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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
38/43

37.某国の聖女様 その1

 聖女。それはリリスティア王国やそのリリスティア王国に近しい国。

 又は魔法使いの身分が著しく高い国などでは、リリスティア王国の建国に最も貢献したミレニア様が聖女様であるとそう呼ばれています。ですが国自体或いは国の立場など違えば聖女様という存在も在り方や何をもって聖女様と呼ぶかなど変わってくるものです。

.

.

 その国はつい最近までは自薦、他薦を問わない応募方式で聖女として相応しい女性を王宮に集め、国の基準に基づいた厳正なる審査によって見事合格した人を聖女様としていました。

 ですが一体何を思ったのでしょうか?

 いいえ、前王が病に倒れたことにより王という立場の者が代替わりしたからでしょう。

 若くして王となったその人物はそれまでのその方針を転換。

 異世界から女性を()び寄せ、その女性を聖女様とすると国の重鎮たちに発表したのです。

 成功すれば自らに箔がつくであろうという目論みからです。


 召喚魔法はこの世界に普通にあります。

 ですが、その魔法は世界と世界とを繋げるようには出来てはいません。

 喚び出せるのはこの世界に存在する者だけ。

 ですからその魔法はどれだけ準備しても必ず失敗する。

 ――――筈でした。


 何故か成功してしまったのです。

 間違いなくそれは偶然の産物。

 次にもう一度同じことをしても絶対に成功しないでしょう。


 王は突然喚び出されて呆然としている女性に喜び勇んで声を掛けました。


「ようこそおいでくださいました。聖女様」


 聖女様。そう呼ばれた女性が顔を上げます。

 その女性はまだ少女と呼ぶのが適していると言うのが相応しい年齢の女性。

 彼女は元々そういう話にある程度は精通していたのでしょう。

 自分の身に起きたことを理解して泣き叫びます。

 元の世界に帰して欲しいと。自分は聖女なんかじゃないと。

 しかしその願いは叶えられませんでした。

 彼女の意思など無視されたまま、彼女は聖女様として祀り上げられてしまったのです。

 

*


 俺が異世界から召喚された少女、リューゲ様の護衛騎士の任に就いたのは、自慢ではないがこの国の騎士団の中でも見目が良いということにより選ばれたからだ。

 リューゲ様に見目の良い者を宛がい、あわよくば惚れさせてこの世界に異世界人の血を残そうという上の考えによって。

 最初は王がその役目を担うつもりだったようだが、毎日毎日リューゲ様が帰りたいと泣くことにうんざりし、いつしか疎むようになり、王はそれまで王城の来賓室に住ませていたリューゲ様を城から遠く離れた離宮と呼ばれる場所に置くようになった。

