惨状
そこに延々と、それこそ地平線の彼方まで鬼の死骸が横たわって居る。
「うわぁ。」
ミズーリが嫌悪感を隠さず口にした気持ちもわかる。
本来、死と転生を司る女神なので、死体・死骸は見慣れている。
彼女が「呆れた」のは、その死骸の有り様と量だった。
見渡す限り、そして何一つ綺麗な死骸が無いのだ。
その全ては頭が無い、そして内臓が無い。
見てわかる。明らかに食べられている。
更に、腕や脚も欠損している死骸が殆どだ。
戦場にだってこんな地獄絵図はそうそうなかっただろう。
「どう言う事だ?」
「一つ言えるのは、鬼達が共喰いをしたと言う事ね。まさか滅んだ?」
「(それはない 鬼は私達と同じ「自然」の一形態 仮に滅んでいるならば 私やメサイヤが気付く筈)」
「ツリー?自然の一形態ってどういう意味なのよ?」
「(私達精霊が森守る役割がある様に 鬼には鬼の役割がある それが何かは知らない でも私達と同じ 自然のカケラだって事は 私達は知っている)」
「トールさんが言ってた鬼の役割ってそれか。ワタシが知る限り、鬼の役割って人間を食べる事じゃないの?」
「だとしたら、鬼の女性の存在が矛盾する。彼女達は自らを鬼と自称していた。彼女達は知性的であり、理性的だった。そしていつも何かを求めていた。でもそれは、食人欲求では無かった。彼女達は常に1人で、私達から離れた所で私達に視線を送り、そして私が1人になる機会を待っていた。」
「ふむぅ。」
「それを探れたら良いな、と思って南に来たんだけどね。生きている鬼が居ないとはねぇ。」
「とりあえず、しばらく飛んでみるわね。」
ミズーリが飛行船をランダムオートパイロットに切り替えました。
というか、そんな機能いつ付けたんですか?
「ん〜。ほら、アリスって気球で弓射ってんじゃん。あの時はアンカーで気球が流れない様に固定してんでしょ。だったら、オーパイ付けとけば便利かなって。この飛行船は、ここの人達にはあげないんだし。それにほら、移動しながらご飯作るとかよくあるし。」
…結局は、ミズーリと万能さんの暴走なのね。
「ところでお昼食べる?下はああだけど。」
いそいそとカセットコンロとうどんを取り出す女神。
だからツリーさんはなんで包丁を構えてんの?
「(野菜を切るのは 精霊の使命)」
役割より言葉が重くなってるし。
ま、そっちはそっちで任せといて、私は窓から外を見下ろします。
この世界に来てから、人間も鬼も沢山殺しましたし、足首だけ切り落とすって所業は女神が許しているから出来る残虐行為な自覚はありましたけど、なるほどコレは酷い。
鬼が巨大という事を差し引いても、地面が見えない。それだけの死骸密度だ。
気温は?窓から顔を出しても熱風が来ない。
つまり、帝国南部の砂漠より気温は低い訳ですね。あと、これだけ死骸が転がっているのに腐臭がしない。
キクスイ王都は殺したまんま放置していたんだけど、どうだったのだろう。
帰ったらナントカ王子に聞いてみようか。
「く」
いくら器用なメサイヤとはいえ、ミズーリ・ツリー組に混じる事が出来ず(アリスさんも混ざれなくてジタバタしてましたね)、手持ち無沙汰になったか私の肩に留まりました。
大きさからすると、よろけてもおかしくないのに、メサイヤさんからは体重を感じません。サリーさんがたまに私に寄りかかる時は、しっかりと彼女の体重を感じているので、おそらくは飛行形態(メサイヤ形態)の時は重みが消えるんでしょう。
2人して外を眺めていると、メサイヤリーダーが羽根で何かを示しました。
飛んで行こうとするので、尻尾の先っちょを撫でてメサイヤリーダーをフニャフニャにします。大体動物の弱点は一緒だし。
「くくくくくくくくくくくく。」
メサイヤリーダーが涙目で抗議してきますが、下では何が起こるかわからないから勝手な真似は許しません。
そう言うと大人しくなり、また私の肩に乗ります。
万能さんから取り出したるは、双眼鏡二つ。
一個をメサイヤリーダーにあげると、器用に羽根で持って中を除き込みます。
私もメサイヤリーダーが見ている方向に双眼鏡を向けると。
そこには、中から何かが孵って空っぽになっている卵がありました。
「く?」
うん。回収してみますか。
さて、どうしようかなぁ。あ、そうだ。
この間暇つぶしに見た1970年代の特撮ヒーロー物から、ぐるぐる頭と変な目でお馴染み(お馴染みか?)カゲが変身するアレ参照で。変身後ヒロインがパンチラするアレです。
カゲよー伸びろー。
腕の影がびろ〜んと伸びて、卵のカケラを丁寧に回収します。
なんですか?メサイヤリーダー?
