殺戮と光
寿司、鰻と来たから少し軽いものにしたいな。
「ラーメン。」
重いから嫌だ。とラーメン大好きミズーリさんのリクエストを無視して考えたのは蕎麦。お蕎麦。
副菜の天ぷらを充実させれば、我が家の食いしん坊も大満足。
「本当に私を満足させてくれるの?」
任せない。ん?なんか今いやらしかったぞ童女ミズーリ。
珍妙なエロポーズ取るな。笑うな。
と言っても蕎麦は市販されている(どこで)二八蕎麦の乾麺を使うので茹でるだけ。
別の鍋に胡麻油をたっぷり入れて、鯵・烏賊・海老・蓮根・さつまいもの、ナスを溶いた小麦粉に潜らせたら熱い油へじゅう(あとは万能さんにお任せ)。
私用に山芋でとろろを擦っておく。とろろ芋でなく天然長芋なのが嬉しい。万能さんどこかで掘って来たのかな。
更にもう一品。出汁をたっぷり吸わせた油揚げを半分に切り、白胡麻まぶした酢飯を詰めて簡単お稲荷さんを二個ずつ。
お漬物に少し辛めに味付けられたきゅうりを3かけずつ添えて。美味しく出来ました。
私はシンプルな冷やしとろろ蕎麦を、ミズーリは天ざる蕎麦を。更に私のとろろも希望して持っていきやがった。私はただの冷やしかけ蕎麦になってしまった。ちくしょう。
「はふぅ。」
完食すると絨毯に寝転がる女神様。
これで全然太らないのは羨ましい。けど、スカート姿の女の子が床で大の字になるのはどうかと思う。捲れてるし。
「ねぇトール。」
「ん?」
「外静かになっちゃった。」
「何人だった?」
「60人丁度。」
そうか。じゃあ万能さん万能さん。
私がバンガローに入る前にした一工夫が見事にハマった様です。
大した事じゃあない。前世で観光に行った関東のとある城址。あれを再建してみた。
と言っても深さ5尋くらいの空堀をバンガローの周りに掘っただけ。食事の邪魔をされなけば良いだけだったのだけど、
私の行動を見ていたミズーリが幻覚の魔法を侵入者にかけて、万能さんが堀をグリグリ動かして全員堀に落としたんですね。
全員墜落死してるなこれ、空堀を埋め戻せば証拠隠滅。本来なら掘り起こされた土砂は土塁として利用されるが、そのまま空間転移させていたので、元ある場所に戻せば植生に変化もなくら土の色もおんなじ。ちょうど雨の日だし。
謎の侵入者が土中深く埋まっているだけだ。
「ねぇ、今分かったんだけど、これみんな衛兵の制服着てるわね。」
本物? 5ダースだし意図的な人数かもね。
「さあ?」
まぁ今更いいか。ん?
「なあに?」
「私が万能さんに念じた事は空堀を掘ってもらうだけだ。堀を動かして侵入者を落として欲しいまでは念じてない。」
「つまり?」
「つまり今日は積極的に万能さんが動いた。」
何故だ?昨日とどう違う?
「色々考えないといけない事はあるわ。ほら、丘陵地帯を離れたから消えたけど、あの変な気配もそう。何より。」
何より?
「今日は何処をキャンプ地として、晩御飯に何をたべるか!よ!」ばばん。
その効果音と演出は女神の力かも知れないけど、中身がへっぽこ過ぎてドリフです。
「荒井注が好きなの。」
君は一体何者ですか?
