04.魔導士試験 その2*
私の私による試験合格のための舞台幕開けです。
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魔法を発動。
……と思っていたら訓練場に何人かの方々が入室して来ました。
この学園の学園長やお母様の団員の皆様のようです。
以前に魔法訓練場で見かけた方もいますね。
最年少で魔導士試験を受けている私の魔法実践試験の様子を是非見学したいと言っています。
しかし彼ら・彼女らが入室して来た時のお母様たちの様子からすると、どうやら予定にはなかったことのようですね。
ですがこれから行使する魔法が多くの方の目に留まるのは私としては有難いです。
合格の可能性が高くなりますからね。
勿論、皆様に満足してもらえると思っていますよ。自信満々です。
「ミレーヌ、見物人が増えてしまうけどいいかな?」
「はい、お母様。むしろ皆様に見てもらいたいです」
私が笑顔で応えると、お母様も何かを感じたのか笑顔で頷いてくれました。
それから飛び入り見学希望者のところに行って、お母様は私が了承したことを皆様に伝えます。
殆どの方は純粋に楽しみにしてくれているみたいですが、一部の方からは不満も聞こえてますね。
「はっ! ガキが何処まで出来るんだか」
男の人ですし、学園の武闘担当の教師でしょうか。
聞き捨てなりませんね。
子供だからといって甘く見ていられるのも今のうちです。
その顔、絶対に驚愕の色に染めてあげましょう。
「それでは改めてミレーヌさん、お願いします」
「はい!」
空間から杖を取り出して集中します。
魔力感知、魔力操作、イメージ。
私の足元から冷たい霧が噴き出し訓練場内を冷やしていきます。
この魔法は室内をかなり冷たくする必要があるのです。
ですから見学者の皆様が風邪を引かないように処置もします。
風と炎を用いた結界を皆様の元に張ってこれで処置は完了です。
ここまで三つ、属性魔法を用いたことですでに驚きの声が上がっています。
先程文句を言っていた教師も少し顔色が悪くなっていますね。
どうやら最初の評価を覆らせることに成功したみたいです。
思わず口角を上げます。
ですが本番はこれからです。
「闇の侵食」
その魔法の名の通り、闇が室内を覆います。
現在はまだ日が高いところにありますが、この室内だけは暗闇です。
「な、何を?」
「大丈夫……なのよね?」
はい、慌てなくも大丈夫ですよ。
「光の聖屑」
闇の中に広がる光。
それらは各所に飛び散り、この室内に美しい疑似の夜を作り出します。
そう。これは……。
〘プラネタリウムだね〙
はい。そして仕上げです。
室内を冷やしたのはこのためです。
室内の天井に光のカーテンが輝きます。そう、オーロラです。
この国にも四季はありますが、比較的温暖なので冬になってもこのような光景は見られません。
ですから皆様は初めて見る光景に圧倒されています。
見た感じ、女性陣の大半の方はうっとりとした顔をしていますね。
「綺麗……」
「うん、これこそ魔法って感じだね」
満足してもらえたみたいですね。
暫く鑑賞してもらって、ある程度時間が過ぎたらこの舞台を終わらせます。
次に案山子に向かい攻撃系の魔法を解き放ちます。
「爆発魔法」
プラネタリウムだけでは少し不安がありますからね。
攻撃系の実力を見せておくのも必要かもしれませんね! と思ったのです。
案山子が粉微塵に吹き飛びます。
青い炎に加えて闇属性と掛け合わせた黒い炎。
起爆するための魔力もたっぷり練り込み済です。
そのためオリハルコンといえども魔法の威力に耐えられなかったようです。
「ふぅ。計算通りです。
以上が私の舞台となります。ご鑑賞ありがとうございました」
案山子から皆様に向き直り、カーテシーをして頭を下げます。
数秒して頭を上げてみると皆様、開いた口が塞がらないという様子でした。
「……………」
「……士団長」
「……水、炎、風、光、闇、無。六つの属性を操るとか」
「あ! 土属性も扱えます」
「は!!!??」
ここには土がないので魔法を見せるのが難しいんですよね。
仕方ないですね。魔力で肩代わりしましょう。
魔力感知、魔力操作、イメージ。
……発動。
「土壁」
私を円で囲むように土の壁を出現させます。
これで土の属性魔法も扱えることが分かってもらえたでしょうか。
"パチンッ"と指を鳴らして魔法を消します。
改めて皆様を見ると何故か何人かの方が泡を吹いて倒れていました。
大丈夫でしょうか……。
「七属性全ての魔法を扱える存在……」
「これって幾人かの魔女様にも匹敵しますよ!
五歳にしてこの才。士団長、ミレーヌちゃん、うちに欲しいです」
「落ち着きなさい。ソフィア。……えっとミレーヌ」
「はい」
「文句なしの合格よ。本当にびっくりしたわ。
カナリアと一緒に魔法を見せてくれた時以上の魔法なんてね。
あの時は手を抜いていたの?」
「いいえ、あの時はあれが私の精一杯でした。
それから七日、魔法の行使力を底上げしたのが今の私です」
「そう。ミレーヌ」
「はい!」
お母様が手招きしています。
素直にそちらに行くと抱き締めてくれました。
「貴女は私たちの自慢の子だわ」
やりましたね、私。お母様に認めさせることが出来ました。
「それじゃあミレーヌ」
お母様が私から離れ、私の右手の中指に銀色の指輪を嵌めてくれます。
ぶかぶかですが。と思っていたら縮小して私の指にぴったりになりました。
魔法の指輪ですか。……ということはこれは。
「ミレーヌ、貴女に白亜の魔導士の称号を授けます。
これからリリスティア王国のために励みなさい」
「はい!」
やっぱり魔導士の階級所持者の証。ミスリル銀の指輪でしたか。
この指輪は階級に関わらず素材はミスリル銀ですが、階級に応じて自動で色が変わります。
賢者は白金色、魔女は黄金色、魔女見習いは黄白色、魔導士は銀色、魔導士見習いは白色、魔法士は赤銅色、魔法士見習いは錆色です。
その指輪にお母様が手を翳し、[白亜の魔導士]の称号が文字として指輪に刻まれていきます。
最年少魔導士、白亜の魔導士。ここに誕生です。
私が自分へのお祝いに光の花を室内に振りまくと大歓声と大きな拍手が巻き起こりました。
ここから私、可憐な魔導士ミレーヌの物語の幕開けです。
そう言えばこの後、お母様に[白亜の魔導士]の称号の由来を尋ねてみました。
五割は私のこの髪の色がその由来。
残りの五割は白色という色は全ての色を総括する色。
その性質故に何物にも染まる柔軟さがありながら逆にその力故に何物にも染まらない。
まさに私ということでその称号としたらしいです。
「それが白亜の魔導士の称号の由来ですか」
その称号を私に授けたお母様の気持ちを裏切らないようにしなくてはいけませんね。
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そのセンセーショナルな話題はすぐにリリスティア王国内を駆け巡った。
僅か五歳にして魔導士の地位にまで上り詰めた者がいる――――。
それは当然のように王宮の王女の耳に届く。
「白亜の魔導士。一度会ってみたいですわね」
ミレーヌの魔導士としての最初の仕事は王女陛下とのお茶会に参加。
……になりそうである。