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【完結】ライラ~婚約破棄された令嬢は辺境へ嫁ぐ  作者: ariya


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6 崖の下の白トカゲ

 クロードがジーヴル城に戻る前日のことである。


 リリーのおかげでライラはだいぶ体調を戻した。

 その間に城内にはライラの悪い噂が広まっている。

 クロードがいないからか、ライラの耳にも届く程遠慮がなくなっている。


「しばらく城内を歩く時は、エドワード様にお供してもらいましょう」


 エドワードが通れば声も潜められるはずだ。

 リリーが心配するが、ライラは笑った。


「大丈夫よ。私にはあなたがいるもの……でも、あなたがいじめられていないか心配だわ」

「私は平気ですよ。いじめられたら、いじめ返してやります」


 昔は近所の悪ガキからちび怪獣として恐れられていたのである。

 リリーの意外な過去を聞き、ライラはくすりと笑った。


「奥様」


 リリーは目の前に警戒させるように声をかけた。


 カレンがこちらの方へ近づいてくるのである。

 サマンサらに比べればそれほど気疲れはしない相手である。

 大丈夫だとライラは安心させるように言った。


 ライラの目の前までくるとカレンは突然涙をあふれさせた。

 目の前で年下の少女が涙を浮かべてきたのでライラは内心慌てた。

 

「どうしたの?」

「奥様に相談する程ではありません」


 ぐすぐすと涙声でリリーは怪しいと感じた。


「話くらいは聞くわ」

「でも……」


 ちらりとカレンはリリーの方を見た。この動作にリリーはむっとして唇を軽く噛んだ。


「それじゃあ、私の部屋へいらっしゃい。リリー少し席を外してちょうだい」

「奥様」


 サマンサ一味の令嬢と二人っきりになるなど危険である。

 次は何を言われるか。

 二人っきりになればまたありもしない噂のネタにされるだろう。

 

