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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
番外編-続・成人時代-
30/43

29.ドリル娘の暴発 その1

番外編の更新は不定期です。

 これは私たちがエドの町に訪れたその時よりも少しだけ前の話の話です。

 私はその時、新しい国に到着したばかりでワクワクしながら観光を楽しんでいました。

 この国に入国した時から感じていました。何処か懐かしい雰囲気ですねと。

 その理由はすぐに分かりました。魔法使いたちが様々な形で町の中で活躍しているのです。

 料理、手紙、荷物の配達や魔力の少ない人や魔力を持たない人を絨毯の後ろに乗せて飛ぶ運送業。

 露店や商店で炎魔法を使って食材を焼いたり、煮たりして料理を作る飲食業。

 他にもいろいろ。少し歩けば、そこに魔法使いが必ずいるという感じです。

 私の故郷リリスティア王国でも、この国と違って男性が見られないという点では相違がありますが、この国と同じような光景が見られます。

 だからでしょう。故郷に帰ってきたような懐かしさを感じてしまうのは。


 私は隣を歩いているニアに視線を向けてこの国が私の故郷と何処か似ているものがあるということを伝えます。

 それを聞き、目を輝かせるニア。

 二人でお互いの顔を見ながら微笑んだ時のことでした。


「失礼。貴女、もしかしてもしかしなくても白亜の魔女ミレーヌ様じゃありませんこと?」


 金の髪で縦ドリル、オレンジの釣り目のお嬢様が不意に話しかけて来たのです。


『初めて見ました。あの髪型毎日整えるの大変なのではないでしょうか』


 私はそのお嬢様を見ながら場違いなことを考えていました。

 そんな私を庇うようにニアが立って声を上げます。


「ミレーヌ先生に何のご用ですか?」


 その声には明らかに警戒心が現れています。

 まぁ当然と言えば当然ですか。

 こちらが知らない人に急に話しかけられたのですから。


「貴女に用はありませんの。

 白亜の魔女ミレーヌ様、わたくしを生徒にしてくださいませんこと」

「なっ! ちょっと、それってどういう……」

「ですからわたくし、貴女に用はありませんのよ。

 白亜の魔女様と話してるんですの。邪魔しないでくださるかしら」

「くぅぅぅぅ」


 そのお嬢様の物言いにニアが地団駄を踏みます。

 この子少しずつ性格が変わっていっているような気がしますね。

 初めの頃と大違いです。


「で、ミレーヌ様どうなんですの?」


 お嬢様がニアを透過するように私のことを見て来ます。

 そのニアは心配そうに私に振り向きますが、私はニアに微笑んでお嬢様の視線は受け流します。


「お断りします」


 あっさりとした私の言葉にニアは笑み、お嬢様は絶句しました。

 二者違う言葉がその口から発せられます。


「そうですよね。ミレーヌ先生の生徒はあたしだけで充分ですよね」

「な、何故ですの!? 好待遇をお約束しますわよ」

「何故と言われても、嫌だな~っと思ったからですかね。だからお断りします。

 それからニア、私もそう思っていますよ」

「ミレーヌ先生……」


 感極まったのかニアが抱き着いてきます。


「嬉しいです、ミレーヌ先生」


 そう言いながらニアがお嬢様に舌を出すのが見えました。

 子供ですか……。


「困るんですの……」

「はぁ?」

「………」

「わたくし、どうしてもミレーヌ様の生徒にしてもらわないと困るんですの」

「何を勝手な!!」

「ニア。話だけ聞いてみましょう」

「うっ……。ミレーヌ先生がそう言うなら、分かりました。分かりたくないですけど」

「あははっ」


 私はお嬢様に話を促します。


「一応話だけしてみてください」

「分かりましたわ」


 お嬢様の話はありきたりなものでした。

 簡単に言うと、侯爵令嬢でありながら魔法を上手く扱えないことを悲観して、魔法使いの実質最高峰の階級を持っている私に教えを乞いたいというものです。

 人によっては自分より魔法を上手く扱える平民がいる。

 それが許せない。貴族は平民よりも上でないとならないのに。

 そう言ったプライドの話です。

 全てを話し終えてお嬢様が私に強い視線を向けてきます。


「こういうことですの。ですから生徒にしてくださいますわよね?」

「嫌です」

「は?」

「ぷっ……」


 私たちのやり取りにニアが噴き出します。

 プライドの話なんて面倒なことには関わりたくありません。

 私ではなく別の魔法使いに要請してもらいたいです。

 お嬢様は始め呆けていましたが、私の言葉の意味を理解すると徐々に顔を赤くして怒鳴ってきました。


「どういうことですの! わたくし、ちゃんと話しましたわよ!?

