焼き鳥と吸血鬼
まずは正統派。胸肉と葱を順番に串に刺していく「ねぎま」。私の大好きな「かわ」。
少し癖がある「レバー」。それに「ハツ」。
廃鳥に近いから「手羽先」は固くて無理かな。
それから歯応えが美味しい「ぼんじり」。
みんな大好き「つくね」。「砂肝」もコリコリ美味しいね。
「もしもーし。」
大蒜はどうしようかな。
葱の代わりに大蒜を挟むバージョンも好きなんだ。くぅぅ。ビールが進みそう。
「さっきアリスの後日談とか語ってたのに、また晩御飯に戻りますか。メタですか。」
うるさいミズーリ。
いくら君が神様だからって、メタとか言い出すんじゃありません。
今の時間軸は、単純に釜飯が炊き上がった後です。
「そうなの?」
そうなの。だから姫さんは、釜飯をお箸じゃなく、しゃもじでつまみ食いしてたの。
「…なんでもアリですやん。」
そりゃ、私と君だからね。私はこうやってバラした鶏肉の部位を串に刺しているんですよ。焼き鳥台もほら、この通り。
備長炭ならそこにあるから、早速火を起こしなさい。着火剤はそれね。
「…なんでもアリですやん。」
いいんです。姫さんのお尻ばかり気に取られて、私が一番楽しみにしていた焼き鳥が疎かになっていましたから。
「私のお尻は、高貴なお姫様の白くて綺麗なお尻の筈なんですが、焼き鳥以下ですか…」
そうだ、以下で思いついた。
イカ焼きも作ろうか。
ビールが進むからね。
「(さんせーい)」
「ほらトールさん。焼き鳥に負けたお尻が落ち込んでるわよ。」
「誰がお尻ですか!誰が!ってみんなして、私を指差さないで下さい。あ、こら。メサイヤさん達まで。」
あれで落ち込んでるの?
「……。少し人間というものを考察する時間を下さい。」
どうでもいいけど、炭に火をつけるか、串に刺すか、どちらか手伝ってくれると嬉しいな。
美味しい焼き鳥ができるのに。
「まかせて下さいまし!」
「串に刺せば良いんだな。そんな感じで。それなら儂にも出来る!」
「(火を起こす道具ちょうだい)」
「くー」
「……。……。やっとわかったわ。トールさんがボケ役に廻ると、我が家にはツッコミ担当が不在になる。ミクは根っからのボケだし、アリスは超弩級の天然だし、ツリーもサリーも必ず面白い方に回る。」
まぁ、人外組の2人はそういう生き物だしね。妖精とかコロポックルとか、基本悪戯好きだし。あと、神様とか。
「一緒にしないで!とは言えないのよね。困った困った。」
額をペチペチ叩きながら、ちっとも困って無い風にーーー。
「人の言動をト書きでまとめないでよ。」
てなわけで。
無駄にうるさい我が家はやっぱり我が家なのでした。
吸血鬼?
数日経ったある日、今日は特にする事もなく。
ガラス工場を立ち上げようと、設計図をコツコツ作成していたのですが。
昨晩ようやく出来上がったら、ツリーさんに奪われてしまったのです。
なんでも温泉建設で「現場監督」の楽しみに目醒めてしまい、「(今日から作ります)」と言い残して、朝から精霊部隊を引き連れて出て行きました。
姫さんは、講師として。
アリスさんとサリーさんは、気球操縦の教官として。
みんな朝から出て行ったので、我が家には私とミズーリとメサイヤリーダーしか居ません。
彼女達は、軍でマリンさんのお昼を食べるので、夕方まで帰って来ません。
なんでも、マリンさんが「閣下の料理に勝つ為に!」色々厨房に招いて教えを乞うているそうです。
料理が出来ないサリーさんは困るだろうにと思ったら、舌先感覚が一番優れているから、味見役に重宝されているそうな。
ミズーリが屋上で洗濯物を干しているのに付き合って、のんびりと森を見下ろします。
(洗濯物を干すのはワタシの仕事と、手伝おうとすると叱られるので)
東の空には、今日も気球が浮かんでいます。
今日は誰の番だろう。
多分、コレット?(うろ覚え)の街からは丸見えだろうけど。そういえば、最近大人しいな。
数千人の死体を全部領主宅に押し込めるって人非人な所業が効いたかな?
