39.某国の聖女様 その3
聖女様がその国から消えた。
その噂は瞬く間にその国の内外に知れ渡りました。
犯人は分かっています。白亜の魔女。私です。
聖女様を召喚した国はすぐさま白亜の魔女から聖女様を奪還すべく動き出しますが、ここで国にとって思いがけない出来事が起こります。
それは元々異世界から聖女を召喚することに否定的だった、とある重鎮の裏切り。
それだけでも国にとって頭の痛い問題です。
ですが国の苦難はそれだけでは終わりませんでした。
その国と同盟を結んでいる以外の国々が相次いでその国に苦情を申し入れて来たのです。
異世界から誘拐とはどういうことか、と――――。
それは聖女様が攫われたことで[事]が明らかになって起こった出来事でした。
余計な波風を立てたくない国は、それら苦情の処理に時間と労力を割かざるを得なくなります。
その間に聖女様はずっと遠くへ。
聖女様の行方を見失った国は結局、聖女様捜索を断念せざるを得なくなり、歯噛みしながらも王は最後には諦めました。
いえ、現在の聖女様のことは諦めましたが、それならばと愚かにも今一度異世界から別の女性を召喚しようと試みたらしいです。
ですが召喚は決して成功しませんでした。
聖女様の召喚の成功はあくまでも偶然の産物だったのです。
王はそれでも諦めきれず日を変えて召喚を続けました。
そして十日目。ついに天罰が下ったのです。
突然召喚陣から発せられた目が開けていられない程の眩い光。
それが収まる頃には彼らの姿はもうそこにはありませんでした。
その理由は異世界から召喚するつもりが逆に召喚されたのではないかと、その国の召喚の儀式に反対していた人たちからはそう言われています。
その日の夜に夢の中でこの時召喚の間で起こったった出来事と、それから何処か分からない世界で得体のしれない化け物に奴隷として酷い扱いを受けている彼らの姿を見たのだそうです。
目は白目が無くて黒目だけ。しかもその目はまん丸で直径15cmはあろうかという大きさ。
鼻は削ぎ落とされたかのように穴が剥き出しになっていて、口は耳元近くまで裂けている。
その耳は人の耳が上下逆さまについている。
髪はなく顔は面長。両生類のようで恐らくは男も女もない。
肌の色は黄土色。一応人型だけど下半身は蜘蛛。
そんな化け物に鋼鉄の首輪を嵌められて従わされている姿を……。
所詮は夢の中の話です。ですがそれを聞いた人々は半信半疑ながらも震え上がりました。
真相はこの世界から消えた人・本人に聞くしかないですが、いない人には聞けないので解明は不可能です。
――――もしかしてそれは女神による神罰だったのではないか。
いつしかこの出来事はこの世界に住む人々からそう噂されるようになり、異世界召喚は改めて禁忌の魔法に指定されました。
試みようものなら逆に召喚されて死ぬよりも恐ろしい目に遭うことになる。
これから未来永劫語り継がれることになる、そんな言い伝えと共に。
*
さて、ここからは聖女様がその後、どうなったのかをお話しましょう。
聖女召喚を一度は成功させた国。その国から聖女様を攫った白亜の魔女。
その行動はどういう理由があれ、褒められたものではありません。
他国から重要人物を攫うわけですから、宣戦布告などされても文句は言えないのです。
故に最初の頃は白亜の魔女の評判は下がりに下がりました。
ですが、そもそも聖女様自身が異世界から誘拐されて来た人物なのだと世界が知ると、聖女様に同情が集まるようになり、また誘拐された国での聖女様の扱いが広まると白亜の魔女の評判は手の平を返したように元に戻ることになりました。
この時、新設魔法連盟を通じて白亜の魔女自身が何があっても聖女様を元の世界に送り返すと宣言したことも良かったのでしょう。
これにより表立って白亜の魔女を批判する者はいなくなりました。
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白亜の魔女、評価を取り戻した私です。
現在私はリリスティア王国に戻って来ています。
別大陸からここまでは遠い道のりでした。
船で数十日はかかるのですから。
……本来であればですが。
実際はここまで五分も掛かっていません。
その理由はルーナー先生と共に新しく共同開発した魔道具と魔法によるものです。
その魔法は転移門。これまでは転移と転移陣という魔法と魔術はありましたが、それらはいずれも発動場所から数Km以内の距離しか飛べないという欠点があり、旅にはあまり向いていないものでした。
その欠点を補ったのが転移門です。
これは転移門こと魔道具と魔道具の間であれば大陸と大陸の間でも行き来出来ます。
世界の端から端でもあっという間に往復出来てしまいます。