 そしてリューゲ様の世話係を騎士団や侍女の中から見繕い、以降は我関せず。

 王はリューゲ様に関する全てのことを俺たち世話係に放り投げたのだった。


 俺はそんなリューゲ様に同情した。

 突然知らない世界に連れてこられた挙句に厄介者としてこの離宮に押し込められることになったのだから。

 離宮に来て以降、日に日に弱っていくリューゲ様。

 俺は見ていられず、リューゲ様の世話をあれこれと焼いた。

 リューゲ様はどんなに望んでも、恐らくはもう元の世界に戻ることは出来ない。

 ならばこの世界をリューゲ様の第二の故郷と思ってもらい、彼女に楽しく暮らしてもらうのだ。

 俺は使命感に燃えていた。リューゲ様の騎士として、男として、俺はリューゲ様のために奔走した。


 しかしリューゲ様は一向に心を開いてはくださらなかった。

 己の殻に閉じこもり、毎日愁いを帯びた目で窓から外を眺めて一日を過ごされる。

 俺はどうしたらいいのか分からなくなり、とうとうリューゲ様に尋ねてしまった。


「リューゲ様、貴女はどうして俺たちに心を開いてはくださらないのですか」


 その時のリューゲ様のお顔は今でも思い出すと背筋が凍る。

 彼女は俺のその問いかけにゆっくりと振り向くと小さく笑ってこう仰ったのだ。

 顔は確かに笑みなのに目は一向に笑っていない、そんなお顔で。


「貴方はどうして私が()()()と仲良く出来ると思うの?」


 リューゲ様はそれだけ言うとまた窓に向き直り、以降は俺が何を言っても口を聞いてはくださらなかった。


 そんなリューゲ様がだ。

 今朝起きると同時に興奮した様子で俺の元へとやって来たのだ。


 俺はもしかしてやっと俺の想いが通じたのかと思った。

 だが違っていた。


「夢の中で女神様からお告げがありました。

 この国に来ている白亜の魔女様を探し出して私の元へ連れて来てください。

 ……この国の未来のためです。お願いします」


 最後のはすぐに嘘だと分かった。

 これでも貴族や王族と少しは関わり合いがあるのだ。

 彼らは[嘘]を当たり前のように使う。

 だからそれが多少なりとも見抜けないようでは話にならない。

 俺はそれなりに彼らと渡り合う能力を備えているのだ。


「分かりました。リューゲ様」


 しかし今回はその嘘に気付かなかったフリをした。

 それがリューゲ様のためになり、この任務が成功したら心を開いてくださる筈と思ったからだ。


 騎士団総出での捜索。幸いにも白亜の魔女様はすぐに見つかった。

 それっぽいいで立ちで興味深げに露店を見ているところを俺が見つけ、彼女に身分などを聞いた上である程度の事情を話し、離宮への動向をお願いすると彼女は思いの外あっさりと同行することに同意してくださった。

 馬車の中、まるでリューゲ様のように客車の窓から外を眺めている白亜の魔女様に俺は話しかける。


「この度は同行に同意してくださってありがとうございます」


 それを受けてこちらに振り返る白亜の魔女様。

 その顔には見覚えがあった。

 笑顔なのに笑顔じゃない、そんな顔。


「いえいえ、聖女様も()()()()()をしているでしょうから。

 私で()()()のお役に立てるのでしたら、協力しますよ」


 なんだろうか。言葉の一部だけを強調していらしたような気がする。

 聖女様には協力するが俺たちには決して協力しない。

 気のせいかもしれないが、俺にはそう聞こえた。


「あの……」

「ところで聖女様がいるという離宮はまだ先なのでしょうか?」

「あ、いえ。もう少しです」

「そうですか」


 笑顔から色を消し、白亜の魔女様は再び窓の外を眺め始める。

 俺はその顔に《これ以上話しかけるな》と書いてあるような気がして、先程気になったことを聞こうとした言葉を喉の奥へと無理矢理飲み込んだ。

 そして俺はそれを聞く機会を永遠に失ったのだった。


*


 私がその場所に到着すると、聖女様はすぐにこちらに走って来て、私の胸の中に飛び込んで来ました。

 驚いたりはしません。彼女の境遇を前もってここまで案内してくれた騎士から聞いていましたから。


「助けて……。お願い、お願いします」


 この小さな体で今までどれだけ頑張っていたのでしょう。

 私の胸の中で助けを求めてすすり泣く聖女様。

 彼女はきっと本当の世界では中学生くらいでしょう。

 背中を摩り、耳元で「大丈夫。もう大丈夫ですよ」と伝えると聖女様は涙を止め、私を一瞬見上げますが、次の瞬間嗚咽を零して大きな声で泣き始めました。


「うっ……、うっっ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 私は聖女様の腰に手を回して強く抱き締めます。

 彼女はこれまでここまで[自分]を現しては来なかったのでしょう。

 今も私たちの傍に控えている騎士が呆然としていますが、私はそれを横目にため息を零します。


「どうしてそんな顔をしているのでしょう。

 ……それだけ何も分かってないということですか」


 小さな声での呟き。

 それは聖女様にだけは聞こえたようで、その時彼女の背中が小さく動きました。

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