26.帝国での騒動 -勃発-*
私が先生という立場になってから半年後。
私たちは二つ目の大陸を船で出発して三つ目となる大陸に渡り、その大陸における一番最初の国アルザード帝国という名の国の帝都に訪れていました。
正直あまりいい雰囲気とは言えません。
町の人々は皆、何処か怯えた表情と雰囲気で足早に歩いています。
特に女性はそれが顕著に表れています。
まるで関わりたくない誰かと会わないようにするために道を急いでいるように感じられます。
「ミレーヌ先生」
それは正解のようです。
ニアが前から歩いてくる騎士団らしき集団を見て私に声を掛けてきました。
関わらずに済めば良いのですが、あまり良い予感はしません。
「「「「「……………」」」」」
私たちは示し合わせたように騎士団に道を譲ろうと道を右に避けます。
このまま通り過ぎてくれたら良かったのですが、案の定騎士団は私たちがそうしたのと同じように右側に隊列を変更してきました。
「「「「「………」」」」」
それを見た私たちは再び騎士団を避けるべく左に避けます。
元々歩いていたところに戻ったとも言いますが。
騎士団は先程と同じように隊列を変更してきます。
これは彼らの目的は私たちということのようですね。
面倒臭いと思い、もっと左に避けようとしますが、速度を速めた騎士団とついに接触してしまいました。
「失礼だが君たちはこの国の身分証を持っているかね?」
騎士団の中で一番偉いのであろう無精髭を生やした中年の男の人が私たちの前に出て来てそう尋ねてきます。
そんなものを持っている筈がありません。
何か云いがかりをつけて何かをしようと企んでいるのでしょう。
私たちが無言でいると、騎士団は私たちをぐるりと取り囲んで手に持った槍をこちらに突き付ける格好を取って来ました。
二十本程の槍の先の刃が私たちの目の前に突き付けられています。
「これはどういうつもりかしら?」
怒りを滲ませながらルーナー先生が無精髭の男の人に問い掛けます。
先生は殺気を隠すことなく放っていますが、無精髭の男の人が怯む様子はありません。
それどころか顔を緩ませてルーナー先生の体の一点を見ています。
「お前、俺の女になれ! ……へぶしっっ」
無精髭の男の人がそう言うが早いか、ルーナー先生は風の魔法を使いその男の人を遠くへと飛ばしてしまいました。
何かの建物に衝突して"ガクリ"と糸が切れた人形のように動かなくなったのが見えましたが、あの人は生きているのでしょうか。
「やり過ぎではないですか?」
ジト目でルーナー先生に言いますが、先生はただ笑うだけで私の言葉への返答はありません。
そんなやり取りに触発されたわけではないでしょうが、リーダーらしき男の人が飛ばされて呆気に取られていた騎士団が我に返ります。
「き、貴様らどういうつもりだ!!」
副リーダーでしょうか。横に随分と体格の良い壮年の男の人がそう怒鳴ってきますが、私たちは全員でその人物を完全に無視します。
「この国は随分飼い犬の躾がなってないみたいね。
こんな国滞在する価値なんてないわ。
さっさと次の国に行きましょう」
ルーナー先生の呼びかけで私たちは私以外全員空間から箒を取り出します。
私はリンに魔力を流し、箒に変化させてそれに腰を下ろします。
「まっ、待て! 構わん。やれっ!」
それを見て焦った副リーダーが命令を下しました。
私たちの体に向けて槍の突きが騎士団により行われます。
それによって私たちは串刺し。……にはなりません。
魔法の結界に阻まれて槍は虚しく宙を突くだけで終わります。
「「「なっ!!!」」」
騎士団から驚愕の声。
ルーナー先生が呆れた様子で肩を竦めてため息をついた後、空へ。
アイルとコレットもそれに続き、次は私たちの番です。
目の前の騎士団がお世辞にも練度の高い騎士団とは言えないので油断していました。
「きゃっっ!!」
突然響いた悲鳴に私はその方向を見ます。
目に映ったのはニアが[罠]にかかっている様子。
騎士団の中に女性。そこそこのやり手がいたようです。
ニアの足元で光る魔方陣。転移の魔術がその魔方陣には組み込まれています。
魔法と魔術は違います。
魔法とは世界(自然界)の力そのものをほんの僅か間借りして自分の力として発動させるもの。
言わば極々小さな自然現象です。
それに対し魔術とは魔方陣や代償を用いて発動することの出来る「人」が作った簡易的な魔法です。
そのため威力や規模など遠く魔法には及びません。
それでも[罠]などに使うには充分です。
「ニア!」
「ミレーヌ先生!」
私は咄嗟にニアの元へ飛んでその手を掴みました。
その瞬間、魔術が発動して私たちは二人で何処かへと飛ばされます。
「「あっ!!?」」
.
.
