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【完結】ライラ~婚約破棄された令嬢は辺境へ嫁ぐ  作者: ariya


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4 クロードの秘密

 数日の間で噂が拡大していくとはとライラは嘆息した。

 どうやらサマンサ側に噂上手な侍女がいるようだ。

 もしくは。


「よほど、城内には娯楽がないのね」


 噂の内容を聞いたリリーは酷く怒っていた。

 ライラのことを知らない者が面白おかしく吹聴するとは。


 仕事中に使用人たちから同情されて、何かあればすぐに相談していいと言われた。

 リリーはすぐに噂を否定したが、その程度で城中に広まった内容は是正できない。

 リリーの悔し気な様子にライラは少し冷静でいられた。


 それでも噂の流れがここまで拡大していくとは。

 クロードの耳にも噂が届いているだろうか。

 考えているうちに血相を変えたエドワードがライラの部屋へと飛び込んできた。


「奥様、たいへんです。旦那さまが、従僕を捕え騎士訓練所へ引きずり出していきました」


 理由が何となく察せられてライラは腰をあげてエドワードに訓練所へと案内してもらった。


 クロードが従僕を訓練所へと引きずり出した経緯はライラの予想通りである。

 ライラのマイナスイメージの噂を言い、ライラのことを嘲笑したからである。


「お、お許しください。旦那様」


 お喋り好きな従僕は青ざめて平服していた。

 目の前には剣が置かれている。訓練所到着後にクロードが従僕に投げつけたのである。


「そなたは今私の妻を愚弄したのであろう。それは私への愚弄である。なら、やるのは一つだ。名誉を傷つけられたのであるから命をかけて決闘しよう」


 アルベルの、公国の英雄相手に従僕が勝てるはずもない。真剣での勝負であり、もしかすると殺されてしまうかもしれない。


「ああ、申し訳ありません。申し訳ありません」


 一向に剣をとりもしない従僕にクロードは胸倉を掴んだ。


「お前は先ほど何と言った? 私の妻が酷い悪女? 冷たい女で、怖い? あんな女を命令で娶らされた私が気の毒だ?」

「ああ、申し訳ありません」

 

