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神々の無責任な後始末  作者: compo
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そうして

そうして経つこと数週間。

今までは、丹念に丹念に日々の出来事を記録して来ましたが、ここでしばらく話を飛ばします。

何故なら、な〜んにも起こらない普通の毎日が、普通に続いたからです。


朝は、私の好物な旅館の和風朝ごはんと、石窯で焼いたミズーリ特製パン食を交互に。

昼は基本的に麺類(蕎麦、うどん、パスタ、素麺、拉麺、ビーフン)を日替わりで。

夜は、最近調理に目覚めたメサイヤちゃんや、精霊(大)さんがレシピ本をテーブルの上にこれ見よがしに開いたまま置きっぱなしにしてあるので、それをそのまま。

なのでイギリス料理から、料亭料理まで毎晩より取り見取りです。

私には万能さんが居ますし、後述する事情で森の中の動植物が充実しているので、材料には事欠かないからです。


ミズーリは洗濯をして(屋上に乾燥用の温室、不透明ガラスで壁を作りましたよ)、

姫さんは時々下ネタをかましながら毎日妹ちゃんに会いに駐屯地に通い、

ツリーさんは私と地図を見ながらカピタンさんの報告を確認して、

サリーさんは昼間は何処ぞを飛び回り、帰ってくるなりマッサージチェアで溶け。


皆んなして下らないバラエティ番組を見てゲラゲラ笑い、私の読むミステリー本に興奮して、漫画の続きを寄越せとおっぱいアタックを食らったりする毎日です。



学校が開校するにあたって、我が家から2名の人員が協力することになりました。

妹を育てたい、と希望する姫さんと、

騎士として、王族の軍事教育に携わる様に辞令を(予めキクスイ王家から)受けていたアリスさんです。


姫さんは、地学と物理の教官として教壇に立ちます。要は「りかのせんせえ」です。

というのも、普段の料理等の生活や森を駆け回る生活が、フィールドワークとして抜群の経験値を誇るからです。

この経験を理論付けして教える事が仕事になります。

なので今我が家では、毎日教科書片手にミズーリとツリーさんが付きっきりで予習に余念がありません。


アリスさんは、軍事教育あるいは軍事教練を教える訳ですが、そもそもここは軍事施設。

教官には事欠かないのですよ。

何でそんな環境なのに、軍事教官辞令が出ているのかわかりませんが、多分王子様付きの騎士だし、遊ばせとくわけにもいくまい。

安くとも給料は出して、うちと王家の繋がりを残したい。

そんな思惑なのでは?と推測してました。

王子がさっと視線を逸らせたので、当たらずとも遠からずって感じなのかな。


んで、2人で考えた結果。

森の中の駐屯軍の為、基本的に歩兵隊として存在する東部方面軍に足りないスキルは何かと言う事で、騎馬を教えようと。

馬自体はキクスイから取り寄せる事が出来るし、王族達は騎馬経験があるので、少年兵に騎馬教育及び指揮を教えようという事になりました。


更に私からもう一つ。

気球の操縦を覚え、王族達に伝達する役目もお願いしました。

学校を卒業する時には、私から寄贈する予定の気球で帰国出来るように。

勿論、王族以外の少年兵にも教えて上げてもらいます。

東部方面軍に騎馬隊と空軍を作る、その基礎をお願いするわけです。


気球自体は、推進力は十数年で使い捨て万能さんバッテリースペシャルなので、上降面舵取舵は操縦桿一つで出来ますが、何しろ森の中なので、危険察知能力を磨いて欲しいのと、