「そうですね。私のしたことは許されません……でも、申し訳ありません」


 わぁっとカレンは泣き出し今までの自分の無礼を詫びた。


「噂なんてもう今更のことよ」


 もはや今以上に噂が酷くなろうとライラにはあまり変わらないことだ。


「とにかく話だけは聞きたいの」


 目の前で弱弱しく少女が泣かれていれば放っておくこともできない。


「わかりました」


 部屋のすぐ外で待機するとリリーは言った。

 ようやく二人っきりになれてカレンはゆっくりと泣いている理由を話した。


「私の弟が熱病におかされて、ひどいひきつけを起こしてしまったのです」

「まぁ」


 ライラは幼いカレンの弟に同情をした。

 カレンからも嫌がらせは受けていたし噂を流した工作員の一人であるとわかっている。

 それでも、彼女の弟の話を聞いて良い気味だとは思えなかった。


「薬には露の花が必要なのですが、真夜中でもヒリス山は魔物が出ない安全な場所です。でも、暗くて心細く……」

「騎士に護衛を頼むのは」

「騎士は全く相手にしてくれません」


 満月の夜には楽しみだった飲み会があるからと断られたという。


「サマンサ様たちにも相談したのですが、夜の野山でドレスが汚れるからと嫌がられて」


 他に頼る者もなく、カレンは恥を忍んで今まで嫌がらせをしたライラに助けを求めたのである。


「奥様、今までのことは心よりお詫びします。どうか、一緒にヒリス山へ行っていただけませんか。これから私は心を入れ替え奥様にお仕えしますから!」


 カレンは床に膝をつき、頭を下げた。額を床にこすりつけんばかりの勢いである。


「わかったわ。別に私に仕える必要はないけど、露の花が必要なのね」


 どんな花か特徴を教えてほしいとライラは頷いた。できればイラストがあれば助かる。

 カレンはポケットにしまっていたメモをライラに見せた。

 花の特徴を説明してライラはこくこくと頷いた。


 まずはヒリス山の修道院へ向かうことにした。エドワードに頼んで馬車を用意してもらう。

 リリーはエドワードに頼みむことを渋ったが、ライラに再三頼まれてようやくエドワードの元へと行った。


 リリーとエドワードが馬車の用意している間、サマンサたちに遭遇した。


「まぁ、奥様。まさか、レディ・カレンのお願いを聞いてさしあげるの? お優しいことだわ」


 嫌みなのかどうかはわからないが、今はサマンサたちの相手をしている気分にはなれなかった。


「ええ、修道院で一泊するわ。先日の修道女たちのお願いことを聞けなかったこともお詫びしたいし」

「そうなの。まぁ、お気をつけてください。お城の方は大丈夫です。私がしっかりと守っておきますので」


 今まで、サマンサがジーヴル城を守った時などなかった。ライラが来るまで城の管理をしていたのはエドワードである。

 サマンサが強く仕事を要求したのであるが、日ごろの行いが行いでありエドワードは彼女に決して管理の仕事を割り振ろうとしなかった。


 会話はそこそこにして、リリーが馬車の準備ができたことを告げるとライラはカレンを連れてヒリス山へと向かった。

 リリーも馬車に乗り込もうとするが、カレンが慌てて拒否する。


「あなたのことを信用できません」


 リリーはきっとカレンを睨んだ。


「何て侍女なの」


 城の客人であり自分はリリーより立場は上だと言うが、リリーはつんといった。


「私のお仕えするのは奥様ですので」

「私は騎士の妹なのよ」

「奇遇ですね。私も騎士の妹です」


 あらそうなのとライラは今更ながら驚いた。もしかすると堂々とした立ち居振る舞いはそうした家庭の事情からか。

 リリーはライラの隣に乗り込み、カレンを牽制した。


 カレンはちらりと遠くにいるサマンサの方をみやる。彼女は満足げに笑っていた。

 とにかく目的はライラを真夜中のヒリス山へ行かせることなのだ。

 おまけの侍女がいてもそれは何とでもできると目で言っていた。


 ライラたちが城を発った後にサマンサは傍にいた侍女へ声をかけた。


「しっかりと見たと噂を立てるのよ」


 サマンサがリディアに目配せをして、リディアは懐から小さな布の包みを侍女に渡した。中には金貨が3枚入っている。

 それをみて侍女はこくりと頷いた。


 侍女が立てた噂はこうである。

 廊下でライラとサマンサら令嬢が言い争いをしていた。

 ライラが露の花を見たいと駄々をこねて、サマンサらを困らせているという。

 それを聞いてやれやれ困った奥方だと城内の者はあきれ果てていた。


 真夜中のヒリス山に入り、ライラたちは露の花を探した。


「奥様、本当に良いのですか?」


 勝手に真夜中の山へ入るなど危険行為である。クロードが心配するだろう。


「でも、修道女たちも夜のヒリス山は安全だと言っていたわ。ここは聖女の護符と修道女たちの祈りのおかげで魔物は出没しないようなの」


 修道院にいる修道女たちの間にはいくらか魔力を持つ者たちがいる。彼女たちが祈りを捧げると、聖女の護符が効果を発揮してヒリス山を魔物から守ってくれるそうだ。

 だから、真夜中しか採れない薬草摘みも行われているという。


「危ない場所には近づかないし、大丈夫よ。それより露の花を早く探しましょう」


 そうすれば早めに修道院で休めるのだ。

 リリーは渋々カレンの弟の為に露の花を探し始めた。


 三人で探せば早くに見つかるはずだ。


 ライラはそう思いながら、野山の草をかき分け、露の花を探した。

 カレンがとったメモによると木の根っこに咲くらしい。ライラはくまなく木の根っこを確認しまわった。


 少し湿った場所に咲きやすい。


 ライラは湿度を手で予測しながら探してみる。

 