気が付いたらそこは牢獄。
しかもその牢には魔封じの術が組み込まれていて、私は魔法を使うことが出来ません。
……理論上はですが。私はその魔封じの牢獄を破るすべを持っています。
「ふんっ。調子に乗りすぎたわね。お嬢さん」
先程の女性。女性ということは魔法使いの素質ある者。
ちらりと見えた指輪の色は白。彼女は魔導士見習いのようです。
その女性が牢の外からニヤニヤと笑っています。
ニアもそこにいます。
半分ならず者な騎士団に剣を突き付けられて怯えているニア。
私はそれを睨みますが、今は行動を起こさずに様子見です。
「さて、あんた達少し可愛がってあげなさいな」
女性の言葉で騎士団の数名が牢の中に入ってきます。
魔導士だった頃の私ならどうなっていたか分かりませんが、今の私は魔女です。
魔女相手にこのような軽率な行動に出てくれるとは思いませんでした。
少し。いえ、かなりでしょうか。侮りすぎではないでしょうか。
「抵抗するなよ。したら分かってんだろうな」
牢に入って来た騎士団の男の人たちは下卑た顔をして私にそう告げます。
わざとある程度近づけさせてから私は行動に移ります。
「さ~て、どう可愛がってやろうか。…………は?」
まずは一人。男の人が地面に倒れ伏します。
何が起こったのか? 唖然としていますが、わざわざ彼らに説明する必要はないでしょう。
「な、なんだ! 一体何しやがった!?」
急に一人倒れたのを見て男の人の仲間が焦った顔をしますが、よそ見していていいのでしょうか。
私は最初の一人目と同じように行動します。
「なっ! いつの間に背後に!? ……ぐふぉっ!」
……これで二人目。
「は? ……ぐふっ」
最後の三人目。唖然としているそのうちに、地面に沈めます。
転移の魔法で男の人たちの背後に移動しながら極弱い雷の魔法を彼らの体に放っただけですから、失神はしていますが命に別状はありません。
数分か、数時間か、人によると思いますが時間が経てば意識も戻り立ち上がることが出来るでしょう。
「最も、身動きは出来ないと思いますが」
新たに魔法を発動して彼らの体を縛ります。
土魔法の一種です。牢の石床から生えた蔓植物。それが彼らの体に巻き付いています。
「え? なんで? だって魔法は封じられている筈よ?」
ただ一人、残された女性がたじろぎながらそう叫びます。
顔色は青から白へ。私はその様子を見ながら彼女の質問に応えます。
「それならすでに解除していますよ」
「は?」
彼女にも見えるように体を少し傾けてその様子を見せます。
牢の奥壁に張り付いている奇妙な物体。
それは例えるなら蜘蛛でしょうか。
直径5cm程度の黄金色の楕円に八本の足がついている物。
「な、何よ。あれ」
「魔封じの魔道具を破壊するために作った魔道具です」
ルーナー先生との修行期間中、空いた時間に片手間に作りました。
あの楕円には裏側にオリハルコンの針が仕込まれていて、足で歩いていったその先で見つけた魔封じの魔道具の核である魔石を貫くように出来ているのです。
私が作った魔封じの破壊蜘蛛には核となる魔石に魔力探知の魔法を付与しているので魔封じの魔石を感知することが出来ます。
後は自動追尾でそこまで行って針で破壊。
これで魔封じの魔道具は簡単に無効化されるというわけです。
「なっ、なっ……そんなもの……そんなもの知らない」
「当然ですね。つい最近まではこの世界になかったものですから」
傾けていた体を正面に向くように直し、足を一歩前に出します。
「ひっ! こ、来ないで!! この子、この子がどうなってもいいの?」
人質にしたニアを盾に怯える女性。
「私から目を離さないのはこの場において正解だと思います。
ですが後ろが疎かになっているのは油断しすぎだと思いますよ」
「え?」
「ミーちゃん。それから一応ニアも。遅くなってごめんねー」
女性の背後から響くコレットの声。
彼女が振り向くより先に女性はコレットにより意識を刈り取られます。
「ありがとうございます。コレット」
「うん! でももしかして邪魔しちゃったかな?」
「そんなことはありませんよ」
私は太腿に隠して装備している短剣からそっと手を離します。
魔法だけではなく短剣の扱いについても魔女の嗜みとしてルーナー先生から習ったのです。
今回は使うことはありませんでしたね。
牢から出るとニアが私に抱き着いてきました。
「ミレーヌ先生、怖かった……」
「助けるのが遅くなりましたね。怖い思いをさせてしまいました」
「先生、先生……」
私の胸の中、泣きじゃくるニアを抱き締めます。
コレットから強い視線を感じますが、さすがに今回ばかりはニアを私から引き剥がしたりはしないようです。
どれくらいの間ニアを抱き締め続けていたでしょうか。
漸く落ち着いたらしいニアに私は笑顔を向けて問いかけます。
「もう大丈夫ですか?」
「はい、取り乱してごめんなさい。
ミレーヌ先生。それからコレットさんも」
「……っていうかいつまでミーちゃんと引っ付いてるの!」
「ミレーヌ先生の胸柔らかいです」
「なっ! どさくさに紛れてなんてことを。
羨ましい。……じゃなくて立ち直ったならさっさと離れるべきだと思う」
コレットの言葉でニアは口角を上げて余計に私にしがみ付いてきます。
少し痛いです。強く抱き締めすぎですよ。ニア。
「ミレーヌ先生……。いい匂い」
「ニア。もう少し力を緩めてください」
「あっ! ごめんなさい」
ふぅ。力を緩ませてくれたので楽になりました。
さて、ニアも立ち直ったみたいですし、そろそろ……。
「コレット。ルーナー先生とアイルはどうしています……か?」
「ミーちゃんから離れろ~」
「痛っ! コレットさん、頭を鷲掴みにするのやめてください」
「嫌ならミーちゃんから離れて。それかその場所変わって」
「嫌ですよ。せっかくの特等席なんですから、堪能するんです!!
ミレーヌ先生、すんすんすんすん……」
「……………」
「調子に乗らないで!!」
コレットにより私から引き剥がされるニア。
目の前で取っ組み合いの喧嘩が始まりましたがどうしたらいいのでしょう。
私はため息をつき、二人の仲裁に――――。
この小説内では年齢における分類はこのように考えております。
幼年期:0~9歳
青春期:10~14歳
若年期:15~29歳(成人15歳)
壮年期:30~39歳
中年期:40~49歳
高年期:50~59歳
老年期:60~




