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神々の無責任な後始末  作者: compo
128/147

 事業を見て(以下略

気のせいかなぁ。鳥舎にしても畜舎にしても前よりも広がってるなぁ。

あゝ、管理人さんに見つかると厄介な事になりそうだ。

「気のせいですか?精霊様がトンカチをトンテンカンと振っているように見えます。」

ですね。ツリーさん?説明を。


「(野生動物達の間でこの牧場が話題になってる なのでキクスイと帝国に居る野生種は自分から近寄ってくる そこで私達が案内してる 狭くなったから牧場も拡張してる)」

そんな事、聞いてないなぁ。

それに、この森に来るには土塁と山が邪魔をしている筈ですが。

「(関係ないもん)」

もんって。くそっ。可愛いなぁ。

「(山裾や土手に集まってる来るから ひょいと届けるだけです)」

ここは乳や卵だけでなく、食肉加工もする牧場ですよ。それがわかっているんですかね。 

「(美味しい飼料と安全な生活があるなら 別に食べられても構わない 子孫も増やせるし)」

スゲェ矛盾。

「(そのくらい外は厳しい世界 僅かでも安寧な生活が送れるなら 食べられても構わない)」

滅茶苦茶だぁ。

「(そのくらい外は厳しいの)」

ハイハイ。分からないけど分かりました。

ご飯や肉食獣に襲われずに、少しでも心安らかに生活出来れば、死んでも構わないと。

猪豚と言い、わざと人に食べられに来ますかねえ。お釈迦さまじゃあるまいに。


良いのかなあ。

あゝ、鶏やら鴨やら白鳥やら牛やら羊やら山羊やらが沢山並んでこっち見てるよ。

「あれが森の牧畜ですか。皆、丸々と太って健康そうですね。なんで皆んなして、こっち見てんですか?」

動物にも好奇心がありますし、何より私らがいるからです。

「は?」

私達に慣れ過ぎなんですよ、皆んな。

ほら、興奮して鳴いて騒いでる。

迂闊に牧場に近寄ると、毛塗れ汁塗れ卵塗れ子供雛塗れになります。塗れちゃいます。

「トール様、人気者過ぎやしませんか?」

何度でも言おう。知らんがな。


そのまま、コレットから通じていた元の用水路跡を越えると甜菜畑。

この畑も、最初の収穫は終えて砂糖作りに入っているそうです。

甘い物も正義!な姫さんが報告してくれました。

今、マリンさんを中心に厨房班が「森のスイーツ」作りに乗り出しているそうです。

あの人、料理の事になると、途端に押しが強くなるしなぁ。

   

甜菜畑を越えたらまた牧場。

おととい、サリーさん達が捕まえて来た猪豚女王達が、ポイポイ仔を産んで、精霊さん達が進化状況を確認しながら、絞めたり乳をあげたりしてます。

あゝ、アリスさんは見ない方が良いですよ。

ビーーーー。

「見なくても悲鳴が聞こえてきますぅ。」

「あの肉、柔らかくて美味えよなぁ。」

「まだ、カレーにしか使ってないから、新しい献立を考えましょうか。」

「(冷蔵庫に沢山しまってあるよ)」

「…皆さん、お強過ぎます。」

「「美味しいは正義!」」

いや、アリスさん。そんな顔で私を見られても。


そのまま土塁沿いを走ると、三本木と言われるこの辺り、一つの門があります。

鋼鉄製の東大寺南大門を模してあるこの門。

帝国から森への唯一の入り口です。

老将サクライさんが門番をしていましたが、サクライ将軍は学校の剣術教練の指導役になる為、駐屯地に戻っています。

「ほえー。」

アリスさんが間抜けな声を上げてます。

ここは、ある意味森の戦略拠点なので、かなり高く頑丈に造ってあります。苔威を含めて。


「お待ちしておりました。お久しゅうございます。」

出迎えてくれたのは、これは懐かしい。ゼル君ではないですか。

「どなたですか?」

私とミズーリを殺しに、東部方面軍全軍で出撃した時の総大将です。

「あー、こいつかー。」

「ワタシが槍の先で吊るしてた人。」

「ええと。トール様とミズーリ奥様に襲い掛かるなどと無謀な事をした将軍様ですか。」

「如何にも、キクスイの騎士殿。」

あなた、降格して厨房班に回されたと聞きましたが?

「つまみ食いがバレてマリンさんに追い出されまして。今はここで番をしています。」

あなた何してんですか?

姫さんやカピタンさんには、東部方面軍切っての先鋭と聞いていましたが?

「閣下のご飯に人生を惑わされましたね。でもまぁ、どこでも美味しいご飯を作れるスキルを身につけたので満足してます。ここにいると、畑作業帰りの兵が差し入れしてくれますし、川行けば魚釣れますし、筍掘りも出来ます。考えてみたら、うちらって閣下が来て頂いた前も何もしてませんでしたし。それに比べれば充実した毎日を送ってますよ。」

………アリスさんとサリーさんの視線がなんか痛いです。

「やりたい放題してる裏には、このようなまだお若い犠牲者が居るのですね。」

「だって、この人。ワタシとトールさんを殺そうとした人だし。」

「アタシはどう判断したらいいのか、もうさっぱり分からん。」

「(だったらマスターについて行けば良い)」

「そんなんで良いの?精霊としては?」

「(うん!)」

元気があって宜しい。


ところでゼル君?

