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神々の無責任な後始末  作者: compo
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決戦(前)

5日後。

「納豆ってどうやったら一番美味しく頂けるのかしらん。」

色々言う人いるけどね。科学的にあーだこーだと、でもね。私のやり方はお醤油を垂らして、ガーッと掻き混ぜる。ガッツリ描き回ったら、逆回転でガーッと掻き混ぜる。

冷蔵庫で冷やされて寝てる納豆を起こす感じでね。泡立って起きました!ってなったら更に薬味を加えて、今度は優しく混ぜ混ぜ。

美味しくな〜れ、って感じで。

「なるほど。卵を入れるのはいつですか?」

白身を入れるか入れないかで変わるかな?

私は白身も好きだから、最後に混ぜ混ぜする時。黄身だけを混ぜるなら、最初にガーッと混ぜる時、かな。

「……!」


「私は旦那様と一緒が良いから、全部真似します。」

「ワタシは卵入れないもん。葱と辛子派。」

「ミク姫様もミズーリ様もよく食べられますね。私はちょっと苦手かな。こちらの海苔の佃煮の方が好きです。」

「ネバネバはトールさんの大好物だから。妻を名乗るなら食べられる様にならないとね。」

「うぅ。努力しますぅ。」

「なんだなんだ騎士様とあろうもんが、飯に好き嫌い言ってたら戦場でどうすんだよ。」

「私は納豆って植物だから美味しいわ。」

「儂らそもそも物食う必要ないしな。主と一緒に同じ物を食うこと自体が快感だし。」

「………!」


「あのぅ、閣下あ?」

なんですか?カピタンさん。

「いや、その。お聞きの通り土手の外には“敵“が集結しているのですが…」

聞こえないよ。

「はい、この家に上がると聞こえませんね…。一応報告に上がったのですが。朝食のおかず談義に花が咲いているし、ミズーリ様は魚を焼いてるし、姫様に至ってはお皿をグリグリ掻き混ぜながら、お釜の前に陣取っていらっしゃいますし。」

「………!」


「待ちなさいカピタン。今が!今こそが!とっても大切な時間なんです!」

「はあ。」

「行きます。3・2・1。それ!」

気合いと共にお釜の蓋を開けた姫さんは、湯気に頭を突っ込んで幸せそうな顔をします。

「これですわよこれ。何故旦那様のところでは“むわ~“が美味しいに、他所じゃ“むわ~“が美味しくないのかしら。」

「…この家には緊張感と言うものが無いのでしょうか。」

「それはねカピタン。うちの旦那様が戦争より朝ごはんと仰ったからです。」


「………!」

「あの、外では降伏勧告をしていますよ?」

聞こえませんね。

ていうか、普通はここで敵さんの憎しみを煽る降伏勧告をしっかりと描写すべきかも知れませんけど。

ご飯くらい美味しく気持ちよく食べたいし。


大体、土塁の外から怒鳴ったってここまで聞こえる訳がない。

土塁の直ぐ内側にある牧場では、今も牧場を管理する兵隊さんが羊の毛を刈っているだろうし、念の為に護衛の兵隊さんに詰めて貰ってますけど、精霊さんからの報告では冷たい牛乳を飲んでマッタリしているそうだし。

「むうぅけしからん。」

まぁまぁ。ご飯を食べてから出陣しましょうよ。姫さんが炊いたご飯は美味しいですよ。

「ですよね。何故うちのマリンより美味いんだろう?」

ふーん、「うちのマリン」ね。


「東部方面軍より、返答無し。」

「様子はどうか?」

「笑い声が聞こえます。」

「笑い声?彼奴ら、ここが戦争と言う事を忘れているのか?」

「恐らく、土手を超えて来れないものと安心しているのでしょう。」

「ふん!馬鹿め。」

私は背後に立つ参謀に確認した。

「全軍配置完了していると思われます。」

「思われる?何故確定しない?」

「は。なにぶん兵力が多すぎまして、末端よりの報告が上がって参りません。」

「ふむ。そんな事もあるのか。まぁ仕方が無かろう。我らに謀叛する者は踏み潰す。当然兵力は多ければ多い程良い。大軍に作戦は要らん。近隣の兵に告げよ。我らと共に火矢を放て。同時である必要は無い。自然と時間差攻撃になるからな。」

