王族に説教してみた
「一応ですね。閣下達をお呼び立てしたのは、若い王族様達に我らが閣下の元に国を裏切り付いた、その理由と実力、そして若者達への目標になって欲しいなぁと思い顔合わせを願った訳ですが。」
よいっと。
動物の弱点は大体一緒で、尻尾の先っちょを親指でコロコロ転がしちゃうと。
「きゃーん!」
ほら、目が覚めた。
「ななななな何をする我が主。せめて、せめて閨房でお願いします。」」
ほれ、早く人間形態になりなさい。
皆んなに紹介してあげるから。
ってなんで和服姿になるんですか。赤い長襦袢が見えてるじゃないですか。
「いやん。」
袂を口に当てて、瞳を濡らしてよよよするんじゃありません。ぽこり。
竹刀で頭を叩くと、しゃなりと土下座されました。
「さすがは我が主様。これはあれですな。」
あれって何ですか?
「いやさ、恐らくアタシらメサイヤ族全体で敵対しても、我が主様には敵わないだろうと、身体で思い知りました。ついでにアタシの性感帯を開発されたし。」
だから、尻尾の先っちょってね。
「いいなぁサリーさん。旦那様私も。きゃん!」
はい、子供達の前で何言ってんですか。
姫さんの弱点は脇腹ね。
「あのね。あのですね。一応閣下を目標にして頂こうと思ったんですが…。若者達にはもっと現実的な目標を持って頂くことにします。メサイヤのスピードも初めて見ましたが、それを軽々といなす人間ってなんなんですか、メサイヤがそこまで懐いてる人間ってなんなんですか、ぶつぶつ。そもそも閣下の周りにはなんで精霊とか霊獣とか、絵本の中にしか居ない存在がゴロゴロしてんですか、ぶつぶつ。」
カピタンさんは相変わらず苦労性ですね。
「でしたらもう少し常識的な…。」
「「「それは無理」」」
なんで家族全員に声を揃えて否定されなきゃならないんですか。
そうそう、カピタンさんイリスさん。…イリスさん?イリスさんはいずこに?
「イリスは着替えに行きました。」
と、カピタンさんが代理で。
あーそうなんだ。あ、本当だ。後でそこ掃除しといてね。
「えーと、王族の中からも2人ばかり。」
「師匠。僕とアリスは健在だぜ。」
「私だって閣下を知らなかったら、ぱんつの交換が必要になりますよ。」
…そうですか。
「慣れが必要ですな。」
…私が道場で指南する事はやめときましょうか。
「えー。僕は師匠の指導が受けたいです!」
ある程度強くなったらね。
王族と将軍には礼服に着替えてもらいました。というか、姫さんが勝手に段取っちゃいました。
いや、よくある「私からのプレゼント」なんですが、例の目録と一緒に授与式にしたい魂胆だそうです。
ただの会社員だった私には窮屈なんですけど、ミズーリと姫さんが寄ってたかって着替えさせられました。…燕尾服に。
こんな服、生前でも来た事ないのに。
というか、新内閣発足やオーケストラの指揮者以外で誰か着てるの見た事ないし。
ミズーリと姫さんとツリーさんは、サテンの白いドレス。サリーさんは、ええとこれは本振袖?白かったら打掛白無垢じゃないのよ。
「なんか気に入ったから、ミズーリ様に出してもらった。どうよ我が主様。」
まぁ、背が高くて胸が控えめのサリーさんには良く似合ってますよ。
「おっぱいが小さい事は余計だ。なんなら幾らでも膨らませるぞ。」
和服に巨乳は似合わないので、やめて下さい。でも、長い髪を結ったスタイルは素敵ですよ。
「…………しゅぼっ」
あ、サリーさんが真っ赤になって倒れた。
という訳で、軍人と王族が整列する中、ミランカ姫から渡された目録をイリスさんに差し上げます。一応、失礼に当たらない様に王族さん達には話を通してあります。
さすがに頂いた物を右から左に流しちゃうとね。ぶっちゃけ目録の中身は金品なんです。
だけどほら、私オカネモチだから。
創造神に無理矢理押し付けられた能力の一つで、ステータス的に言うと資財♾だし。
あと、私達の懐具合はカピタンさんとミカエル王子が知っているので。
「因みにトールさんは、全ステータスがカンストしてるから。」
オメーの親玉に文句の一つも言いてぇぞ。
一応、イザコザはあったんですよ。ベンガラ国のお二人からは苦情出ましたから。
北のベンガラ国はけっして裕福な国ではありませんし、なのに長男長女を留学させて来た事には相応の覚悟が感じられましたから。
