飯喰ってばかり
起きた。隣でミズーリはまだ寝ている。
今朝はミズーリより先に起きる必要があるのだ。起き抜けの私の「私」は若返った事もあり元気だろうと思っていたが、その通り。
何しろ私達は二人とも全裸で寝てたのだ。
私は何もしてないよ。今の感じから何もされてないよ、多分。
ミズーリを起こさない様にそっとベッドを抜け出し、そそくさと身を整える。
さて何を作ろうかね。
「おはようトール。」
直ぐに声がかかった。
「おはようミズーリ。うん、服着なさい。」
案の定、ミズーリは全裸でベッドに腰掛けている。
「報告があります。私はまた少し成長したようです。」
全裸のまま立ち上がり私のそばまで歩いて来た。確かに昨日よりも頭の位置が少しだけ高い。
「でもおっぱいは膨らまないの。」
はあ、あと自分で揉まないで下さい。
「生理も始まらないの。」
そもそも神族である女神に生理ってあるんですかね。
そろそろ叱ろうと思ったが、ミズーリは自分から私から離れて着替えに行った。
私が朝食の準備を始めると衣ずれの音がする。ちょっといやらしい。
今日はトーストを焼こう。と決めたら、食パンとトースターが現れた。いつもの事です。
フライパンでベーコンエッグでもと卵を割ろうとして思い出した。万能さん万能さん。
(黄金のコーモリさんが来そうだね。)
万能さんがオーブンを出してくれたので、カリカリベーコンの準備。
フライパンではにんじんを甘くソテーして、鍋では粉吹き芋を付け合わせに作る。おっとバターを忘れずに。
あちこちで完成の音がチンチンなる。全部を盛り付ける。パンにはマーガリン、ジャム、マーマレードを添えて。スープは王道粒入りコーンポタージュ。万能さんおすすめの牛乳と、コーヒーも入りました。
そしてミズーリは私の向かいの席に腰掛けました。隣来ないんだ。
私が執着していたカリカリベーコンはお気に入りになったみたいで、コリコリ無言で食べ終えると私の分まで持って行く。まあ良いか。
「夕べのはなんですか。」
「分かりません。」
ですか。
「ただ思ったんです。私とトールは交われなくても肌を重ねる必要があるって。」
「夕べのは本物の君ですか?」
「勿論!」
元気だ。
「本当は初夜の為に作った演出とキャラなんだけど、使っちゃったからまた考える。」
それはそれで楽しみにしてます。昨日のも割と好みでしたがね。
「でもね。昨日のは私にも分からない。私だってトールを脱がすの恥ずかしかったんだよ。」
私は動けなくなったけど。
「少なくとも私はトールに何もしてない。私の意志ではない。」
となると、
「天界ね。」
「昨日ベッドの中の私達は薄く光っていたけれども。」
「天界が何を考えているのは分からないけど、一つ分かった事あるでしょ。」
?
「私は毎晩、あんな幸せに包まれているんだよ。毎日考えているんだよ。貴方には何が返せるのか。なのでとりあえず脱ぐ。見せる。」
最後の一言で全部台無しになった。
「貴方のも見せて貰ったしね。」
この子これからどうしよう。
「これからは毎晩裸で肌を合わせましょう。うん、決めた!」
あんまり言ってるとペナルティくらいますよ?
「それがねぇ。神って愛の一言でどうとでも誤魔化せるし、性には寛容なのよね。」
だよねえ。とはいえ。
「毎晩は駄目です。」
「えー!なんでぇ!」
「私が眠っている間、私の私で遊びかねないからです。」
「トールが心底から反応してくれないとつまらないから、しないよ。」
演技だと思うけど、涎を拭いてニヤニヤ笑っている女神を信用しろと?
