邂逅
「今日の全予定終了です。後は晩御飯を待つだけ。」
まだお昼の片付けすら済んでないんですが。
それに検討事項って塩ラーメンの具を決めただけで終わったし。
全く役に立たないひ
「ととは言わせない。貴方の愛妻号ミズーリちゃんに任せれば炊事洗濯なんかチョチョイのチョイ。」
この人の存在意義を問う事言えばなんでもしてくれると分かった。
「女神なんだから家事なんてした事ないの。どうするの?これ。」
同時に泣きべそかき始めるくらい落ち込む事も分かった。でも、一つ一つ教えていくと、多少不器用ながら一生懸命に仕事をしてくれる。
ミズーリはミズーリで、私達の中での役割を探す事に必死なのだ。私の役に立ちたい。私を喜ばせたい。それが女神ミズーリの存在意義なのだろう。
だからといって子供に脱がれても、私もう思春期じゃないし、相応な女性経験もあるし。
私としては、君の隣にいる事、君が隣にいてくれる事で成立しているのだけど。
そうもいかないのが女心、女神心なのだろう。
そうこうする内片付けも終わったのでミズーリと改築した風呂場に行く。
「素敵です。素敵。」
「脱衣所は私の経験から作ったんだ。湯船は私の会社の研修施設のものを流用。後は我が家の浴室そのままなんだけど、何せ二畳の浴室を無理矢理四畳半に引き伸ばしてみたから、バランスが悪くて変。窓を含めて調整して欲しい。」
「神のセンスの悪さは前に教えたと思いますが。」
「神様のセンスじゃなく君が落ち着く浴室を作って欲しいんだ。」
んじゃ、万能さんよろしく。
この間、君の気配を感じた時と色が違うね。
私はこの地を守る役割を持っているものですが、その地の人々の色によって変わるんです。
君は私に何をして欲しいのですか。。
王都へ向かって下さい。
王都へ。
王都で何が待つのか、私にも分かりません。
君は誰ですか?
私は意志です。この地にこの国に染み付いた意志です。
でも、私には何の力もないのです。
貴方は神に近しい者だと認識を私は持っています。
神とは私達よりも強大な存在。
私は貴方に頼りたいのです。
私は女神と旅をしていますが神ではない、ただの男ですよ?
ですから貴方にお願いしたいのです。
私には力がありません。女神様には力があり過ぎます。
貴方は神に類似する誰か。お願いします。
「帰ったの?」
風呂場に戻ってみるとランドリールームが増築されていた。
「炊事洗濯と言ったけど、トールのご飯は譲れないから洗濯は私の役目。」
今までも洗浄の魔法で綺麗にして貰ってましたが。
「トールの下着は私が洗濯するの。その為に洗濯機も万能さんにお願いしました。夫の下着を洗うのは妻の役目。」
と言っても、替えの下着と言う物を持たないまま私は転生してきたのですが。
「だから下着を沢山お願いしました。ブリーフ、トランクス、ブーメランビキニ、なんなら褌も。ほらこの通り。」
上着の替えがないのに下着だけ豊富な私。
「それでお客さんはなんて言ってたの。」
「王都へ行けとさ。」
「行くけどね。」
それでこの風呂場はなんですか?