「あ」


 白い花をみてライラは安心した。カレンが見せてくれたイラストそっくりな露の花である。

 思ったより早く休めそうである。


「レディ・カレン。見つけま」


「きゃああっ!!」


 カレンの大きな悲鳴が響いた。

 声の方へと走ると、カレンが尻もちをついて目の前に現れた存在へ恐怖していた。


 2m以上もあり、にょりとくねった節で連なった生き物がカレンへと襲い掛かろうとしていた。

 白い毛がついているが、節目で連なっており、長い触覚をゆらゆらと揺らしている。


 まるで大きなムカデに毛が生えているようだ。


 あれが雪ムカデ。

 確かに大きい。


 ライラは目の前に現れた魔物に対してどうすべきか混乱した。


「ライラ様、お逃げください」


 傍にかけよったリリーがひそひそとライラに声をかけた。


「でも、レディ・カレンが」

「彼女は私が何とかします。とにかくあなたは自分のことを優先してください」


 リリーはあらかじめ用意していた護身用の短剣を手に握った。

 

「とにかく大きな声をださないように。刺激を与えないように。あれは声と触感で獲物の位置を把握しているのです」


「いやああああっ! こっちに来ないで!!」


 カレンはことごとくリリーが言う正反対の行動を起こしていた。傍にあった石で雪ムカデを威嚇する。

 がつと石をぶつけられた雪ムカデは不気味な声をあげカレンの方へと一直線になった。


「あの馬鹿は」


 リリーは苛立ちながらも短剣を投げた。短剣は見事に雪ムカデの背中に命中する。

 しかし、致命傷にはならず雪ムカデは険しい表情でリリーの方へ姿勢を向けた。


 リリーはもう一つ持っていた短剣に唾をかけ、雪ムカデを迎え撃つ。身を翻し、雪ムカデの攻撃をかわし頭の方へと短剣を向けた。

 雪ムカデの弱点は脳であり、そこに人の唾液をつけた獲物で攻撃すると動きが鈍くなるのである。


 リリーはそう教わっていた。


 しかし、雪ムカデの動きは鈍くならずリリーを投げ飛ばした。木の幹へと投げ飛ばされたリリーは衝撃に頭をくらくらとさせた。


(この雪ムカデ……護竜を食べた奴だ)


 一般的な弱点が通用しない雪ムカデの過去をリリーは察した。

 護竜を食べた雪ムカデは丈夫で、凶悪である。人の唾も耐えられ、人を食べることができる。


 怒り狂った雪ムカデはリリーの方へ突進した。


「リリー!!」


 ライラは両方のヒール靴を脱ぎ雪ムカデにむけて投げつけた。こつんと頭にあたり雪ムカデはくるりと向きを変える。

 正面からみるとムカデの特徴そのままで不気味である。


「リリーはレディ・カレンを守って! 騎士を呼ぶのよ!!」


 ライラはそういいスカートをまくしあげ、野山の奥へと走り出した。


(奥様、ダメです!)


