ミシン
「(マスター 皆んながお風呂見学を希望している)」
帰宅早々に、ツリーさんから頼み事をされました。
岩風呂と古代樹の湯船は作ったけど、それはツリーさんからの知識フィードバックだから、私の作った3つの湯船を研究したいとの事。
別に、大して変わらないけどなぁ。神代檜にだるまさんが転んだの小涌◯、昔テレビで見た事のある競走馬のお風呂を見様見真似でコピーしただけだし。
ははあ、さてはウチの晩御飯を食べたくなっただけじゃないかね?
「(そうとも言う)」
言うんかい!
「(今朝のサンドイッチが私達の中で大好評・大興奮)」
とは言うものの、朝と同じ献立と言うのもね。BLTサンドはどちらかと言えば、軽食に入る献立だし。私以外の家族は皆んな食べてるし。
「(皆んなマスターのご飯が食べたいだけだから なんでも構わない)」
分かりましたよ。ご招待しましょう。
カタカタカタカタカタカタ。
ガラス窓が何やら衝撃波で振動したんですが?
「(牧場でご飯だあ!って皆んながバンザイしてるよ)」
なんだかなぁ。
「お前らああ!午後も勝つぞおおおぉ!」
「「「くー!」」」
何に勝つのかは知りませんけど、サリーさんは気合い一声、メサイヤ隊を率いて飛び立って行きました。
何処からどう見ても鳥のフォルムなのに、羽根でお箸を使って山菜蕎麦を食べてたメサイヤちゃん達の後片付けを、リーダーメサイヤちゃんが一人残って頑張ってます。
力持ちな生物なのは知ってますが、7人分のどんぶりをお盆に積み上げて、ヨタヨタとこちらの部屋に運んでます。
何故ならシンクがこちらにしかないから。
そして手伝うとすると叱られるから。
「一宿一飯の礼はさせてもらうでやんす。」
「く!」
洗濯物を畳んでたミズーリが通訳してくれますが、しかしちょっと可哀想に見えちゃうんだよなぁ。幼体だから小さいし。
「だったらメサイヤ部屋に低いシンクを作れば良いじゃん。カセットコンロで調理しているみたいだからガス台も作っちゃえば。多分ミクよりも火の始末は安全だと思う。」
まぁねえ。じゃ、そうすっか。
「く!」
メサイヤリーダーが飛び付いて来たのは、お礼なんだろうな。
あ、あとその火の始末があやしい姫さんは、私の隣でミズーリのからかいに反応せず、黙々と針仕事してます。
作っているのはメサイヤ部屋に並ぶクッション。毎日毎日増え続けるクッションは、途中から全部姫さん製です。
これは私が作り方を教えてあげたら、
「私もやりたい。やるの。やらいでか。」
と、手が空いた時にやり始めました。
サリーさんもこういうとこを…見習おうにも不器用そうだしなあ。
そうだ!ミシンを作ってあげようか?
「“みしん“て何ですの?」
今、手縫いでやっている作業を代用出来る機械だよ。
「旦那様の故郷には本当になんでもありますのね。」
足踏み式ミシンなら、この世界に突然出しても問題ないかなぁ。
「ただ、もう少しお待ちください。私の針仕事が私の満足に行くところまで成長したら。」
意外と凝り性なお姫様だった。お針子さんをする帝国第四皇女。
「そしたら、お洋服の型紙を作って、ミランカやツリーちゃんのお召し物を是非拵えてあげる。そんな事も出来ますのね。」
そして、ささやかな野心家の第四皇女。
どんぶりを洗う幻の霊獣メサイヤ。
私のシャツにアイロン掛けする女神。
八重歯で糸を切ってるお姫様。
そして、森の精霊と次の計画を練る私。
そんないつも通りの午後がゆったりと過ぎて行きます。
そしていつもの夕方です。あの人が来ました。
「はははははははははははは。」
「本日、金山の開山式が始まりました。」
カピタンさんがハナタカダカに報告してくれましたけど、朝に精霊さんから聞いてるからなあ。
「へ?」
いや、現場監督してくれる精霊さんが朝ごはん食べに来るついでに教えてくれたんです。
「相変わらずといいますか、なんと言いますか。」
「ははははははははははははは。」
「…なんと言いますか?あの…あの声は姫さまですよね。」
まぁねえ。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。」
「一体何があったのか、教えて頂いても?」
いやあね、姫さんが針仕事してたんだけど。
「何と?料理についで針仕事までも?どうなりましたか姫さまは?」
私の成長ガーとか、なんか立派な事言ってましたけど、試しにミシンを出してみたら止まらなくなっちゃったの巻です。
カピタンさんに居間を除いて貰いましたが、そこにいるのは高笑いしながら足踏み式ミシンでクッションを作りまくる、ミシン魔神ミク・フォーリナーでしたとさ。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。」
「あれ何でしょうか?どうしましょうか?」
その内、電池切れで倒れるから大丈夫。
「それは大丈夫というのでしょうか?」
「はははははははははははは、は?」
ほら。
ふにぁあとクタクタになる姫さんの身体は、ミズーリが抱えてベッドに連れて来ます。
ね?
