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神々の無責任な後始末  作者: compo
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お貴族さん

私達はそのままランタンさんを持って外のテーブルセットに移動した。

ミズーリが鍋を覗いて冷たいカレーをつまみ食いしている。

一晩寝かしたカレーは明日もっと美味しくなると伝える。

「楽しみです。トールの料理は明日の事も考えて作られているのね。」

椅子に座って私を褒め称えてくれる。

少し顔が近い。

「今までくっついてなのに今更じゃない。」

まぁそうなんだけど。

「それに私の全裸も見てるし。」

君が言うと君の変態性が増すだけだろうに。

「トールとなら構わないわ。昼は貞淑な妻、夜は娼婦の様な妻。これが私の理想です。」

一部賛成出来るぞチクショウ。

「でも、明日無事カレー食べられるかしら。」

「今からくる人も一緒に食べても充分な量作ってあるから大丈夫。大量に作った方が美味い料理もあるんだ。」

「トールさん愛してます。メロメロです。早く私を食べて下さい。今すぐさっきの続きを。」

近くで恐怖に追われて逃げて来ている女性がいるのに、私達の会話になんら変動はなかった。

しかしまぁ、今晩も素直に終わらない。この世界に来て毎晩じゃないか。


少しずつ少しずつ駆け足の音が近づいてくる。とりあえず万能さんから冷たい水を出す。

ピッチャーも出すからいくらでも飲めると思った先からへっぽこ女神が飲み出す。

「だってトールのお水美味しいんだもん。」

仕方ないのでもう一本出して来客を迎える。

あ、転んだ。

起き上がった。

泣きそうな顔でこっちを睨んでる。

「お願い。助けて。」

早くそう言いなさい。


女性は騎士だった。本人がそう言うならそうなんだろう。

「私はシュヴァルツ家遊撃隊所属アリスだ。」

また可愛らしい名前だな。シュヴァルツ家?