 リリーは叫びたかったが、頭をぶつけた衝撃で思うように声をあげられない。ようやく立ち上がれるようになった時、ライラの姿は山奥へと消えてしまった。


「っひく、ひくっ……何でこんなところに雪ムカデが」


 ヒリス山は安全じゃなかったのとカレンは愚痴をこぼしながら涙を流し続けていた。


「こら!」


 リリーはいつまでもなくカレンの頭を叩いた。


「いつまでめそめそしているのですか。修道院へ行き、騎士に助けを求めるように伝令を出させなさい」


 本当はカレンを置いて自分がすればいいのであるが、今は立つだけで精一杯である。走ることができるのはカレンだけである。


「腰が抜けて、たてないっ!」

「何言っているのですか。こうなったのは誰のせい? わかったなら早くいきなさい」


 リリーは苛立ちながらもカレンを叱咤した。もはや敬語など使う余裕はない。

 ようやくカレンを修道院へと走らせた後、リリーはふらつく足取りでライラが消えた跡を辿った。


 本当は走りたいの走れない身に苛立ちながらライラが向かった下り坂の方へと向かう。

 ようやくたどり着いた先は崖であった。下の方をみると随分と深く、下が真っ暗である。


 ざざっと草の踏む音がして確認すると先ほどの雪ムカデの触覚がみえた。興味を失ったかのように奥へと消えていく。

 崖までたどり着いて、雪ムカデが消えていく。


 もうすでにライラが食べられたのか、もしくはとリリーは崖の下をもう一度確認した。


 崖から生えている木の枝に、ひらひらと布がひっかかっている。

 ライラが身に着けていたドレスの布と同じ色である。


「奥様……」


 リリーはめまいを覚えた。

 それでも立ち止まることは自分には許されない。修道院へ戻り騎士たちにライラの捜索と雪ムカデ討伐を依頼しないといけない。


   ◆◆◆


 リリーが修道院で手当てを受けている間に、修道院で待機していた御者は、カレンと介助する修道女を連れてジーヴル城へと向かったそうだ。

 さすがにカレンでも、騎士を呼ばないという愚かな選択はしないだろう。

 とにかく早く騎士が来ることを願った。


 騎士たちと共にクロードが訪れて来るとは思わなかった。

 リリーは椅子から立ち上がり、クロードの前に膝を突いた。


「リリー、報告を」


 クロードの声は酷く冷たいものであった。ここまで来る間、城で何を聞かされたのか想像できる。

 サマンサたちはどうせありもしないでたらめを言ってライラを陥れようとしたのであろう。


「レディ・カレンが奥様に露の花を一緒に摘んでほしいと願いました。弟がひきつけを起こしたと同情を誘って。露の花を探していると雪ムカデに遭遇し、奥様は自ら囮となり私たちを逃がそうとしました」