「クロード様」


 ライラは訓練所へと飛び込みクロードの手を握った。従僕を放してやり、彼のことはバートに任せた。


「どうかお怒りをお解きになってください」

「それは……」

「私の為に怒っているのでしょうが、やりすぎです」


 ライラは従僕の方へと振り返った。


「口は災いの元です。これからあなたの道は二つ。このままクロード様と決闘するか、それとも城を出るか」


 ライラとしても自分を悪く言った者をただで許す気にはなれない。

 他にも悪く言っていた者は多くいるが、クロードの目にとまった。

 ライラも大目に見る気はない。

 恨むのであれば主人の耳に届けてしまう自分の軽率さである。


 従僕は後者を選んだ。

 ライラはバートに指示を出す。


「エドワード、あとはお願い。紹介状も出してあげて」


 さすがに身一つで放り出すのは気の毒である。しばらくの生活費用と今後の職探しの手伝いはエドワードにお願いした。

 ライラの願いを理解しエドワードは従僕を連れて訓練所を去った。


「何故止めた! あんな奴、紹介状も書く必要はないだろう」

「夏が過ぎれば冬になります。職のない状態で過ごすのはあまりに不憫でしょう」


 それに今ので痛い目をみたであろう。

 クロードに殺されそうだと恐怖を抱いただろう。


 今もなお怒りに震えているクロードをみてライラは従僕を気の毒に感じた。


「私の為に怒っていただいて嬉しいです。ありがとうございます」


 ライラは微笑みクロードの手を握りしめた。

 その姿をみてクロードは深呼吸をして、ライラの頭を撫でた。


「今回だけだ。これでまた別の者が出たら容赦しない」


 怒りは落ち着いたようである。ライラはほっとした。

 帝都でのヴィノ伯爵の一件の時もあったが、クロードがここまで熱くなりやすいとは思わなかった。

 どちらも自分の為に怒っていたというのは悪い気分ではないが、これがいずれ彼自身を追い詰めることにならないか心配である。


 この一件で噂が途絶えるかと思ったが、そういうわけでもなかった。

 クロードを誘惑した悪女、と新しい情報が付加された。

 変わったのは、さすがに噂をクロードの耳に届けないように用心するようになった程度であろう。


 これにはライラも頭を抱えた。


 何故こんなにライラが悪く言われ続けているのか。

 それはライラが帝国出身だからだ。


 アルベルの不幸は帝国支配によって始まったといっていい。

 昔はこの土地には護竜が生息していた。人々は春と夏を手に入れる為護竜を崇拝し、護竜の天敵の雪ムカデを退治してきていた。


 雪ムカデは護竜とは対極の存在で、冬の気を強くさせる。

 数える程度であれば問題ないが、百匹以上生息していれば冷夏となり作物が育ちにくくなる。

 平均寿命が2、3年程度であるが、護竜を食せば何年も生き続けていく。


 中でも何匹もの護竜を食した雪ムカデが出てくればそれは冬の山の主となり、アルベルの春夏を奪う。巨大雪ムカデ、親玉雪ムカデなどと呼ばれている。

 厄介な雪ムカデが出現しないようにアルベルの民は雪ムカデ退治にいそしんでいた。


 しかし、帝国支配の中、武装を禁じられたアルベルの民は雪サソリ退治ができなくなってしまう。

 護竜をどんどん食され続け、ついに恐れていた巨大雪ムカデが誕生しアルベルに春と夏が失われた。


 魔物も強いものになり、荒廃した大地でありながら北の異民族にも狙われる。

 アルベルは長く苦しんでいた。


 ようやく北の異民族の脅威を理解した帝国の許可で武装できるようになったが既に遅かった。

 アルベルには護竜がいなくなってしまったのである。


 アルベルからすると帝国への不満はかなりのものであろう。

 帝国貴族出身のライラという具体的な人物が現れることで、人々は敵意を向け、悪い噂はあっという間に広まってしまった。


 アルベルの事情に詳しい家庭教師から聞かされた事情を聞きながらライラはため息をついた。

 サマンサたちの問題を何とかすればよいと思ったが、そうでもなかった。


 クロードのおかげで一部には認められているが、ライラが辺境伯夫人として認められるまで時間がかかりそうだ。


  ◆◆◆


 令嬢たちの薬草摘みに誘われていたが、今は行くのが億劫であった。

 しかし、招待されておきながら行かなければまた新しい噂を立てられるだろう。

 ライラは彼女たちの教育の主担当なのだから。


 郊外のヒリス山という野山である。


 山の中の修道院で休憩を挟みながら薬草摘みをするというが、ほとんど修道院の風景を楽しみながらのお茶会であった。

 修道女たちも招待してのパーティーといった方がいいかもしれない。


 サマンサたちに薬草摘みについて問うと彼女たちは笑っていた。


「薬草は普段から修道女の方々が集めてくださっているので、私たちが採る必要はありません。むしろ彼女たちを労うことが大事なのでは」


 そうなのだろうか。

 しかし、修道女たちは令嬢たちが持参してきたお茶や菓子や綺麗な小物に目を輝かせていた。

 普段規律の厳しい生活にいる彼女たちのささやかな楽しみ、と考えれば悪いこととも言いづらい。


「今日は実家から届けられたお茶をご馳走したいと思います」


 主催者はリディアであり、彼女は高そうなお茶の容器を見せてくれた。インディゴ王国産の高そうな代物である。

 帝国でも人気の茶葉であり、ライラは懐かしいと思った。

 最後に飲んだのは1年前だったようにも思える。


 会話の中で引っかかる部分を覚えながらもライラはリディアのお茶の知識を耳にした。

 彼女の知識は少し間違っている。


 ここで指摘しても後で噂のネタにされかねない。

 他の令嬢や修道女たちが見ているなか恥をかかせたとなれば、意地の悪い女と評される。

 修道女たちの口コミも無視できるものではない。


 先ほどから修道女たちがちらちらとライラをみては怪訝な表情を浮かべている。

 特に修道女見習いの少女たちの視線が明らかな敵意であった。


「あちらが噂の帝国の氷姫ね」


 ここでも呼び名が定着してしまうことにライラは苦笑いせざるを得ない。

 しかし、感情をあらわにしても損であり、ライラは目の前のお菓子やお茶に集中することとした。


 内心、こっそりお茶の教師を追加で雇うようにしようと考える。

 浪費はよくないが、教養を深める為のお金であれば迷わず使うことができる。


 アリサ夫人に頼み、お茶に詳しい者を探してもらうか。

 それともオズワルドに相談しておくか。


 オズワルドの実家ブラック=バルト伯爵家は帝国1、2を競う貿易商である。インディゴ王国のお茶も取り扱っており、彼もお茶については知識を持っていた。

 ジーヴル城に到着した翌朝には彼の姿は見当たらない。クロードに聞いてみると、彼はアルベル中の砦を見廻りしており、長くはとどまらないという。次にジーヴル城に戻るのは4週間後であろう。