「は。」


「構ええぇぇ!ってぇぇぇ!」

我らより少し前方に陣取るは、上級貴族で我が軍の大将軍である。

我らが立てた作戦、それは森を燃やし尽くす事に他ならない。

森の木には油を仕込んである。

それは東部方面軍最大の武器であるが、最大の弱点であると言う事だ。

コマクサという伯爵が東部方面軍の拡張を申し出た時に仕込んでおいたものだ。

コマクサは経済的観点からのみの利点を語ったが、私は軍の観点からも思考を巡らせていた。  

仮に隣国キクスイと戦になり、我が国に侵入して来た時に、森ごと燃やし尽くす。

その仕掛けが、まさか反乱軍に適用できるとは、な。


大将軍の号令から、ほんの少し。

我が軍の上空は160万本の火矢で空が見えなくなった。やがて火矢は土手を越え、火の地獄となる。筈だった。

しかし、ならなかった。

「なんだ、あれは。」


火矢が放たれた瞬間、土手が光り出したのだ。と同時に光の壁が天空空高く聳えだった。

そしてその瞬間、160万本の火矢は姿を消した。いや、姿は直ぐに現した。

我らの真上に、160万本の火矢が垂直に降り注いだ。

こうなると貴族も雑兵も、最前線も本陣もない。我らは手元にあるもの全てを頭に乗せて逃げ回る以外なかった。

そして、白い何かが現れたのだ。



と、言う訳だ。いや、姫さん泣かないで。

私の種明かしを聞いた姫さんは、途中で涙を隠そうともせず、嗚咽を隠そうともせず。

ただ、淡々と真剣に私の話を聞いていた。

そして、次にした事は。

「ツリーちゃんごめんなさい。私達がそんなに酷いことしてたなんて、ヒック…。」

ツリーさんへの土下座だった。

「良いよ。マスターはそんな私達を救う為にずっと頑張ってくれていた。ミクに出来る最大で最良の事は今マスターが教えてくれた事を、みんなに伝える事。その為に、この日の為に、私達精霊はマスターに従ってきた。そしてミク。あなたも私も、私達はマスターの元に集った家族だよ。」

「ツリーだけじゃねぇぜ。アタシらメサイヤも主は救ってくれると約束してくれた。メサイヤと精霊だけじゃ無い。鬼もだ。我が主は全てを救ってくれる。だが、だ。まずはお前だ姫さまよ。あんたは我が主の第二夫人なんだろ?だったら立て。泣き止め。我が主の、我ら家族の為に、一歩を踏み出せ!」

サリーさんの力強い、何より家族想いの優しい言葉は、私達にいつも力をくれてきた。

そして今日も。

化粧がぐちゃぐちゃになるのも気にせず、姫さんが両目の涙を拭うと、静かに立ち上がった。

「待ちなさい。」

家族の中で、最も女性らしいスキルを持つアリスさんが、簡単に姫さんの化粧を直す。

姫さんも抵抗する事なく、目を閉じている。

「これでいいかな?いい?ミク。閣下が今日の為に頑張ってこられたなら、私達が閣下の恥になる様な事は、閣下の右腕騎士、このアリスが赦しません。」

いつもの隣国の姫にではなく、家族として姉として、妹を可愛がる騎士様がそこにいる。

アリスさんは、姫さんの小ちゃなおっぱいを優しく揉むと(なんで?)改めて私に向き直り敬礼する。

「これより麒麟にて出陣します。」

うん、みんないい顔だ。

扉を開くと、ミランカ・フォーリナー帝国第五皇女が控えている。

当然、今の話も聞いていたのだろう。

皇女としては、決して看過出来る話ではない筈だ。でも、妹ちゃんは笑っていた。

その顔が、私達に向ける顔として一番相応しいと判断したのだろう。

涙が流れた跡が目尻に残っているけど、笑っていた。

「閣下。ミランカ・フォーリナー、白虎にて出陣します。」

2人は我が家から出て行く。

さぁ本番だ。

行くよみんな。


ところで何でミズーリは固まってんの?


