22.魔女の階級*
一年後。
ルーナー先生の元で修行を終えた私は次の国に向けて出発することになりました。
修行を終えましたので、ルーナー先生ともお別れかと思いましたが、先生も同行してくれるようです。
修行の最終段階に置いて私はギリギリながらもルーナー先生に勝利したのですが、それがどうやら嘘か本当かは分かりませんが、ハイエルフ界において自分たちと共にあることを許す方法だったらしく、ルーナー先生はそれに従って私たちに同行の旨を伝えて来たのです。
「仕方ないわよね。ええ、仕方ないわよ。掟なんだから。
気は進まないけど、仕方ないわ。仕方ない」
ルーナー先生はしきりに掟であることを強調しています。
それが返って嘘臭く聞こえてしまうのは世の常というものでしょう。
「ルーナー先生、本当に掟なんですか?」
ジト目で質問するとルーナー先生はすぐさま視線を逸らしました。
それによって私は全てを察します。
『何故わざわざ嘘をつく必要があるのでしょうか。
ハイエルフはプライドが高いと聞きますが、そのせいですかね』
私はため息を一つついてルーナー先生から視線を外します。
それと同時にルーナー先生は転移の魔法を使用し、背後から私に覆い被さるようにして私のことを抱き締めました。
「私だって困惑してるのよ。まさかこんなに情が移っちゃうなんて思わなかったわ」
ルーナー先生の両腕に少しだけ力が籠められます。
それからルーナー先生は私の頬にキスをすると、思い出したかのように私にとっては大切な話を語りだしました。
「そう言えばミレーヌ、貴女は知っているかしら?
この世界には賢者という階級があるけど、あれは実は名誉階級でどんなに実力があっても誰もその座に就くことは出来ないの。
賢者の階級は永遠に今は亡き聖女ミレニア様だけのもの。
貴女の出身国リリスティア王国を建国するに当たり、誰よりもその作業に貢献した聖女様。
その聖女様の功績を称えてのことらしいわ。
だから今この世界に生きる魔法使いたちの最高の階級は魔女になっているわ」
「以前リリスティア王国内を旅している時にそのような話を聞いたことがあったような気がします。
……ところで何故その話を今私にしたのですか?」
「ふふっ。それはね、今まで隠してたけど実は私はこの世界に合わせて二十数名しかいない魔女の中でも一、二を争う実力の持ち主だからよ」
ルーナー先生は相変わらず私を抱き締めながらドヤ口調でそれを言いましたが、聞いた私はまったくと言っていい程驚くようなことはありません。
むしろルーナー先生と日々接していればそのくらいの実力者であることは否が応でも分かります。
ですから私はいつもと同じようにルーナー先生に返事をします。
「そうですか」
「ええ~、もっと驚いてよ。ミレーヌ」
ルーナー先生はがっくりと肩を落とします。
相当にショックだったようで私の肩に顔を埋めています。
そこまで落ち込まれると罪悪感が沸いてくるじゃないですか。
「わぁ、すごーい。ルーナー先生って優秀な方なんですねー」
ルーナー先生の要望に応えてみました。
「あ、なんかもういいわ」
「そうですか」
私たちの間に微妙な空気が流れます。
「そ、それでね?」
ルーナー先生はその空気を嫌ったのでしょう。
無理矢理声を振り絞って先程の続きを話し始めます。
「魔女の中でも一、二を争う実力の持ち主な私から見てもミレーヌ、貴女は相当な魔法の使い手だわ。
そんな実力を持った者にはそれに相応しい階級が必要よ。だから……」
ルーナー先生が私の右手にそっと手を添えます
「鏡花の魔女ルーナーが我が教え子ミレーヌに魔女の階級を授けます。
おめでとう、ミレーヌ。貴女は今日この時から魔女の仲間入りよ。
世界で二十二番目の魔女。白亜の魔女ミレーヌ・エル・スタール」
私は私の耳元で囁かれたルーナー先生の言葉で目を見開きます。
慌てて右手を持ち上げ、中指に嵌っている指輪を見ると色とそれまで刻まれていた文字が書き換えられていました。
「白亜の魔女」
しばし呆然とします。ですが何度もそれを見ているとじわじわと実感が湧いてきました。
「ありがとうございます。ルーナー先生」
くるりとルーナー先生に向き直ってお礼を言います。
ここまで来れたのは全部ルーナー先生のおかげです。
ルーナー先生でなくても魔女にはなれたかもしれません。
ですがルーナー先生に師事したのと同じように成長出来たかというと恐らくは無理だったでしょう。
修行は厳しかったですが、私は今までの数倍の成長を実感しています。
自然と笑顔になります。
ルーナー先生はそんな私を見て、私の腰に両腕を回して私をきつく抱き締めました。
「ミレーヌ、よく頑張ったわ」
「はい!」
「だからそんな貴女にご褒美を上げる」
ルーナー先生が手を緩ませて私を若干解放します。
自然と見つめ合う形になる私とルーナー先生。
先生の微笑みに私は首を傾げます。
「ご褒美ですか?」
「ええ。ミレーヌ、目を閉じてくれる?」
「はぁ」
よく分かりませんが、言われた通りに目を閉じます。
頬にルーナー先生の手が添えられてほんの少し上向きにされたのが分かります。
「ルーナー先生?」
「喋らないで」
「はい」
「……大好きよ。ミレーヌ」
ルーナー先生の唇が私の唇に重ねられました。
長いキス。ルーナー先生が離れたのを確認したら私はゆっくり目を開けます。
「いつから、ですか」
「そうね。半年が過ぎた頃からくらいだったかしら。
それまでは妹のような教え子だと思っていたんだけどね。
気が付いたら女性として意識するようになってたんだもの。
自分でも参っちゃうわ」
ルーナー先生が苦笑いしながら私の頭を優しく撫でます。
先生だと思っていた人にいきなり告白されて私はどうしたらいいのでしょうか?
