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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
35/43

34.リスカムの国 その1

 初冬。それにしては随分と寒い朝。大雨の荒れ模様の中を私たちは凍えそうになりながら今日の目的地の国へと急いでいました。

 肌が剥き出しになっている手や顔に冬の雨の冷たさが容赦なく襲い掛かってきます。

 まさかここまでの荒れ模様の天候になるとはつい二時間程前までは思っていませんでした。

 その頃、先に訪れて観光を終えた国を出発する際は快晴だったのです。


「それがたったの数時間で変わるとは思っていませんでしたね」


 こんなことなら先の国の滞在時間を伸ばしておくべきでした。

 今更そんなことを思っても後悔先にたたずですが。


「ミレーヌ」


 体から体温を奪われる寒さに手に息を吹きかけて擦り合わせていたらアイルが話しかけてきます。


「はい?」

「その、大丈夫か?」


 心配そうなアイルの顔。ふと周りから視線を感じて見回して見ると皆、私を見てアイルと同じような顔をしています。

 寒いのは皆同じなのに私の恋人たちは優しいですね。


「ありがとう。寒いのは寒いですが、大丈夫ですよ」

「本当か? 無理をしないでくれよ」

「ふふっ、そういうアイルは大丈夫なんですか?」

「ワタシは魔法使いだが隠密でもあるからな。

 ミレーヌたちより体を鍛えているから大丈夫だ」

「そう言えばそうでしたね」


 アイル以外は全員純粋な魔法使いですが……。

 あ! いえ、コレットもそういう意味では特別枠に入りますね。

 彼女も私たちアイルを覗くエルフ組よりその体は丈夫です。

 最も彼女の場合は獣人という種族であるが故にですが。


「また雨が強くなってきた気がしますね」

「そうだな。しかしこの雨は異常だな」

「少し急ぎましょう」

「ああ、分かった」


 雨のせいで視界がよくありません。

 ですから魔眼を発動させて視界を確保します。

 魔眼は長くはもちません。発動出来ているその間に距離を稼ぐ必要があります。


「着いてきてください。リン、お願いしますね」

〘任せて! 道の指示はよろしくね〙

「ええ」


 私は恋人たちに声を掛け、先頭を進みます。


*


 その国に着いたのは昼過ぎでした。

 朝の雨はすっかり止み、今は青空が広がっています。

 おかしな天気ですね。狐に化かされたような気分です。


「ですがそのおかげでとても美しい景色が見れたので良しとしましょう」


 私たちの眼前に広がるのは先程までの雨の滴が太陽の光を薄く浴びて輝いている国。

 そしてその背後にはこの国を観光地たらしめている標高凡そ3800mのカトル山と呼ばれる美しい山。頂上には雪をいただいていて、それがとても絵になる光景になっています。

