28.エピローグ
若く美しいその魔女は今日もまた新しい国へと訪れていました。
エドという名の一風変わった雰囲気の国です。
その国の人々は皆、黒目黒髪で肌が魔女のそれよりも黄色みが強いのです。
ああ、別にそれが変わっているところというわけではありません。
似た容姿の人々は他の国々にもいないわけではありませんから。
では何が変わっているのでしょうか?
正解は彼ら・彼女らが身に着けているものです。
キモノと呼ばれるそれは刺繍されている柄も美しく繊細で見る者の心を不思議と落ち着かせてくれます。
それだけではありません。ハカマと呼ばれる服を身に着けている人々もいるのですが、そっちは見ていると勇ましさのようなものを感じられます。
魔女は興味深げに人間観察と国の観察をしながら歩きます。
「リンの国の過去の姿と何処か似ていますが、相違点が幾つもありますね。
やはり世界が変われば国の様相も変わるものなのでしょうか」
魔女は頭の中にある記憶と今、自分が見ているものとを見比べて相違点を探します。
まずは髪型です。女性も男性もあの独特の髪型をしていません。
女性については普通に髪を下ろしているし、男性は基本的に短く切り揃えています。
それから身に着けているものです。女性も男性もキモノかハカマのどちらかを選んで身に着けています。
女性は必ずキモノとは決まっていないようです。
後は建物でしょうか。
あの世界のあの頃のものよりも少しだけ立派な建物が並んでいます。
その様子からどうやら庶民であっても羽振りが良いことが伺えます。
それは他の国々と貿易をしているおかげでしょう。
鎖国をしていない点も相違箇所の一つです。
魔女の故郷リリスティア王国ともこの国は取引があります。
この国で作られている調味料や民芸品などなどリリスティア王国でもその専門店に行けば見ることが出来ます。
魔女はふと足を止めて背後を振り返ります。
この国のこの町に入町して以来、同じ集団がずっと魔女の後をついて来ているのです。
だからと言って特に害をなそうというわけではないようです。
魔女の美貌に惹かれて、ついつい追いかけてしまっているというところでしょうか。
いいえ、魔女だけではありません。
魔女の周りには魔女に勝るとも劣らぬ美少女たちがいて、魔女のことを囲んでいます。
彼女たちには魔女以外目に映っていません。
町のことなどそっちのけで魔女を構い倒しています。
頭を撫でたり、手を恋人握りで繋いで微笑んだり、腕を組んでみたり、時には大胆にも道の真ん中で抱き着いたり。などなど。
魔女はそんな彼女たちに苦笑しますが、それだけです。
自分のことを揉みくちゃにする彼女たちに注意するようなことはありません。
その理由がないからです。愛しいとは思っても邪魔だとは思いません。
そのため魔女は彼女たちの好きなようにさせているのです。
「尊い……」
「ずっと見てられる」
……背後の方々はそういう方々のようです。
魔女は僅かにも警戒していた緊張を解き、自分からも恋人たちに甘えることにしました。
.
.
私がこの国に来てから二日が経過しました。
この間私は完全に一人になることはなく、いつも仲間・恋人たちの全員と一緒か、或いは誰かと一緒の時間を過ごしています。
普段は別に私のことを好きなようにしてくれても構いません。
私も彼女たちの温もりが嬉しいですし、私自身もなんだかんだで彼女たちを構うのが楽しいからです。
ええ、こうやって服を着ている時であれば。
……変な意味ではありませんよ。
お風呂の時のことです。
彼女たちは毎回私の背中を誰が洗うかで争い、壮絶なジャンケン大会を毎回繰り広げるのです。
ただのジャンケンなのにどうしていつもいつも怪我人が出るのでしょうか。
それに待たされている間に体が冷えるのが困りものです。
いっそ日替わりにすればいいと思うのですが、提案するとにべもなく却下されてしまいました。
なんでも少しでも私に触れたいそうです。
つまり今日は私の背中を洗うことが出来た。
明日も洗えるかもしれないということでしょうか?
ジャンケンに勝ち続ければそうですが、負け続ければ逆に遠のきます。
それは本末転倒だと思うのですが、彼女たちは全員頭に血が上ってその事実に気が付いていないのです。
言ってもリンの言う暖簾に腕押しになるくらいには……。
「これとこれと、それからこれもください」
エドの町中でこの町特有のものを買い込んで町の関所から外へと出ます。
リンをいつもより大きめのガルーダに変化させて皆を乗せて空の旅。
適当な場所を見つけたらそこに降り立ち、空間に仕舞っておいた茣蓙や食べ物を取り出して茣蓙の上に並べていきます。
今日は外で食事をすることにしたのです。
おにぎりを手に取り、続いて何かおかずをと思っていたらアイルが箸で唐揚げを差し出してきます。
「ミレーヌ。これはなかなか美味いぞ。食べてみてくれ」
期待している目。私は風に攫われる髪を手で押さえて風を避けながらそれを口にします。
"もぐもぐ"
「うん、美味しいです」
その様子を見ていた他の恋人たちが一瞬、呆けた顔となり、次の瞬間一斉に私から顔を背けました。
「やばい、何あれ。ミーちゃん色っぽ過ぎるんですけど」
「ああ……。教え子への気持ちが膨らんで止まらないわ。
どうしたらいいのかしら。これ」
「ミレーヌ先生、誘ってるんですか? 誘ってますよね?