「なんだあれは?」

私の問いに答える者はいなかった。

折角苦労して敷いた陣は崩され、多くの兵が倒れている。

それも自分が射った矢に当たってだ。

間違えようが無い。

誤魔化しようが無い。

その矢は私の足元にも沢山刺さって、落ちているからだ。

そして私達の頭上には、3つの何かが飛んでいる。一番大きな白いものには、見間違い様がなくミク・フォーリナーの紋章が見える。

両脇に飛ぶ小さなものの左側にはミランカ・フォーリナーの紋章が見える。

つまり、たかが皇家の末娘どもが、帝国上級貴族たる我らに逆らおうと宣言している訳か。気に食わん。

「皇女の紋章があろうと構わん。射落とせぃ!」

だか、私の命令は通じなかった。

ある言葉が響いてきたのだ。

それは音として。或いは何かの意志を持つが如く、直接頭の中に響いてきた。


「私は帝国第四皇女ミク・フォーリナーです。戦場の皆さん。ほんの少し、手を休めて私の話を聞いて下さい。」


「何?」


160万人に聞き取れる方法ってどうするかね?

私はこの局面を思い描いていたので、万能さんと話し合っていた。

スピーカーとか、マイクとか、色々考えてはみたけど、物理的なアプローチじゃ無理ゲーとわかるだけ。だよねー。

160万人だもんね。大体、160万人が展開する面積ってどうなんのよ。

アリーナを含めた東京ドームの動員数がが6万人くらいだったよな。あーもう計算すんのも面倒くさい。万能さん、良きにはからえ。


そろそろクライマックスとはいえ

マスター手を抜き過ぎ


そう言うメタな事を言うんじゃありません。

折角の力だから反則でもなんでもいきましょう。

てな訳で、音波として半径200キロに音量を平均に流す出鱈目を、ついでにテレパシーも一緒にやっちゃったのです。

つまり、半径200キロに居る人間には全員姫さんのメッセージが伝わります。

やーいやーい。

真面目に物理法則計算してる奴、ハイ、ゴクローさん(植木等風に)。


「皆さんは、何故初代皇帝が祖国を統一出来たかお分かりですか?」


「待て、何を言い出すつもりだ!」


「初代皇帝の偉業は、とある存在の協力があったからです。それは」


「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ。」


「森の精霊です。どうやったのか、それは。」


「止めろおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「森の精霊を殺しました。森の精霊を食しました。だから精霊の力を手に入れたのです。」


「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「そして、森の精霊の生皮を剥ぎました。その皮を身につけている限り、その者は怪我をしません。病気をしません。その生皮はあるものに流用したからです。それは、紋章です。

皇族なら、貴族ならば、鎧に、私服に常に付けている紋章。これがある限り、皇族と貴族は長生きします。戦でも死ぬ事はありません。」


「言った。言ってしまった。ミク如きが帝国不滅の秘密をバラしおった。」


「私も体験しました。とある戦で我が軍は全滅しましたが、私1人無傷で助かりました。精霊様の生皮のおかげです。」


何だ?

何が起こっているんだ。

空に浮かぶ紋章は、あれはなんだ。

ミク姫とやらは何を言っているんだ?

俺達が正義では無いのか?


「いかん、兵達が動揺している。大将軍!全軍にあの白いものに一斉射撃命令…?」


そこに登場したのは馬くんに乗った1人の女性。堂々と名乗りを挙げます。

「我ら森の精霊。義あって我が友、ミク・フォーリナー殿下に助太刀致す!」

なんですか?その時代がかった名乗りは?