「なんでしょうか閣下。」

君がこの先何をしたいのか、軍に私に言われたと身上書を提出しておきなさい。私は君の様な若い才能を伸ばす役割があるんですよ。(じゃないと、いつまで経っても森から離れられない)

「身上書って。進路ですか。釣書ですか?」

全部だ。全部。

それと後、ここは今後最前線になる可能性が高い場所だ。

ここの守りは、森全体に影響を及ぼすだろう。数年後ではなく、ごく近い未来の話だ。

君に守りを任せたい。大丈夫か?

「久しぶりに顔が引き締まるお言葉ですね。…それを信じても?」

可能性だよ可能性。だが、帝国軍の侵入経路は、ここかコレットの側がどちらかだ。

そして、ここは駐屯地から遠い、普通に考えたら、戦力集中が考え難い場所でもある。

カピタン将軍がサクライ将軍を引き抜いたのは、少年兵の将来を睨んでの事だ。

サクライ将軍の代わりに君が居たのは驚いたけど、それは軍が君への期待を捨てていない証左だ。君に任せたい。

「は。微力ながら、閣下のご期待に応えてみせます。」

つまみ食い将校ゼル君は、目の力を戻し見事な敬礼を見せてくれました。



「我が主様は、意外と人誑しなんだな。」

なんですか。サリーさん。

「いや、さっきの男。完全に腐ってたろ。」

あの歳で閣下呼ばわりされるとこ迄昇格した男だ。それなりに能力はあるんだろう。

きちんと管理しとかないと、いざ帝国との戦の時に、裏切られてあの門を開けるとかされた日にゃアンタ。人死にが増える一方だ。

出来るだけ殺したくない。

「犠牲者を出したくないじゃなくて、殺したくないってか。」

「トール様の戦ってどんなふうになるのかしら。」

「ワタシは見てるけど、結構エグいわよ。」

うん、君も共犯者だけどね。ミズーリさん。


馬くんの引くチャリオットは、山に向かっています。

ここは、かつてのキクスイからの峠越えの街道だった道。

今では隧道を掘ったので、こんな遠回りで一日かけて越えなきゃならない峠道は誰も通りません。

この街道から、ちょいと逸れると、はい貯水池。というか、勝手に掘った川や用水路の終着点であり、地底湖に戻す為に浄水の準備をする池でもあります。

なんか、でかい魚影が見えますけど、見えません。

「あー。あの魚なら…。」

サリーさん聞きたくありません。あれ、鮭だよね。口曲がってるし。

あーあー見えない聞こえない。


さて、次は竹林です。

ここから取った竹で竹刀を作りましたからね。

「あの、トール様?なんか精霊様が沢山居ますが。大きな精霊様は鍬を振ってるし、小さな精霊様は鍋でお湯を沸かしています。」

「(筍を掘ります)」

「(灰汁抜きをします)」

「(後で持って帰ります)」

一応軽く筍掘りのレクを考えてたんだけどなぁ。

「(そうと言ってくれれば 筍は少ししか掘らなかったのに)」

ごめんね。


続いては、果樹園の出番です。

枇杷と林檎の近似種の木を森中から集めて並べてあるだけですけど。

メサイヤリーダーが1人飛び立ち、果樹の間を駆け回ってます。


「あれ、なんですか?あの山の天辺でクルクル回ってるの。」

アリスさんは初めてでしたね。

あれは風車と言って、風の力で回転する、ある意味機械です。

「回ってどうするんですか?」

あそこに滝が見えるでしょ。あれは風車が水を汲み上げて出来てます。

「何故その様な事を?」

滝は私の好み!…なのは半分冗談で。

「半分本気だったんだ。」

ミズーリうるさい。


例えば、あの回転がチャリオットの車輪の動力に出来たら素敵だと思いませんか?

「えぇと、そんな事は無理だと思います。」

どうして?

「だって、あんな大きな風車をどうやって馬車に組み込むと言うのですか?」

私の故郷では実用化してますし、この森でも風や水の流れを利用して、畑仕事に使っています。

「………。」

その理屈と実用化を教える事が、今回の学校開設事業の一つなんです。

「……。」

「くー!」

やあメサイヤリーダーちゃん。これはまたよく熟れた枇杷と林檎だなぁ。

「…精霊達は、森の中だけを探してんだよな。だったら、森の外の果物をアタシらメサイヤが集めても構わないわな。」

…森の外の生態系を壊さないくらいなら。


さて、最後にもう一箇所。

金山です。

ここは、最初に段取りつけてからは、精霊さんに任せて放置してましたね。

「(旦那様マスターこんちは タラコおにぎり楽しみー)」

今日の監督精霊さんが、姫さん特製のお弁当箱を振り回して挨拶してくれました。

「この精霊様は、さっき朝ごはん食べてた方ですか?」

「(そだよー)」

あるまぁ、姫さんが面白半分に掘った岩壁に綺麗な穴が開いてますねえ。

「(今3人でカチンコしてる 午前中だけ

午後は精錬しておしまい 金の含有量がここ多すぎるから)」

なるほどねぇ。

「あの、トール様。精霊様と何をお話しされているんですか?」

金山採掘が順調だって、報告を受けているんですよ。

「なんか、随分と小規模ですけど。」

3人で掘ってるそうですから。

「さ、3人?」


さて、午前を使って、私達がやって来た事を見てもらったわけですが。

どうですか?

「あー。えー。どうもこうもありません。森の精霊様や、幻の霊獣様が助けてくれる世界をどう判断すれば良いのやら。」

あれ?

「(私達はマスターがいるから、マスターに協力してるの)」

「アタシらもだ。我が主様がいるから、アタシらは森にいる。我が主様を手伝う。」

「人間しかいない世界で、残された私達に何が出来ますかね?」

あれれ?

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