31.ハンターの国での大騒動
その国はハンターの国と呼ばれています。
ハンターとは魔獣を専門に狩っている人々の総称のこと。
私たち魔法使いに階級と称号があるようにハンターにもそれらがあり、彼ら・彼女らは皆それぞれ野心を胸に少しでも上に行くために日々自らを鍛え、魔獣退治に勤しんでいます。
ですから陽の高い時間帯はハンターの方たちは町中よりも魔獣のいる外にいる方が多い。
私は確かにこの国の周辺の国々でそう聞いていたのですが、では私の今のこの状況は一体なんなのでしょうか。
「お願いします。魔女様、どうか俺たち《堕天使のお茶会》に力を貸してください」
「どうかお願いします。僕たちを助けてください」
先程からずっと二人の男性たちに囲まれています。
例えるなら熊と骨でしょうか。
一人は熊のように毛深く立派な体躯を持った壮年の男性。
一人は金髪碧眼で高身長、壮年の男性とは逆に女性よりも痩せた見た目の若年の男性。
正直邪魔です。この人たちが壁になっているおかげで前に進むことが出来ません。
「あの、私はこの国を観光したいのですが……」
「それなら俺たちが案内しますよ。魔女様」
「それはもう隅から隅まで案内します」
小さな親切、大きなお世話。ですね。
どうしたものでしょうか。思わずうんざりして大きなため息をつきますが、男性たちには通じません。
「そうだ。魔女様、それならこういうのはどうでしょう?」
「なんでしょう?」
若年の男性が良いことを思いついたとばかりに左の掌に右の手を拳にした形のものを落とします。
私としてはこの状況から解放されるのならなんでもいいです。
なので若年の男性を言葉を待っていると、彼は笑顔で私にとても有利なことを喋り出しました。
「僕たちと追いかけっこしませんか?
魔女様が捕まったら大人しく僕たちの言うことを聞く。
僕たちが捕まえられなかったら魔女様の言うことを何でも一つ僕たちが聞く。
ね、ね? どうです? いいアイデアでしょう」
「なるほど。では時間はいか程に?」
「夕方までってことでどうかな? ね? ベアードさんもそれでいいですよね?」
「ああ、構わない」
壮年の男性の名前はベアードというのですか。名前も熊ですね。
……覚えておくつもりはありませんが。
「魔女様もそれでどうかな?」
「ええ、それでいいですよ」
「よーし、決まり。捕まえる時に胸とか触っちゃっても文句言わないでね」
「大丈夫ですよ。貴方たちは私に触る前に終わりますから」
「言うねぇ、魔女様。よ~し、じゃあスタート」
「土鎖の束縛」
若年の男性の追いかけっこスタートの合図と同時に魔法を発動。
地面から二人の男性に向けて飛び出る鎖。
その鎖は金剛石とオリハルコンで出来た特別製の鎖です。
鎖は驚く二人のことなどお構いなしでその体に巻き付き、彼らの自由をあっという間に奪い去ります。
「うおっ! 魔女様、これはちょっとずるくねぇですか」
「そ、そうだよ。魔女様。これはずるい。やり直しを要求します!!」
「魔法を使ってはいけない。そういうルールはなかった筈です。
ですからこれも有効ですね」
にこにこと笑顔で彼らに伝えます。
その私の様子に若年の男性が「な、なら今からでも魔法はきん……」何か言おうとしましたが、口も鎖で塞いで言葉も封じさせてもらいました。
「「んんっ!! んんんんんんんん!!!」」
さて、これで漸く落ち着いて観光が出来ますね。
心なしか、周りで様子を見ていた人たちから何故かニヤニヤとした顔が見られます。
その様子に頭の中で疑問符を浮かべていると、この騒ぎの比較的近くで露店で野菜を売っていた中年の女性が話しかけてきました。
「あんた大変だったね。そいつらは若い女の子を見ると見境なく声を掛ける連中でねぇ。
どうしても女の子をパーティに入れたいらしいんだけど、あんなじゃあ誰も入るわけないよねぇ」
女性が苦笑いしながら鎖で雁字搦めになってもがいている男性たちの様子を見ます。
私も釣られて見ると、それでもこちらに這ってこようとする姿が見て取れます。
「蛇のような執念深さですね」
右手を上げて魔法の上掛け。
これにより鎖は地面へと縫い付けられ、彼らは完全に動けなくなりました。
「夕方。……と思いましたが、念のために夜になると魔法は解けるようになっているので頑張ってください」
「「んんんん~。ん~」」
「ごめんなさい。何を言っているか分かりません」
私は軽く彼らに微笑んでから、視線を外して中年の女性にそれを向けます。
「ぷっ」
女性は最初は呆けていましたが、笑いの堰が崩壊すると私の背中を"ばしばし"叩きながら大笑いを始めました。
「ぎゃははははははは。あんたやるじゃないか。気に入ったよ」
「はっ、はぁ……。あの、痛いです。いたたたっ」
かなり痛いです。堪らずに身体強化の魔法を発動しますが、それでも痛いです。
どれだけの力で叩いてるんですか! 私の背骨を破壊する気?