「くくく」
あ〜聞こえない聞こえない。苦情は受け付けません。大体、私達はずっとこうだったんですから。
「く」
馬鹿馬鹿しい?こんな盛り上がりもなんもないところで、無駄にリスクを負う必要は有りません。どんなに馬鹿馬鹿しくてもノーリスクで済む能力があるなら、私は喜んで使いますよ。
だから、私とミズーリはピンチというものになった事が無いんでよ。さて、もう一つ反則をしますか。(この状況に飽きてきたから)
さて万能さん?
反則と言われましても
分からないものは分からないんですが
一つだけはっきりしている事は
この大地およそ300キロ圏内は
キクスイ南部の人以外居ません
だってさ。だったらこんな胸糞悪いところにいる必要は有りませんね。
あ、そうだ?万能さん。
ゲームによくある、ワープポイントみたいなの出来ます?出来ますよね。
ル◯ラで飛んで来れる奴。
マスターがイメージをしっかり持たれて
その必要性をしっかりと定義すれば
存在を確立させる事は可能です
ただし空間転移する訳ですから
マスターとミズーリ様以外の身体が
保つかどうかはわかりません
私はあくまでもマスターの為の力なので
そういえばサリーさんも物理的に飛んでいるし、ツリーさんも転移という事はしてませね。
森の精霊は個にして全
全にして個ですから
移動手段は電流と同じと考えれば宜しいかと
森という電線の中で、隣の分子に電子が順番に高速移動していくパターンか。
つまり、瞬間移動は出来ない訳ですね。
分かった。念のためですから。
私とミズーリが来れるだけでもいいでしょう。お願いします。
かしこまりました
んじゃ、帰りましょうかね。
厄介な家族が守ってくれてる我が家に。
「出来たー!焼きうどん!」
「(ピーマンに猪豚肉 花かつおをたっぷりとー!)」
あーなんだ。君達そういえばお昼ごはん作ってましたね。
「夕べから小麦粉を練って麺を作っておきました。発酵もバッチリです。小麦粉の魔女ミズーリちゃんとお呼び下さい。」
うどんって発酵必要だったかなぁ。
「(というか マスター達は本当に お出かけ気分だったのね)」
「で、トールさんは何してたの?」
これを見つけました。ほい。
「…卵の殻よね。」
よね。
「…家の壁に置いてある卵に色とか、形とか、硬さとか、そっくりなんだけど?」
万能さんに確認を取ってみたら、同種のもので間違いないそうです。
「中から生まれたものは?」
さあねぇ。
「まさか、下の惨状は…」
この卵から生まれた奴の仕業だろうねぇ。
「家にあるのよねぇ?」
そうだねぇ。
「ヤバく無い?」
万能さんバリアがあるから。
「あのねぇ。」
それに、あの3人が居れば鬼の一匹位、楽勝で退治できるよ。
「は?」