 サマンサの言った内容と異なると騎士たちはざわめいた。

 クロードとしてはそんなことだろうと予想がついていたので特に驚いていなかった。

 それ以上に重要なことは別にある。


「何故、お前が助かって、ライラが行方不明になったのだ」


 あまりに冷たい言い方に騎士たちはしんと静まった。


「何の為にお前をライラの侍女にしたと思っている」


 リリーはごくりとのどを震わせた。


「どうか奥様の捜索を。雪ムカデの討伐をお願いいたします。私はその後にいかなる処分も受けます」


 逃げもしませんというとクロードはライラの行方はどこで途絶えたか確認してきた。

 露の花を探していたところから下り坂に、崖がありおそらくライラはそこへ転落してしまったのだろう。


 ヒリス山の地理を確認する。

 リリーの言う崖は深い場所である。修道女たちもそこへ近づかないようにと厳命してあった。

 打ち所が悪いと命を落としている。


 クロードは全身の血が引いていくのを感じた。首筋にひやりと汗が伝う。

 とにかく例の崖付近まで行かなければ。

 たどり着いた場所でリリーの言う通り、崖の下の木の枝に引っかかっている布をみた。


「ここでさっき言われたように分かれる」


 リリーの話では雪ムカデは護竜を食べた可能性がある。となると通常の攻撃は効かない。

 魔剣使い二人は必ず入るようにチーム分けする。

 戦力が足りないチームはライラ捜索中心で動くように。もし雪ムカデに遭遇しても応戦せず近くのチームへと報せる。


 クロードは一名の騎士を連れて、崖の下へと向かう。

 降りる場所を探すかと思いきや、クロードは修道院で用意してもらった丈夫な縄を一番頑丈な大木の幹に縛り付けた。

 そして自分の腰に巻き付ける。


「そなたはここで待機だ。縄を守れ。万が一雪ムカデが現れて縄がダメになったら予備の分を下ろすように」


 これから何をするのか予想できていたようで騎士はこくりと頷き予備の縄を受け取った。

 クロードは縄を握りしめながら、崖をつたって一直線に降りていった。


   ◆◆◆



「はっ!」


 ライラはがばりと起き上がった。自分は洞窟の中で横になっていたのを思い出した。

 寝ていた場所はふかふかの草と木の葉で敷き詰められ、そこまで苦痛ではなかった。

 寝床を貸してくれた存在に感謝しよう。


「今は、上の方が明るいから朝になったのね」


 洞窟を出て崖の上の方をみるとじんわりと明るい日差しを見つけられた。


「ここからどうやって上へあがろうかしら。何か下まで通る道があればいいのだけど」


 うーんとライラは頭をひねる。


「ぴゅー」


 ライラの足元で鳴く存在がふわりと宙に浮かんだ。暗闇の中なれてくると姿がみえてくる。

 手のひらサイズの大きさの翼を持った白トカゲのような姿をした生き物であった。

 くりくりとした目が特徴的で愛くるしい。

 高い鳴き声を聞くとフルートのように感じライラは好きだった。


「私をあそこまで飛んで運んでくれるって? よしよし、いいこね」


 ライラは白トカゲの頭を撫でる。気持ちが良いのかトカゲは目を細めてライラにすり寄った。


「でも、私は重たいから無理だわ。気持ちだけはもらっておくね」


 ライラは愛らしい白トカゲに感謝を伝えた。

 崖の下は不思議なことにふわふわの葉を持つ木や、草がたくさん生えていた。日も当たっていないのに不思議なことである。


 それで助かったのだが。

 雪ムカデに追われているうちに暗闇の中で無我夢中だった。そのせいで崖に気づかなかった。

 木の枝でスカートが破けてしまったのだけは覚えている。

 気づいたら、下に生えている木の枝の葉にひっかかり、草の上に転がり落ちた。


 おかげ様で怪我は打ち身程度だった。

 固いごつごつした岩ばかりであったら打ち所が悪くて死んでいたことだろう。


 崖の下は酷く寒くて震えていると洞窟からこの白いトカゲが現れてライラを中へ案内してくれた。

 洞窟は不思議なくらい暖かく、ライラは朝になるまで白トカゲの巣で休ませてもらった。


「どこか上に繋がる通路とかないかな。山のふもとでもいいわ……」


 道を教えてと言っても白トカゲは教えてくれているようだが、何を言っているか全然わからない。

 ライラの言葉がわかるのでとても賢いとは思うのだが。


 役に立てていないと知った白トカゲはしょぼんと落ち込んでいた。


「良いのよ。あなたのおかげで凍え死なずにすんだのだから」


 ぐーっと白トカゲの腹の音が聞こえる。もしかするとお腹が空いて落ち込んでいたのかもしれない。

 そう思うとおかしくなる。


「そうだわ。クッキーがあるのよ」


 ライラは肩にかけていたポーチを開けた。中には先ほど手に入れた露の花と、ハンカチに、クッキーである。

 落ちた衝撃で形が崩れてしまったが味は悪くないはずだ。


 再び洞窟の奥に戻って、ライラは白トカゲとクッキーを半分こしながら朝の慎ましやかな食事を楽しんだ。

 クッキーというものを初めて食べたようで白トカゲの目がきらきらと光り始めた。

 わかりやすい反応である。


「かーわいいな。イセナにもあなたに似た可愛い子がいたのよ。トカゲの子で、友達のペットだったの」


 肌の色がだいぶ違うが、思い出の子が真っ白だったらこんな感じであろう。

 爬虫類系の魔物とかは苦手であるが、手のひらサイズのトカゲや目の前の子は平気である。

 ライラはすっかりと愛着をもって白トカゲを何と呼ぼうか考えた。


「名前が欲しい……うーん、何て名前がいいかな。ブランシュとか、安直だけどどう?」


「ぴゅー!」


 嬉しそうな声にライラはふふっと笑った。

 許されるのならこのままお城に連れて帰りたいな。


「でも、あなたもお家があるし……クロード様も許してくれるかどうか」


 そういえばこんなことになって結局またクロードに怒られてしまうな。


「結局私はあの人を怒らせちゃうのね」


 悲しいけど、仕方ない。許してくれるまで謝ろう。


「クロード様、申し訳ありません」


 試しに呟いてみる。


「謝るなら私の方を向いてくれたらどうだ?」


 後ろから声がしてライラは息を呑んだ。後ろを振り返ろうとする前に、手が延ばされそのまま後ろの人間に抱きしめられた。

 肩の方をみるともう一度会いたかった金色の穂のように美しい髪が広がっている。

 酷く髪が乱れている。

 もしかすると崖を自力で降りて来たのか。結構急な崖だったと思うが。


 無茶なことをするのね。

 