「あ~、笑った笑った。あんた、名前は?」
「はぁ……。ミレーヌです」
「ミレーヌってどっかで聞いたことあるねぇ」
中年の女性の言葉に私たちの正面で串焼きの露店を営んでいた老年の男性が割り込んできます。
「な、なんと……。貴女様はあの白亜の魔女様でございましたか」
「なんだって? 本当かい? ミレーヌちゃん」
「はぁ……。まぁ、そうです」
いつもならドヤ顔してるところですが、どうにもこの女性の前ではペースが崩れてしまいます。
驚いた顔の女性に指輪を見せると本物であることを確認した後、女性はまた破願します。
「こいつは驚いたね。本物を拝めるなんて今日は良い日だ」
"バシバシバシバシバシバシッ"
あの、痛いです。本当に痛いです。涙出て来ました。やめてください。
「よし、白亜の魔女様。うちの野菜持ってっておくれ」
女性が露店へと戻ります。
そうして両手いっぱいに野菜を抱えて戻ってきます。
「ほら。うちの野菜は新鮮で美味しいからね」
「……あはは。ありがとうございます」
せっかくの好意ですし、素直に受け取ることにしました。
それを見ていた老年の男性や他の人々が自分たちの露店に走り出すのが見えます。
嫌な予感がしますね。早急に逃げ出そうとしますが、今一歩間に合いませんでした。
「では私はこれ……で!!」
「白亜の魔女様、どうかうちの串焼きも持って行ってください」
「うちの団子ももらってくれ」
「うちの果実も是非持って行ってくださいな」
「魔女様、サインください」
「あ! オラにも是非」
「俺にも」
「私にも」
「あ、あの……。ちょっ……。あわわわわわわわわっ」
押し合いへし合い。
私が解放されたのは、それから数時間後のことでした……。
*
その翌日。
「……というのが昨日の[事]の詳細です」
「……な、なるほど。大変でしたね。ミレーヌ先生」
「そ、そう。大変だったわね。ミレーヌ」
「ミーちゃん、わたしたちも一緒にいれば良かったね。ごめんね」
「ふむ。称号が知れ渡っているというのも大変なものだな」
昨日の自分の行いを反省して、今日は一人ではなく皆で観光です。
皆に守ってもらいながらであればそれなりに観光も楽しめます。
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……と思っていた時期が私にもありました。
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「「「来た来た。白亜の魔女様、ご一行様だ」」」
昨日の迷惑パーティに加えて他のハンターにどう見てもハンターギルドの受付嬢な人たち。
加えて野菜売りの隙あらば私の背骨を粉砕しようとする女性に町の人々。
「ミーちゃん、……これって何?」
「私に聞くんですか……?」
「「「皆様、うちの店寄ってってください」」」
「「「サインください」」」
「「「パーティに入ってください」」」
「俺の女にしてやってもいいぞ」
『今日の下着は何色!?』
「「「「「ひっっっっ!!!」」」」」
悪夢再びです。
ちなみに最後の不届きなことを言っていた一人とちゃっかりそれに混ざっていたアリアはルーナー先生が町の外まで風魔法で吹き飛ばしました。
「「「「「「「「「「お願いしまーーす」」」」」」」」」」
「「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」
私たちが解放される頃にはホクホク顔の町の人々とは裏腹に皆、ぐったりとした顔になっていました。
疲れ果てた私たちはもう面倒事に巻き込まれるのは嫌だったので、疲労した体を押してその日のうちにこの国を出たのでした。




