たまには真面目だった2人 あとお前
土地の意志と名乗る存在に、私達は王都に行く事を頼まれた。
それはこの国を旅する私達の目的地の一箇所なので断る必要はないが、何が起こるか分からないというのは…
別に困らない。それだけの対応力を私達は持ち合わせている。
神に力を使わせない為に私を動かす。
それは何故だろう。考えてみよう。
「意志は邪悪ではないのね。」
違うな。
「私にはその色は無色透明に見えた。シュヴァルツ領では、その存在は黒く感じた。」
「黒が邪悪で透明が善という訳じゃないでしょ。」
あれは住民の色と言っていた。
「悪とか善とか、そんな定義自体ないのではないかな。あれには。」
「その存在と直接コミュニケーションを取れたトールには、推測出来る事何かある?」
一つある。色が住民そのものを表しているならば、透明と言う色に意味がある。
「ミズーリ。」
「はい。」
「神様に問うのはあまりに失礼だと思うが敢えて聞く。君は自分の神性というか人間性をどの様に思っている?。」
「何度も言う通り、神は欲望の塊。それは否定しないわ。人間だったら倫理感というものを育てて社会に安定をもたらすけど。」
実際、倫理感も自分で決められる独裁者は自らの欲望を隠さない事も多かった。それだけの力を持っていたからだ。
「神はそれだけの力を皆持っているわ。違う点としては神は権力を求めない、権力を持っても意味ないから。なんでも出来るのにわざわざ他人を抱えるなんて面倒なだけでしょ。皆個人の欲望だけに忠実だから争いは起きない。」
起きたらそれはラグナロクだ。
なら君は自分の色をどう評価する?
「桃色。」
躊躇わないね
「躊躇わない勇気!」
ハイハイ、ならば透明な人間とは?
「聖人。」
そんな人に会った事は?
「ありません。女神ですけど。」
つまり透明な人間性を持つ人間とは?
「いない。そんな欲を持たない人間はいない。…この国の兵隊を私が殺し尽くしたから?人間がいなければ欲もない?」
そんなところかな。おそらくあれには善も悪もない。
シュヴァルツ領で黒く感じたのは人間が多かったからではないか。人間の本質が本来欲深く黒いから、存在も黒くなる。
私達は虐殺した。だがあの程度ならばこの土地の意志に倫理感というものがあったとしても、何の影響も与えない。そして人がいなければ存在は汚れない。
「女神でも少し凹むくらいだったのに。」
「考えられるとしたら、この国に死は珍しくないのだろう。医療が未発達ならばよく死ぬ。」
戦前の我が祖国・日本だって子供を沢山産んだが沢山死んだ。人口が1億を超えたのは戦後医療と保険が充実した高度成長期以降だ。
「私に関わって欲しくない理由は?」
「正規軍を一撃で全滅させたからだろう。」
あの時君は、奇跡や迷信に免疫がないという様な事を言っていた。神の存在はこの世界にはあまりにも優しくない。それだけ思想というものを発展させる余裕が無い世界なのだろう。神の優しさはこの世界の人には辛すぎる。だから、人間の限界が分かる元人間の私に頼んだのだ。
「貴方は何を為すの?私には貴方に何が出来るの?私は神なのに、分からない。何も分からない。」
私に言える事は。
「ミズーリ。」
「はい。」
「君は私の隣にいてくれれば良いんです。私の心が折れない様に。毎日私の作るご飯を食べて、毎晩私と一緒に寝て、毎日楽しくこの世界で笑ってくれれば、それで良いんです。」
ミズーリは私の手を取りギュッと握った。
「それにこれは、君が天界に帰る一つの手順だと思う。君には君のやるべき事は絶対にあるはずだ。だからミズーリ。」
「はい。」
「頑張れ、二人で頑張ろう。」
「うん。」
さて、一つの結論が(行き当たりばったりにと)出たので、次に私達がする事は。
「ごーはーんー。」
まだ夕方にもなっていませんよ。
「なーにーたーべーるー?会議よ会議。」
何会議ですか?それは。
「今トールは、私はごはんを食べて笑ってるのが仕事って言った!」
似たような事は確かに言いましたけどね。
「別に今食べようと言ってるんじゃないの。何食べるか決めようよ。」
なんですかそれは?