「死と転生を司る女神ミズーリです。」
なんかもう。
馬鹿をするのはいつもの日課。適切に食休みを取った私達は街道を離れて南へ向かう。
周りに気を使うのが面倒になったので、だだっ広い草原で正面から叩き潰す事にしたのだ。誰かを。
雨が小降りになって来たので傘を畳む。
馬のいななきが聞こえる。馬ねぇ。
「騎馬が大体100人。歩兵が200人。この領内の正規兵ほぼ全てかしら。」
私兵とかじゃないんだ。
「曲がりなりにもここを治めるのは王族だしね。」
「私達何かやったか?」
考える限りこちらからちょっかいかけたこの世界の人、皆無だと思うんだけど。
「どうするの?」
「一応、話は聞こう。」
「お話にならなかったら?」
「それはそれで。」
300人くらい瞬時に全滅させる手立てなんか幾らでもある。何しろこちらは不老不死の女神と、万能の力を操る女神の主だ。
でも余り殺したくないなぁ。正規兵減ったら隣の国が攻めてくるかも知れないじゃん。
はなしにならなかったので、ころしつくしてみましたまる
いやいやミズーリさん。もう少しこう。
「実際そうじゃないの。私達の話なんか聞こうとせず、いきなりよ、いきなり。なんで300人に矢で撃たれて槍で突かれて剣で切りかかられなくちゃならない訳?」
その程度じゃ私達に傷一つ負わせる事なんか出来ないんですけどね。結界というかバリアというか、私達の周りに張り巡らされてました。女神ミズーリの神力だそうですが。
「大体、私達死なないもん。あのままほっといても殺せる人いないけど、怪我とかしたら嫌でしょ。」
確かに。
「足元濡れてたし、足滑らせてすっ転んだりしたらカッコ悪いもん。私が。」
無慈悲な女神がいたよ。ここに。
実際の所、二人で色々考えて女神フラッシュをやってみた。ミズーリが神力を天空から降らせてみたのだ。普通の人間なら恐れ慄き逃げ出す、はずだったんだけどほぼ全員ショック死しました。
「そもそも宗教がないんだから、奇跡や迷信に対する抵抗力が低い世界なんだここ。失敗したなあ。」
一撃で一国の正規軍を全滅させた女神様ですが、私も全員の左足首を斬り落とす。
「?…なんで?」
「神様だから人を滅ぼすってあるあるネタかもしれないけど、私は君の相棒だからね。
私も責任を背負いたくなったんだ。」
……
……
「…トール。…貴方狡い。」
……
「背中貸して。」
そんな約束しましたね。
そのままミズーリは私の背中に顔を擦りつけ、何も言わなくなった。
そして私にしがみ付きながらここまで歩いて来た。歩きにくい。
小さな川の辺りである。人影も形跡も全くなし。何やってもバレないだろう。
「ここをキャンプ地とする。」
今日は私の番だった。毎日交代で宣言してる気がしたので。
雨は止んだけど、まだ草は濡れてるし何よりちょっと冷える。さっさとバンガローを展開して中に入った。
「ミズーリはまず風呂入って来なさい。」
何も言わずに風呂場に向かうミズーリだが、しっかり部屋の中で全裸になり、お尻をふりふり私に見せびらかしてた。アレなら大丈夫だろう。
というか、脱いだぱんつを私に片付けさせるな。
さてと、その間にいくつか弄ろう。
まずは電灯。ランタンさんがいるけど読書灯に転職して頂き、この部屋とトイレと風呂場に電灯をつける。電気は何処から引かれてくるかは不明。どうせ万能さんがやらかしているんだろう。風呂場をスイッチオン。
「なになになになに?」
よかった。ミズーリは元気そうだ。
そしてエアコン。暑さ寒さ調整は自由自在。
いくら常春の国でも寒い日くらいある。
なので23度くらいに設定。
ベッドも弄る。マットレスをちょいと高級品に交換。気持ちいいんだよね、これだけで。
あとは娯楽だなぁ。私には本棚が帰ってきたが、これは私の趣味だし、ミズーリの趣味とは別だろう。それに、ぶっちゃけ殆ど既読本なんだよね。あ、万能さんが落ち込んだ。
本棚で思いついたんだ。前世をトレースできたならソフトは持ち込めないか。放送や配信といったソフトは難しくても、DVDという形になっているものは出来るのではないか。
だからまず電化製品が万能さんで使えるかテストして成功した。ならば次はハードだ。
…大型モニターとBlu-rayが出てきました。
ソフトは、とあるレンタル店舗のデータがそのまま円盤として持ち出せて使えるようです。
参ったな、万能さん万能過ぎる。
このままでは私はミズーリとここで駄目人間になる自信がある。
「良いわよ。背徳と退廃の世界に身を委ねても貴方となら。どこまでもどこまでも。」
出てきましたかミズーリ。服は着てないけどバスタオルですか。子供のくせにそっちの方がいやらしいのは何故だろう。
「ねぇトール。エロいの無いの?エロいの。今なら私が無料でご奉仕するわ。」
元気になったならば着替えなさい。ご飯にしますから。というか、金取るつもりですか。