「キクスイ王国の伯爵貴族よ。この辺りが領地ね。」

「また面倒な事になりそうだな。」

「とにかく話を聞きましょう。」

とりあえず水飲みなさい。

「この透明な入れ物はなんだ。」

「普通のガラスだが。」

ああそうか。この世界のガラスはまだ透明度が足りないのか。

「正解。土中のガラス成分を加工してるだけ。飴色のガラスが普通ね。」

「美味しい。」

騎士さんが呟いた。

「美味しい。美味しい。なんだこの水は。」

普通のミネラルウォーター(軟水)ですが。

「だから言ったでしょ。トールの水は美味しいの。」

「とりあえず元気は出た様だ。おい、そこの騎士さん。腹具合はどうだ?」

「あ、ああ。今日は朝から何も食べてないのだ。何かあるならお願いしたい。」

ならば、とカレー鍋に着火。(火は使わないけど)。ご飯は真空パックの物で。

どう隠そうかと思ったけど、騎士さんは水を飲む事に夢中でこっちを見てない。

ミズーリが指で合図を送ったので、なんらかの精神誘導をしたのだろう。

すぐに温まったので白い皿にカレーライスを盛り付けた。ミズーリもちゃっかり御相伴にあずかっている。

カレーは初めてなのかスプーンで突っついていた騎士さんは、向かいでスプーン加えて幸せそうに悶えているミズーリを見て覚悟を決めたらしい。

一口目のその複雑な味に、こちらもテーブルを叩き始める。

元の世界では定番のカレールーではあるが、スパイスは沢山入っているし初めて食べるカレーとしては贅沢過ぎる。

女二人が深夜にカレーをガツガツ貪り食う空間で男一人。

ああ、タバコでも吸えたらなあ。


私はアリス。ミライズ・アリス。

キクスイ王国シュヴァルツ公爵家に仕えるミライズ男爵家の三女である。

男爵家と言っても数代前の先祖が隣国との戦争で受勲されただけ、、封領すらない貧乏貴族だ。

私達の世界は優しくない。子供は簡単に死ぬ。伝染病は頻繁に我らを襲い、生命力に乏しい子供達は手足が伸び切らないうちに死ぬ。

その為には子供を作る。沢山作る。

医療の質が向上しない限り量で対抗するしか無いのだ。だから私の様な女も沢山産まれて沢山死ぬ。

それでも庶民には娘は宝物だ。次の世代の子を産み育てる大切な明日の母だ。

だが、貧乏貴族の娘にはそんな価値は無い。

半端な身分が邪魔をするから。

貴族間での婚姻にはあまりに不釣り合いだ。

王家の側室にでも引き取られるなら幸せだが、そんな夢物語あるわけない。庶民に降嫁するにも先方からの高額な持参金が必要になる。

身体が弱く成人直前まで生きていた妹は、生きられたとこで何が出来るの?私達は伽にすら呼ばれない、ただの人形よ。

そう言って世を去った。この世を去れる事をむしろ喜んでいた様な笑顔で逝ってしまった。

幸い私には剣があった。五体頑強な私を見た父が子供の頃から仕込んでくれたものだ。

だから私は剣に生きた。ひたすら剣を振る毎日だったが、シュヴァルツ家が見出してくれた。私は女ゆえ王国軍への推薦は難しいが、我が家が抱える私兵に尽力してもらえないか。私に断る理由はなかった。

一新兵から初めて二年が経つ。私は私兵遊撃隊に編入した。文字通り遊撃が仕事である。

シュヴァルツの街の兵舎には年の半分しか居ない。後の半分は領内を単独巡回している。

仲間は皆、私も認める手練ればかりだ。私達は有事の際、伯爵の命をいち早く受けいち早く行動に移す。それが出来る伝達システムと行動力があるのだ。


その日、私は西の果てで馬に乗っていた。この馬は伯爵が整備した伝馬町の馬だ。伝馬とは領内中に張り巡らせた馬のリレー中継組織の事。短距離を馬が全力疾走する事で、人と情報をいち早く街から街へ伝達出来る。伯爵家ご自慢のシステムだ。

西には銅鉱山がある。シュヴァルツ家を支える産業の一つ。ここから運び出される銅で国中の鍛治師が銅製品を作る。それは我がキクスイ王国の有力な産物なのだ。

それ故に私達の重大な巡回箇所である。

その日私は街道を一人進んでいた。相棒はさっき貸して貰った黒毛の馬。

いつもならば西の丘陵地帯に入る街道に関所がある。しかし関所には人気がなかった。

私は抜刀し関所内に侵入した分かった。関所の建物の屋根が破られている。そんな事何が出来る存在はただ一つ。鬼だ。

関所から鉱山町まで馬の脚なら直ぐだ。

しかし私にはそれ以外行けなかった。ある地点までは私も馬も行けたものの、そこから先には強烈な悪意が漂ってくる。死ぬ。はっきりわかった。私と馬はそっと後ずさった。

その時だった。鉱山の方から恐ろしい咆哮が響いた。その声を聞いただけで馬は息絶えた。私は必死で逃げた。何回も転んで何回も立ち上がって、必死で逃げて逃げて逃げて、ようやく伝馬町に逃げ込んだ。

驚く伝馬役人達に鬼の出現を告げた。この伝馬町では近過ぎる。逃げろ、と。

私を騎士と知る一人の若い役人が厩舎から一頭の馬を引いて来た。まずは貴方が伝令を務めねばなりません。私は彼の名を聞く。伯爵に貴方の名は必ず伝える。生きろ逃げろ。


そうやって伝馬を重ねて辿り着いた次の伝馬町。そこは狂人しか居ない町、馬すら狂っていた町、小日向の町だった。

狂人の町を逃げ出した時には陽が落ちた。

私は走った。馬が無いなら次の伝馬町まで私の脚で走るしかない。

でも分かっていた。私は追われてる。ずっと追われている。涙が恐怖で止まらない。鼻水も涎も出るけど気にしている暇はない。私には走るしかない。

そこで気がついた。草原の中に微かな灯りが見える。なんだろう。あれ。

その時私は気がついた。あの灯りに行こう。あの灯りは暖かい。私を救ってくれる灯りだ。それが証拠に涙が止まった。行こう。今すぐに。


アリスの告白が終わった。ああ、やっぱり私達が絡んでる。

「鬼は退治したんじゃないのか。」

「あの村はこの国の東に当たる。西の銅鉱山とは正反対ね。」

「ならもう一体現れたと。」

「別に鬼は一回に一体しか現れませんなんて規則はないわよ。あくまでも鬼の都合なんだから。もう一つ言うなら鬼が現れるのは辺境だけとは決まって無いわよ。」


ちょっと待て。彼らは何を言っているのだ?

