押し込まれた。
女性(鬼)と会ったのは数秒なんだけどな。
私の意識を攫ったんだろう。多分。
あの小さい女神は、アレで結構なヤキモチ焼きなんだ。アリス嬢の時に何かが壊れて、直ぐ脱ぐ様になってしまった。
「下着は脱いで洗濯機に入れておいてね。」
鬼嫁がオカンになってる。なんやかんや言って世話女房気質でもあるんだな、彼女は。
あと、浴室に鍵つけとこうかな。
夜。
釣った魚が食べられなかったので魚を食べる事にした。
マグロ、カツオ、イカ、タコ、ハマチなどなどお刺身!活き造り!山かけ!
海老は唐揚げにしてすまし汁に丸ごと投入。
殻ごと全部食べられて出汁もたっぷり、お手軽少し贅沢な汁物。
そして今夜私は一つの封印を解く!
お酒OSAKEポンシュ。創造神は好きにしろと言う。万能さんは好きにすると言う。ならば私だけ我慢する必要などなかろう。呑む。
「はい!せんせえ。トールだけ狡いです。」
「ミズーリ、君には大切な役割があります。私に酌をして下さい。妻として。」
「!。はいっ喜んで。」
チョロい。というかミズーリさん。早く私とお酒を飲み交わせる身体になりましょう。
「うん。」
やっぱりチョロい。
ミズーリさんはどこからそんな着物を出してきたんですか?
「勿論万能さんです。ほらこのお着物、割烹着にもなるのよ、あなた。そしてジャジャン。」
両手を袖口にしまって
「ここからほら、袖口からトールが手を入れれば私のおっぱい揉み放題。」
おっぱい無いけど。
「うるさい。揉めば増える。」
3つに?
「増やしてみせようか?」
などと相変わらずの二人は今日も変わらず、美味しく晩御飯を頂いたのです。
食事を終えた私達はそのまま外に出る。ミズーリの和風姿で思い付いたのだ。万能さんに甚平を出して貰い、二人とも和装で湖畔までやってください来た。何をするか?花火ですよ花火。
娯楽が無い世界ですから娯楽は自分で作る。
コンビニで売ってたご家庭向けセットですが、二人だけだし、ましてや一人は童女だし。
「線香花火しよう。線香花火。どっちが最後まで点いてるか勝負よ。」
君はどこからそんなド定番な事を。
「トールとは全てのイベントを経験するつもりですから。そろそろ覚悟を決めて頂く所存です。」
ですか。
「です。」
花火を全部楽しんで後片付けをしてるとミズーリがつぶやいた。
「沢山いるね。」
幽霊って奴か。何かが私達をずっと見ているのだ。
おかしいな。本来なら怖いシチュエーションなんだけどな。全然怖くない。
そういえば私も2回死んでるんだった。
花火をして夏気分を味わったけど、この国的には春なんだよね。一年中。
怪談の季節って無いのかな。
「多分、鬼に食べられた人達。」
幽霊さんが湖の上に沢山漂っています。
成仏出来ないだろうな、ん?
「君は死と転生を司る女神ではなかったかな。」
「縄張り外。」
女神は猫か。
「ゴロニャン。」
いちいちボケてくれる女神様は好きですよ。
しかしこれは、女神に反応しているのか?私に反応しているのか?
「気がついてる?」
お化けが湖上空から一歩も出てこない件なら。さて、どうしますかね。
何故お化け達は湖から出てこない。
その理由は何だ。
出てこないのではなく、出てこれないと考えてみよう。
「ねぇトール。」
何かな?
「殺っちゃう?」
「短絡が過ぎる。」
「でもね、死者の魂を送るのは私の仕事なんだよ。」
「その通りだけれども!今は違くないか?」
何が違う?敵意?殺意?確かにそんなものを感じない。だが、死者故に感情も生前と違っていて当たり前だ。
彼らが何を求めているか見極める必要があるな。
「ミズーリ、この地は鬼に食べ尽くされた。それに間違いは無いな。」
「ほんの100年ちょい前の事だもん。伝説でも記録でも無い、まだ人々には記憶よ記憶。」
ふむ。
「あとね。」
何?
「緊迫感を煽っても無駄でしょ。私達に誰が対抗出来ると思ってるのよ。」
いや一応、私達の前にはお化けさんが大量にうじゃうじゃ湧いているホラーな趣きなんですけどね。普通の女の子なら悲鳴上げて失神するシーンです。
「それとエッチい事してて最初に殺されるカップルね。」
ああ、一瞬でいつもの空気に。お化けさん達呆れて帰らなければ良いけど。
「試しに私達もしてみると言うのはどうかしら?」
「しませんよ。」
「しましょうよ。」
前にもあったな。こんなクダリ。
「で、どうすんの?」
「水から出てこれないなら。」
「ならなら?」
「水が無くなったらどうなるか見てみよう。」
「結局いつもの力技かあ。」
うるさいよ。
と、言っても。別に外来生物を駆除する訳では無いので、スタフグロの街で使った手でいく。万能さん、湖の水を湖底0.5センチのところまで湖水を抜いてくれ。水生生物には傷をつけない様に。水は異次元に置いといて待機で。
瞬時に水は無くなる。ズゴゴゴゴゴと言う音も何もしないから呆気ないんだけど、お化けさんは戸惑っている様に見えるのは気のせいかな。無理もない。
「行くの?」
直ぐ近くをお化けがウロウロしている中で寝たく無いでしょ。出来る限りの事はします。
「んじゃ。」
ミズーリが指を胸元でくるくる回すと湖の元水面の高さまで明るくなった。
「付近に人はいないけど、念の為。」
では、ドローン偵察機出動。探索開始せよ。うん、湖のほぼ中央に何かが見えるな。
万能さんに確認してみたら、自分で見に行きなさいと言われた。答えを教えてくれよ。
湖は最深部でせいぜい二尋、わりかし平坦ではあるが足場は当然宜しくない。土中生物の可能性を考えて水は若干残してある。どうすっかなぁ。歩くのはちょっと面倒だし。
…待たせたな!
待ってたよ。昼から姿が見えなかった馬くん再登場。馬のくせにきちんと乗りやすく跪いてくれる。
ご主人は奥様をしっかり抱きしめておけよ。
奥様呼ばわりされるミズーリがご機嫌なのはいいけど、いつまで経っても緊迫感が戻らないなぁ。
馬くんは一声いななくと疾風の如く走り出す。置いて行かれたお化けさん達が必死に追いかけてくるのが面白いぞ。
ありゃ敵対勢力じゃないな。多分。
あと水は関係ないんかな。お化けさん。
「卵。」
「卵。」
卵。←馬くん
私達は2人と1頭で鶏卵にしか見えない卵を囲んでいた。目的地にあったのはこれだけ。
「よくあるパターンだと、これはドラゴンの卵で、刷り込みに成功したトールがドラゴンマスターになるのよね、この世界にドラゴンなんかいないけど。」
居られても迷惑なんだけど。それにどう見ても鶏だろこれ。湖の底に沈んでいた意味も分からない。
「万能さんは何か言ってるの?」
この卵が手掛かりとだけ。
「ふーん。」
ところでミズーリ?
「うん。お化けさん達消えてるね。」