もう一つ、上空からの弓射出能力を磨いて欲しいわけです。

馬上から弓が打てるアリスさんならば可能。そう判断しました。

それで、空の専門家と空の王者なサリーさんと私が教官としてアリスさんに付きます。


森の開発は引き続き森の精霊さんが引き受けてくれたので、代わりに森の発見をメサイヤちゃん達が引き受けてくれました。

金山や農業、家畜・猪豚の世話を担当の軍人が引き続き行っているわけですが、様々な位置から手伝ってくれるわけです。


メサイヤは森の内外を飛び回り、新しい食性植物を採取すると、私とツリーさんの指導の元、栽培出来る植物の場合、精霊さんに新しい畑や果樹園を開いてもらいます。

家畜動物は相変わらず勝手にやってくるし、魚は森の外から、あちこちで捕まえてくるので、本来針葉樹が多く水分も足りなかった森が、すっかり生命に溢れ出しました。


「水が沸騰する温度は?」

「はいミズーリ先生。100度です。」

「(1気圧内ならね)」

「ツリー、そこはまだ早い。」

「つまり、お湯を煮立てた時の温度です。」

なんか、鍋を前に楽しそうな事してる姫さん組を横目に、私達は外に出ます。


土塁沿いの開けた場所まで移動すると、気球を出します。

その気球の球皮には一つの国旗が掲げられています。

言うまでもなく、キクスイ国の国旗です。

私は国家国旗に対しては、オリンピックやW杯の様な国別対抗戦みたいなモノで無い限り、日の丸には特別な思いはなく、礼典等に飾られた旗を見て、あゝ日の丸だなぁと思う程度でした。

が、中世以前の原始的とも言える帝国主義国家の人には国旗は特別なモノであり、ある種の聖性もあるようです。

アリスさんは国旗に敬礼を捧げると、ゴクリとつばを飲み込んでバスケットに乗り込みます。

私はアリスさんの後ろに乗り込み、サリーさんはメサイヤ状態で空にいます。


「浮上。」

アリスさんが号令をかけます。

呼称・指差し確認は大切な事ですから、一番最初に口煩く指導しました。

操縦桿を上に押し上げるだけで、気球は上昇を始めます。少しずつ少しずつ。

やがて木々を越えた辺りで、今度は操縦桿を押します。すると前進。引けばブレーキ。

要は、操縦桿を動かす方向で気球が動く、テレビゲームのコントローラーです。

元々高さに耐性があった上、ミズーリの精神強化魔法を受けた騎馬経験者アリスさんにはさして難しいモノではなく、2~3度の経験で自在に操れるようになりました。


「面舵。」

気球は速やかに右折して行きます。

内陸のこの辺では船に乗る事も無いのですが、便利なので元の世界そのまんま取舵・面舵を取り入れました。

しばらく空を滑る様に進むと、サリーさんの指示に従ってアンカー(砂袋)を下ろします。


サリーさんが空中に用意したのは、所謂風船。ゴムや石油製品の風船を飛ばしても良いのですが、この後の王族や少年兵の鍛錬を考えて、紙風船を選びました。

ヘリウムガス+万能力の気球を浮かべておいて、今更なんだという話ですが、少なくとも今の王族世代で熱気球まで辿り着いて欲しいので、色々なヒントを提示する事に決めたんですよ。


空中に停止した気球から、アリスさんは矢を放ちます。

紙風船ですから飛行能力は無く、自然落下しながら風に流されます。

「難しいですよう。」

と最初は弱音を吐いていたアリスさん。

元々剣術が主で、弓術は従と言ってましたが、3日4日と経つと命中率が上がってきました。今では8割くらいは命中させられます。

「猛禽類くらいなら、百発百中だと思うぜ。」

サリーさんの評ですが、私もそう思います。

何せ、紙風船は人の顔より小さいですからね。


そうして、姫さんは「当たり前」が何故「当たり前」なのかを学び、それを文章に起こす能力を身につけていきました。

論文作成能力です。

現象と原因を論理的に結びつける訓練。その結果、他人に対して説明するスキルを姫さんは急速に身につけていきました。


アリスさんは、森の中で最強の騎馬能力・空戦能力を身につけて、今や4カ国で一番の実務能力を誇る将となり、いずれキクスイ王国の近衛隊長になって行く訳ですが、それはまだまだ未来の話。

同じく身体能力では人間を遥かに凌駕する、未来のメサイヤ女王、サリーさんと共に少年たちの軍事教練の指導者となっています。

サリーさんは乗馬くらい朝飯前なので、うちの馬くんを、根だらけの森の中を全力疾走させることも容易い訳ですよ。


我が家の3人が学校の教員となり、通う様になったある日。

私は家族達に一つの提案をしました。

私、ミズーリ、ツリーさん、サリーさんの代わりにメサイヤリーダーを連れて南方調査に向かおう。と言う事を。

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