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神々の無責任な後始末  作者: compo
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ごーはーんー

「ところでトール。」

ミズーリが口調を改めて話しかけて来た。

「トールさん。トール様。瑞樹くん。ねぇあなた。」

瑞樹くんの不意打ちに少しときめいた。

「私達2人の距離感を自由自在に操る女神力は分かったけど、並び方を考えてくれたら尚良しだった。」

「以外と好評な呼び方発見。いつか使おう。」

うるさいよ。

「それも夜に。」

それはやばい。ミズーリの成長次第では理性が保たないかも。

「トール。私達は朝ご飯を食べていません。」

ミズーリさんが朝から大量殺戮と大量精神崩壊作業で忙しかったからね。

「なのにもうすぐお昼です。私はトールの愛情ご飯を昨日の朝から食べてません。」

「だね。」

「もう我慢出来ません。私の体内からトール分の催促が止まりません。」

「お腹空いたか。胃袋鳴いてるの?」

「尚、私の胎内もトール分を要求してます。」

多分違う「たいない」ジョークを始めだのだろうけど放置の方向で話を逸らす。

「ならば草原に入って食事を作る場所を探そう。」

そう言うと、石畳の道を外れてガサガサ草の海に入って行く。

「そう言えば。」

「何?」

「昨日お昼を食べなかったな。」

「トールが何も言わなかったしね。私達女神、というか神族は天界の神気だけでいいの。本来なら栄養補給の必要ないもの。」

「なら今日は何故?」

「勿論トールのご飯を食べたいからに決まったいるでしょ。それに私はトールの所持品になったから、ご主人様の生活習慣に全てが引っ張られるの。」

うちのへっぽこ女神様は、私が生前に飼っていた夜行性の小動物みたいな生態に変わって来たらしい。


しばらく草原を歩くと、緑の枝を広げた木が一本立っており陽の光を遮る場所を見つけた。

「ここをキャンプ地とする。」

別にキャンプ張らないけど。

「わー。」

昨日作ったテーブルセットを万能さんから出すと、早速席に着いたミズーリが拍手。

差し当たり冷たい麦茶とリンゴジュースをイメージして二人分のピッチャーを計4本出す。

シンプルなガラスコップを氷付きで出すと、ミズーリは興味深そうにコップにリンゴジュースを注ぎこんた。

ンーンーとテーブルを叩き出したので満足らしい。ただのリンゴジュースなんですが。

「さて何を作ろうかな。」

お昼なら麺類か。

蕎麦うどんラーメンパスタ。

パスタかな。寸胴鍋に熱湯を張りいつも買ってたパスタとひとつまみの塩を投入。

因みに万能さんに念じたらコンロすら必要無くなった。勝手に茹でてくれる。

材料も前世で良くスーパーマーケットで買った商品がそのまま手元に現れてくれる。

パッケージの正確な記憶はあやふやだが、美味しければなんでも良し。

フライパンを作ってベーコンを炒める。勝手に炒まる。日本語がおかしいが目の前に展開する事実の方がおかしいのだ。

レタスとパプリカを適当にざく切りにして、茹でとうもろこしを足してドレッシングをかけただけのサラダを小皿に盛っていると、火周りからOKサインが来たので仕上げに入る。

おまけでハーブ茶を匂い消しに追加。

今日のランチは、ベーコンとニンニクたっぷりペペロンチーノにレタスサラダです。

うちの女神様がパスタを一口食べて溜息をつく。

「トールさん。私は今幸せです。」

「お粗末様。」

「夜の幸せとも違う幸せが、今私の全身を貫いています。」

いやらしい言い方しないの。

「このままトールのご飯食べてるだけで女神力上がらないかな。昇格しないかな。」

「食欲塗れのポンコツへっぽこ女神ぶりからすると降格される方ではないかね。」

「そうなのよねぇ。」

自覚はきちんと残っている様で何より。

ミズーリは口直しのハーブ茶どころか麦茶まで全部完食完飲して、上空の枝葉を見ながら少し呆然としています。

手掛かりが無い旅だから、食休みくらいはゆっくり取りましょうか。


草原を渡る風が気持ちいい。ふと気がつくと、枝に一羽の小鳥が羽根繕いしながら私達を眺めている。

何の気無しに、パンを一欠片取り出してテーブルの上に置くと、小鳥は何の警戒心も無く降りて来た。

嬉しそうな鳴き声を発してパンを啄む。

「人慣れしてるのかな。」

「そう言う訳でも無いわよ。私達は女神様御一行だからね。妖気の無い被捕食動物には私達の神気のそばは何より安心できるの。」

テーブルに顎だけ乗せてお行儀悪い格好のままミズーリは小鳥を眺めている。

「私達?」

「私の誓約で、トールはもう私という女神よりも上位の存在なの。そろそろ諦めて。」

「そうかあ。」

思う存分パンを啄んだ小鳥は私の頭に止まり、髪の毛を啄み始めた。

「ごちそうさまでした。ありがとう。だって。」

ミズーリの通訳が終わると小鳥は飛び立っていった。

「女神の格が上がるって事自体私には初耳だったし。」

顎乗せ女神ミズーリが続ける。

「私がさっき貴方に誓約したのは、本当に私の感情の行き場がなくなったからなの。何か貴方に伝えたい。じゃないと私は凄く苦しい。さっきの私の言葉は全て本心。というか、嘘なんか付きたくとも付けない様に私達は作られているんだけどね。」

私も姿勢を崩してだらしがない格好でミズーリの話を聞く事にした。

「貴方は私の大切な友達であり愛しい人。あそこで天界の神々まで出したのは、貴方に私が本気である事を知って欲しかっただけなの。まさか天界が反応するとか一番私が驚いてる。」

まぁ、あの人達じゃなぁ。面白半分にやってても何ら不思議とは思わない。

「女神の格が上がるって事が分からない。私がどうなったのかも分からない。誰も教えてくれない。ただ分かったのは。」

分かったのは?