「我がキクスイは大地震と鬼の大群に襲われ壊滅状態に陥った時に、多大な救援を帝国より受けましたが、それは全部師匠の私財です。」
全部が全部じゃありませんけどね。
それでも、ミカエル王子の発言はベンガラ・ラニーニャ両国王族の度肝を抜いた様です。
あー、ミランカ姫は「お兄様はお金持ちだったのかぁ。お姉様に先を越されたああああ。」と地団駄を踏んでましたけど。
そしてもう一つ。ぱんぱん。
両手で柏手じゃないけど、私の合図で精霊さん達が気球を運んで来ました。
今日も元気にわちゃわちゃと。
「(旦那様マスター こんちわー)」
はい、王族達が全員白目を剥き出しました。
「知っていましたけどね。軍服の礼服は脱ぐのが大変なのです。あらかじめ無理にでも、トイレに行かせておいて正解でした。」
何故、シモの状況説明するんですか。アリスさん。
とりあえず、この気球は東部方面軍に寄付します。君達は、この気球を乗りこなす訓練をしなさい。乗りこなせる様になった時、各国に進呈します。
私の言葉を理解した彼らの目が、白目から一気に焦点が帰ってきました。
飛行船Queen MIKU号の存在は、各国に知れ渡ってます。
それはわざと。森では何かが始まっている。
それをキクスイ国に広める事で、商人の興味を引き、今日では各国商人が店舗を出店してくれています。その賑わいは、帝国を含めた各国王家に広がりました。空を飛ぶ乗り物。それは森の象徴となるもの。王族達が喉から手が出る程欲しがっているもの。
「師匠。これは師匠の乗る飛行船とどう違うんですか?」
基本的に同じです。(推進力は万能さんの力なので解説しませんが)
ただし、永久に飛べるものではありません。
あの時説明したものは、熱気球でしたね。
この気球が浮かぶ仕組みは、球の中に特殊な空気が詰まっているからですが、それはいずれ萎み飛べなくなります。
「どうしたらよろしいのでしょうか?」
勝気そうな顔をしたベンガラ王女は、素朴な質問を投げてきました。
「学びなさい。」
「「「「はい?」」」」
「私の国では、その理屈の全てを解析して実験して実践して実行しています。ミカエル王子には話した事がある筈ですね。不思議を不思議としない。不思議の先を考える。空を飛ぶ理屈を理解して実験して実行する。それには、その理屈を全て解明する必要があります。」
たまに鉤括弧です喋りますが、それは強調が必要だからです。
「あの、出来なかったら?」
ラニーニャ王子は少し気弱なのかな。
「簡単な事です。人類は滅亡します。」
軽く人類滅亡を宣言する私に、また全員白目になります。あ、アリスさんやカピタンさんもだ。
ここにいるメサイヤのサリーさんは、用があって南下している時に、たまたま出会い声を掛けた事でここにいます。
「たまたまねぇ。」
うるさいミズーリ。君は酔っ払って臍出しながら大いびきかいてたでしょうが。
「え。わたしイビキかいてたの?」
「ミズーリ様はあまり見栄えの良い姿ではありませんでしたねえ。」
「(だから、禁酒命令が降った訳だし)」
「うぅ。ミクもツリーも容赦ない。」
一応、ここが今回の山場なので、皆んなちょっと黙ってようね。
サリーさんがもたらした情報。それは鬼の活動の活発化でした。
「!」
全員の背筋が伸びました。そりゃそうですよ。
キクスイの王都は鬼の大群に襲われた事件から、まだ立ち直っていません。
「でも、あの。鬼は水を越えられないので、は…。」
ラニーニャ王子の語尾が小さくなります。
それでも鬼は襲ってくるんです。
当然です。キクスイは三方を山に囲まれています。山の向こうには、帝国・ラニーニャ・ベンガラがあります。
つまり、山伝いに移動すれば、水を越えずともどの国にも行ける。
キクスイ王都の事件は、それを証明したという事ですね。
「私の言う事が理解出来ましたね。貴方達は貴方達がやらないとならないという事です。貴方達が失敗したら、国が滅亡する。鬼に食べ尽くされる。それは、貴方のお母さんかもしれないし、将来の貴方達の子供かもしれないし、勿論貴方達自身が食べられるかもしれない。」
「そんな…。」
「森の精霊と、幻の霊獣が私の周りに居る事には意味があります。私達は私達で努力をしますが、私達が守れるのは私達の周りだけです。そして、私達はいつまでも森には居ない。」
もう一度繰り返す。
私達はいつまでも森には居ない。