「お二人様用のあれこれ考えてたら、万能さんと悪ノリが止まらなくなったの。」
全部回収です。折角落ち着いた木を基調にしたデザインは素晴らしいと褒めたかったのに。
前世でも写真で見た事しかない性具のあれこれを知っている童女ってなんですか。
「残念。」
「何度も言いますが私の性的欲求はノーマルです。」
「諦めて委ねちゃえば楽になるわよ。」
どんな神様だ。
「こんな神様よ。そろそろ神と女に幻想を抱くのやめなさい。」
さっきまで、妻だの愛妻号だの言ってたな、このへっぽこちびっ子女神。
そらゃ、さっきの意志の人もこんな女神に会いなくないだろうな。
あ、ミズーリがショックで固まってる。
何かに接触されようと、女神のあからさまなツッコミ待ちにいちいち付き合ってあげようと、私のする事は変わらない。
バンガローの改築と食事の準備だ。
現実問題として私達は常に受け身なのだ。
ミズーリの悪ふざけも能動的な動きが取りようがない故の暇つぶしだ。多分。
さて、かねて(昨日)からの計画通りキッチンスペースの確保を始めよう。元々自動車2台分のスペースに合わせてシングルベッドを並べただけがスタートだったね。浴室スペースやトイレの別部屋を付け足したとはいえ、母屋スペースは一度だけ何の計画も無しに少し広げただけかな、テーブルセットを室内に置きたくなったので、座っていたミズーリごと放り込んたんだ。
シンクの横にシステムキッチン風設備を取り付けて、壁を一尋だけ奥に移動させる。
風と言うのは、別に私が全部用意して私が全部調理する訳では無いからだ。結局は万能さんにお任せがどんどん増えている。
床と絨毯が一緒になって広がって行くのが楽しい。テーブルの向きを変えてキッチン向きの席は私、反対側がミズーリ。
最近ミズーリが直ぐに溶け出す事と私の隣で世話焼き女房になった経験から、椅子を長椅子に置き換えた。ふかふかの座布団と枕代わりのクッションも置いておく。
服を脱いで絨毯で転がる事をお気に入りにされては堪らない。
ベッドの足の向きをキッチンにしておけば、寝起きでも甘ったれ女神は私の姿が直ぐ確認出来る。
これでミズーリの願いも叶う。少し恥ずかしい。空いた空間の壁にモニターを取り付けて、これまたお高い立派なソファを据える。
駄目人間ゾーンの出来上がり。
あとは、生前の自宅を思い出し冷蔵庫を置いてみた。中身は氷とアイス、水にジュース類、果物を含むデザート各種を入れておく
。
「何何何何何何何何何。」
何何何さんが風呂場の改装を完了させたか戻って来ました。
「どうしたのコレどうしたの?」
女神がリフレインしか叫ばなくなった。
君の希望通りに朝目が覚めても私が直ぐ見える様に改築しただけですが。
「ーーーーーー。」
ミズーリは私に抱きつくと私の背中をぱんぱん叩き出した。痛くはないけどくすぐったい。
「ずるいずるいずるいずるいずるい。」
いつからこんなに甘ったれ坊主になってしまったのだろう。この子。
「トールは私の予想を簡単に越えてきちゃう。」
いや、君がそうしてって朝騒いだじゃないの。女神に拘束されると逃げられそうにありませんし。
「逃がさないし。逃げる気なんか私の手管で無くして差し上げるザマス。」
また変なキャラが出てきた。反応が面白そうなので冷蔵庫を開けさせみた。中身を見た瞬間ミズーリは固まった。よく固まる女神様です。
あ、溶けた。跪いてる。
「トール、愛してる愛してる愛してる。だから私を愛して沢山愛して朝まで愛して腰が抜けるまで愛して。」
下ネタで返さないのならば、この子を気の済むまでいじってみたい。
「いじって良いわよ?ねえ早くぅ。」
言葉の選択って大切だなぁ。反省。
コーヒーを入れると、モニター前のソファに腰掛ける。万能さんがいつの間にか生前に愛用していたカップまで再現してくれた。
ミズーリは沢山用意しておいたデザートやジュースではなく、ただの水を抱えて私の隣に座る。思った以上に腰が沈み込んだせいか、変な声をあげながらも必死に水を一滴も溢さない様にコップを支えていた。
少し考えごとをしたかったのだけど、ミズーリを無碍にする訳にもいかない。
何故ならミズーリは私の腿に手を置いて私の顔をじっと見つめているからだ。
この女神はオンオフをわざと盛んに切り替えて、私達の空気を重くしないよう努めている。
ミズーリと同衾しているただの人間にも、それは伝わっているのだ。




