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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
31/43

30.ドリル娘の暴発 その2

「世界魔法連盟でミレーヌの称号と階級を剥奪する話が出ているの」

.

.

 世界魔法連盟。それはこの世界全ての魔法使いが自動で加入している協会の名称です。

 ここで私たちのことは管理されていて、問い合わせれば魔法使いたちの現在の状態など分かるようになっています。それは例えば魔女の階級まで上り詰めた魔法使いが何名いるかなどです。

 最も、残念ながら腐敗が進んで有っても無くても良いような組織になってしまっていますが。

 それでも一応それなりに力は持っています。

 そんな組織が私の称号と階級を剥奪すると発表したのです。

 当然、私の周りは慌てることになり、後日この国の世界魔法連盟支部に呼び出されることになりました。


*


 今日はその当日。

 あまり大勢で押しかけるのもどうだろうということで、私たちの中からは当事者の私に加えてルーナー先生が代表で一緒に来てくれることになりました。

 世界魔法連盟の支部。魔法連盟というところに初めて来ましたが、見かけだけは立派な建物です。

 ベージュ色の三階建ての建物で質の良さそうなガラスがそこそこの数使われていて、協会の持つ権力を現しているということなのでしょうか。仕事をしているのか、していないのか、分からない組織にここまでの建物は必要ない気もしますけどね。


「ミレーヌ、気持ちは分かるけど行きましょうか」


 微妙な気持ちになっていたのがルーナー先生には分かったのでしょう。

 そもそも、もしかしたら顔に出てしまっていたのかもしれません。

 先生は私に声を掛けてくれて一緒に歩き出します。

 

「お疲れ様です。魔女様」

「お疲れ様です」

「あ、お疲れ様です」


 魔法連盟の扉前に立っている兵士さんに挨拶して建物内へ。

 中は螺旋階段で上の階に行けるようになっていて、そこまでは赤の絨毯が繋がっています。

 床は黒曜石でしょうか。どう考えても無駄で贅沢です。


「ルーナー先生、これは必要なことなのですか?」

「……魔法連盟に使われるお金について精査して見直した方が良さそうね」


 ルーナー先生が建物内を見回して頬を引き攣らせます。

 ですがとりあえず今は螺旋階段を上がって三階の一番手前の部屋の前へ。

 先生がその部屋の扉を叩いて私がここに来たことを告げます。


"コンッコンッコンッ"

「白亜の魔女と同行者、鏡花の魔女、只今参りました」

「入れ」


 中から聞こえて来たのは高年の男性の声。

 言われた通り中に入ると真っ赤なテーブルクロスが掛けられた長机が窓とドアの間に置かれていて、窓側に先程の声の主と思われる真っ白な頭髪の高年の男性が座り、その左側に中年の女性が、右側に金髪で強面の顔の壮年の男性が私を睨むように座り、以下男性が三名、女性が二名座っています。

 その女性のうちの一人、左側の一番手前の席に座っている女性を見て私は今回の顛末をなんとなく察しました。

 女性、あの時のお嬢様が私を見て勝ち誇ったように笑います。


「オーホッホッホッホッホッホッ。だから言ったじゃありませんの。

 後悔させて差し上げますわよと」


 つまりこの侯爵家のお嬢様は魔法連盟の関係者の娘。

 親は私を睨んでいる男性である線が濃厚でしょうか。

 その権力を使って私をここに召喚したということのようです。


「今なら東の国で用いられる土下座という謝罪方式でわたくしに謝罪をするなら許して差し上げるのも吝かではありませんわよ?」


 お嬢様が私を見下しながら言いますが、高年の男性が私たちにまずは着席するよう言ってきます。

 

「まぁまずは話をしようじゃないか。

 さて、同行者の者はドア側の空いている席に。

 白亜の魔女はドアの前にある席に座りたまえ」


 それを聞いて私もルーナー先生も真顔になります。

 本気でしょうか? 言いたいことはありますが、私たちはまずは相手の様子見ということで大人しく着席することにしました。


 高年の男性が話を始めます。


「さて、この度そこの白亜の魔女がとんでもないことをしでかしたと聞いたのだが、それは確かかな?」


 私に聞いているように聞こえますが、顔の向きからするとそうではないようです。

 私を睨んでいた男性に高年の男性は問いかけて応えを待ちます。


「はい、よりにもよってこの女は私の娘の弟子入りを拒否した挙句唾を吐きかけたとか。

 魔女の風上にもおけない奴です。こんな奴にこのまま魔女の階級を与え続けていたら魔法使いたちの顔に泥を塗ることになるでしょう。即刻その階級をこの女から剥奪することを提案します」


 唾を吐きかけたですか。

 一体何処の魔女の話なのでしょうか。

 私が呆れていると、お嬢様が父親と思しき男性に追従するように語りだします。


「そうですわ。わたくしの顔に唾を吐きかけた挙句暴言も吐きましたのよ。

 わたくし、悔しくて家に帰って白亜の魔女の弱みでもないかと経歴などを調べましたら実は白亜の魔女はスライムにも負ける雑魚魔法使いというではありませんか。こんな者に魔女の階級などもっての他ですわ。魔法士の卵……。いいえ、魔法使いの座から追放するのがよろしいかと」


 頭痛がしてきました。

 有ること無いことでっち上げるにしても少々やり過ぎではないですか?

