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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
36/43

35.リスカムの国 その2

 これは夢でしょうか?

 それにしては風や地面の感触などが現実のもののように感じます。

 少し前、似たようなことを経験したことがありました。

 あの時と同じです。蜃気楼? それとも白昼夢? 私はこの状況を確認するために周りを見回します。

 

「ここはリスカムの国で間違いはありませんね。

 ですが色々異なっていますね。

 本で読んだカトル山が噴火する前の国の姿にそっくりです」


 ということはまた過去に飛ばされたのでしょうか?


「さすがに二度目ともなると驚かずに済みますね」


 苦笑いしつつ杖・リンが一緒にいるか確認します。

 フェンリルや箒の姿に変えてない時は短くして外套の内側の衣嚢の中に入れているのです。

 取り出して話しかけると返事が来ました。


「リン、いますか?」

〘いるよ〙

「リンも一緒ですか。ではここが夢か現実か分かりますか?」

〘多分夢であり、現実でもある並行世界的なところかな〙

「はぁ。またそういうところですか」

〘そういうところだよ〙

「はぁ」


 面倒なことはなるべくしたくないのですが。

 でも……。


 リンを箒に変化させて国の中心部へと飛んでいきます。

 例えここが並行世界だとしても、こうしてこの時に来たのですから、これから起こる悲劇を当事者たちに知らせに行こうと、そう思ったのです。

 というのもこの世界が私の助言で救われたところで私の帰る場所は別の世界です。

 ですからこちらの歴史は変わりますが、私の世界の歴史は変わりません。

 それでも本を読んで憧れの存在となった雷霆の魔女テルミアさんを私はどうしても救いたかったのです。


 その雷霆の魔女テルミアさんのところへリンと共に向かいます。

 本の話の通りなら彼女の家はこの国の国王様のいる王宮の近くにある筈です。

 

