全滅
それはエドワード領主からの依頼だった。
シュヴァルツ領の組織が潰された。
これはまだシュヴァルツ家も知らない秘密事項である。私達が知る事が出来たのはまさに僥倖。たまたま密偵が近くに居たから分かった事だと言う。
数日前、いつもの仕事をする為に組織は小日向の町と図り、その日宿に泊まった親子連れを標的とすると決めた。実行部隊は深夜に宿に突入した。それを見届けた連絡係が馬を走らせる。ところがその日、誰もアジトに帰らなかった。状況を調べる為再び連絡係は小日向の町に戻った。そして知った。逃げた。後に密偵が連絡係を見つけたのだが、震える連絡係から分かった事は大してなかった。
エドワード家の密偵はその直後、小日向の町を訪れた。そして見た。住人は全員狂っていた。ある店の前で頭を潰した男が死んでいた。密偵は顔を知っていた。シュヴァルツ領の組織の男だと。
だから組織のアジトに顔を出して見た。そこにあったのは、アジトを形成していた古城の岩と肉塊が混じり合って潰れていただけだったそうだ。
土地と人を治める者には一つこだわりを捨てないとならない。我々、組織との付き合いだ。どんなに正義感に溢れた名君であっても悪を撲滅する事は出来ない。
そのかわり、悪を管理する。我々の様な組織を見逃すかわりに、我々は犯罪者を管理する。だから密偵は我々とも近しい関係となる。
王家に最も近しいエドワード家は国内統治の為、密偵を全国に放ち情報を管理する権利と義務がある。
だからこそ、エドワード領内で活動する我々に声がかかったのだ。
その親子連れを見つけ出して連れてこい。生死は問わないと。
居場所は直ぐ分かった。銅鉱山との通信を請け負う商人から連絡が来たからだ。
西の元街道で親子連れとすれ違ったと。
国内を仕事で移動する者には別の任務がある。旅人の管理だ。キクスイ王国は技術を売る国だ。戦争は決して強くはない。
それだけの戦力を持っていない。そのかわり王家が握っているのが情報なのである。
任務はエドワード領内で行う事にする。シュヴァルツ家を無駄に刺激する必要はないからだ。当代シュヴァルツ伯は名君の呼声高い。
エドワード家としても揉めたくないのだ。
親子連れが通るであろうコースに刺客を配置した。念には念を入れ3箇所に分け、逃げられない様に見つけられない事がない様にだ。
しかし、その日誰も帰って来なかった。
馬を走らせた。直ぐ分かった。
3隊全員殺されていた。何故か全員左足首を切断されていたと言う。なんだ、何か合図なのか?更に分かった。親子連れはスタフグロの一番高い宿に泊まっているという。
躊躇は無かった。我々の組織も既に壊滅的打撃を受けているからだ。
ここで依頼を完遂しない限り我々も終わる。
別にエドワード家が管理する組織は我々だけではない。
我々は残った者全員で夜襲をかける事にする。そして分かった。全て分かった。
何故なら今我々の頭上に何かとんでもない圧力がかかっている。何かは見えない。
かと言って逃げる事も出来ない。
我々は全員左足首を切断されているからだ。まもなく我々は全員潰された。骨は砕け内臓は破裂した。だが、我々の敵は見えない。
我々は何も分からないまま死を迎える。
我々の組織も全滅したのだ。
翌朝、街は当然騒ぎになっていた。
知ったこっちゃないですけどね。
ミズーリが邪悪な笑みを浮かべた時、私は直ぐにミズーリの耳たぶを触った。なんとなく。
「うふやにゃわん。」
謎の声を発したミズーリは半分涙目で私を睨む。女神の性感帯発見。
「どうしよう。開発されちゃったわ。甘噛みでもされたら私おかしくなっちゃうかも。かも。」
「とりあえず落ち着きなさい。耳を私に突き出さない。噛んでくれないからって膨れない。…ホテルから離れたところで先に仕掛けるぞ。」
つまりホテルには近寄らせない。
私がさっさと右手を振ると、ミズーリは両手で落ち着けとばかりに上下に振って、それで全て終わった。
少しミズーリが興奮気味だったので、両手で抱きしめてあげる。
私の腕の中で真っ赤になったミズーリは、うにゃうにゃと謎の声を上げながら直ぐ寝付いてしまう。
それを確認して私も寝る事にする。
翌朝、雨がしとしと降り続ける中スタフグロの民が見たものは庶民街の入り口で左足首を斬り落とされてペチャンコになっている男の集団だった。
一部の人は知っていた。これは組織の人間だ。関わらない方が良い。
そして街の衛兵が来るまで死体は放置された。離れたところにある高級ホテルのスイートルームの客が疑われる事はついに無かった。
「これで終わりかしらん。」
「気になるのは万能さんが一切反応してないんだよ。」
「どゆこと?」
「あの町で私達が夜襲われたとき、万能さんは積極的に協力してくれた。けど。」
「今回は協力してくれてない。」
「考えられるとすれば、今回の騒ぎは私達の旅本来の目的に全く関係ない。イレギュラーなトラブルだ。だから万能さんは私の要求に対してのみ力を貸してくれた。」
つまり前回のトラブルには何かがあったという事か。
「迷惑ねぇ。」
「君、この街に来れば何かが起きるって言ってたよね。起こらなければ起こすって言ってたよね。」
「あの時は私が私じゃない時間だったからセーフ。それよりご飯食べましょ。」
君は本当に何一つ変わりませんね。
「女神ですから。」
そうですか。
さて、何を作ろうか。ホテル名物朝食バイキングは二人しか居ないからなぁ。カリカリベーコンとウインナーとスクランブルエッグで食べる、ホテルのくせにジャンクなメニューは結構好みなのだが。
うん、決めた!今朝は高級食第二弾!
