姉妹
「何ですと姫」は、昔、ミク姫を一晩閉じ込めた、今じゃウォークスルークローゼットになって要る部屋にお引き取り頂く事にしまして。
「誰が何ですと姫ですか!痛い!」
「旦那様に不敬な真似すると殴りますよ。」
「殴った!今お姉ちゃんに殴られた!」
安定のあるあるネタをする姉妹。
「大体、前回会った時は、そんな口癖なかったでしょう?」
「なんーですーと!の組み合わせが口に気持ち良いもので。」
姉妹だなぁ。昼に胡椒ステーキ食べた時、お姉様も似たような事言ってたっけ。
とりあえず、ミランカさんはすっかり懐柔されて、お姉様→お姉ちゃんと口調も砕けたので、世話を全部任せることにしました。
「うきゃあ!このお風呂お湯が白いいいいい!」
「なんですか?しゃわあ?うひゃあお湯が空から降ってきたあー。」
「お姉ちゃんお姉ちゃん?お湯が塊になって降ってきましたぁ!肩に肩にぃ!あれ?なんか気持ちいいかも。」
「石鹸ってなんですか。わわわわ身体が泡だらけです!」
「ふヒィ。お湯気持ちいいです、声出ちゃう。」
「お姉ちゃん?いくら旦那様とは言え、素っ裸で出て行くのは、わぁ見られたあ。」
「…確かにお風呂上がりの牛乳はとっても美味しいですけど。見られちゃったんですけど。え?旦那様は気にしない?むしろ気にもしてくれない?それは女として忸怩たるものがあるのですけど…」
「わぁ、暖かい風が出てきたあー!え?これで髪の毛を乾かすの?わぁ、このブラシ気持ちいい!」
我が家の温泉体験の全反応をテンプレ通りにしてくれるミランカ姫でした。
…EかFはあったかな?おっぱい
「今晩くらい私が添い寝してあげたいのです。」
と、姫さんがすっかりお姉ちゃんに戻っちゃったので、せいぜい2畳程度のウォークスルークローゼットを4畳半に拡張。
昔は結構ズドドドドとか効果音付きでしたけど、今は空に浮いてる事もあり、特に注意を払う心配もなくなったせいか、無音でスポン!と拡張完成です。
家族達は拡張を確認したら、無反応で三々五々自分のする事に戻って行きますけど、
「あわわわわわ…部屋が、部屋があああ。」
ミランカ姫が腰を抜かしてる。邪魔なので姫さんにメサイヤ部屋に運んで貰い、万能さんからダブルベッドの布団セット、簡単ランタン(韻を踏んでる)を置いて出来上がり。
んじゃ後はお好きな様に。
「うぎゃああ!何でこの家には幻の霊獣だけでなく、森の精霊がこんなにいるの?なんで皆んなでお鍋突いてるの?」
ん?精霊さん遊びに来てんの?
お鍋っておでんを食べてるのか。
「(お初さんなので 驚かしに来てるの)」
…なんか森の精霊さん、随分はっちゃける様になりましたね。
「(私がこの家にいるから)」
私の影響ですと責められてる気がするので、反応しませんよ。
お風呂上がりの精霊が、全裸で冷蔵庫からアイス(ツリーさんの等身大)を取り出してペロペロ舐めている姿を見た妹ちゃんがまた驚いて騒ぎ出したので、姫さんに無理矢理連れられて行きました。
女神と姫と精霊が毎日裸族になる我が家なので、…カピタンさん辺りに知られるとまた叱られそう。
というか、最近では「姫閣下を何卒、何卒宜しくお願いします。」って、頭をぺっこり90度にし出すのです。その内イリスさん並みに土下座が安くなりかねません。
一応、軍の武官文官の両巨頭が土下座する家とか、流石に人聞きが悪いから姫さんを通じて妹ちゃんの口封じをさせましょう。
…女神やら姫やら精霊やら、ついでに身体の構造上どうやったら出来るのか馬やら霊獣やらが、お気軽に土下座しているんですけど。
急遽拵えた寝室からはしばらく小声の囁き声が聞こえてましたが、もう2人の寝息しか聞こえなくなりました。
一応、扉を付けてあげようとしたのです。
そしたら。
「姉妹丼を召し上がるのはいかがでしょうか。若くて真っ新な新品(重複)ですよ。」
とムッツリ姫がとんでもない事を言い出したので、居間のベッドと同じ強制鎮静装置を仕込んでおきました。
私達はミズーリのお酌でキュッとやりながら、温泉計画を練ってます。
「(ウチの女神は酒に弱い!)」
私には甘ったれて強請ってくるミズーリも、ツリーさんの指摘には弱く、無理に呑もうとはしません。
「大体、神なのに御神酒を呑んだことなかったのよね。死なんか司ってるもんだから、お酒は死者に捧げられるものだったし。」
なんかぶつぶつ言ってますが。
…前にも聞いたな、それ。
「なんで精霊達が皆んなしてお猪口差し出しているのよ!もう、おつまみを作らないと駄目じゃないの!」
あれ?精霊さん達こっち来たの。
ぶつぶつぶつぶつ言いながら、七輪でスルメや油揚げを炙り出す優しい女神様を尻目に私はツリーさんと地図を広げます。
温泉開発に伴う入浴施設(含む露天風呂)、ガラス製造工場と温室。温泉を引くパイプラインのルート。
割と大掛かりな工場になる為、環境アセスメントを森の精霊に確認して貰い、一番自然環境に影響のない場所とルートを確定させる必要があるんです。
というか、ミズーリさんはなんで小麦粉練りはじめてるの?
