表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
33/43

32.秋が見せた蜃気楼

 昼過ぎに到着し、それから観光を楽しんでいた町の中で現在私は軽く途方に暮れています。

 先程何かしらの大きな魔力を感じたまでは特に何も変わったことはなかったのですが、その直後に私は私の少しだけ前を歩いていた恋人たちとはぐれてしまったのです。

 普通に考えるとあり得ません。

 距離はあったと言ってもすぐ傍でした。

 手を伸ばせば届く距離だったのです。


「これは先程の大きな魔力の影響を受けたということでしょうか」


 ここに来て軽く辺りを見回してみます。

 一見すると皆とはぐれる前の景色と変わり映えが無いように見えますが、何処か……。

 例えば今の季節は秋の筈なのに町中に咲いている花々が春のものになっているような気がしますし、建物などの見た目が多少新しくなっている気もしますし、そこにあった筈のものが無くなっているような気もします。

 町を歩いている人の姿も、うろ覚えで自信はありませんが、若返っているように感じられます


「信じられませんが、まさか過去に飛ばされたのでしょうか」


 現在の時間から過去への時間逆流の魔法。

 魔法使いの中でも体内に蓄積出来る魔力量が驚く程に多いとルーナー先生に言わしめる私の魔力量ですが、それでもこれ程の過去に飛ぶとなると生命力まで魔力に変換して死と引き換えることにしてもまだまだ全然足りません。

 今起きているこれは軽く見積もっても十年から二十年は時を遡っているように見受けられます。

 それ程の魔力を何処から調達してきたのでしょう?

 魔法使いの中でやはり魔力量が飛びぬけているのは魔女です。

 ですが私はこの世界に存在する二十二名の魔女と一度だけ旧魔法連盟の解体時に邂逅したことがありますが、それ程のことを可能にする魔女はいなかったことを記憶しています。


「何が何だか分かりませんが、困りましたね」


 何をどうやって過去に干渉したのか、戻る方法があるのか無いのか。

 何も分からず改めて途方に暮れると突風が吹き、私の体を何処かへ攫おうとするかのように吹き抜けて通り越していきます。


「きゃっ!!」


 咄嗟にスカートを手で押さえたのでその中を誰かに見られるということはなかったと思いますが、その代わり無防備になっている私の顔に新聞紙が飛んできて張り付きました。


「……………」


 風が通り抜けた後、なんとも言えない複雑な気持ちになりながら顔に張り付いた新聞紙を右手で掴んで取り除きます。

 そうして何気なく広げると十年前の日付が書かれていました。


「はぁ……。考えが正解だったと証明されましたが、嬉しくありませんね」

「もしかしてミレーヌちゃん?」


 不意に背後から肩を叩かれ、聞こえて来た声に驚いて数秒程硬直してしまいます。


「ひっ!」


 緊張が解けてから慌てて振り向くとそこにいたのは二十二名のうちの魔女の中の一人、玉響(たまゆら)の魔女リタさんでした。


「ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて。ミレーヌちゃんだよね?

 魔女の会合(ワルプルギス)以来だね。久しぶり~~。ぼくのこと覚えてる?」


 軽いです。魔導士試験の時の誰かさんのことを思い出します。


「はい」


 私が返事をするとリタさんは私の両手を握ってぶんぶん振り回し始めました。


「そっかそっか~。嬉しいな~。

 ずっとね、もう一回会いたいなーって思ってたんだよ~。

 また会えて嬉しいよ。ミレーヌちゃん」

「は、はぁ。ところでどうしてリタさんはここにいるのですか?」

「それがね~」


 リタさんが私の問いについて話してくれます。

 それによるとリタさんが所属する国から休暇をもらったので旅行に来たらこの事件に巻き込まれたとのことでした。

 現在魔女の階級を得ている魔法使いには大きく分けて三通りの呼び名があります。

 私やルーナー先生のように帰る国はありながらもそこに留まり続けることなく各国を巡っている魔女は旅空の魔女と呼ばれています。

 リタさんのように国に所属してその国の例えば王様の側近などの仕事をして一つの国に留まり続けている魔女は残留の魔女と呼ばれています。

 他に少数ですが国に所属せず、余程のことがない限りは人と接触せずに暮らす魔女がいますが、彼女達は隠者の魔女と呼ばれています。

 ここはリタさんの国とはそれなりに遠い場所にあります。

 そこにいれば巻き込まれることはなかったのに、たまたま今日が休暇の日になったから旅行に来たその日に巻き込まれてしまった。災難と言えるでしょう。

 