 話したら生徒にしてくださる約束だったではありませんか」

「そんな約束はしていませんよ。聞くだけ聞きますとは言いましたが」

「確かにミレーヌ先生はそう言ってたよ。思い込みの激しいお嬢様?」

「なっ、ななななっ。わたくしをバカにしたんですのね!!」

「話が通じていませんね…」

「呆れた。侯爵令嬢にしては頭おかしいんじゃない?」


 お嬢様が私たちを睨みつけてきます。

 私はその視線を素知らぬ顔で無視です。

 ニアは逆に睨みつけてお嬢様を挑発します。


「お勉強やり直した方がいいと思うよ」


 悔しそうに歯噛みするお嬢様。


「覚えてらっしゃい!! わたくしに喧嘩を売ったこと、後悔させてやりますわ。

 オーホッホッホッホッホッ。御免あそばせ」


 言うだけ言ってお嬢様は踵を返して近くに止めていたらしい馬車の方へ歩いていきます。

 その前には執事さん。馬車のドアを開けてお嬢様が乗り込んだのを確認したら執事さんは御者席に乗って馬車を出発させます。

 後に残された私とニアはその様子をただ黙って見つめ、馬車を見送りました。


 その翌日のことでした。

 町中に私の、白亜の魔女に関する歯も葉も無い噂が広まったのは。


*


 私はその噂を聞いてきたコレットの報告を半分面白がりながら聞いていました。

 曰く、白亜の魔女は約束を守らない詐欺師である。だとか。

 曰く、白亜の魔女はバカな生徒の尻に敷かれている。だとか。

 曰く、白亜の魔女は言う程大したことのないペテン師魔法使いである。だとか。

 噂は噂。そうとしか思えない内容の物ばかりですから。


「っていうことが言われてたの! すっごいムカつくんですけど」

「ああ、そうだな。しょうもないゴシップ誌並みの噂だが、気持ちの良いものではないな」

「酷い! ミレーヌ先生はペテン師なんかじゃないのに」


 コレットにアイル、ニアの三人は怒っていますが、私は特に気にもせずに先日露店で見かけて買ってきた勇者・コウキの冒険譚という本を開いて読み始めます。

 その名前に見覚えがありましたし、本に描かれている容姿も私・リンの記憶が知っているその人物と重なるので気になってしまったのです。

 

「ここに書かれているのは本当のことなんでしょうか。

 いまいち信じられないのですが……」


 あの人は昔からそうでした。

 自分を大きく見せたがる病があります。

 それからリンが言うにはチュウニビョウという、普通であれば十四歳を超えたら自然と治る病気らしいですが、彼はまだそれを発病し続けているらしいです。

 ですから本の内容の信憑性に疑問を持ちます。

 天災級の魔獣を一人で倒したとか、世界最高峰の山の頂上を制覇したとか、ゴールデンボアの蒸かし饅頭を一人で千個平らげたとか。この本に書かれているのはそういうことばかりです。


「誇大広告すぎやしませんか……」


 あまりにもあまりで苦笑いしているとルーナー先生が私を呼んでいることに初めて気が付きました。


「ミレーヌ、聞いていたかしら?」

「ごめんなさい。聞いていませんでした」

「はぁ、大事なことだからよく聞いてね?」

「はい」


 私は本を閉じ、背筋を伸ばしてルーナー先生の話を聞く体勢を取ります。

 そうして口を開いたルーナー先生でしたが、それは私には寝耳に水の話でした。


世界魔法連盟(マギアギルド)でミレーヌの称号と階級を剥奪する話が出ているの」

「え」

「どうやらこの噂が原因みたいでね」


 こんな子供染みた噂がどうしてそこまで大きな話になっているのでしょう。

 私は思わず頭痛を覚えて頭を抱えたのでした。

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