「違っていたら国王様のところに最初に訪問することにしましょう。

 王宮はもう見えていますし、そこに国王様がいるのは確実ですしね」


 そう呟いた私の頬に冷たいものが当たります。

 それを感じて空を見上げると雨雲が太陽を隠しつつありました。


「あらら、降ってきましたか」

〘だね~〙

「今朝も突然の大雨に見舞われましたが、この地方はこういうことがよくあるのでしょうか」


 少々うんざりしながら飛んでいると、頭の中にある話のその場所の通りにテルミアさんの家が見えてきました。


*


 本の中でしか会ったことのないテルミアさんは恋人のユミナさんと二人でいて、なるほど! 確かに仲が良いですねと思ってしまう、そんな恋人同士でした。

 今も私の話を聞きながら二人は手を繋ぎあっています。


『普段私たちが他人(ひと)からどう見られているのかがよく分かりますね。

 こういう感じなのですか』

俄か(にわか)には信じ難いですけど、でも実際に貴女がここにいるわけですし、嘘という訳ではなさそうですね。

 白亜の魔女。私のこの世界にそんな称号を持つ魔女は記憶している限りいません。

 並行世界が存在していて、しかも未来から来たという話。私は信じます。

 ユミナはどう?」

「テルミアがそう言うなら私も信じるわ」

「ありがとうございます」


 私はテルミアさんと対面して挨拶の後、すぐに私が並行世界の未来から来た魔女だと正体を明かしました。

 私の中指に嵌っている魔女であることを示す証。

 それは本人以外はどう足掻いても指から外すことが出来ません。

 つまりテルミアさんたちに外れるか試してもらって無理であれば本物の魔女であることが示されるのです。

 上手く行きました。

 話を聞いてもらうことが出来、同じ魔女同士ということで信頼もしてもらえました。


「やってみるものですね」


 私は上機嫌でテルミアさんから頼まれた国王様への報告を遂行するため王宮へと向かいます。

 テルミアさん本人は悲劇が起こる前に国から人々を逃すにしても、その過程で邪魔になる魔獣を少しでも減らすため時間ギリギリまで彼らを狩るそうです。

 カトル山が噴火するのはこの日の夜です。それまではまだ時間があります。


「これなら思っていたよりも楽にこの国を救ってしまえそうですね」


 私は浮かれていました。

 正直、本の中でしか会ったことのない人たちに会えて嬉しい。

 気持ちはそればかりになっていたのです。

 ですから私は、この時すでに大切なことを見落としてることに気が付くことが出来ませんでした。

 それが私をこれから後に絶望に叩き落とすのです。


*


 国王様との謁見は何処の世界でも、何処の国でもそうですが時間がかかります。

 まずは門兵さんに申し込みの旨を申し込んで、無事王宮に通してもらえたら呼ばれるまで待合い室となる客室で待機です。

 殆どの場合は事前予約が必要なのですが、私はそれ無しでもテルミアさんに紹介状を書いてもらっていたので謁見を受けてもらえることになりました。

 出された紅茶を遠慮なくいただいていた時、軽い違和を感じます。

 地面が揺れたような気がしたのです。

 とても弱い揺れだったので気のせいだと思ってしまいましたが。


「ミレーヌ様、お待たせしました」


 王宮の兵士さんが呼びに来て私は腰を上げます。

 その人に連れられて謁見の間に通されたその瞬間でした。

 激しい爆発音が辺りに響き、地震が起き、私たちは立っていられず地面に膝をつくことになりました。


「これは、何事だ」


 国王様の険しい声に呼応したかのように一人の兵士がよろめきながら謁見の間に入室して来ます。

 

「国王様、カトル山が噴火致しました」

「なんだと!」

「えっ!!」


 国の一番偉い人を前に失礼だと思いながらも私は国王様の前でリンをフェンリルに変化させて外へと向かいます。

 途中で王宮内の様々な人々から声が掛かりましたが、それどころではありません。

 門から飛び出すと地獄が広がっていました。

 カトル山から噴き出した火山灰と猛烈な大雨をもたらしている厚く重たい灰色の雨雲に太陽の光は遮断されて今は昼間の筈なのに夜のような暗闇です。

 その中で一際明るく赤く目立つのはカトル山から流れる灼熱の溶岩です。

 先の地震により多くの建物は倒壊していますし、人々は慌てふためいて逃げ惑っています。


 茫然としてしまいました。

 前提が間違っていたのです。

 本には暗く闇の中で噴火したとしか書いていませんでした。

 ですから私はそれは夜だと思い込んでしまっていました。

 ですがそうではなかったのです。

 雨雲が太陽を隠して国を暗くしている中での噴火だったが正解です。


 太陽が隠されて夜と勘違いしてしまいそうになる大雨のこの状況。

 私は今朝方そんな中をここまで飛んできました。

 ですから私が浮かれ気分でいなければ思い出して気付ける筈のことでした。


「リン!」

〘分かった〙


 大急ぎでテルミアさんの家に向かいます。

 このままではユミナさんの命が危ないです。

 到着すると倒壊した家から命からがら逃げてきたらしいユミナさんの姿が確認出来ました。


「ユミナさ……」


 声を掛けようとして"ぞくり"と背中に冷たいものが走ります。

 それは噴火した山からユミナさんに吸い込まれるかのように彼女に向けて飛んで来た大岩です。

 すぐに転移の魔法を発動させようとしましたが1秒、いえ、0.5秒間に合いませんでした。


 私の目の前でユミナさんは岩に叩き潰されてその下から赤が流れてきます。


「……っ」


 何も出来なかった……。

 私は私に絶望を覚えます。

 ですが私の絶望にはまだ続きがあったのです。


「ユミナ!!」


 自分自身の無力さに気を取られていたのですぐには気づけませんでしたが、いつの間にかテルミアさんが戻って来ていて私と同じようにユミナさんを救出しようとして間に合わなかった。

 そんな状況に直面していたのです。


「そんな……」


 彼女は無意識なのかもしれません。

 テルミアさんの魔力が異質な動きをし始めたのを感じ取ります。

 

