事業を見てみたいそうですよ
翌朝。今日も良い天気です。
今日の朝ごはんはパン食の日。
なので、昨晩からミズーリが小麦粉を練ってました。
今は石焼窯の前に陣取ってます。
姫さんは、卵を山程冷蔵庫から取り出すと、ゆで卵と目玉焼きを作り、厚切りベーコンを炒めてプレートに乗せ、ツリーさんがキャベツでコールスローサラダを作ります。
「私にも何か作らせて下さい。」
さっきまで、「あゝ、昨夜も何もなかった。私はいつになったら捨てられるのだ?」(何を?)
と、色々な意味で物騒な事を言ってたアリスさんですが、「私も家族であり奥さんなんですから(勝手に奥さんに混ざらないでください)、料理させて下さい。」
と、積極的に混ざっていったので、冷蔵庫からあれこれ取り出して、なんかスープと副菜を作ってます。
「アタシは相変わらず、やる事も出来る事もない。」
と言うサリーさんが何を始めたかと言うと、私を膝枕して耳掃除を始めました。
「飯でサービス出来ないなら、身体を使うしかないだろう。」
って、朝っぱらから恥ずかしいんですけど。
で、今日の予定ですが。
森を回ります。
「それはいつもの事じゃない。」
「(このゆで卵のマヨネーズ・ホワイトソースがけが美味しいの)」
「(それはマスターの得意技 茹でた海老やブロッコリーで栄養と歯触りが豊か)」
「どうしましょう。精霊さん達の会話で私もうおかしくなっちゃいそうですわ。」
「ミク様?なんで他所の精霊様がうちで朝ごはん食べてるんですか?」
「(旦那様マスターのご飯なら いっぱい食べたいから)」
「食べたいからだとさ。」
「はあ。」
「姫は可愛いもの大好きだよな。」
「女の子ですから。」
「どうしよう。騎士としてしか生きてきてないから、可愛いって感覚がよくわからない。」
相変わらず、誰も私の話を聞いてくれません。
「だからワタシが聞いてるわよ。一番付き合い長いのに、トールさんてば、時々ワタシの姿が見えなくなるわよね。」
「それは、私にも身に覚えがありますわ。」
「(マスターは割と薄情)」
なんで朝から責められているんだろう。
森を回ります。
それは、アリスさんの質問に答える為ですね。何故かというとアリスさんも、なんらかの形で教職に加わって欲しいからね。
「働かざる者、食うべからず。ですね。」
だからなんでキクスイの騎士様が、日本のことわざを知ってるのよ。
「トールさんの故郷の文化は、積極的に知るべきという、正妻判断です。」
なんかそろそろミズーリがウゼエ。
それはともかく、「他国の大人」に東部方面軍が治める森を客観的に見て貰いたいなって私の判断ですね。
基本的に私が私の好みで私的に好き勝手にやっている事は紛れもない事実なので、もう少し多角的な視点が欲しいんですよ。
あの、なんとかと言ったなんとか言う国のお姫様は、冷静かつ柔軟な思考が出来そうでした。そこら辺将来性大な希望が持てますけど、何しろまだお子様だし。
「なんとか言うなんとか国のお姫様ならば、ベンガラ国のラピス王女ですよ。旦那様は本当に人(王族)の扱いがぞんざいですわね。」
因みに、生前に街で知り合いとすれ違っても、誰だかスイッチが入るまでわかりませんでした。
「まだ初潮前なので、旦那様が手をつけるには早過ぎると思います。」
そんな事聞いてません。
てか、姫さんは何を聞いてんのよ。
「女性には女性の準備がありますから。まさかイリスにオリモノ用品の必要性を確認させるわけにもいきませんから。」
この人は普段食い意地が張ってて、下ネタを躊躇なく言える困ったお姫様なのですが、一応姫として高等教育を受けており、気がきちんと効く人なんですよねえ。
まさか、その欲望丸出しの言動が、そもそもこの世界の人類の進化の過程にあるからとは思わなんだ。
そういえば、…うちのミズーリさんも生理用品がどうたら言ってましたね。
あ、ドヤ顔してる。
男1人な私の居場所がどんどん狭まってくなあ。
今日も、取り立てて新しい事はしないとわかると、「あの子達の面倒を見て来ますわ。」と、姫さんが別行動を宣言。
チビを抱えて駐屯地に向かいました。
ポメラニアンが何の役に立つのか知りませんが、私達と別行動する時は必ず連れて行くようになってます。
まぁ、姫さんくらいなら十分ボディーガードが務まる事は確認されてますし。
「この子は、あの時の駿馬ですね。」
馬くんが畜舎から「宙を駆けて」私の元に来ると、アリスさんが人参と共に再会を喜びます。
おう。誰かと思ったら、草原で送って行った騎士様じゃねぇか。
ご主人の新しい嫁かい?
馬くんは余計なこと言わないように。
ご主人の嫁ならあっしの新しい家族でさぁ
いつでも呼んでおくんなまし
ん?馬くん、今変なこと言わなかった?