反則です。反則過ぎます」
「どうしました?」
「「「無自覚怖い」」」
皆がぶつぶつと何か言っています。
どうしたのでしょう? その様子を見ていると私の前にいたアイルが隣に来て座り、私の肩を抱いて自分へと引き寄せてからキスしてきます。
「ふむ。やはりどんなものよりもミレーヌが一番美味しいな」
アイルの中では決め台詞だったのかもしれませんが、今のは誰が聞いてもどうかと思う反応をするのではないかと思います。
「……………」
何も言わずジト目でアイルのことを見つめます。
その私の視線に気づいてたじろぐアイル。
「あ。あ~、その……なんだ。そうだ! この出し巻きも食べてみてくれ」
自分のやらかしに気が付いたようです。
だし巻き玉子を持ち、私に差し出してきます。
……たまにポンコツになりますね。
「あ~……」
口を開けてその出し巻き玉子を食べようとしたら、逃避から復活した皆が全員でこちらに寄ってきました。
「「「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」」」
アイルを払いのけてコレットが隣に座ります。
私の頬に両手を添えて顔を近づけて来てキス。
「ミーちゃん、大好き……」
そう言ってからコレットが私に抱き着こうとすると、彼女の襟首をルーナー先生が持ち、遠くへと投げ捨てました。
「ルーナー先生……、今のは乱暴すぎではないですか?」
飛んで行ったコレットの方を額に汗しつつ私は眺めます。
あちらの方角には確か池がありました。
落ちていないといいのですが。
と思っていたら、ルーナー先生は私の頭を鷲掴みにして自分の方へ向かせ、綺麗な笑顔を作り微笑みました。
「今はそんな些細なことはいいのよ。
それよりミレーヌ、あの子より私を見なさい」
「あの……」
「いいわね?」
「あ、はい」
逆らったらいけません。
顔は笑顔ですが、目が笑っていなくて怖いです。
長い物にはたまには素直に巻かれた方が長生き出来ると思います。
「ミレーヌ、貴女のことが大好きよ」
私の頭から手を外し、代わりに首に両手を巻き付けてのルーナー先生のキス。
先生が離れると、風の突風・魔法が先生の体を襲い宙へと巻き上げました。
普段なら魔法で抵抗していると思いますが、今は私しか見ていなかったために完全に油断していたようです。コレットが飛んで行ったところへ同じようにルーナー先生が飛んでいくのが私の目に映ります。
「え~……」
こんな所業を誰がしたのかは分かります。
四人の恋人のうち残っているのは一人だけですから。
ですが内気な彼女がここまでするとは思いませんでした。
変わりましたね。ニア。
「二人きりですね。ミレーヌ先生」
ニアがにこにこ微笑みながら私のすぐ目の前に座ります。
眩しい程の満面の笑みですが、何処か恐怖を感じるのはどうしてでしょうか?
「ニア、どうしてそこに座ったんですか?」
「どうしてだと思いますか?」
「キスするため……でしょうか?」
「はい、そうです。でも……」
ニアに茣蓙の上に押し倒されます。
手を半万歳の恰好で押さえられ、私はニアに見下ろされます。
「ミレーヌ先生」
「……はい」
「先生は可愛いです。それに優しすぎます。
あたし、そんなミレーヌ先生が好きなんですけど、時々嫉妬してしまうんです。
他の女性に優しくしないでって。だからって、あたしだけを愛して欲しいとは言いませんけど。
実力でミレーヌ先生に一番愛される存在になってみせますから」
「ニア」
「……ミレーヌ先生、愛してます」
ニアが浮かせていた体の力を抜いて私に覆い被さりつつキスをしてきます。
ふと、私の耳に水音が聞こえました。
目線をそちらに向けるとびしょ濡れのコレットとルーナー先生が立っています。
その背後にはアイルも。
「ねぇ、ニアちゃん。ちょっと話があるの」
ルーナー先生に捕獲されて連れていかれるニア。
それに他の二人も着いて行きます。
私から目線は届きますが、声は届かない距離。
暫く見守っていると言い争いのようなものが始まり、その後いつもお風呂で見る光景が始まりました。
《ジャン拳》
声は聞こえませんが、その動作からそう言っているように予測します。
気のせいでしょうか? ジャンケンのニュアンスが少しおかしい気がしますが。
《グーパンチー》
《パービンター》
《チョキ突きー》
相変わらずのその光景を呆然と私は見守ります。
そのうち何故か可笑しくなってきて笑みが零れ始めました。
「ふふっ。あはははははははははははっ」
その笑い声に皆が気づきます。
最初は訝し気な顔をしていましたが、私が笑い続けているからでしょうか?
皆にもそれが伝染して同じように笑い始めました。
「「「「「あはははははははははっ」」」」」
私たちはそれから暫くの間笑い続けました。
若く美しい魔女、私と楽しく可愛い恋人たち。
私たちの旅はこれからもこんな風に続いて行くのでしょう。
私はそんな未来を想像して、笑いが収まった後、皆の顔を見ながら微笑むのでした。
評価・ブックマーク・感想などありがとうございます。
これで物語の一旦本編は閉幕し、次話からは番外編となります。
どうぞ引き続き[白亜の魔女ミレーヌの旅行記]をよろしくお願いします。
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白亜の魔女ミレーヌの旅行記R
アリアの真実やミレーヌの……といったお話が掲載されています。
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