 考えているうちにサマンサがライラに質問していた。

 先ほどまでリディアが、サマンサが楽し気に会話の中心に立ち令嬢、修道女を引っ張ていたのを傍観していたので油断していた。


「夫人はクロード様の讃美歌を聞いたことがありますか?」

「讃美歌?」


 初耳である。

 しかし、公国の修道院を幼少期に過ごしていたと聞けば、讃美歌を覚え込まされていたであろう。


「私は父にねだり一度だけ、彼が歌う場に遭遇できました。とても素晴らしい歌声でした」


 サマンサの勝ち誇ったような表情であったが、それ以上にクロードが讃美歌を歌っていたというのは想像できなかった。

 彼の歌が気になってしまう。


「きっと素晴らしい修道士にもなれたでしょう……いえ、騎士の姿をした勇ましい閣下も素敵ですが」

「修道院時代、きっと天使のような少年時代だったのでしょう」


 うっとりと令嬢も、修道女もクロードの幼少期を想像した。


「最近は忙しい為すっかり歌わなくなりましたが、夫人がお願いすればまた聞けるかもしれません」

「宜しければ是非修道院へ夫婦一緒にいらっしゃればどうでしょう。きっとみんな喜んでくれますわ」


 ここで、できないと言いづらい雰囲気で、ライラは飲まれて頼めるだけ頼んでみますと答えた。


「お忙しい方なので、あまり期待はなさらないでください」


「構いませんわ。ダメ元で聞いてくださればいいのです」


 サマンサはにこにこと笑っていた。何か引っかかってしまう。

 しかし、彼女たちが楽しみにしているのであれば聞いてみるだけ聞いてみよう。


 ライラたちが薬草摘みから戻ったところで、クロードが丁度魔物討伐から戻ってきていた。

 戦利品を整理しながら騎士たちが嬉しそうに会話を弾ませているのが窓からみえた。


「お疲れ様です」


 ライラはエドワードに用意してもらったワインを手にしクロードの私室へ訪れた。

 今日の食事はライラと二人で過ごしたいというクロードの希望で、クロードの私室で過ごすことになった。

 料理ははじめの頃に比べるとだいぶ食べられるがそれでも辛く感じる。

 だいぶ慣れてきたので、甘いワインを口にしながらライラは食事を口に運び続けた。


「折角だから騎士の方々と食事を楽しまれても良かったのに」


 ライラの言葉にクロードは首を横に振った。


「それなら心配しなくてよい。帰る道中いやという程一緒に飲み食いをした。今頃あいつらも怖い顔を見ずに酒場で喜んでいるだろう」


 怖い顔と聞いてライラはふふっと笑った。

 確かにクロードは怒ると怖い表情となるが、基本的には見目麗しくライラ自身ときめくことがある。


「なんだ?」

「あなたが酒場に行けば、美しい女性があなたに注目してしまいます。騎士の方々は安心なさっていることでしょう」


 女性を独り占めされずにすんで。


「そなたは私に酒場へ行ってほしかったか?」

「いいえ、こうして一緒に食事がとれて嬉しいです」

「そうか。私も嬉しい」


 クロードとしては嫉妬してしまうと言って欲しかったが、一緒にいられて嬉しいという言葉でも十分であった。

 今日討伐できた魔物をクロードは教えてくれた。

 雪ムカデが出没したと聞いてクロードたちは優先して討伐に出向いたのである。

 10匹程討伐できたと教えてくれた。


「雪ムカデなのに、夏に出るのですか?」

