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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
42/43

41.学園都市シュレリス その2

 翌日。宿でクロワッサンとコーンスープ、ベーコンとソーセージに玉子焼きとマッシュポテト、野菜サラダ、ブルーベリーヨーグルト、紅茶といった朝から大満足の食事を終えた私たちは今日から一月(ひとつき)の間、臨時講師として赴任することになる魔法学園へと向かおうとしていました。

 宿の前で魔導士組と分かれます。

 アイルとコレットとニア。三人は町の中で臨時のアルバイトを探すらしいです。

 

「ミレーヌ先生、寂しいですけどあたし頑張って耐えますね」

「ルーナーさん、ミーちゃんに抜け駆けしたら許さないから!」

「それは分からないわね~。だって私、ミレーヌのこと愛してやまないから」

「ぐっ。わたしだってミーちゃんのこと愛してやまないんだから!!」

「ワタシもだ」

「当然、あたしもです」


 朝から宿の前で大声で騒ぐ私の恋人たちに町の人の視線が突き刺さっています。

 それらは嫌悪の視線ではなく、どちらかというと好奇の視線ですが、やや居心地が悪いと感じてしまうのはいろいろな意味で恥ずかしいと感じてしまうからでしょう。


「あの……」


 私が声を出すと恋人たちの視線が一斉にこちらに向きました。


「ミレーヌ、貴女を愛してるわ」

「ミレーヌ先生、世界中の誰よりも愛してます」

「ミーちゃん、わたしミーちゃんだけいてくれたらいいって思うくらい愛してる」

「ミレーヌ、これからもずっと……。未来永劫一緒にいたい。愛している」


 真剣な表情。私はそれに少し戸惑ってしまいますが、皆から視線を逸らしつつ小声でその告白に返事をします。


「私も大好きですよ。皆のこと……」


 こういう言葉なんて言い慣れていないからでしょう。

 心臓が煩いですし、頬が自分で自分に驚く程熱く感じます。


 ……周りが急に静かになりました。

 気になって皆の方へ視線を戻すと全員今の私と同じように頬を赤く染めています。

 コレットなどは何故か鼻を押さえていました。


「やばい……。破壊力やばい」

「分かる。分かるぞ。コレット」

「ミレーヌ、貴女ずるいわ」


「はい?」

「ミレーヌ先生~~~」


 ルーナー先生から言われたことに首を傾げるとニアが抱き着いてきました。

 私の首に手を回して頬擦りして甘えてきます。


「ミレーヌ先生可愛い。可愛すぎます。大好きです」

「ニア?」

「うふふふふっ。大好き」


 犬みたいですね。

 その仕草に小さく笑うと今度はルーナー先生たちも抱き着いてきます。


「抜け駆け禁止!!」

「知りません~。チャンスを掴まない人が悪いんです~」

「あら、ムカつくわね」

「だが一理あるな。積極性が足りなかった」


 人通りがある中で恋人たちに揉みくちゃにされる私。

 町の人の視線を痛い程感じますが、段々それが楽しくなってきて私は笑ってしまうのでした。


*


 シュレリス魔法学園。

 臨時の生徒集会が開かれて私たちの臨時講師の話が出ると生徒さんたちは大いに盛り上がりました。

 魔女から直々に受ける指導。それは奇跡にも等しい出来事です。

 魔女は世界中で二十二名しかいません。

 魔法連盟に問い合わせても私以降に魔女になった人の知らせは来ていないのとのことなのでその数字は変わっていないのです。

 そんな中で偶然指導を受けられることになったのですから、盛り上がるのも分かります。

 しかも私とルーナー先生。魔女が二名です。

 ルーナー先生は私。私はニア。二人共正式な生徒はいますが学園で教鞭を執るというのは初めてのことで生徒集会後に教室に案内されていよいよ指導を始めたのですが、二人共思いの外に指導に熱が入り、一日が終わる頃には魔法学園の生徒たちに魔女としてだけでなく先生としても慕われるようになっていました。


「あ、あの……、ミレーヌ先生」


 そんな生徒のうちの一人、オレンジ髪の女の子が話しかけてきます。

 何処となく自分に自信がないという態度。見ていると私と出会ったばかりの頃のニアを思い出して懐かしくなりました。


「はい? どうしました?」


 なるべく明るくするよう努めて返事をすると女の子は先程よりもやや態度を軟化させます。

 胸の前で杖を持ち、半分伏せていた顔を上げて私と視線を合わせます。


「わ、私、風の魔法が使えるんですがどうしても操作が上手く出来ないんです。

 もうどうしたらいいか分からなくて……。上手く操作する方法教えてください」

「なるほど。では見せてください。

 ですがここではまずいですよね。場所を移動しましょうか」

「はい!」


 ここは学園の廊下です。

 窓から夕陽が差し込み、辺りは紅色。

 そんな夕陽に照らされて体から影を伸ばしながら私たちは学園の魔法訓練所に移動します。

 暫く歩いて到着。案山子に魔法を放つため杖を構える女の子の背後に私は立ち、その手にそっと手を添えて魔法の発動をするよう促します。


「ではあの案山子をしっかり見て魔法を撃ってください」

「はわわわわっ、ミっ、ミ、ミレーヌ先生。あの、その……胸が……」

「落ち着いてください」

「は、はひぃぃぃ。風の刃(エアカッター)


 発動した魔法は明後日の方向に飛んでいきました。

 何とも言えない空気が私たちの間に漂います。


「ご、ごめんなさい」

「大丈夫です。肩の力を抜いてもう一度やってみてください」

「は、はひっ! 風の刃(エアカッター)