「ね?じゃありませんよ。本当に大丈夫なんですか?」
調子に乗るとエネルギーが切れるまで暴走するのも姫さんですからね。
カピタンさん。これを。
「これは?枕?ですか?」
姫さんが作ったクッションです。ミランカ姫に渡して下さい。
なお、クッションを貰ったミランカ姫は
「お姉ちゃん!」
と叫んで、クッションを抱えながら、ずっとニコニコしてたそうです。
その姿を見た少女兵達は、お姉ちゃんっ子のミランカ姫が可愛いと、姫姉妹ファンクラブを作ったとか。
あ、気球を渡すの忘れた。
「(ほうほう 神代檜のお風呂ってこうなんだ)」
「(お風呂から木の良い匂いするね)」
「(この白いお湯は うちらの温泉とは違うね)」
「(皆んな聞け 一言に温泉と言っても幾つか種類があるらしい)」
「(旦那様マスターの温泉は 火山熱で温めてられた 硫黄泉と言うものだそうだ)」
「(これが“しゃわー“と言うものか)」
「(こら勝手にお湯を出すな)」
「(あれ?お湯の出方が時々変わるよ)」
「(それで私達は筋肉の凝りを取るのさ)」
「(ツリーずるい)」
「(旦那様マスターに作り方を教わろう)」
なんだなんだ?旦那?何これ。
精霊さん達は厩舎でもうろちょろしてんのか。馬くんから戸惑いの声がします。
「旦那様。どうしましょう。私幸せ過ぎて、気を失いそうです。」
さっきまでミシンの快感に白目剥いてた姫さん?ご飯を作りなさい。皆んなは晩御飯を食べに来てますから、大量に炊きなさい!
「何ですと!」
それはもういいから。
「ご飯を炊くのは私の使命ですが。」
使命なんだ。
「何か特別な献立にするんですか?」
炒飯とキノコのバター焼き。
「何ですと!」
はいはい。
ツリーさんは仲間の精霊の案内をしているので、昼間に石突を外したキノコはミズーリが七輪で焼く役(韻、じゃなく洒落)です。
姫さんは、冷蔵庫の野菜室から椎茸を取り出すとレシピ本を傍に、ネギと豆腐と椎茸のお味噌汁にチャレンジするみたい。
さてと、私はこの松茸モドキで土瓶蒸しといきますか。百合根・銀杏・蒲鉾と顆粒出汁でいささか手抜きですが。圧力鍋で火を通したのち、土瓶を、えーとメサイヤちゃん達が帰ってきたら何人いんだ?
適宜
なんですか万能さん、その意味をなさないアドバイスは?
ぶっちゃけ
マスターが一つ作ってくれれば 外側の土瓶から中身まで丸々コピーできますから
味気ないなぁ。料理する意味ないでないですか。
マスターの言葉が乱れてますが
大人数の時は利用して頂ければと提案です
何しろ精霊達はいざとなれば 無限に増殖しますから
そう考えれば、万能さんに頼むのが正解かな。まぁ良いや。なんかメサイヤ部屋からくーくー聞こえてるし、皆んな帰って来たのかな。
「旦那様。ご飯が炊けました。」
うん、そしたら寿司桶に全部あけて、団扇で仰いで下さい。
「?お寿司?」
いや、炊きたてのご飯は少し水分が多いから、団扇で飛ばして下さい。そうすると、炒飯がパラっと仕上がるから。
「炒飯という料理がなんだかわかりませんが、わかりましたわ。美味しくするには余念がない私達ですものね。」
あれ?作った事無かったっけ?
「毎日献立が変わるから、ミクは全部初見になるだけじゃないかなぁ。あたしだって、コーヒーと蕎麦以外は怪しいもん。」
記憶力が心許ない女神ってのもなんだなぁ。
炒飯と言えば冷飯で作るのがパターンなんだけど、単に我が家には冷飯が無いからですけどね。お櫃に残っていても、娘達なりメサイヤちゃんなりが食べ尽くしちゃうから。
具材はシンプルに。
刻みナルトと卵、ネギで。
玉葱はありとあらゆる料理における基本食材ですが、炒飯に入れると甘くなっちゃうから、私は入れない派です。
溶き卵とナルトを中華鍋で炒めて、卵が半熟になった所にご飯投入。塩胡椒で味付けをしながら、香り付けに醤油をぐるぐる掛け回しながら刻みネギと一気に強火で炒めます。
生前にシューさんという中華料理の達人が作っていたトミトク炒飯ですが、このシンプルな味が私のお気に入りです。
なんですか?メサイヤリーダーちゃん。
メサイヤリーダーが、私の頭の上に乗っかってくーくー言ってます。
あゝ、お姉ちゃんが帰ってくると。
「く」
こっちのお姉ちゃんはサリーさんだな。
なになに?なんかデカいもの抱えてるから場所を開けろと?
えーと。
全員退避ー!!!