 人のことは言えないが、ライラはそう思った。

 口にすれば怒られてしまうのがわかる。ライラはすりっとクロードの髪に頬をすり寄せた。



  洞窟の中で薄暗く相手の姿をよくみれない。ライラはそれでも後ろにクロードがいると実感して、安心してしまった。

 立ち上がろうとしても思うように立ち上がれない。

 それに気づいたクロードは抱えようとするが、ライラは首を横に振った。


「しばらく休めば動けます。少し待ってください」


 振り返る彼女の顔を何とか目をこらし見ようとする。

 怪我を感じられるが、どこがどのように怪我を負っているのか把握ができなかった。

 崖の上ではいつ現れるかわからない雪ムカデの討伐が続けられている。

 早めにライラを安全な場所へと連れて行きたかった。


「クロード様、その……すみませんでした」


 ライラは改めて謝罪を述べた。


「何が?」


 問われるとライラは答えるのに悩んでしまう。どのあたりのことをまずいうべきか。

 やはり一番触れてほしくなかった話題に無理に立ち入ろうとしたことをまずは伝えたかった。


「あなたが嫌がっているのに気づかず、讃美歌をねだってしまいました」


 クロードが音楽を嗜むと聞いて、興味があった。どのように歌うのだろうかと聞いてみたかった。

 あのような反応をするというのは余程触れてほしくない部分だったと思う。


「むぎゅ」


 右頬が強く引っ張られた。クロードが自分に何をしているのか理解できない。


「違うだろう。真夜中にヒリス山の奥へ入ったことだ。護衛もつけず女だけで入るなど」

「ですが、ヒリス山は安全な場所で、修道女の方々も夜しか採れない薬草を摘まれていると聞いております」


 聖女の護符と、修道女の祈りによって強化された結界で山に魔物は現れない。安全だと言われた。


「昔に比べて山の結界が弱まっている。害獣や魔物が乱入してきても不思議ではない状態であった」

「そうなのですか」


 しかし、そのような話は聞いたことがない。


「そうだな。私も久々に来て、ようやく気付いた」

「結界を感知できるのですか?」

「これでも幼少期は修道院にいた。結界を張るために祈りと讃美歌をやらされて……」


 クロードは思い出して、ちっと舌打ちをした。自分で口にしながら苛立つなど、勝手なことだと自身を責める。


「余程、嫌なことがあったのですね。この話はここでやめましょう」


 謝罪は帰った後に改めてしたいとライラは立ち上がった。クロードはその手を握り、もうしばらく座るように頼んだ。


「そなたが讃美をねだったことで謝る必要はない。知らなかったことだし、勝手に不快な気分になった私が悪かった」


 ようやくクロードは本来の目的を口にした。まずはライラに謝りたかった。


「いえ、いいのです」


 クロードの予想外の言葉にライラは慌てて首を横に振った。

 酷く静かな空間である。

 この洞窟には二人しかいない。

 クロードは上の方へ戻る前にここでしかできない話をしたかった。

 同時に早く戻らなければと思ったが。


「少し勝手なことだが、ここで話してもいいか?」


 何を。


 尋ねる前にライラは首を縦に振り頷いた。


「私が、修道院で過ごしていたということを知っているな」


 リド=ベル公国へ入る前に、ライラは帝都で歴史を学んだ。その時にクロードの身辺についても教えられていた。

 クロードは大公の異母弟であったが、修道院で幼少期を過ごしていた。存在自体も大公家から忘れ去られて。


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主にアルファポリスの方で連載しております。もし宜しければリンク先へお越しください。 一部設定を変更しておりますが、流れはほぼ同じです。
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