40.学園都市シュレリス その1
聖女様こと鞠夏さんを無事に元の世界へと送り出してから七日目。
私たちは世界を巡る旅を再開させました。
転移門で異界からの聖女召喚騒ぎが起こった国であり、私たちが最後に訪れていたその国の首都へと転移して改めてそこから旅の一歩を踏み出します。
こうなる前に予め転移門を設置しておいた宿の一室を退室。
……する前に転移門を空間へと仕舞い、それからこの宿の受け付けで退室の手続きをして町中へと出てきます。
私の大切な恋人たちと微笑み合い、それから頷き合って皆それぞれ箒に乗り空へ。
暫く皆で雑談しながら優雅にのんびり空の旅。
話しているとそこそこ距離がある筈の町から町への移動もあっという間に感じますね。
三時間後、私たちは次の町へと到着しました。
学園都市シュレリス 。
ここは町の境界を示す壁が五芒星の形に築かれていて、それぞれの星の頂点に当たる場所にこの町の名が示す通り北に貴族学園、東に騎士科学園、西に魔法科学園、南東に商業科学園、南西に普通科学園といった様々な学園が設立されている学生たちの町です。
だからでしょうか。警備は厳重で地上には一日二十四時間中八時間ずつの三交代で町を守っている兵士の皆さん、上空には魔物グリフォンに乗った空の騎士と呼ばれる方々が町の外からの来訪者に目を光らせています。
私たちは不法侵入する気などさらさらありませんので町の門の前へと箒を向けて低空飛行。
門を守る兵士さんたちの顔が見える距離になれば箒から地面へと降りて兵士さんたちに話しかけます。
「旅空の魔女一行ですが、入国しても良いですか?」
「これはこれは魔女様方、学園都市シュレリスへようこそいらっしゃいました。
入国手続きですが、魔女様方はどちらの方法で入国なさるご予定ですか?」
「どちらのというのはどういうことですか?」
兵士さんから言われたことに首を傾げます。
身分証を示すとか、お金を払うとかそう言ったことのことでしょうか?
恋人たちを見ると皆も同じように首を傾げています。
その様子を見て兵士さんは顔に笑みを浮かべると私たちが首を傾げている内容について話し始めました。
「魔女様方はご存じなかったのですね。
学園都市シュレリスには二つの入国方法があるのです。
一つは魔女様に限りますが宿が無料になる入国方法。
正し、これにはシュレリスの魔法学園で一月の間臨時講師をしていただくというのが条件です。
そしてもう一つは通常の入国方法。
これについては旅をしてこられた魔女様方に説明するまでもないと思いますが、身分証を呈示していただいて観光を楽しんでいただく入国方法です。
魔女様方はどちらをご希望ですか?」
それを聞いて私は腕を組んで悩むそぶりを見せました。
「先程一つ目の入国方法は魔女に限ると言っていましたが、私たちは魔女二名と魔導士三名の構成です。
その場合魔導士三名はどのようになるのでしょう?」
「それはですね」
結論から言うと魔女と寝食を共にする者であるということが証明出来るのであれば魔導士三名は宿代は無料にこそなりませんが、半額で良いという話でした。
私は兵士さんの話を聞き終えた後、臨時講師を引き受ける入国方法にすることを伝えます。
「では一つ目の入国方法でお願いします」
「「「「え!?」」」」
それを聞いて恋人たちは意外そうな声を出しますが、私は今世こそ王宮魔導士の家庭に生まれて准貴族と言った人生環境ですが、前世は庶民でした。
安いと聞くと釣られてしまうのは仕方ないと思います。
それに何より魔女だけの特典。
詳しく聞くと魔女はこの町に住む人たちの憧れの存在で町中ではちやほやされるらしいですし、それに加えて宿は無料で更に朝食と夕食付き、昼食も学園で平日は学食が無料で提供されるらしいので食事の心配は休日・無属性の日の昼食だけで済みます。これだけでも好待遇と言えますが町の服屋など魔女割りで二割引きになるとか。
こんな好条件逃すのは勿体ないじゃないですか!!