「何でもいいからトールとお話ししたいの。思い付いたのが、今日の晩御飯。」
たまにミズーリが素敵女神になるように、たまに私が真面目な話をするのが嬉しいみたいだ。
いやいや、明日からの指針は?直接王都に行くの行かないの?
「手掛かりが無さ過ぎて話を進めようがないもの。いつまでに王都に行けばいいの?」
さあ。
「だから明日の事は明日決めようよ。なら私達に出来る事は何か?それはご飯。」
ならばステーキで。はい決まりました。
「それは素敵な提案です。決まりました。
…ねぇトール。つまんない。」
困った女神様ですね。
「ご飯、お風呂、ベッド。全てがハイエンドの生活になりました。いつでも私とトールは結ばれて子供を二人作って、ねぇトール。最初は男の子を希望するわ。」
女神がどこかに行っちゃったよ。ミズーリ帰って来なさい。
「どうしようトール。私止まらない。助けて。私おかしい。」
いつもと同じじゃないかな。
「いつもより変なの。止まらないよトール。ミツルとミチルがお父さんお母さんって抱きついてくるの。」
空想の子供に名前までつけちゃった。
「ミズーリ!」
「何ですかお父さん。」
「服脱いでそこに土下座しなさい。」
「子供達が見てるわ。」
でも脱ぐんだ。
「初めて脱げと言ってくれたの。初めて私を求めてくれたの。」
これは本気で駄目な奴だ。おい、万能。
初めて万能さんを呼び捨てにして命令する。
そのままミズーリは寝てしまい、ソファで軟体生物になった。軟体生物の頭を私の膝に乗せて何をしよう。この体勢のままDVD鑑賞するしかないじゃないか。
困った。
暇つぶしにと昔のバラエティ番組のDVDをデッキに入れたら、飛び蹴りされるお笑い芸人じゃなくて白髭の親父が画面に映っている。
創造神だっけか。あれからまだ1週間くらいだっけか。だっけかだっけか。
あまりに破天荒な毎日で遠い昔に思える。
「ミズーリが暴走しているようですね。」
「天界が何か色々やってやるみたいだけど?違うの?」
「私は一応天界における最上位の神なんだけど、天界を私が管理している訳ではないんだ。天界は天界で独自の意志を持っている。」
さあ、訳の分からない事を言い始めた。神様の親分が、それもあなたは創造を司る最高神だった筈ですよね。
「いやトールこそ何をしているのかね。女神に永遠の愛と臣従を誓わせるものだから、いわば天界もおかしくなっているのだよ。神より上位な存在の人間って全てがおかしい。」
私はミズーリにご飯を作っているだけですよ。
「それでもだよ。ミズーリの成長が止まらなくなっている。先程のミズーリは自身の成長に心が追いつかなくなっていたんだ。
どうしよう。」
どうしよう。
「それで私は考えた。考えた結果、考える事を放棄する。」
おいこら創造神。
「トールに全部丸投げる。ミズーリを伽に呼んでも構わないと言ったが、今更もう何でもありだ。
本人が肉奴隷になりたいと言ってたな、好きにしろ。君は女神より上の存在なんだ。もう、君に頼る以外無い。天界は君の選択を歓迎し力を貸してくれるだろう。」
何だそれは。
「これが神だよ。ミズーリも言っていただろう。神々の本性を。私も今後どうなるか分からない。でも。」
創造神はニコリと笑った。
「君は選択を絶対に間違えない。それだけは私にも分かるんだ。だからミズーリを、私の可愛い娘を頼む。それだけだ。」
言いたい事だけ言うと創造神は画面から消えて、丸顔の年配芸人がステージを駆け回る場面に変わる。ミズーリは大人しく膝枕で寝ている。
みんな私に何を求めているんだろう。
あ、コーヒーが冷めちゃった。
…娘?