「家計と下半身の管理は妻の役目です。」
ハイハイ
「家計下半身管理で3Kです。」
やかましい
とはいえ、私もミズーリもお互い少し空元気を煽っている事は分かっている。
こういう時はテンションが上がる食事を用意しよう。
焼肉、フランクフルト、焼き鳥(モモと皮を塩で)、とうもろこし、ピーマン、玉葱、あと何出そう。
焼肉はタレに漬け込み、フランクフルトは表面に切れ目を入れて、とうもろこしは軽く塩茹でしておく。ピーマンは大雑把に二つ切りにして種を取り、幾つにかは挽肉を詰めておこう、私が好きだから。玉葱は皮を剥くとそのままスライス。あとおにぎりも用意しておき、冷たい軟水、冷たい緑茶、脂を落とせる温かい烏龍茶を並べると
ほらもう。ミズーリのワクワクさんが止まらなくなった。
ではここで。ばばんと取り出したるは、鉄板と鉄網。そうです。BBQです。しかも万能さん特製無煙仕様なので室内でも安心。
食材をポイポイ乗せたミズーリが深刻な顔して焼き具合を測っているのを横目に、おにぎりを網にかけ焼き色をつける。
表面が軽く焦げ始めたら、はけで醤油を塗って焼いて塗って焼いて。はい、焼きおにぎりの完全です。
ここでイレギュラーが起こった。普段なら私の向かいでテーブルを美味い美味いと叩いているミズーリが私の隣に座ったのだ。
「トール。あーん。」
女神が本格的にデレた様です。
「当たり前でしょ。こんなに女の子を想ってくれるなら、私は正面から受け止めて貴方に好意を返すだけです。」
それは君が無事成長して天界帰還の目処が立った時に、私が君の為に用意していた言葉なんですが。盗作されたぞ。
「トールと私には私有物なんかあり得ないから。心も想いも身体も。全部共有物。」
恥ずかしいです。あと玉葱がまだ生です。
「玉葱は生でも食べられる!」
私の肉詰めピーマンを食べられた。
「貴方の物は私の物!私の物も私の物!」
日本で一番有名なガキ大将降臨。
とは言うものの、自分の口が塞がっている時はミズーリ手づから私に食べさせたがり、手が空いた時は私にペタペタ触り。
とにかく私に世話を焼き、私に触れる事で元気になるならいいでしょう。
娘が父にべったり離れない構図ですが、これはこれで私も結構幸せを感じているので。
無事二人とも満腹になり満足になり元気になった。
後片付けを済ますと私の入浴タイムだ。
直接手は汚していないとはいえ、さすがに殺し過ぎた。なんだこの言葉は。
私のクソ真面目な学生生活、社会人生活の中で見た読んだフィクションでもあり得ない感想だ。
果たしてこれがミズーリを天界に返してあげる事に繋がっているのだろうか。
悩みついでに湯船で溶ける事にしようか。
そういえばミズーリは浴室を広げて欲しいと言っていた。いつもの下ネタかもしれないが女神は嘘をつけないしな。
お風呂も適当に考案したものを万能さんがデザインし直してくれたものだ。当初は実用性しか考えていなかったからなぁ。
ふむ。とりあえずは、浴室と湯船を倍の広さに。脱衣室もきちんと作って、洗面台を。
あれ、大学時代の私が居る。そうか、鏡はこの世界に来て初めてみたな。嫌だなぁ。この青臭い顔。でもまぁ、ミズーリが良いなら良いか。脱衣室の床は細竹を敷き詰めてみた。
歩いてるだけで濡れた足裏の水分が落ちる。
鏡の上に扇風機は大浴室の定番、籐の椅子も作ってみた。ドライヤーをどうしようと考えただけで万能さんが全自動無電源の前世でもあり得ないものを作ってくれた。
あと装飾などのデザインはミズーリと二人で決めよう。
入浴を済ませたらDVDを見ようと思っていた。ミズーリが好きだと言ったドリフでもと部屋に戻ると、女神がピンクでシンプルな着物を来て正座していた。
「お待ちしておりましたトール様。」
思わず身構えるが、顔を上げたミズーリの見た事もない優しい顔に混乱する。
「お願いがございます。お召し物をお脱ぎになって下さい。」
ミズーリはそう言うと立ち上がり自ら着物を脱いで全裸になった。
「一緒に。」
なんだか分からないうちに私は室内着を脱がされベッドに誘われた。抵抗出来ない。
何故か抵抗してはいけない気になる。
何も分からない。何も考えられない。
そのまま私達は全裸でベッドに入り、
何もしなかった。
ミズーリは、全身を私に密着させ片足を私の足に絡ませ両手を私の胸にそっと当てると、そのまま眠ってしまった。
いつの間にか、部屋の電気は消されている。でも分かる。ミズーリが薄く光っている。私も薄く光っている。これは何らかの儀式でもあるのだろう。
ならば私は女神に従うだけだ。目を閉じると私にもの凄い初めて味わう感情が押し寄せてきた。分かる。これが女神ミズーリの言う多幸感なのだろう。ミズーリの顔は布団に隠れて分からないがずっと微笑んでいる事は分かる。
私には今ミズーリの全てが分かっている。
そのまま私は静かにミズーリと共に寝息を立て始めた。