私たちは一つ目の入国方法を選んだ魔女一行として円形で淵は黄金色、内側は赤、そこに銀色の五芒星が描かれたブローチを兵士さんの手で外套に付けてもらい門を開けてもらって入国します。
私が先頭、後ろには私の恋人たち。
「ミーちゃん、目が椎茸目になってるし……」
「ミレーヌ先生、期間限定とか書かれたものにとても弱そう……」
「でも同じ魔女として少しミレーヌの気持ちも分かるわね」
「……だが、ちやほやされると聞いて目を輝かせているミレーヌも可愛いな」
「「「それは分かる!!」」」
何やら背後で恋人たちが騒いでいますが、私はすっかりおのぼりさん気分で町中を歩いていきます。
「わぁ、魔女様だ~~~」
「わぁぁぁ、なんて可愛い方なのかしら」
「魔女様~。ホウホウ鳥の串焼き食べて行ってください。
美味しいですよ~。初回は無料に致しますからどうぞ~」
兵士さんが言っていたように町のあちこちから聞こえてくる魔女への尊敬の念。
かと言って以前に訪れたハンターの町のように私たちを取り囲んだりすることなく、程々の距離を保って見つめたりしてくれることに好感が持てます。
「良い町ですね」
ちゃっかりもらったホウホウ鳥の串焼きを齧りつつ観光。
初めて食べましたが、噛めば肉汁がじゅわっと口の中で溢れますし、それに塩味でさっぱりしていてとても食べやすく美味しいです。
「これ美味しい」
「「「うんうん」」」
後ろの恋人たちも満足のようです。
ちなみに魔導士組も可愛いからという理由で初回無料にしてもらっていました。
食べ終わった串をとりあえず空間へ仕舞って私は立ち止まり、皆の方へ振り返ります。
「まずは一月の間お世話になる宿を探しましょうか」
宿は何処にしても魔女の私とルーナー先生は無料だそうです。
魔導士組は半額ですが、それでもこれまで泊まって来た宿よりは安くなる筈です。
それならせっかくですし、立派な宿を拠点としたいですね。
キョロキョロ探していると良さげな宿を発見しました。
タイル作りの見るからに高級な宿。
一階はレストランになっていて、庭には噴水と整えられた緑の木々。
まるでちょっとした宮殿を思わせるそこは屋上に魔法使いのための出入り口が設けられているようで時折箒に乗った魔法使いたちが離着陸しています。
これはもう決まりではないでしょうか。
なんとなくですが、建物自体が「どうぞ魔女様、お泊りください」なんて呼んでいるような気もします。
「受け付けでも当宿を選んでいただいてありがとうございます、魔女様。
なんて言われるんでしょうか。困ってしまいますね」
ニヤニヤしながらその宿に向かって歩いていきます。
「「「「また椎茸目になってる」」」」
先程のように背後から何か聞こえましたが、結局私に着いて来る足音からすると皆も賛成ということでしょう。
庭を歩いて一階レストランに到着しました。
玄関は何処でしょうか? 何処にも見当たりません。
「ミレーヌ先生、ここってもしかして魔法使いご用達の宿なんじゃないですか?
だとしたら入り口は屋上だと思います」
なるほど。そういうことですか。
納得してリンを箒に変えようとした時、レストランから男の人が出て来ます。
身長はこの世界の成人男性の平均よりやや高め、金髪黒目でいかにも貴族な服装。
なんとなく嘘くさいと感じる笑みを浮かべながらその男の人はこちらに近づいて来ました。
「やぁ、可愛い魔女様。当宿にお泊りですか?」
男の人は私の肩を抱いて自分の方へ近づけます。
距離が近いです。初対面の女性に対する距離とは思えません。
「あの……」
「ふふっ、間近で見ると本当に美しい。
貴女の美貌の前には愛の女神でさえ思わず跪いてしまうでしょうね」
なんでしょう。褒められているのに嬉しくありません。
いつもの私なら口角を上げているところですが、今の私はこの人から離れたくて仕方ありません。
「ねぇ、あんた随分ミーちゃんに馴れ馴れしくない?」
コレットの冷え冷えとした声に男の人は今初めて私の他に人がいることに気づいたかのような態度を見せます。
「これはこれは他にも美しいレディたちがこんなにも。
私の目はいつから節穴になってしまったのでしょうか。
いえ、貴女方が余りにも美しいので白昼夢かと思てしまっていたのかもしれません。
ああ、私はなんという過ちを。申し訳ありません。美しいレディたち」
「………あっ、なんか物凄い鳥肌が」
「そ、そうね。私もだわ」
「あたしもです」
「同じくだ」
私も同感です。それに何故か周りの気温が下がった気がして寒さに自分の体を自分の腕で抱き締めます。
そうするとそれを見た男の人は私を抱き締めようとしますが……。
その前に素早く男の人の前に移動したアイルによりお腹に杖の柄を叩きこまれ、男の人は白目を剥いて昏倒させられました。
「なぁミレーヌ……。ワタシはこの宿に泊まりたいと思えなくなったんだが変えないか?」
「そうですね。そうしましょう」
「ああ、それがいい」
意見が一致して移動。
私たちはこの後、何件か宿を見て廻り結局高級でもなければ安宿でもない無難な宿に泊まることにしました。
精神的に身の丈に合ったところが一番ということですね。




