6 離別と旅立ち
帝都の混乱はようやく収まり、ライラはクロードとともにアルベルへ帰ることとした。
既に冬の時期であるが、雪結晶病の心配はなく普通に過ごせる。
「とはいえ、無茶はしてはならない」
荷造りをしながらクロードは何度もライラへ注意をしていた。
公都で防寒具をいろいろ揃えてからアルベルへ向かう予定であった。
「奥様」
困ったようにリリーは手紙を持ってきた。手紙の差出人をみてライラは深くため息をつく。
「そんなものは暖炉にくべてしまえ」
クロードに言われるが、ライラは一応手紙の内容を確認した。
幽閉されているアメリーからの手紙である。
あの騒動の後、アメリーは病院へと入院し治療を受けた。
治療が終わった後は、監獄塔へと幽閉されている。
アメリーの裁判はすでに終わり、アメリーの処断は決まっていた。
罪状は帝国・公国を混乱させた国家転覆罪である。
第三皇子暗殺未遂に関しては証拠がないため罪状に入れられなかったようだ。
死刑にすべきだという声もあったが、彼女の精神年齢、幼少期の環境を考慮して更生を促す為に修道院へ送ることとなった。
聖国の離島修道院である。
アメリーにとっては絶望的な内容であろう。それでもエドガーがそこに寄付金を送っており、非人道な扱いは受けないだろう。贅沢はできなくとも衣食住の心配はないと聞かされている。
それでも納得できないアメリーは必死に罪が軽くなるようにライラに手紙を何度も送っていた。内容はレルカのせいで自分はこうなったのだという内容で、反省の色は見当たらない。
無視してもよかったが、ライラとしてはここですべての区切りをつけたかった。
公国へ旅立つ前日にエドガーと相談して、アメリーの面会をすることになった。
クロードが一緒についてくるというが、ライラはエドガーと一緒にいるから大丈夫と彼を抑えた。
アメリーが収容されている監獄塔は貴族が収容される場所でお城のように立派だった。
部屋も質素であるが快適な空間になっている。
「あ、ライラお姉さま! 来てくれたのね」
地味であるが清潔なドレスをきたアメリーは嬉しそうにライラへ声をかけた。
胸元から首筋までやけどの跡がみられた。ユァンに乗っ取られた時、クロードの攻撃を受けた影響であろう。
綺麗な肌に傷がつくのはとても痛ましい。同時に、それすらも色気になって魅力的にみえるのはアメリーの恐ろしいところだ。
「聞いて。私、離島の修道院へ行かされるって。ひどいわ」
ぐすんとアメリーは泣いた。
「ねぇ、ライラお姉さま。お姉さまからも言って。私の罪が軽くなるようにって」
「どうやって?」
「簡単よ。私を許すといえばいいのよ」
屈託のない笑顔でいうアメリーにライラはどうしようかとエドガーの方をみた。
エドガーは前日相談した通りで構わないという。ここで希望をもたれても後々厄介であろう。アルベルまで手紙を届けてきそうだし。
「はっきりと言います。私はあなたを許しません」
レルカの影響もあっただろう。幼少期の環境もあっただろう。
「なにを、ゆるさないの」
「クロード様と無理に結婚したこと。これが一番許せない」
アメリーに無実の罪をきせられて、投獄されたこと。これはアメリー自身がしたかわからない。ただし、ライラに耳打ちしたクロードを奪おうとしている発言は今も耳に残っている。
他にもある。
多くの人を巻き込んで、混乱させたこと。今彼らは自分のしたことに苦しみ、後遺症に悩まされているという。アメリーはその重大さを理解できていないのが悲しいところである。
でもそういってもアメリーはライラをいい子ぶっているといって取り合わないだろう。
「何よ。結局嫉妬じゃないの!」
アメリーはバカにするようにライラを笑った。彼女と何度か会話を試みようとしたが逆に疲れてしまう。
「とにかく私が言いたいのはこれだけよ。これが最後。今後私に関わらないこと。何があろうと私はあなたを許さないから」
手紙はすべて拒否するとまでいい、ライラはようやくアメリーから離れた。
監獄塔を出る途中、エドガーに声をかける。
「精神的にああいってよかったのかしら」
「ああ。はっきり言わないとアルベルへ大量の手紙を送ってきそうだし。後は俺と修道院の連中に任せておいてくれ」
アメリーへの与えられた罰が修道院への追放と聞き、思ったよりも軽いなと感じた。だが、ライラはそれ以上の罪を求める気は起きなかった。
せいぜい求めたものは、二度とライラとクロードに関わらないことである。それが認められただけで自分はよしとしている。
もうこれ以上はアメリーに関わりたくなかった。
◆◆◆
アメリーと面会した同日の夕方にリザが帰ってきた。甥との初対面ができてライラはうれしくなった。
抱っこさせてもらい、甥の名前を呼ぶ。ミカという可愛らしい男の子だ。
「辺境伯殿も抱っこしてみましょう」
リザは嬉しそうにクロードへ息子を預ける。慣れない様子でクロードはリザの指導で赤ん坊を抱っこする。
ようやく落ち着いて、クロードの目元が柔らかくなった。
ライラは公国へと旅立ちはトラヴィスも一緒に行くとなった。
公都では第三皇子がようやく目を覚ましてリハビリを受けているという。
迎えにいく必要があった。
「お姉さまたちは大丈夫ですか?」
トラヴィス指名手配のこともあり、心配していただろう。
それなのにまた家を空けるとは。
「大丈夫よ。あなたのことを心配しているのだから、うんと頼ってあげて」
リザはこつんとライラの額につける。子供への扱いでついつい癖になってしまったようである。
翌朝になると馬車がすごい勢いでレジラエ伯爵家へ突進してきた。
「間に合った」
ジュリアは馬車から降りて、ライラへどうしても渡したかったというものを持ってきていた。袋を開けてみるとアンバー、琥珀石のブローチであった。
あの時池から落としたものである。でも、新品同然に思える。
「新しく作ったのよ。ちょうど琥珀石があったし」
オズワルドが送ってきた琥珀石のことであろう。
「ありがとう。もう落とさないようにするわ」
ライラはジュリアにお礼を言った。
「いいわよ。落としたらまた新しいものを作るわ。今度はもっと素敵なデザインにして」
ライラは父と姉、友人に見送られて公国へと旅立った。
クロードは馬に乗り、ライラの馬車を守るようにしていた。
馬車の中にはライラと一緒に乗っているのはリリーである。兄は別の馬車に乗っている。
ふと馬車の中にブランシュがいない。そう思いあたりを見渡してしまう。
もう会うことはないとわかっていても、当たり前のようにライラについてきていた護竜の姿を探してしまう。