「明日の朝ご飯て唐揚げパンでしょ。まずは土台のパンを作ってるの。今の内に種を作って一晩発酵させます。そうそう、牛乳を加えたミルクパンとかどうかしら。」
唐揚げを挟むんですよ?
「美味しいじゃん。ほら、キクスイの川辺で食べたハンバーグサンド。あれ今思い出すと、トールさん、パンを変えてたでしょう?」
よく分かりましたね。
「唐揚げも変えてみるから。唐揚げ粉の調合も変えるし、味醂酒に今から漬け込みますのさ。油淋鶏も作ってみるの。」
ウチの女神様は、最近やたらと努力家になりましたね。
「米と豆腐と魚はミクに取られたからさ。和食は譲っても洋食は譲らないのさ。」
のさって。
「あゝこら、今お燗つけてるからぁ。並びなさい。」
お猪口を置いて、枡に持ち替えて並ぶ精霊さん達。妹ちゃんが起きてたら、また絶叫が響き渡るとこでした。
翌朝。
ミズーリは発酵の終わったパンの元を掴むと石窯の前に陣取り、釜の温度を測りながら七輪で唐揚げを作ってます。
ツリーさんはとうもろこし粒とクリームを煮込んでコーンスープを、塩加減遠慎重に測りながら煮込んでます。
や
で、姫姉妹はというと。
「お、おはようございます。ご主人様。」
私は別に君のご主人様になった覚えはない筈ですが。
前で手を組んで恥ずかしそうに視線を逸らす妹ちゃんの背中をパンと叩いた姫さんが
「さぁミランカ。まずは朝起きて私がする仕事は、皆様にご飯をあげる事ですよ。」
シンク下から鍋を取り出した姫さんが、オタマを振り回しながら、まずはチビのケージにカリカリをあげてメサイヤ部屋に消えます。
「あ、待ってよお姉ちゃん。」
慌てて妹ちゃんが後を追います。
だから、動物達のとこ行くならパジャマを着替えなさい。
「ミズーリ様が洗ってくれるから問題なーし、で〜すわ〜。」
「任せなさい。」
ミズーリは姫さんを甘やかし過ぎです。
「美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい。」
千切りキャベツをたっぷり挟んだ唐揚げパンとコーンスープ、胡麻ドレッシングサラダ。唐揚げパンにはマヨネーズとタルタルソースのお好きな方を。飲み物は冷たいレモンティー。朝にしては、少し重た目ですが、妹ちゃんには効き目満点みたいですね。
「美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい。」
「ほらミランカさん。涙と涎と鼻水が出てますよ。ちーんしなさいちーん。」
ちーん。
ティッシュを妹ちゃんの顔につけてる姫さん。夕べも見た様な風景です。
「旦那様。今日私はミランカを連れて入隊手続きをして参ります。入寮の手続きと引越し、お買い物をして参りますから、お昼は要りませんわ。お昼はミランカと食堂で頂きますから。そのかわり、晩御飯を楽しみにしてますね。」
「良いなあお姉ちゃん良いなあ。またご主人様のご飯が食べられるんだ。」
「何を言っているんですか、ミランカさん。この先あなたに大切な殿方が出来た時、その殿方が皇女という身分に価値を見出さない方だったらどうします?女性としての価値を磨きなさい。炊事・お洗濯・お掃除。常に旦那様を労わり、子供を慈しむ。そういう生き方がしたいのならばね。」
「出来るかなあ。」
「女の幸せを掴みたいのなら、努力しなさい。あなたが努力を絶やさない限り、私も旦那様も応援して手助けもしていきますわ。」
ケタタマシイ第五皇女を連れて、ムッツリスケベの第四皇女は去って行きました。
大丈夫かなぁ。
「何が?」
いやミズーリさん。ミランカさんは皇族だから基本的な教育は出来ているそうだけど、人間関係って色々あるでしょ。女性だし。(偏見)
大丈夫ですよ この駐屯地におけるミク姫のカリスマ性は大したものです
彼女の妹というだけで もう大丈夫
いや、人の好き嫌いってそんな簡単なものじゃないでしょ、万能さん。
マスターはご自身の評価を低く見過ぎです
森の生活を快適にさせて
今まで食べた事のない食事を提供提案して
森の精霊と幻の霊獣と暮らす存在がマスター
そして、マスターの家族と自他ともに認められるミク姫
ミク姫は森の皆の憧れの存在だし
その妹も同じ存在に成長していくでしょう
そんなもんかねえ。
何しろミク姫は たった一晩でミランカ姫が纏う色々なものを引き剥がして
素直な少女の地を出しました
皇族にして素直な少女
あとは本人の心がけ次第で ミランカ姫もミク姫に並ぶカリスマ性を身につけていくでしょう
そんなもんかねえ。
いや、姫さんの「徳」は、普段からわかっているつもりだけども。
「彼女達」を育てて行くのが マスターが作ろうとしている学校の役目ですよ
なんだか急に面倒くさくなっちゃった。
そんな責任、取らないし取れませんよ。