「それは災難ですね」


 苦笑いしながら言うとリタさんも頷いて肯定してから私に抱き着いてきました。


「ほんと災難だよ~。でもそのおかげでミレーヌちゃんと会えたから悪いことばっかりじゃないかな」

「リタさん、私たち会うの二回目ですよね?」

「そうだよ~。ぼく初めてミレーヌちゃんを見た時に一目惚れしちゃったからね。

 あ! でも恋人になりたいとかじゃなくて、ただずっと愛でてたいって方向でね」

「はぁ、そうですか」

「あれ、ぼくのことなんて全然興味ない?」

「そんなことないですよ? 興味あります」

「うわぁ。明らかに嘘って分かる声質で言われるの新鮮だな~」

「そんなことより」

「そんなことって……」

「これからどうしますか?」

「そうだね~」


 リタさんが私から体を放します。

 ですが目線はずっと私の顔を見ています。

 愛でたいって言っていましたし、それを実行しているということなのでしょうね。


「とりあえず」

「とりあえず?」

「観光してみない?」

「はぁ……」


 私が何か言うより先にリタさんは私の手を取って歩き出します。

 その時、何気なく私たちの前方に聳えるこの町のシンボルである時計塔を見上げると十七時ニ十分。

 ここに来たのが十七時丁度でしたから、リタさんと出会ってやり取りして二十分程経過したことになります。

 ところで気のせいかもしれませんが、先程よりなんとなく町が騒がしい気がします。

 あまり穏やかではない声も聞こえたような……。

 ですが面倒なことは避けたいですし、わざわざ首を突っ込む必要はありませんよね。


「ミレーヌちゃん」

「はい?」

「何か大変なことが起きてる気がしない?」

「………」

「もしかして気づいてた?」

「気のせいではないですか?」

「どうだろうね~」


 リタさんが顔を綻ばせます。

 玉響の魔女の由来はその名前の通りに音を探知機のように利用して周りの状況を知ることが出来るからです。

 もしかしたらリタさんはそれによって何かをすでに知っているのかもしれません。

 ここに来てからもしかしてばかりですが。


「あれ?」


 不意にリタさんが立ち止まってそこではない遠くを見ているような顔をします。

 その方向はこの町の門がある方向です。

 それでなんとなくですが、状況を察します。


「魔獣がいる。数は五……、六かな」


 リタさんの知らせを受けて私は魔力探知(サーチ)の魔法を発動します。

 この魔力の質は狂戦級の魔獣です。数はリタさんの言う通りに六。

 町の騒がしさはこれも関係があったのでしょうか。

 ですが誰も町の外に目を向けていません。

 目を向けているのは町の中です。


 人々の視線のその先から異質な魔力を感じるような気がします。

 

「ぼくはあれを迎撃に行くけど、ミレーヌちゃんはどうする~?」


 そちらに目を向けているとリタさんから声が掛かりました。

 それと同時に気になっていた異質な魔力の気配が消失します。

 未だ気にはなりますが、リタさんが何も言いませんし、多分それについては気にしなくてもいいのでしょう。

 ですからそれは放置してリタさんに返事をします。


「頑張ってください。私は安全なところで見守っています」

「手伝ってくれたりは……。金貨十枚出すよ」

「……!! まじですか! そういうことなら」

「ミレーヌちゃんってお金に困ってないのにお金に弱いよね」

「お金は無いと困りますが、有っても困るものではないですから」

「まぁ、そうだね~。じゃあ行くよ」

「はい」


 私とリタさんは箒に腰を下ろして空へ。

 門を出て真っ直ぐに魔獣がいる場所へと向かいます。

 十五分程飛ぶとまだ青々とした紅葉の葉が風により舞っている地上を我が物顔で闊歩している魔獣たちが見えてきました。

 念のために少しの間だけ魔眼を発動させて魔獣たちの魔力量を見るとやっぱり狂戦級相当の魔獣であることが判明します。

 それを確認して、少し卑怯ですが私たちは無傷で魔獣は確実に倒しきって戦闘を終わらせるために空からそのまま魔獣に向けて攻撃魔法を使うことにしました。


千の氷柱(サウザンドアイシクル)