「貴方が居てくれれば大丈夫って事だけ。ねえトール。」

「何?」

「貴方って何者?女神を本気で惚れさせて、女神が膝付きたくなる人間なんかあり得ないんだけど。」

君は最初から土下座していましたが、でもそれは私が一番知りたい。


そのままマッタリしているうちに陽が傾いて来た。二人してダラダラしているだけで足は一歩も前に出ていない。

何、私達は無限の存在になってしまったんだ。一日くらいのんびりしてもバチは当たらないだろう。

そういえばバチを当てる方の神様は人手不足がどうこう言ってたな。ミズーリの女神格が上がっても、まだ同じ職場なのだろうか。

「知らない。天界で死者を引き上げ裁くよりも、ここでトールのご飯食べてる方が大切な時間だもん。」

へっぽこ女神はテーブルセットで溶け切っている。当の本人はもう動く気なさそうだ。

先程の素敵女子モードは一瞬の夢だった。

「仕方ない。」

森の中で作ったバンガローを万能さんに頼んで取り出した。

中に入り、唯一の家具をダブルベッドに置き換えた。

結局、ここがキャンプ地になったか。

女神以前に女として見るに堪えない姿勢でミズーリは叫ぶ。

「草原で一泊!」

うるさいよ。

「あと服をちょっと変えてみました。」

なるほど、そんな姿勢なのはパンツルックからスカートになったからですか。

でも君、小学生のパンチラって誰が喜ぶと思ったんですか?


晩御飯は翌朝を考えてカレーにする。それもお手軽に国民的カレールーを万能さんで調達して、ジャガイモ・にんじん・玉ねぎの王道な具に、肉は豚肉で脂身付きロースをとろけるまで煮込む事にする。

付け合わせはヨーグルトドリンクとワカメスープ、デザートにアイスクリームまでサービスだ。

匂いの段階でミズーリはテーブルをバンバン叩いていた。カレーの匂いって美味しいよね。

アイスクリームは彼女には大ヒットだった様で、私の分まで奪い取った上おかわりコールをし始めた始末。

私が前世で良く食べていた単なる市販品ですから、いくらでもイメージして出せますけどね。

でもミズーリ、君食べてばかりいると太りますよ。

「女神を舐めるな。神気以外の栄養なんか身体が受け付ける訳がないわよ。私も知らないけどどこか別空間で処理されるんじゃない?」

「女神様は舐めていませんが口の悪い相棒にはお仕置きが必要ですかね。」

はい、本日の土下座いただきました。

「あと女神は舐めていいの。むしろ全身くまなく舐めて下さい。」

前世にそんな風俗ありましたけどね。夕刊紙の広告で見た事あります。

だから、土下座から仰向けに体勢を変えない!スカートを持ち上げない!

「君は一体どうしたくて、どうされたいんだ?」

「何にも分からないから困ってるんじゃない。とりあえず今出来る事は全力でトールに媚びる事だけよ!」

女神が開き直った。

そんな日課と化した戯れあいの後、夕食の後片付けをしてバンガローに入った。

ダブルベッドにミズーリは一瞬固まっていたが、直ぐこちらに振り向いて微笑む。

「ありがとう。」

お礼を言われる事では普通絶対ないよね。

おかしいよね。


バンガローでは万能さんから出した炭酸飲料を飲みながら(ミズーリは最初だけ驚いたが直ぐストローをすかすかさせておかわりを要求した)、たわいもない話少しだけして直ぐベッドに籠った。

別に何をするわけではない。ミズーリが何もしなければ何も始まらない。

このベッドは特別品で寝ようと思った瞬間眠れる鎮静機能が付いていた。

そんなイメージ念じなかったけど、万能さんが私達の健康維持の為に勝手に付けたとさ。

万能さんはどこまでも万能でした。

ミズーリは私の隣で私を抱き枕にしながら直ぐ寝息を立て始める。

その顔は、なるほど幸せそうな微笑みが浮かんでいる。ならばヨシ。

一応ダブルベッド作成に躊躇はしたんだ。

私達は男と女で、ミズーリは身体は子供とはいえ知識と知能は大人だ。

私よりずっと物を知り物を考えて来た先輩だ。でも

ミズーリが受け入れてくれたなら、それは多分私の幸せなんだろう。人生が急展開過ぎて理解が追いつけていないか、ミズーリが言う様に私も彼女を信頼し切っているのだ。

まだまだ宵の口だろうけど、ランタンさんの灯りを絞り眠りにつく事にした。


二人同時に目を覚ました。ランタンさんが直ぐに明るくしてくれる。

「一人だけね。なんな凄い勢いで走ってくる。」

「普通に考えたら刺客という事では無さそうだな。」

私達は色々派手にやり過ぎている。

「感情は恐怖。女性よ。背後からは存在を感じない。」

「助けを求めていると考えるのが最適解かな。どこかでミズーリは何故服を脱いでいるのですか?」

「貴方の隣に居ていい女は私だけだからね。まずはガツンとお見舞いするの。」

「乳房もない、毛も生えていない裸の少女が私と同衾していればそりゃガツンとお見舞いされるでしょうけど、私も世間からお見舞いされるから勘弁して下さい。」

初めてトールに勝ったと宣言した馬鹿女神は素直に服を着てくれました。



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