空飛ぶペンギンの唄
ペンギン村は雪におおわれて白ひと色になりました。月のころはさらなり、雪明かりが亭亭たる樅の木に映発しています。樅の木の頂きでは、真っCROWが拡声器を手に、しきりにこんなことを喋っています。
ああああ ただ今 テスト中です
ああああ ただ今 テスト中です
ああああ ただ今 テスト中です
ああああ ・・・・・
下枝の小鳥たちは何かはじまるだろうと待っていましたが、ああああが果てしなく、右往左往して、じれる様子をしました。
ああああ ええ テスト中です
ああああ ええ テスト中です
リフレインが叫んでいます。小鳥たちは、またじれる様子をしました。でも、何かはじまるだろうと、我慢しました。
ああああ ただ今 テスト中です
カラスはまた繰り返しました。小鳥たちは我慢のときです。ガガガガガ・・・・・、ようやく拡声器の音が少しだけ変わりました。
何かはじまるね。小鳥たちは欣喜雀躍として耳をすましました。
ああああ ええ ただ今から「空飛ぶペンギンの唄」をはじめます。カラスは《ポエムの里》ドットコム、《鳥の人》作、《空飛ぶペンギンの唄》にアクセスしました。音楽が聞こえて唄がはじまりました。
恋する森が色づくころ
棚引く雲の縁が輝いて
金の雲の斑を散らしながら
数羽のペンギンが飛んでゆく
何がペンギンを飛ばしたの
慕う気持ちが飛び方を教えたの
・・・・・
それは何の前触れもなく突然でした。ザーザーと砂嵐がふいて、唄はやんでしまいました。
『このポエムは削除された可能性があります
このポエムは削除された可能性があります
このポエムは削除された可能性があります』
リンクが切れたのです。もうこの唄は聴けないのです。
小鳥たちは、夕日が沈んだときのように、ただただ哀しくなりました。海の底に沈んだ、いや、死んでしまった「空飛ぶペンギンの唄」のために哀しくなりました。そして喪われた唄、喪われた滑空術、喪われた編隊のために泣きました。・・・・・・
小鳥の涙が雪に溶けた頃です。
ああああ・・・・・・
また、カラスの声がはじまりました。泣いた小鳥のために、カラスが知恵を絞ったのです。
ああああ ええ ただ今から 今度は「カラスの唄」をはじめます。カラスは厳粛なほどにまじめでした。
それはウィルソン・ピケット風の二十世紀後半の面影のある、影絵の、磨くための靴墨のような歌詞でした。
小鳥たちは顔を見合わせて、くすくす笑い出しました。流した涙がポポエミに変わり、小鳥たちはしののめの空に飛び立ちました。
捨てる神があれば拾う神があります。喪われた「空飛ぶペンギンの唄」と類似の曲を聴くことができます。スピッツの「空も飛べるはず」が、それです。
「どうして《鳥の人》はリンクを切ったの?」
「哀しいけど、そんなの《鳥の人》のかってでしょ」
小鳥の影が「カラスの唄」のなごり雪を辷ってゆきました。