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友達が壊れたときの話

作者: 佐々木 龍

友達が壊れて、私も壊れそうになり、友人関係も壊れました。

 もう二十年くらい前の話である。高校時代から二十代前半にかけて一緒に大人になったと言ってもいいくらいの友人がある日、壊れたのであった。

 その友人が(ふる)いラジオであればたぶん私は、音の調整が出来なくなったラジオを分解してホコリを掃除し、また元に戻して様子を見るくらいはできただろう。

 しかし相手は人間である。人間の事は、人間の専門家に見てもらうのが一番なのである。


 そもそもの話として人間は生まれた瞬間から、死に向かって「生きて」いるのだ。もしも人生が死という終着点に向かってゆくのでなければ、赤ん坊は赤ん坊のまま成長しないだろう。そしてそんな事は誰も望んでいないはずだ。たぶん。


 仏教的表現をすれば、生老病死という事なんだろう。生まれて、老いて、病気になり死ぬ。それはたんなる事実なんだけど、四字熟語にするだけでなんだか、賢くなった気がしなくもない。


 ごたくを並べてしまったけれど、まず言っておきたいことがあるのだ。

 人はみんな死ぬ。そして、死の前に(やまい)がある。病とはつまり、心身が壊れる事といえる。人体を精密機器に例えるならば、メンテナンスもしないで何十年も使い続けているとどうなるか。いつ不具合が生じてもなんら、おかしくはないのだ。


 はじめの話に戻ると、同級生である友達が壊れたのは二十代の半ばごろだった。私はその頃、田舎から上京し、年子の子らを育てるのに忙しかった。友達の様子がおかしいのは数年前から知っていたけど、近くに住んでいないのもあってやや疎遠になりつつあった。

 そんなある日の明け方、友達より「死にたい」とのメッセージが届いたのだった。私は赤ん坊の授乳により寝不足だったため、携帯の電源を切って再び眠った。「こんな明け方に何だよ」と腹を立てながら。


 地元にいた頃はしばしば、友人の愚痴に付き合っていたものだ。彼女は学生時代からの夢を叶えるために頑張っていた。そして目指していた職業に就くことで、その夢を叶えたのだった。

 行きたいところに行き、会いたい人に会い、食べたいものを食べ、欲しいものを手に入れる。私から見た彼女は、そんな人だった。明るくて、人に真正面から向き合うような(ちょっと古いタイプの)誠実な人間だった。飲み会などで自分が注目されないと突如帰ってしまう事があるような、少々嫉妬深過ぎるところがあったが。若いうちはそんな事、よくある事ではないだろうか。ふつうの、若い女性なのだ。


 そんな彼女がある日、こんな事を言った。

「職場の人たちがみんなで私をいじめる。みんなが悪口を言っている」と。


 私は「え、そうなの? あの人たちと○○(友人)、仲良かったよね」と言いつつ、何度か彼女の職場に行き(接客業だった)、様子を見た。じっさい、いつもと変わらない様子で仕事をしているのを見て、何だか変だなあ、という感想を抱いた。そうこうしているうちに友達は、勤め先を辞めた。職場の人が(あざけ)っているという、幻聴に耐えられなくなったのだ。


 友達はすぐに、知り合いのつてで再就職した。そしてそこでも被害妄想により人間関係に問題が起こり、結局仕事を辞めることになったのだった。

私は友達に再三忠告した。「病院に行った方がいい」と。しかしながら、真剣には言わなかった。私は医者ではないので、彼女が何の病気なのか確信が持てなかったから。


 そんな前日譚(ぜんじつたん)があり、明け方のメールだったのである。私は、もういいかげんうんざりしていて、そんなふうに友達を切り捨てる自分にも嫌気がさしていたし、しかしそうしなければ今度は自分が病気になってしまうという焦りもあって、あるとき電話で友達に、こう言ったのだった。

「病院に行って」と。

 そうしたら友達は「○○(私)が話聞いてくれてるから、大丈夫だよ」と言うのだった。

 その言葉を聞いた瞬間、私の中の、糸がプツリと切れた。そして友達にキレた。「病院行かないんなら、もう友達じゃないから。連絡してこないで。病院行って」と。そして一方的に電話を切ったのだった。


 その後、友達はストーカー化したのだった。まず私の妹の職場に尋ねてきて、私のメールアドレスを聞きだしたりした。事情を知らない妹が、アドレスを教えてしまったりして。なおかつ共通の知人らに、私が一方的に縁を切ってきて、いじめてくるんだと言いふらされたのは(こた)えた。

 親友くらい仲良くないと知らないような事があるもんで(病んでいる事とか)、そういう事を言いふらすわけにもいかず、かといって悪評を立てられて被害はあるし、とてもダメージが大きい出来事であった。


 のちに友達とは一度、電話で話す事になった。ストーカー行為をやめるよう諭すために、私が電話したのだ。その時のさいごの言葉が、こんな言葉だった。

「○○(私)が病院行かないなら友達やめるって言ってくれなかったら、病院に行ってなかった。だから感謝してる」と。それが本当かどうかは本人にしか分かんないんだけど……もしかしたら、人を憎む事に友達も、疲れていたのかもしれない。


 ちなみに「心の病」とは、脳機能の障害である。本人に病気だという自覚がある場合は、自分で病院に行けるのだ。問題は、自覚が無い場合(病識が無いという)だ。そういう場合、人間関係に支障をきたしたり、職場で問題を起こしたりして、孤独におちいる事がある。そうなると、本人はかなり辛い状況になるんだと思う。なおかつ病識が無い場合、病院に行くよう勧めても聞かない事があるものだ。


 かといって、どのタイプの機能障害なのか分からないことには、問題に対するアプローチのしかたも分からないのである。まず何の病気なのか分からないことには、病んだ人の苦しみはいっこうに「なおらない」のだ。


 だからまず、提案したい。壊れたら、不具合が起きたら、病院に行こう、と。

 誰でも壊れるのだ。誰でも死ぬように。死の前には病がある。病むのは、ふつうなのである。べつに変な事では無い。特別な事でも、何でもない。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 似たような出来事があったので、コメントしようと思いました。 大学時代に親友だと思っていた人が、色々なストレスを抱えた結果、ストーカーになってしまいました。 身の危険を感じ…
[良い点] そう。病院に行こうと自分で考えられるうちはいいんですよね。 人から「病院行け」と言われて「アア!?」と答えるようになったら問題。 言ってくれる人も疲れちゃって、やがて何も言ってくれなく…
[一言] 慰めてほしくてこんな小説を書いたか知らないけど、現実を見たほうがいいよ。あなたも心療内科にかかった方がいい、自分の心と向き合ったほうがいいわ
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