「ああ、夏は眠っていることが多い。が、ひょっこり顔を出すことがある。数匹程度であれば問題ないが、多く出没したら冷夏になり作物が実らなくなる」


 だいぶアルベルの穀物産業も改善されたが、ふとした拍子で崩れることもある。雪ムカデ退治で少しでも防げるのであればと報告が出ればなるべく討伐に出向いている。


「たいへんですね」

「いや、雪ムカデは解熱鎮痛の薬の材料にもなるので需要が高い。ギルドで早速製薬研究者に届けてもらうように依頼した」


 クロードはやりがいがあるという。


「雪ムカデも材料になるのですね」

「ああ、最近判明したことだがな。これで、熱病に苦しむ者の助けになる。去年の冬も流行風邪の熱で苦しんでいた子供が多かった。熱けいれんを起こす為、熱さましはたくさんあった方がいい」


 もし配給がまわらなくても、身分高い者や裕福な家であれば各々で他の領地から仕入れられるだろう。だが、貧しい子供にはそうはいかない。

 修道院の孤児たちで障害を残してしまった子が現れた。クロードは少しでも孤児の為になればと考えていた。


「修道院……」


 ジーヴル城でエドワードと家庭教師から学んだ内容を思い出す。

 クロードは修道院への支援に力を入れていた。特に孤児を多く引き取っている修道院をである。

 彼自身が修道院出身であるため、苦労をかけさせてくないと願ってのものだと言われていた。


 先ほどライラが訪問した修道院でも見習いの中に身寄りのない子がいた。

 彼女たちの希望を思い出す。


「クロード様、お願いがあります」

「そなたが私に? 何だ、申してみよ」


 クロードはワインを味わいながらライラの言葉に耳を傾けた。その声はひどく優しいものであった。


「一緒に修道院へ訪問しませんか。是非、そこで讃美歌を披露してほしいのです」


 クロードの表情が固まる。彼は手に持っていたグラスを震えながらテーブルに置いた。


「それは、できない」


 確かにそうだ。

 今はまだ北の異民族への警戒と魔物討伐、領地経営で忙しいはずだ。

 ライラが訪れた場所はだいぶ落ち着いているようにみえるが、きっと見えない場所はまだ整備ができていないはずだ。


「そうですね。でも、いずれはあなたの讃美歌を聞いてみたいです。聞いた話ではとても素晴らしいものだっ」

「黙れ!!」


 突然の大声にライラはびくりと震えた。

 クロードに直接このように言われたのは初めてであった。

 よくみれば彼の表情が青ざめている。


「頼むから、その話はしないでくれ」


 クロードは頭をぐしゃぐしゃにかき分け俯いた。髪の隙間から見えるクロードの視線がひどく荒れていてライラは恐ろしいと感じた。

 少しでも彼の意に反すれば、今度は手をあげられるのではないかと考えてしまう。


 クロード自身もそれに気づいているようで、立ち上がり窓を開けた。

 夏の夜、アルベルの夏はひんやりとして涼しい。

 しかし、今のライラからすれば寒く感じた。


「今日はもう部屋に戻ってくれ……」


 今の自分ではライラに何をするかわからない。

 理由を聞きたいが、ライラは躊躇した。

 少しでもクロードの傍に近づくのが怖かった。この線を踏み越えてはよくないと感じる。

 もし、線を踏み越えれば彼の神経を逆撫でするかもしれない。

 そうなれば先ほどまでのように穏やかな食事を楽しめなくなってしまう気がする。


「わかりました。お疲れのところ申し訳ありませんでした」

 