「朝から鰻にします。」
「うなぎうなぎうなぎうなぎうなぎうなぎうなぎうなぎ!」
しまった。ミズーリが壊れた。
「あとカリカリベーコンはいつか食べさせなさい。」
どうしよう。うちの女神が治らない。
などと戯れながら炭火でじっくりと焼きお重に飯・鰻・飯・鰻の二段重ね。小皿に奈良漬を添えて。汁物は勿論肝吸い。
タレをお重に掛け回すと、山椒はお好みで。
特上鰻重(肝吸い付き)の完成です。
鰻を一口食べたミズーリが泣き出した。
「なんでよ。なんでご飯食べただけで涙が止まらないのよ。トールはご飯に何か盛ったでしょ。」
「愛情を。」
料理は愛情!
「ずるいずるい。」
別にずるかぁない。大体私は独身生活がそれなりに長いからそれなりに自炊経験は豊富だが、寿司を握った事も鰻を焼いた事もない。そういえば餃子を包んだ事も。
私の生半可な知識と技術を万能さんが補ってくれているだけだ。
「こうなったら覚悟しなさい。女神の全力をもって貴方を幸せにしてやるんだからね。」
泣きながらのツンデレ口調だし内容も滅茶苦茶だし。
「貴方に、泣きながら気持ちいい気持ちいいと言わせてみせるんだから。」
それは君の身体が元に戻った時にお願いします。あらあら、なんで言った君が照れているんですか?
さて、今日の行動指針ですが。
「お風呂を大きくして下さい。近い将来、私達二人が仲良く入浴出来る様に。」
それは暇が有ればやっても良いけど。
だから何で言い出した君が照れているんですか?
「トールが断らなくなって来たから?」
飼い犬だって3日も飼えば情も移ります。
「ワンワン。クゥーン。」
いや、女の子が飼い犬呼ばわりされたら怒るとこでしょう。
なんで四つん這いになるの。土下座コンボとか私は求めてませんから。だからするな。
「私がトールの下僕である事を忘れたの?なんなら貴方の肉奴隷に堕ちても構わないんだからね。」
ああ、うちの女神様がどんどんおかしくなっていく。
「トールの調教のおかげなんだからね。」
その口調すっかり気に入った様ですね。
いい加減本題に入ろうよ。
「連泊するか出て行くかね。どうしよう。」
この旅に出てから初めてミズーリが私に判断を委ねて来たかも。
「連泊すると?」
「また攻めてくるかも知れない。」
「チェックアウトすると?」
「また攻めてくるかも知れない。」
どうしろと。この街を死体塗れにする事は簡単だけど、さすがにそれは
「面倒くさいなぁ。」
「右手動かすだけでしょ。大丈夫。何人殺しても地獄に落ちないから。最初天界で言われなかった?」
言われた。けど私の精神衛生上ねえ、
「その為にも私達は一緒に寝てるの。私が貴方に一方的に恩恵を受けているだけじゃないのよ。私達は一連托生。」
やっぱりそうだったか。そういえば、私が最初に人を殺した時にミズーリは私のベッドに潜り込んで来たんだった。
アレは女神としての行動だったわけだ。
「だからトールは私に隠し事は出来ないからね。浮気なんかしたらみてなさいよ。」
私の心の声はミズーリには全部筒抜けだったね、そういえば。
だから赤くならないの。私は別に恥ずかしい事何も考えてないよ。
「あからさまに受け入れられても恥ずかしいのよ!」
……
「今面倒くさい女って思ったな。泣くぞ。ホテル中に響く声で。コンチクショー」
こんなのが私達の日常なんでしょうけど。もう少し私好みに変えていけると嬉しいな。
「貴方好みの女になるから捨てないで。」
第二次性徴期前の童女のセリフですかこれ。
「光源氏計画が神の赦しの元でやれてるのよねえ。」
若紫は君なんですが。いいの?
「いいの。カモン!」
結局チェックアウトする事にした。
どんな高級ホテルでもトールが作る家の快適さに勝てない、あの家は私達の家。
とミズーリが宣言したからだ。
ならば色々手を加えないといけないな。
アレはテントよりはマシだろうと、即興で作ったものだ、。まだまだ足りていない。
雨がしとしと降る中、昼過ぎに相合い傘の私達はスタフグロの街を出た。横断にはそれなりに時間がかかったが、それは私達を監視する意識を感じたからだ。
何度か裏通りを歩いたり誘ってみたのだか乗ってこない。万能さんなりミズーリさんなりがその意識を刈る事は容易いが、街中でそこまでやる必要も無かろうと判断した。
途中で興味をなくしたミズーリは昼飯の事しか考えなくなったし。
「どこでご飯食べよう?」
これは店の種類や場所を考えている訳ではなく、私達がどこでテーブルを出すか考えているのだ。
まだ街が近く人通りも多い。出来る限り人目のない場所が良いが、それには街道から結構離れなければならないんだけど
雨で原っぱ濡れてんだよね。ミズーリの我慢出来る時間もアレだし。
あれ?この女神様こんなに意地汚かったっけ?
「トールの調教のおかげなんだからね!」
しれっと言われたが、私にも自覚ある。責任取らにゃあかんか。
「あかんよ。」
分かりましたよ。
「ならどうしよう。バンガローを見えなくなる事が出来るなら、直ぐ脇で展開するけど。」
出来ました。さすが万能さん。ならばバンガローに入る前にちょっと一工夫。
を、終わらせて中に入ると、絨毯の上で寝転がったミズーリが早速ふひぃと溶けてたので一言。
「脱いだらご飯抜き。」
「……分かりました。」
その間はなんですか?