「テルミアさん、ダメです。魔力を抑えてください」


 慌てる私にテルミアさんが気が付きます。


「ああ、ミレーヌさんだっけ? 会ってすぐなのにごめんね。

 私はユミナがいない世界で生きられないからさ」


 その言葉が言霊となって力を持ったかのようにテルミアさんの魔力がテルミアさんを壊そうと本格的に暴走を始めます。

 破裂する寸前の風船のように彼女の身体のあちこちがコブのように膨らみ、そこから魔力が吹き出してきます。


「待って。……待ってください。テルミアさん。

 ダメです。お願いします。待ってください……」


 それが私が見たテルミアさんの最後の姿でした。

 破裂した体から私に赤が降りかかり、私はただただ茫然とそこに立ち竦みます。


「……何も出来なかった。……違う。私が、殺した。

 魔女なのに肝心な時に魔法が使えなくて、浮かれて大切なことを見落として。

 うっ………………」


 涙が溢れて来ます。

 膝を地面につき、顔を両手で抑えながら私は大声で喚きます。


「うわぁぁぁぉぁ。あぁぁぁぁぁぁぁ」


 また大きな爆発音が国に轟きました。

 火砕流が国に流れ込んできます。

 それを合図に私の視界は暗転しました。


*


 気が付くと宿の寝室でした。

 私を中心にしてコレットたちがその周りを囲むような形で幸せそうに眠っています。

 起こしたらいけない。そう思いながらも涙が止まりません。

 声を押し殺して泣いていると、コレットがそれに気が付き半身をそこに起こしました。


「ミーちゃん?」

「うぐっ、うぅ……」

「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」

「コレット……、私は……」

「言わなくて大丈夫。おいで、ミーちゃん」

「うっうう……、ひぐっ、うあぁぁぁぁぁ」


 もう耐えられず、コレットの胸に飛び込みます。

 しがみ付いて泣き喚いているとアイルたちも気が付いたようで次々起きて来ました。


「ミレーヌ?」

「何があったの?」

「ミレーヌ先生?」


 事情を説明する余裕は今の私にはありません。

 私は涙が枯れるその時までずっとコレットにしがみ付きながら小さな子供のように嗚咽を上げて泣き続けました。


*


 出発の日。なんとか辛うじて立てる程度には持ち直した私はテルミアさんとユミナさんが二人一緒に埋葬されているお墓の前にいました。

 ですがそれは名目で実際はここに二人の遺体はありません。

 カトル山の噴火が収った後、国の復興までには長い年月が必要でした。

 その間に噴火で犠牲になった人たちの遺体も発見されましたが損傷が酷く、誰が誰か分からず止むを得ず一所に埋葬されたのだそうです。

 ですからこのお墓は仮のお墓です。

 本当の二人は他の人々と一緒に眠っているのかもしれません。

 いえ、テルミアさんのほうはいないかもしれません。

 彼女の肉体は……。


「ごめんなさい。私は、未熟で愚かな魔女で……」


 枯れた筈の涙がまたじわりと目尻に浮かんできました。

 その様子を見て恋人たちが傍に来てくれます。


「ミレーヌ、貴女は一人じゃないわ」

「そうです。ミレーヌ先生、あたしたちがついてます」

「泣きたくなったらまた胸を貸すよ」

「ミレーヌが未熟ならワタシたちが力を貸すさ。

 それなら半人前も一人前になれるだろう?」

「ありがとう……」


 私は恵まれていますね。

 涙を流しながらも微笑み、二人のお墓に手を合わせます。

 

 そちらの世界で二人幸せに暮らせていますように。

 いつか私もそちらに行きます。

 その時にまた謝罪しますね。

 それまではこの世界で生きることを許してください。

 ごめんなさい。


《謝罪なんて必要ないよ。ミレーヌさんが気に病む必要はないんだよ》


 それは私に都合の良い幻聴だったのかもしれません。

 ですが私はその時確かにそんな声を聴いたような気がしたのです。


 こうして私は苦い思い出をこの国に残しながら次の国に向けて旅立ちました。

 その私の背後で二人が寄り添いながら私たちのことを見守ってくれていたことには私たちは誰も気が付かなかったのです。

本当に並行世界だったのでしょうか? 或いは夢?

以前の秋が見せた蜃気楼同様に解釈は読者様に委ねたいと思います。

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