 おやすみなさいとライラは言い、急いでクロードの部屋を出た。

 隣の部屋へと入る音まで聞こえてクロードは「はぁ」とため息をついた。

 ずるずるとその場に崩れ落ち、頭を抱えた。


 ライラを怯えさせてしまったことを後悔する。何か安心させるために言わなければと思っても今の自分にはそんな余裕はない。

 頭の裏にちらついてしまうのは、ようやく忘れることができた記憶である。

 ひどく吐き気がする。


 ◆◆◆


 ライラとクロードが自室で食事をしている間、五人の令嬢たちは食堂で食事を楽しんでいた。

 普段であればクロードがおらず、ライラだけが一緒にいることが許されるのを不快に感じていた。


 だが今は異なる。

 

 しばらく歓談を楽しんでいると、サマンサに仕える侍女が近づいてきて耳打ちをしていた。


「先ほど、夫人が急いでクロード様の部屋から飛び出して自室へと戻っていったそうよ」


 予想通りの展開に皆、くすくすと笑った。


「まさか、本当にクロード様に讃美歌をねだったのかしら」

「そうでしょう。何も知らないくせに」


 これはアルベルでも一部の者しか知らないことである。


 クロードに讃美歌をねだってはいけない。


 クロードが騎士に就任して数か月経過したところ、彼の出自を知った先輩騎士がクロードに酒の席で讃美歌をねだった。

 クロードは丁重に断ったが、酒に酔っていた先輩騎士は少し乱暴にクロードの手をとり壇上へとあがらせようとした。

 これに怒ったクロードは先輩騎士を殴り、酒の席を飛び出していったのだ。


 まだ大公の異母弟と知られる前のことであり、騎士団の間で問題になった。

 オズワルドのはからいで何とか示談に終わり、クロードは軽い罰を受ける程度ですまされた。


 これは一度だけのことではない。


 クロードが辺境伯に気に入られ、力をつけていっていた時のことである。

 戦が落ち着いた頃、酒の席で部下から讃美歌をねだられた。

 そのとたんクロードは酷く不機嫌な表情になり、部下を睨みつけた。

 クロードの表情に気づかない部下はいつもの調子でねだり続けて、ついに殴られてしまった。

 クロードがかなり気に入っていた部下であったのであるが、顎が外れる程の怪我を負わされていた。

 部下は涙ぐみショックでクロードとは別の隊へ移動となったという。その後の消息は不明である。


 クロードが大公の異母弟と認められた後、判明したことだがクロードは出身の修道院へ憎悪を抱いていた。

 おそらく口にできないほどの境遇にあったのだろう。

 彼が辺境伯になった頃にはアルベルの騎士はクロードに讃美歌をねだることはなかった。

 事情を知らない者が、修道院の者が提案しようとするのを騎士たちは必死で止めたという。


「きっと夫人であっても、クロード様の逆鱗に触れてますわ」

「もしかして頬を叩かれたりして」

「まぁ、お可哀そう」


 それでも令嬢たちは楽し気に笑った。


「クロード様の妻になるのであればそれくらい知っていて当然でしょうに」


 サマンサは優越感にひたりながら食膳酒をのどに通した。今日はとても美味しく感じられた。

 いつもすましたライラの顔が涙で歪んだと思えば滑稽で仕方ない。


 帝国貴族の分際で、アルベルの英雄に手を出したのが悪い。

 これでクロードがライラから距離を置いてくれればうれしいことこの上ない。


「その通りですわ」

「やはり、クロード様を支えられるのはサマンサ様だけです」


 令嬢たちはこぞってサマンサを持ち上げた。

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主にアルファポリスの方で連載しております。もし宜しければリンク先へお越しください。 一部設定を変更しておりますが、流れはほぼ同じです。
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