鬼を退治した?そんな事出来た国は今までどこに無い筈だ。

「待て。貴方達は何を言っている?」

「言ったままだよ。信じる信じないはご自由に。」

「…本当に鬼が退治されたのか?」

「私に言えるのは、それを確かめるのが貴方の仕事という事。」

その通りだ。確かにその通りだ。

「ならば私は」

「どうするのよ。貴方の身体は一つしかないわよ。」

「貴方達に協力を願いたい。」

深夜に食事を振る舞ってくれた謎の親子連れに恥ずかしげもなく私は懇願した。

「ただの旅人に何を求める?」

「ね、私なんか見たままの子供なのに。」

随分ともの事をはっきり言う子供だ。しかし、その子が言う事は正しい。

私が一番最初にすべき事はなんだ。考えろ。優先順位をつけろ。

「とりあえず、貴方はこのまま人の多い所へは行くべきでは無いわね。」

「え!」

「貴方、何から逃げているの?誰も貴方の後を追っていないわよ。小日向の町の狂人?

狂った人に街道からも外れたここが認識出来ると思う?」

そうだ。確かにそうだ。私は何から逃げていた?でも分かっていた。私は誰かに追われている。ずっと追われている。今この時も、あいつは私を見ている。だが?あいつって誰だ?


「寝ちゃったぞ。」

「寝て貰ったのよ。」

考え込み始めた騎士さんはテーブルにうつ伏せになって寝息を立て始めた。

「ケッタイなもの背負ってたからね。このまま王都にでも行こうものなら、多分この国終わってた。」

「ケッタイなもの?」

「分からない?トールなら分かる筈よ。」

「私には得体の知れない黒いものが、さっきからバンガローの周りをふらふら飛んでいるものしか分からないが、あれか?」

「結界張ったから近寄れないけどね。多分、このアリスちゃんについてきた鬼の一部。」

またまぁ面倒なものを。

「というわけでトールよろしく。」

「丸投げかよ。しかしこれ身体ないんだよな。魂だけだよな。」

「何やっても血が出ないから多い日でも安心。」

「君、まだ生理始まってないんでしょ。」

「だから妊娠しません。男の夢が今貴方のもものに。」

本当に緊張感がないけど、これ俗に言うボス戦ではなかろうか。

「中ボスの色が変わって再登場ってパターン。よくある奴という事で。」

この女神の知識量はなんなんだろう。

「ん?トールから貰ってるだけよ。」

そういえば心の声を読み取る事が出来ましたね。

さて、悪ふざけはこのくらいにして。魂ですか。よくあるパターンなら魂喰いって奴で退治しますか。右手に刀の存在をイメージして。来ました。バリバリに日本刀ですね。

早速振ってみた。

「ソウルイーター!」

ミズーリ、何故君ががなりを入れるんですか、そして何故ドヤ顔?

あ、ちなみに黒い影は跡形もなく消滅したね。万能さんに確認して貰ってもオールクリア。


「さて。このアリスちゃんだけど、疲れてるだろうし、とりあえず朝まで寝て貰いましょう。」

鬼の分体を滅ぼしたので、銅鉱山にいる本体はしばらく大人しいだろう。とはミズーリの予測。

女性を外に寝かせておく訳にもいかないので、バンガローに使わなくなったベッドをもう一度出してお姫様抱っこっで移動させる。

「さて、おいで、どこでも馬〜。」

青い猫型ロボットの真似を薄くしながら万能さんに念じると、ものの数秒で馬が駆けてきた。水と飼葉をバケツに与えると嬉しそうに私に顔を押し付けてくる。が、とりあえず今は興味がない様だ。私に礼をしただけかな。

「馬。」

「馬。」

「どうするの?」

「この先を判断するのはアリス嬢自身だ。私達が介入すべき事ではない。この馬で次の伝馬町へ行く事だけは進言しておこう。」

「トール。」

「何かな?」

「私もお姫様抱っこ。」

ハイハイ

「私を貴方のベッドまで連れて行って。」

ハイハイハイハイ(棒)



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