ゆわない
…私の扱いがどんどん蔑ろになっていくなあ。
んじゃ、行きますよ。
馬くんの引くチャリオットで、まずは北へ向かいます。
馭者席には私とアリスさん。
私の膝にツリーさん。
チャリオット内にミズーリとサリーさん。
屋根にメサイヤリーダー、のいつもの布陣です。
まず到着したのは、山から湧き出る川。
地底湖から汲み上げている、この川を森の中に通す事により、この森の自然を活性化させました。今日もほら、山鳩や子鹿、それから獺の類かな。この森には肉食獣は人間しか居ないので、草食動物や小動物がのんびりと水浴びに来ています。
「あの。あの子達逃げないんですけど。」
ツリーさんが居ますから。
後ろの2人が妬き餅を焼いているのを無視して、私の膝の上に腰掛けさせている事に意味があるんですよ。
私達は、ツリーさんによって「森の一部」として認識されているんです。
そして。
水面から小魚が跳ねます。
何も居ない地下水だけの川に、水生生物を放してくれたのは、メサイヤさん達です。
頭の上のメサイヤリーダーが「く」と一言鳴き、私とアリスさんの間をサリーさんのサムズアップがにゅうっと出てきます。
そのまましばらく川沿いを下ると、そこには純和風な建物が。
ちょっと顔だけ出しますか。
「(いらっしゃいませ旦那様マスター)」
なんで番台が出来てて、精霊さんが座ってんですか?
「(折角作ったから銭湯ごっこしてる)」
ツリーさん?精霊って暇なの?
「(忙しかったら ご飯食べに屯わない)」
私んちは暇潰しの場、ですか。
まぁそろそろ、カピタンさんにこの温泉を開放する予定でしたし。
いずれ、管理人を考えないとなりませんね。
では次の…。
「(皆んな温泉に入ってます)」
予想はついてましたけどね。
タオルとか着替えとか、なかった筈だけど。
「(旦那様マスター御一行来湯とわかって 準備は万端です)」
サリーさんやメサイヤリーダーが大人しく女湯に入って行ったから、いいか。
「(こんな施設も作ってみました)」
馬くんが湯船に浸かってますけど。
家の風呂とは泉質が違うけど
これはこれで気持ちいいですぜご主人
「(馬が入浴を希望していたエピソードを こちらにも流用しました)」
まぁ、この世界の移動動力は牛馬ですから、家畜を大切にする事は良い事です。
その後、温泉パイプラインを辿り土類沿いの線路に出ます。
このあたりから、かつて帝国が入植しようと焼畑しようと火を放った箇所を、それぞれ田畑に直した場所があるんですが。
「稲が干されてるわね。」
早稲掛けですね。玄米の余計な水分を除く事で美味しいお米が出来るんです。
「その隣の田んぼじゃ、新しい苗が育ってんな。」
経験者を入植させるよう手配させた私の手柄ですかね。
「いや、キクスイではお米って1年に1回収穫される作物だった筈です。」
「まぁ、トールさんだから。」
「トール様だからで済ませて良いんでしょうか?」
「森の精霊と、幻の霊獣がいるから。深く考えたら負けよ、アリス。」
「だから、アタシらはなんもしてないの!」
はい、次です次。
「あ、閣下。こんにちは。」
「どうです。見事な大根でしょう。」
「こちらでは、白菜が採れ頃です。」
「後で、姫閣下かカピタン将軍を通じて献上しますね。」
兵隊さんだったおじさん達は、すっかりお百姓さんモードになって、んだんだと畑仕事に充実している様子。いがったいがった。
「いぐないだ。」
おや、どったの水売り丼。
「だからワタシの名前で、って何よその柄杓て一杯30円的な名前は?」
んだんだ。
このまま南下していくと、牧場になります。
その前に、おお。土砂の山が出来てる。
「トール様、この山はなんですか?」
ここにガラス工場を作って、そのガラスで温室を作って、その温室で南洋植物の栽培を始める予定です。その材料ですね。
「たしかに、キクスイでトール様達のお家でも気が付きましたが、透明で厚くて綺麗なガラスですよね。さすがはトール様の指揮する帝国。あれが作れるんですか。」
材料集めしてくれてるの、森の精霊さんだけどね。
「(私達)」
おや、ツリーさんの珍しいドヤ顔。
「…なんか、感心するのも、だんだん馬鹿馬鹿しくなって来ました。」
その内麻痺するから、後少し頑張れ。
「頑張らせる方向がズレてます。」
さて、このまま線路上を行くと牧場主達に毛塗れにされるので、チャリオットの進路を土塁寄り、土塁沿いに引いた用水路の向こうに飛びます。(文字通り)
そうそう。この用水路が一番最初にした事業かな。
森の外の街(コレットとか言ったっけ)から引かれる用水が、東部方面軍が使える水の全てでしたから。水止めを食らった時に、真っ先に手配しました。
いやぁ、大きな地底湖があって良かった。
「攻城の要式を良かったの一言で変えないで下さい。」
「トールさんは、水と食糧を無限に供給できるシステムを構築したから、逆にこんな高い塀を築いて、城に攻城軍が籠城させられるって、意味不明な新戦術を作っちゃう人なのです。」
「なのですって。滅茶苦茶です。」
「その滅茶苦茶にキクスイは助けられた事を忘れずにね。鬼と地震に襲われた王都を助けたのは、山と土手に囲まれた森の中の軍なのです。」
「それを言われると…」
さて、牧場が見えてきました。