なんてぼんやりしていたら、メサイヤリーダーが教えてくれたんです。
吸血鬼ねぇ。吸血鬼かぁ。
ミズーリさん。この世界に吸血鬼がいるそうですよ。
「何にも知らされずこの世界に堕とされたワタシが知るわけないけど、一言。なんじゃそりゃ。」
まぁ、鬼が居るなら、妖怪がいてもおかしくないわな。
「くー」
なるほど。北の果てを飛んでいて見つけたと。
「で、女の子ばかりだと。」
そういう不吉な事を言うんじゃありません。
「女の子との出逢いが不吉とな?」
これ以上、お尻丸出しで歩く家族はいりません。
でも吸血鬼には興味はあるな。
やる事も無いし、行ってみよう。
「待ちなさい。あとアリスの下着を干したら終わりだから。」
…アリスさんの下着とやらは、その褌ですか?
「ブラジャーの代わりに晒を巻いてるのよね。おっぱいが形崩れするから、って説得中。」
アリスさんのおっぱいは割とどうでもいいですが、なんで褌?
「騎馬の時にぱんつだと擦れるんだって。騎馬じゃない時はぱんつを履きなさい。トールさんに見せなさいって言ってんだけど。」
なるほど。姫さんがぱんつ魔神になったのは君のせいか。
「大丈夫。寝る時は脱がせ易くする為にアリスもちゃんとぱんつにしてるよ。いつでも臨戦態勢。」
アリスさんも全部間違ってる人でしたか。
さてと。飛行船で行こうか…
あっしあっし
あっしなら2人くらい楽勝で背おれるし
メサイヤは尻尾にでも捕まってりゃ
飛行船より早く着きまっせ
馬くんが立候補してきました。
君も江戸弁キャラだったのに、もう何がなんだかわからないですね。
天空を駆ける馬という、訳の分からない妖怪が我が家にも居ましたよ。
つうか、馬くん。
屋上に飛んで来てるし。待て待て。
「はい、終わり。あら馬くんで行くんだ。」
姫さんやアリスさんばかり乗ってて、私達が乗らないから寂しいんだって。
「うふふ。可愛い子。」
女神に立髪を撫でられた馬くんは、興奮一路。前脚をガリガリします。空中だけど。
久しぶりに手綱を握り、腰に女神を纏わせると、腕の中にはメサイヤリーダーが陣取り(体重を消しました)、さぁ出発です。
メサイヤリーダーの案内で空を飛んでます。
途中、気球が寄ってきてアリスさんに敬礼されました。球皮の上では、サリーさんが寝転がって手を振ってます。今日の当番はにゃにゃにゃのなんとか言う王子様でした。
目と口をまん丸に開いて、こっち見てます。
で、アリスさんに引っ叩かれてます。
うん。いつもの。
そろそろアリスさんには草薙の剣を進呈した方が良いかしらん。
「あの子はラニーニャ国のロイド王子ね。いい加減覚えなさい。」
またミズーリは私に無茶を言う。
「ちっとも無茶じゃありません。」
ミズーリにまじめに叱られました。
ガラス工場建設地上空では、精霊さんにわちゃわちゃ手を振られ(コンクリートの基礎が出来てました。乾燥の為休憩してるようです。とはメサイヤリーダーを通じてのツリーさんから伝言)、鳥牧場からはしばらく飛べる鳥達の見送り飛行を受けて(変な鳥達)、人の気配が消えた頃、馬くんは一気に速度を上げました。どうも今までのは、地表にいる人間(人外の方が多いけど)へのサービスだったみたい。
馬くんが駆ける速さはぐんぐんと増していきました。ので、ミズーリがちょっとした結界を張ってくれます。
さすがに空気抵抗で息苦しくなってたから助かりまし
「せっかくきちんとセットした髪が乱れちゃう。」
…感謝しようとした私の好意は無駄でした。
飛ぶ事凡そ1時間、それはもう飛行機より速い気もしますが。
山と土塁の距離が狭まり、森の面積と密度が狭く低くなった頃、馬くんは地表に降り立ちました。
万能さんが作った土塁は、ここまできちんと同じ高さで続いていますが、水っ気がありません。温度は若干下がってますね。森はまもなく終わり、外は雑草が伸びる荒野になっています。山脈はなお続いていますが、北を見るとベントウだかにゃにゃにゃだかの国との国境になっている山脈が東西に伸びている事が確認出来ますね。
「…トールさんは固有名詞を絶対覚えようとしないのね。」
覚える気がないだけです。
「何気に酷い事言ってるわね。」
今更です。君の名前だって、しばらく覚えなかったじゃないですか。
「そうでした。ワタシはなんでこんな人に仕える誓いを立てたのだろう。」
そういうのを縁と言います。
「縁!それは良い言葉ね。男女の結びつきは縁以外ないもの。」
…腐れ縁…
「なんか言った?」
いいえ。
そんなふうに、馬くんやメサイヤリーダーが呆れ返る馬鹿話をしているところに、お目当ての吸血鬼さんがやって来ました。
…ボロを纏っていますが、綺麗な女の子でした。お尻は間に合ってますよ。