 今度は方向も威力も充分です。

 無事案山子に命中しましたが、女の子は何故か顔を真っ赤にして座り込んでしまいました。


「あれ? 大丈夫ですか? ……顔が赤いですね。熱でしょうか?」


 そう言えばこんなことが以前にもあったような気がしますね。

 いつだったでしょうか。


「はぁぁぁぁ~~~……」

「っと物思いに耽っている場合ではありませんか」


 訓練場の床に座り込んでいる女の子の傍にしゃがんで右手でその髪を上げます。

 それから額をくっつけると女の子は失神してしまいました。


「何故」


 突然のことに途方に暮れる私です。

 ですがいつまでもそのままという訳にはいきません。

 女の子の肩に手を回し、保健室へ連れて行こうとすると別の女の子が訓練場の前を通りかかって私たちのことを見つけてくれました。


「ミレーヌ先生! ……とエリカぁぁ!?」


 その子は慌ててこちらに走ってきます。

 後で聞いた話ですが、彼女たちは親友同士であるとのこと。

 何故エリカさんがこうなったのか聞かれたので訳を話しましたが、何故かジト目で見られて呆れられてしまいました。


「ミレーヌ先生は天然過ぎです」

「はい?」

「エリカがこうなったのはミレーヌ先生のせいだということです」

「まじですか!」

「まじです。ミレーヌ先生は天然女の子殺しです」

「なんですと!!」

「ミレーヌ先生の恋人って苦労してるんだろうなぁ」

「はぁ……」


 それから私はエリカさんの親友・メリルさんに保健室に着くまでの間怒られ続けました。

 原因について具体的なことは言ってもらえませんでしたが、気を付けないといけませんね。


*


 そんなことはありましたが、学園都市シュレリスでの日々は穏やかに流れていきます。

 特権を利用して食事や買い物を楽しんだり、休日には皆で観光などする平和な日々。

 生徒たちとの交流も進み、昼食など一緒に食べるようになりました。

 特にエリカさんとメリルさんとは放課後にも交流を持つようになり、先生と生徒でありながら友達でもあるという感じになっていったのです。


 ですが私たちは旅空の魔女一行。

 別れの時は誰かが望んでいなくてもやって来ます。

 一月(ひとつき)。その約束の期間が終わる日、私は魔法学園の生徒たちに囲まれていました。

 ルーナー先生も別の場所で別の生徒の団体に囲まれています。

 

「ミレーヌ先生、どうしても行ってしまうんですか?」

「このまま学園に残ってくださるとか無理なんですか?」


 嗚咽を零し、泣きながら私にしがみ付いているエリカさん。

 メリルさんは少し距離を置いていますが、他の生徒たちと同様に静かに涙を零しています。

 

「こんな私を慕ってくれてありがとうございます。

 ですが私は旅空の魔女。いつまでも一つのところにはいられません」

「でも!」

「それに私には約束があるんです」

「約束?」

「はい。私の永遠の生徒は恋人のニアだけだという約束です。

 だからずっと皆さんの傍にいることは出来ません。ごめんなさい」


 出来るだけ心を込めて私は生徒たちに頭を下げます。

 暫くそうして顔を上げると、生徒たちは完全には納得出来ないながらも納得した風を装って私を見送ってくれることになりました。

 エリカさんが私に尋ねてきます。


「ミレーヌ先生、私たちは良い生徒でしたか?」


 これには即答です。


「はい。勿論ですよ」

「良かった。また会えますか?」

「皆さんが学園を卒業した後、いつか何処かの町で再会することもあるかもしれませんね。

 だからさよならとは言いません。待っていますよ」

「っ。はい!!!」


 私は生徒たちに手を振り、箒のリンに腰を下ろして空へいきます。

 そこから皆が手を振ってくれているのを見ながら私はこの学園都市では恐らく最後になるであろう魔法を使用しました。


「また会いましょう」


 空に咲く光の花々。歓声が上がる中、私は今度こそ学園を離れます。

 これ以上長居すると離れられなくなってしまうかもしれませんから。

 

「いつかきっと……」


 こうして私とルーナー先生の臨時講師期間は終わりを告げました。

 それから数年後、私は魔女となったエリカさんとメリルさんの二人にとある町で再会するのですが、それはまた別の話です。


*


 学園都市シュレリスから離れて次の町へと向かう旅の空。

 ルーナー先生が私の傍に来て話しかけてきました。


「ねぇ、ミレーヌ。良かったの?」

「何がですか?」

「分かっているでしょう? あのまませめてあの子たちの卒業式まで残ってあげても良かったんじゃない?」

「私は旅空の魔女です。これでいいんですよ」

「素直じゃないわね」

「そんなことないですよ。私は素直です」

「そういうことにしといてあげるわ」


 私の言葉で苦笑いしてルーナー先生が私から離れます。

 それを確認したらそっと背後を振り返ると私の目に映るのは徐々に遠く小さくなっていく学園都市シュレリスの姿。

 

「……………」

〘戻る?〙

「いえ。でも……」

〘でも?〙

「リン、少しだけ速度を落としてください」

〘うん、分かった〙

「ありがとう」


 その都市の姿を充分に目に焼き付けて、それから私は前を向きます。

 夕焼けの空。渡り鳥と共に飛ぶ旅路。

 次の町はどんなところでしょうか? その町でどんな人と出会えるでしょうか?

 楽しみですね――――。

これにて番外編も一旦終了となります。

またお話を思いついたら増やしたりすることもあるかもしれませんが。

ここまでのご拝読ありがとうございました。

それではまたお会いしましょう。

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2020/12/31 大晦日

by.作者

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