一度でも行ったことがある場所ではないとダメという制限付きではありますが。
これを使って私たちはリリスティア王国にすぐさま戻って来たのです。
ちなみにリリスティア王国への魔道具設置は魔法連盟を通じて魔道具作成科にレシピを伝えて私の自宅・自室に設置してもらいました。
魔法連盟とはあまり関わり合いになるつもりはなかったのですが、思わぬところで結局関わっていますね。
今度何かお礼の品を送りたいと思います。
「……転移門を異世界にですか?」
「ええ」
「う~ん、しかし聖女様のいらした世界には魔素がないのですよね?」
「そうですね。魔道具を作れる人もいません」
「「う~ん」」
リリスティア王国に戻って来た私は魔道具作成科の職員に話して、すぐに聖女様を元の世界へ帰す魔道具の作成に取り掛かりました。
ですが停滞。暗礁に乗り上げてそこから脱出する方法も見つからないという有様です。
私たちは何日も机上の空論を繰り返しました。
そこではいいアイデアが出るのですが、実際に作ってみると何かしらの原因でボツになります。
私も職員も徹夜続きの日々。七日を超えた頃には顧客の聖女様に心配してもらって開発を止められるというちぐはぐなことも起こりました。
そんなことを繰り返して半年。
今日も元気に職員のスカートの中を下から覗いて頬部を赤く染めているアリアを見て、ふとリンの記憶が蘇りました。
「青い……狸型ロボット」
それを受けてすぐにフェンリルなリンの突っ込みが入ります。
〘あれは猫だよ〙
猫でも狸でもいいです。なんとなく光明が見えてきました。
ど〇〇〇ド〇。あれを再現したらいいのです。
私は職員にそれを話しました。
魔法であちらに魔道具諸共転移させてしまうこと。
膨大な魔力が必要となるので使い捨てになること。
使い終わった後は設計図を闇に葬ることなどなどです。
話し終えた後は念のために私自身も含めて契約魔法を使用。
どのような形でも異世界を渡る転移門の作り方を残すことは出来ない。
この契約を何らかの手段で破った者は即座に人型から虫に変わり永遠に転生出来なくなる。
ここまでして私たちは滞っていた開発を再開させました。
それでも何度も挫折して挫折して挫折して挫折します。
あまりの挫折回数に聖女様から帰還を諦める声が聞こえて来たくらいです。
ある意味それが良かったのでしょう。
顧客にそこまで言わせて悔しくなった私たちは逆に奮起。
開発を始めてから実に一年。ついに使い捨て異世界転移門を完成させたのです。
*
「皆さん、ありがとうございます」
満月の夜。私たちが完成させた異世界転移門の前に聖女様が立っています。
そこから少し離れた距離に私と私の恋人たち、魔道具作成科の職員が聖女様の見送りです。
魔石をふんだんに使用したドア型の使い捨ての転移門。
転移門自体にリリスティア王国の皆のありったけの魔力が込められています。
聖女様が転移門のドアを開けたら魔法が発動。
転移門諸共あちらの世界に転移して、もうこの世界にはどちらも戻って来ません。
ちなみに役目を終えた転移門はただのガラクタになると想定されています。
膨大な魔力を込めても一度きり。
世界渡りはそれだけ大変な魔力量が必要となるのです。
「聖女様、いつまでもお元気でいてくださいね」
「はい、白亜の魔女様も。本当にお世話になりました」
「私は今回も私に出来ることをしただけですよ」
「……白亜の魔女様。私、貴女に会えて良かったです」
「ありがとうございます。さて、そろそろ時間ですね」
「はい」
月が丁度真上に差し掛かろうとしています。
この時が世界に最も魔力が満ちる時とされているのでこの時を選んだのです。
聖女様が転移門のドアノブに手を掛けます。
それを見て私たちは小さく別れの手を振ります。
「「「「聖女様、お元気で」」」」
「皆さんもお元気で」
私たち、聖女様。共に別れの挨拶が終わります。
少し寂しくなりますね。と考えていたら聖女様が不意に振り返りました。
「そう言えば」
「はい?」
「鞠夏です」
「え?」
「私の名前。和泉 鞠夏」
「マリカ、さん」
「はい!」
「私は……」
「知ってます。ミレーヌさんですよね」
「ええ」
「ミレーヌさん」
転移門のドアに背を向けてこちらに走って来るマリカさん。
私の胸に飛び込んで来たかと思えば、そのまま私の唇が奪われました。
「「「「あぁぁぁぁぁ!!」」」」
それを見て騒ぐ私の恋人たち。
マリカさんは舌を出し、「私のこと忘れないでくださいね」などと言った後、転移門に向けて走りドアを開けます。
転移。
後に残された私はそっと唇に手をやって呆けるばかりでした。
その後私の恋人たちが浄化という名目で私にキス合戦を繰り広げたのは言うまでもありません。