 私に魔法を教えてくれた先生、ルーナー先生に敬意を称して先生が最も得意としている魔法を選びました。

 魔獣たちは突然空から降って来た氷柱にやや焦りを感じているようですが、体に小さな傷を幾つも負いながらも上手く魔法を躱しています。

 時折私たちを見上げて咆哮を上げる魔獣もいますが、私は無視して魔法を彼らに浴びせます。


 千でダメなら二千、二千でダメなら三千。

 途切れることなく空から地上に向けて撃ち出される氷柱。

 それにより周りの空気が魔法を使う前よりも大幅に冷えて気温が冷たく下がります。

 ここだけ一気に冬に季節が進んだかのような寒さです。

 そのせいでしょうか? リタさんが隣で微妙な顔をしています。


「……ぼく、いらなかったよね?」

「寒さのせいではありませんでしたか」

「ん?」

「いえ、なんでもありません」


 私が笑顔を向けるとリタさんは引き攣った顔になってしまいました。

 氷柱を一旦停止させます。冷気が漂っていて魔獣の姿は見えませんが、魔力を探知すると残っているのは一匹だけのようです。

 かなり弱っていますが、油断は出来ません。

 と思っている間に魔獣がいる方向から岩が飛んできました。


「多少は知恵が周るみたいだね~。

 でもこの攻撃方法に気づくのが少し遅いけど」


 リタさんが私の前に出て結界でその岩を塞いでくれました。

 私はその後ろで魔獣にとどめを刺す魔法を作り上げます。


「これで終わりです。炎帝の吐息(インフェルノ)


 魔獣に浴びせる灼熱の炎。

 魔獣は断末魔を上げた後、絶命して魔石を残し消滅しました。

 

*


 魔獣退治を終えて私たちは町に戻って来ました。

 視界に入った時計塔の針は十七時五十九分。

 直後に十八時となり、時計塔の鐘の音が町中に響き渡ります。

 その瞬間に視界が暗転したような気がしました。

 そんな中、最後に私が見た町の一角の光景は……。


「どうしたの? ミレーヌ?」


 気がつくと涼やかな秋風の吹く町の中、ルーナー先生が私の目の前にいました。

 心配そうに私の顔を覗き込み、額に手を当てて熱がないか確かめてくれています。

 その温もりが少しだけ肌寒さを感じる体に心地良くて、くすぐったくて、嬉しいと感じて頬が熱くなってしまいました。


「少し熱がある?」

「これは違います」

「そう。……ということは」


 私はルーナー先生から顔を逸らせます。

 その様子を見ていたアイルたちがニヤニヤしているのが見えます。


「ミレーヌ」

「あ! ルーナーちゃんがいる~」


 甘くなりそうだった雰囲気を壊したのは玉響の魔女でした。

 リタさんは空気を読まずにこちらに近づいて来てルーナー先生を抱き締めます。


「久しぶり~」

「リタ、空気を読んだ方がいいと思うわ」

「ねぇ、ルーナーちゃん。

 ミレーヌちゃんにどんな授業したの? やり過ぎじゃないかとぼく思うんだけど」

「話を聞きなさい!!」

「ミレーヌちゃんって強くて可愛いなんて最高だよね。目の保養になる」

「それは分かるわ。……ってそうじゃなくて」

「休暇中、ぼくも同行していいよね? っていうからするからよろしくね」

「勝手に何言ってるのかしら」

「ミレーヌちゃ~ん」

「ちょっ! 貴女、自由過ぎだわ」


 この後玉響の魔女リタさんは宣言通り休暇の間私たちに同行することになりました。

 私たちの間に入ってくることはないので皆は気にしていませんでしたが、私はリタさんが時々メモ帳にペンを走らせているのが気にかかりました。

 何を書いているのか聞きましたが、はぐらかされました。


 それから休暇が明けたリタさんが帰国した後、彼女の国でとある魔女とその恋人たちの恋物語が本として出版されて大人気になっていると風の噂で聞きました。

 今度リタさんと会った時、詳しく聞いてみる必要がありますね。

.

.

.

 ところで私が経験した出来事はなんだったのでしょう。

 白昼夢? 秋の蜃気楼? 今となっては分かりません。

 この現象について調べようと思えば調べられるのかもしれませんが、世の中には知らない方が良いこともある。

 これはそういう話だと思います。

旅空。

旅行していて眺める空。

旅行先の土地にいること。家郷を離れている境遇。「旅の空にあって故郷を思う」。

という意味があるらしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