こうして私達はいつもの私達に戻れたのだった。
調理を屋内でするようになってから手狭になって来たのでキッチンを増築しようとしたらミズーリに反対された。
「駄目、ぜったい!」
どこかで聞いたようなキャッチフレーズまで出して反対してくる理由を聞きました。
「だって朝起きた時、トールの姿が見えないと寂しいんだもん。」
やだ何この子可愛い。
「だから全部この部屋でやって。この部屋を広げて。私が見えないとこ行かないで。」
この子、こんな甘えん坊でしたっけ。
「知ってる?トール。私達が出会ってから一番トールが私から離れた時の事。」
ええと、いつだっけ。
「トールがノグソに行った時。」
おい
「その時以外は、壁を挟んでも声の届くところに必ずいてくれる。それがトールなの。
目を覚ましたばかりは私も色々立ち上がってないから、トールは私の見える所にいないとダメなの。」
ののの攻撃が始まって女神の低脳化スタート。
「トールは私から離れたら許されないの。バチを当てるの。」
そろそろ支離滅裂になって来たので、頭をペチンと叩きそして優しく撫でてあげる。
ミズーリはその頭をグリグリ私の胸に押しつけてくる。グリグリグリグリ。
「行きましょうか。」
この変わり身の速さだよ。
「トール分をたっぷり補給できたからね。」
私達は毎晩同衾して肌を寄せ合っているという話題をしてた様な。
「トールの一言で私のトール分は簡単に雲散霧消するのよ。そのたんびに私はトール分を補給しないと泣いちゃうから。言葉には気をつけなさい。」
何なのこの子。
「女神様です。」
ですか。
「冗談はこのくらいにして、トール。」
はい?
「私が目覚める時。私の見える所にいて欲しい。これだけは私の本音です。」
まあ、そのくらいなら。
「あと、私から5メートル以上離れないで。私の電話には必ず出て。メールは直ぐ返して。既読スルーとかしないで。仕事に行かなくても良いわ。私がずっと養ってあげる。」
拘束系女神だったのか。
「うふふふふふふふふふふふふふふ。」
怖いから。本当に怖いから。
「ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。」
あ、途端に怖くなくなった。
「今後の指針なんだけど、このまま南下して王都を目指すましょう。」
他に無いものな。
「王都まで直行すれば徒歩で5日くらいだけど、色々試したい、考えたい事があるから、色々寄り道するわ。」
確かに、ここまでの数日だけでもヒントはいくつか出ている。
「で、また西へ向かいます。」
西というと、あの気配か。
「一番分からないのがあれだから。」
「キクスイ王国への対応はどうしよう。」
「エドワード兵は昨日壊滅させたから、まともな領主なら私達に手を出すとは思えない。」
来るとしたら天狗のおじちゃん達くらいか。
「どうかしらね。この国の人口を考えるとアクノヒミツケッシャの構成員がどれだけいるかしら。」
100人近く左足首斬っちゃったしな。
「とりあえず歩きながらブレインストーミングと行きましょう。あ、トールさん。」
何かな?
「お昼は塩ラーメン予約で。」
具は白菜椎茸にんじんかな。
検討事項一覧
その1・万能さんが協力してくれる時としてくれない時の違いとは
その2・ミズーリが成長した時の条件とは
その3・塩ラーメンの具とは
誰ですか。その3を議題に載せたへっぽこ女神は?