 その山はかつて火山活動が活発な山でしたが、現在は休んでいるのか、それとももう死んでしまっているのか、長きに渡り活動がないらしいです。

 最後に噴火した記録があるのが三百年以上前。

 リンがポツリと言葉を零します。


〘富士山みたい〙


 見た目も標高も歴史も全てが酷似している。

 リンはそう私にだけ聞こえる声で話しました。

 私の中にあるリンの記憶。探ると確かにそっくりです。

 ただの偶然か、それとも何かしらの因果があるのかは分かりませんが、どちらにしてもその山の美しさには見惚れずにいられません。

 暫く何もせず箒で宙に浮きながら私たちはただその山を見つめ続けます。

 それから数十分。満足したら私たちは背後にカトル山をいただく国へと入国しました。

 悲しい逸話の残るその国へ――――。


*


 この国にはかつて一人の魔女が仕えていました。

 今は亡きその魔女の名は雷霆(らいてい)の魔女テルミア。

 彼女はその魔女の称号が示す通り、雷を手足のように扱うことの出来る優れた魔女でした。

 そんな彼女ですから、国王様からの命令で国の周りに時折現れる魔獣退治に駆り出されるのは当然のことです。

 多い時は一月(ひとつき)の間休み無しで駆り出され続けました。

 かと言って別に国王様は彼女のことを道具のように思っていたわけではありません。

 むしろ国王様と魔女は仲が良く、国王様はいつも彼女を頼らなくてはならない国の不甲斐なさに胸を痛めていたのです。

 それが分かってるからこそ彼女も国のために命を賭して魔獣と戦いました。

 国王様の信頼に応えるため、国の民のため。

 それに加えてもう一つ、彼女には戦う理由がありました。

 それは自分のことを献身的に支えてくれる恋人のユミナを守るためです。

 二人は本当に仲が良く、いつも身を寄せ合って幸せに暮らしていました。

 また、国王様や他の国の民からもお似合いの恋人同士として祝福されていました。

 結婚も間近です。いえ、悲劇の日のその翌日が本当ならば二人の結婚式の日だったのです。

 それなのに。幸せは永遠に奪われてしまいました。

 それはどれ程無念だったことでしょうか。

 カトル山の突然の大噴火。それは殆ど前触れなく起きた出来事だと伝えられています。

 暗い闇の中で起きた悲劇の出来事。

 最初にユミナが悲劇の犠牲者となり、次に魔女がそのことを知って絶望の末に自ら体内の魔力を暴走させて命を断ちました。

 結局、このカトル山の噴火で生き残ったのは僅かに数名だけでした。

 国は崩壊、生き残った人々も命からがらといった有様です。

 その中に国王様の姿もありました。

 彼は忠臣たちの、文字通り必死の守りにより九死に一生を得たのです。

 生き残った国王様は現在と後世の人々がこの悲劇を忘れないよう、記録を残すことにしました。

 それが現在私たちの間で伝えられている悲劇の物語です。


*


 その国に入国した私たち魔女一行は人々から熱烈な歓迎を受けました。

 その理由は時が過ぎた今でもこの国の人々にとって雷霆の魔女テルミアさんは国の英雄で、ですから魔女という存在が自分たちにとって特別な存在だからだそうです。


「魔女様、こちらも食べてみてください。美味しいですよ」

「魔女様、よろしければこの国自慢のワインなどいかがですかな?」


 入国時に門を守る兵士さんに教えてもらった料理が美味しいと評判の宿の食堂。

 その食堂で私たちに次々色々と薦めてくれているのはこの宿の従業員の皆さんです。

 有難いのですが、テーブルがお酒と料理でいっぱいになってしまっているのは少し困ってしまうものがありますね。

 とても食べきれません。

 私の隣に座っているコレットに顔を向けます。

 私たち一行の中で一番食欲があるのがコレットです。

 ですから彼女に期待したのですが、そのコレットも限界のようでした。


「さすがにもう無理」


 椅子に頭を乗せてぐったりしてしまいました。

 一番の戦力がこれでは、もうどうにもなりませんね。

 現実逃避をするために数々の料理と共にテーブルの上に乗せられているワインを手に取ります。

 

「お酒を口にするのは成人した日以来ですね」

 

 あの日は確かにコレットたちとお酒を口にしたのですが、ワイングラス半分飲んだ以降の記憶が殆どありません。

 コレットたちにその時のことを聞いても教えてはもらえませんでした。

 何故でしょうね? よく分かりませんが「ミーちゃんはお酒禁止」とコレットに言われた気もします。

 その時のことなど気にせずに飲んでいるとコレットが私に気が付きました。


「ミーちゃん、それ」

「言うだけあって確かに美味しいですね。飲みやすいです」

「ミーちゃんはお酒禁止ってわたし言ったよね?」

「何故です?」

「知らぬが仏だよ。ミーちゃん」

「よく分かりませんが」


 意識がぼんやりしてきました。

 私の視界にコレットを放置して何処かへ行こうとしているルーナー先生とアイルの姿が映ります。

 ニアはそれを見て不思議そうな顔をしていますが、ルーナー先生に「ニアも今のうちに逃げた方がいいわよ?」なんて言われています。

 

「どうしてですか?」

「ミレーヌが酔ったら手がつけられないのよ」

「まさか! ミレーヌ先生に限ってそんな」

「貴女は何も知らないからそう言えるの」


 失礼ですね。

 私が面倒な女の人みたいじゃないですか。

 そんなことありませんよ。


「ん?」


 ふとテーブルの上に驚く程の料理が乗っているのに気が付きます。

 前からそうだった気もしますが、どっちにしてもこんなに残すのは勿体無いです。


「ふふふふふふふふっ。

 もう、こんなに残したらダメではないですか! ねぇ」


 魔法を発動します。

 隣で焦っているコレットも、何処かへ行こうとしていたアイルとルーナー先生も、突然私が笑い出したことに驚いて固まっているニアも纏めて体の動きを封じて動けなくします。


「ミ、ミーちゃん? 何をするつもりなのかな?」

「ミレーヌ、落ち着いてくれ。頼むから」

「ああ~、だから言ったのに」

「ミレーヌ先生?」

「ふふふふふふふふふふふっ」


 まずは近くにいるコレットからです。

 デザートが盛られているお皿から苺を手に取って口に含み、コレットに口移しします。

 

「「んっ」」


 コレットの顔が赤いです。

 可愛いですね。その顔をずっと見ていたくて延々とコレットにそれを続けました。


「大変なことになるって本当だったんですね……」


 その様子を見ていたニアが呟くのが聞こえます。

 それを受け、ルーナー先生とアイルが返事をします。

 ちなみにコレットは私に抱き締められて大人しくしてます。

 頭を撫でるともぞもぞ軽く動きますがそれだけです。


「そう言ったじゃない」

「ミレーヌ先生って普段は甘やかされる側だから攻める側に回るとギャップが凄いです」

「幸せではあるんだが、これは破壊力が凄くてな」


「翌日立てなくなるんだ」


 アイルのその締めくくりの言葉にニアの顔が引き攣ります。


「次はニアですね」

「ひっ!?」

「ふふふっ」


 私はそれから皆の口に苺を口移ししました。

 そしてその後は……。

 終わったら急激に睡魔が襲ってきます。

 その後私はそれに抗えず眠りに落ちたのでした。

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