 昨日読んでいた勇者コウキの冒険譚を思い出してしまいました。

 彼とこのお嬢様が出会ったら仲良くなれそうですね。

 いえ、同族嫌悪になるかもしれませんね。


 などとどうでも良いことを考えていたら私の隣から強い殺気を感じます。

 見るとそろそろ理性の限界を迎えそうなルーナー先生。

 私はこっそり自分に物理防御の結界を張っておくことにしました。


「ふむ。では白亜の魔女の階級を今この場で剥奪するということでよろしいかな」


 爆発寸前のルーナー先生の様子など知りもせずに高年の男性がここにいる私たち以外の人たちを見てそう告げます。

 

「良いと思います」

「当然ですわ」


 嬉しそうに次々賛成の意を示す魔法連盟の関係者の人たち。

 自分たちの思う通りに物事が進んで心底楽しそうですが、次の瞬間、ルーナー先生がその雰囲気を粉微塵に破壊しました。


"ガーーーーーーーーン。バキッッッッ、ガラガラガラッ"


 先生が机を手に叩きつけたことで縦に真っ二つ破壊された机が音を立てて崩れ落ちます。

 静まり返る室内。机の破片が飛び散って肌を切り、血を流している人もいます。

 物理防御の結界を張っておいて正解でした。

 そんな中で響き渡るのは先生の底冷えするような声です。


「ねぇ、さっきから黙って聞いていたらあなたたち、どういう権利があってミレーヌの階級を剥奪するなんて言っているかしら?」


 ルーナー先生が高年の男性を睨みます。


「ひっ」

 

 彼は運悪く机の破片が飛んできて頬を切ってしまったようです。

 血を流しながら竦み上がっていますが、ルーナー先生はそれで許すことなく男性に問いかけます。


「ねぇ、応えて? どういう権利があってあなたたちはミレーヌの階級を剥奪するなんて言っているの?」

「そ、それは……」

「魔女の階級を剥奪できるのは同じ魔女の階級を持つ者だけ。

 その中でも任命した者が強い決定権を持っていて、その者が剥奪に反対したら魔女間の剥奪決定の意を場合によっては覆させることが出来る。魔法使いの常識よ? つまりはミレーヌの魔女の階級を剥奪出来るのは任命した私か他の魔女たちだけ。あなたたちには何の権限もないわ。ついでに言うとここはあくまでも魔法使いの階級などを書類で管理するだけの職場。それが剥奪ですって。笑わせてくれるわね」


 ルーナー先生の言葉に魔法連盟の人たちの顔色が青くなっていきます。

 そこに追撃を掛ける先生。まるで容赦がありません。


「そう言えば白亜の魔女が唾を吐きかけたとか、実は雑魚とか言ってたわね。

 しかも恥ずかしげもなく下座に座らせる。

 白亜の魔女の故郷って知ってるわよね? リリスティア王国よ?

 あの国の王女。……私の()()()()は代々の王女に負けず劣らず過激な思想を持っているわ。

 ここでの話と最近この町で広まってる白亜の魔女についての噂を義妹に知らせたら、それが本当のことなのか、それとそれを広げた者たちが誰なのか徹底的に調べるでしょうね。

 そしてその結果が出たら……。どんな報復に出るかしらあの子」


 ルーナー先生が冷ややかに笑います。

 それにより魔法連盟の人たちの顔色が青から白、土気色に変わっていって最後には気を失う人まで出てきます。

 その様子を見るに、愚鈍な人たちでもリリスティア王国の気概については知っていたようです。


「あ、あの……。わ、わたくしどうしたら……」


 お嬢様が私に話しかけてきている気がしますが、私はそんなことより気になっていることがあってお嬢様のことなど私の目には映っていませんでした。


「ルーナー先生……。さっきディアナ様がルーナー先生の義理の妹って聞こえたのですが」


 ルーナー先生が私に振り向きます。

 バツの悪そうな顔。先生は苦笑して私に謝罪の言葉を述べてきます。


「ごめんなさい。実はそうなの」

「つまりルーナー先生は王女様なのですか?」

「私、そういうのが苦手だから無理だわ。

 だからその継承権はさっさと放り出したのよ。

 つまり私はただの魔女よ。

 妹……、ディアナとは殆ど関係がないわ。

 ……そういうことにしておいて頂戴。ミレーヌ」

「ルーナー先生がそう言うなら分かりました……」


 思うことはありますが、もう聞かないことにします。

 

「さてと、帰りましょうか」

「はい」

 

 その台詞と共にルーナー先生が私に向けて伸ばして来たその手を私は取ります。

 お嬢様たちはそれを見てまだ何か言っていますが、面倒なので無視することにします。


「ミレーヌ様、まっ……」


 そんなお嬢様の悲痛な声を置き去りにして私たちは転移。

 後日お嬢様たちが仕出かしたことが噂となり、そのおかげで私の噂は下火になりました。

 こうしてこの騒動は幕を閉じたのでした。

.

.

.

 その後世界魔法連盟は一旦取り潰され、組織改編が行われた後に新設されることが魔女全員の総意により決定しました。

 これにより元の世界魔法連盟の人たち。

 お嬢様の家など腐敗の元となった家の人々は路頭に迷うことになったそうです。

 そうなった人たちがそれからどうなったのか。

 何も噂を聞かないということは、そういうことなのでしょう。


 私はあの組織にこれまでもこれからも必要以外は関わるつもりはありません。

 ただ、新しくなった組織が今度こそ間違わなければ良いのですがとは願うのです。

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