言うまでもなくツリーさんです。

普段姫さんが肌身離さず持っている菊一文字(刃引き)を抜くと、天高く振り上げます。

同時に、土塁の上にはるか彼方まで精霊さん達が並びます。形だけでも良いからと、ツリーさんにせがまれた弓を全員帝国兵に向けています。


「我が盟友、森の精霊が戦うならば、我々も参戦しようぞ。」

こんな古臭い台詞は勿論サリーさん。

別に台本書いた訳じゃないよ。

ツリーさんもサリーさんも、姫さんを助けるとだけ言うと、勝手に出て行きましたから。


飛行船QueenMIKU

気球、麒麟・白虎

を守る様に取り囲むはメサイヤ。

サリーさんが郷から呼び寄せた全メサイヤが、成体から幼生までゆっくりと飛んでいます。


「森の精霊?幻の霊獣?私は、私は何を見て居るのだ。何を見せられて居るのだ?」



そしてそこに、私が待っていた最強の味方が参戦します。

1機の気球がそろそろと森から浮上してきました。

くるりと回って、見せた紋章はベンガラ国の紋章。

「ベンガラ国第一王女ラピス・ポーラ。東部方面軍及びミク、ミランカ両皇女の友誼により、ベンガラ国として参戦します。」

「同じくベンガラ国第一王子ポール・ポーラ。」

「ラニーニャ国第一王子ロイド・ラニーニャ。正式に参戦します。」

「キクスイ国第一王子ミカエル・キクスイ。弟子として参戦する!」

そう、聡明なラピス王女にそれとなく諭したのはこの事。

外交権がないなら、親の承諾取って来い。

1日で帰れるならば、間に合うだろう。

《だから、気球で帰らせた》

留学して僅か数ヶ月の王族達の成長。

気球等という見た事もない乗り物を操る王子王女。各王室には驚愕をもたらすだろう。

わざと160万人相手にする事だけを伝え、彼ら彼女ら、そして各王室の危機を煽った。

それが、これだ。

同時にミランカ姫の気球も彼らに合流し、更に森からは飛行訓練をしていた若手兵士の気球が次々に上がってきた。


呆然とするだけの帝国軍に対して、もう一つの仕掛けを発動する。

土塁の向こう側に沢山の旗を、待機していた駐屯地の兵達に振らせたのだ。

その旗には、ミク、ミランカ、キクスイ、ラニーニャ、ベンガラの紋章が染め出されて居る。

するなと言われればやる。

人間なんかそんなもんだ。

ここに戦場は、帝国軍対東部方面軍・キクスイ・ラニーニャ・ベンガラ連合軍となった。

反乱分子撃滅作戦が、3国の宣戦布告によるこの世界初の対外戦争になったのだ。


これで敵の心を折った。

あとは私が一働きして終わり。

そう思っていたのですが。

想定外の援軍が参戦してくれました。

土塁の上に立った彼女達がそれぞれ振る3つの旗。

そこに貼り付けられて居るもの。

・鬼の女性の皮

・森の精霊の皮

・メサイヤの皮

あの日、メサイヤリーダーに連れられて、北の果てであった3人の女性。

自らを残り滓と言った3人の女性。

鬼の女性に、ツリーさんに、サリーさんにそっくりな3人は、あの日私がプレゼントしたワンピースを着て、一生懸命に旗を振っています。自らの未来を貼り付けた残り滓の旗を。


やれやれ。みんな頑張り過ぎですよ。

万能さん?行きますよ。


全てはマスターの望み通りに


私は人差し指を空に向けた。

私達が乗るQueenMIKU号から一筋の光が天に向かい、やがて雨の如く光が敵軍勢に降り注ぐ。

さて、その効果ですが。

精霊の皮を使った紋章を付けている貴族は赤く、付けていない貴族は黄色く光出す。

本人がどんなに振りほどこうとしても、光は止まらない。その者が生きている限り。


「皆さん行きます。総攻撃開始です!」


飛行船の中で、帝国第四皇女ミク・フォーリナーは右手を振り下ろした。


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