「季節のお野菜って何があるのかしら。」
常春の国なら春菊、たけのこ、菜の花あたりが有名どころですかね。あと土筆とか。
「ラーメンに合うのかしら。」
調理法次第ですかね。にんじんもたけのこもかなり硬い野菜ですし。春菊も菜の花も苦い野菜ですから。
「野菜だけだと悲しいわ。お肉よお肉。」
塩だと豚ですかね。便利だな豚コマ。
「副菜はどうしよう。餃子かな。」
塩と餃子か。考えてみたら余り無い組み合わせかも。タンメンを考えると野菜炒めになるのかなぁ。
「また野菜なの。」
ならいっそ野菜尽くしのお昼にしましょう。
覚悟しておく様に。
しまった。その1その2の検討が全く出来てない。
結局、対策会議ブレインストーミングなんかなにも出来ずお昼になる。
それでもちゃんと歩いていたので、丘陵地帯が見えて来ている。が、その手前が林になっていた。天界謹製地図で改めて確認すると、この国は北側が未開拓ながらものづくりが盛んな地区、南側が農村地区で数本の街道が南北に走り、要所要所に都市が設けられている。
そして東西は丘陵・山脈が走る細長い形をしている国な訳だ。
丘陵・山脈には幾つかの鉱山、山村が見受けられる。国全体が一乗谷の大きいの、という表現が一番楽かな。
私達は東西に横断し、南北に縦走している訳だ。
今日は雨も止み青空が見えている。むしろ陽の光が眩しいくらいなので木の下を幕営地にする。
水分補給とトイレの為にバンガローを展開。
中に入ったミズーリは早速絨毯で転がっている。
「脱がないから。」
先に言われた。いや、それが当たり前なんですから。
トイレを済ませて手を洗う。ミズーリが並んで水筒に詰めている。魔法瓶というものは前世にもあったけれど、私がミズーリにあげた万能印の水筒は持主の意志通りの性能を発揮する。
冷え冷えの大好きなミズーリは定期的に冷え冷えで水筒詰めをしている。
蛇口から出てくるのはミズーリの大好きな「トールが出す水」なので。トールから貰っても、それはそれで良いけど、常に抱えていたいそうだ。
この女神は健気なんだかよく分からない。
さて、塩ラーメンだけど私はあれしか作った事が無い。そう、日本人誰もが好むあの袋麺だ。あれしか作る気しねえ。頼んだよ万能さん。
ゆで卵を作って、白菜椎茸にんじん豚こまを適切な大きさ、薄さにカットして炒めておく。たけのこさん達ははまた今度。
野菜炒めは2品。キャベツ、もやし、豚コマ、キムチをさっと炒めて塩胡椒で調整。
もう一つは椎茸、エリンギ、エノキダケを指で適当にちぎったらバター醤油で炒める。
袋麺が茹で上がったら、ゆで卵を半分に切り用意した具を乗せる。
豚コマキムチ炒めとキノコのバター醤油炒めをそれぞれ別皿に入れて、仕上げは切りごまをパラパラ。
インスタントという、今まで食べできた麺とは違う食感に最初驚いていたミズーリは、スープを一口飲んでから変わった。
「ご飯。トールご飯ちょうだい。」
だよね。私もスープを少し塩辛くして、ご飯を投入していたもん。
豚コマキムチには大した反応を示さなかったミズーリだがキノコには興奮し始める。
「肉じゃないよね。これキノコだよね。なんか肉っぽい。あとこの食感私大好き。」
ここ数食は大人しく食べていたのだか、一気にへっぽこ度がマックスになっちゃった。
麺を食べ終わるといち早くご飯を投入。レンゲを差し出すと、両手で私の手を包む。
感謝の気持ちらしい。
「美味しいの。美味しいの。」
ののの再発ピンチ。私の皿からバター椎茸を食べさせてあげると、
「椎茸ってこんな美味しかったっけ⁇」
興味を変えさせる事に成功。
「キノコって調理次第で化けるからね。菌糸と菌糸の間に味をたっぷり染み込ませられるし、キノコによって香りも食感も全然違う。私達の好みに合ったキノコと好みのあった調理法を見つけると死ぬまで楽しめるんだ。」
松茸、しめし、たまご、いぐち。どれもこれもみんな違う美味しさがある。
「決まり!トール。ラーメンとコーヒーとキノコ。今後とも何卒宜しくお願いします。」
深々。
そりゃ、万能さんに頼めばなんとかなるでしょうけど。うんって言ってるし。
でもねミズーリ。君、女神の分際でどんどん存在が安っぽくなって行きますよ。
「だからトールが責任とってよね。」
私が取らないといけない責任が、気のせいかどんどん軽くなっていく。