ルーナー先生をジトりとした目で見ます。
しかし先生はそんな私の目をあっさりと受け流しました。
「貴女の仲間にも遠慮するつもりはないから。
むしろ大人の魅力で他の誰よりもミレーヌを惚れさせてみせるわ。
ということでもう一度キスするわね」
ルーナー先生が今一度私に近づいてきます。
私はそこから動かずその様子を眺めます。
「逃げないのね」
「……ルーナー先生」
「目、閉じて」
「はい」
私は浮気性なのでしょうか。
嫌ではないのです。
そうこうしているうちにルーナー先生の唇が私の唇に重ねられます。
舌が入ってきました。この日私には三人目の恋人が出来たのでした。
*
「知っているとは思いますが、紹介します。ルーナー先生です」
旅への出発地。待ち合わせをしていた町の門の前で私はルーナー先生を皆に紹介します。
それを見てリンはただ頷いただけ。アリアは先生を上から下まで見て意味ありげに頷きます。
さて、問題はアイルとコレットの二人ですが、予想通り今にもルーナー先生に噛みつきそうな目で見て私に当然の疑問を投げかけてきました。
「ねぇ、ミーちゃん。わたし、その人とは先生と生徒の関係だよって聞いてたような気がするんだけど、気のせいだったかな? そんなことないよね? そう聞いてたよね、アイル?」
「ああ、そうだな。確かにそう聞いていた。
だがそうは見えないのはどういうことだ?
どうしてミレーヌとルーナー先生とやらは恋人繋ぎで手を繋ぎ合っているんだ?」
私はアイルの疑問でその手を見ます。
これはルーナー先生の希望によるものです。
ここに来るまでの道の途中でルーナー先生が言い出したのです。
「だって私とミレーヌは先生と生徒の関係であり恋人の関係だもの。
だからこれくらいのこと当然じゃない。なんなら……」
ルーナー先生は二人に見せつけるように私のことを抱き締めます。
私が抵抗しないのを見たからでしょう。二人の額に青筋が浮かびます。
「ミーちゃん、これってどういうことかな?」
「ミレーヌ、これはどういうことなんだ?」
「ルーナー先生とは……」
聞かれて私は説明しようとしますが、その口をルーナー先生の手に塞がれます。
ついでに先生は私の額にキスをしてから二人に話し始めました。
「ミレーヌと二人でいるうちにいつの間にか女性として意識するようになって、それでもミレーヌの修業が終わるまでは我慢してたんだけど、終わってからいてもたってもいられずに私から告白したのよ。
というわけで私もミレーヌの恋人になったからよろしくね。
……貴女たちには負けないわ」
これは、事実上の二人への宣戦布告ですね。
ルーナー先生と二人との間に火花が飛び散っています。
口火を切ったのはコレットでした。
「ミーちゃんを一番愛してるのはわたしなんだから!」
言ってコレットはルーナー先生に飛びかかろうとします。
しかしそれをアイルがコレットの襟元を掴んで停止させました。
「ぐえっ!?」
「今のは聞き捨てならないな。ミレーヌを一番愛しているのはこのボクだ」
コレットを睨むアイル。
コレットは「今は二人で仲互いしてる場合じゃないでしょ」とアイルを諫めていますが、アイルは一歩も引く様子はありません。
「いや、これだけは絶対に譲れない。ミレーヌを幸せに出来るのはボクだ」
「何言ってるの? ミーちゃんを幸せに出来るのはわたしだから」
とうとう二人の間で喧嘩を始めました。
それを余所にルーナー先生はのほほんと私にキスをします。
それを横目で見たのでしょうか。二人の怒りの矛先はルーナー先生に変わります。
「あぁぁぁぁぁ!! 何してるのよ! この泥棒猫」
「私は猫ではなくてハイエルフよ? 自己紹介かしら」
「うわっ、ムカつく」
「同感だ。コレット、とりあえず今はミレーヌを取り戻すために協力しないか?」
「はぁ? さっき邪魔したのアイルじゃん。今更何言ってるの? わたしは一人でやる」
「あらあら、仲間割れ?」
「ミーちゃんを返せーーー」
「あ! コレット抜け駆けは許さんぞ!」
ルーナー先生は私をお姫様抱っこして走り出します。
私はそうされながら思いました。
私のこれからの旅はこれまで以上に前途多難みたいですね。
自業自得ですが。
後に残されたのはリンとアリア。
リンは心底呆れた顔をしながら、アリアは何処か恍惚とした顔をしながら二人……二匹? それぞれ違うことを呟くのでした。
〘ミレーヌ。私ながら女垂らしっぷりが凄すぎ〙
『ハーレム万歳。ボク大勝利過ぎる』




