21.気持ちの自覚
こうして私はひょんなことからルーナー先生の生徒となりました。
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「そうそう。やっぱりミレーヌは筋がいいわね」
「ありがとうございます」
私がルーナー先生の生徒になってから一月が経ちました。
たったこれだけの期間ですが、以前よりも確実に成長しているというのが自分で分かります。
魔力感知、魔力操作、イメージ。
魔法を発動させる際の手順ですが、私はどうやら魔力操作にムラがあったようです。
正確には停止している時は上手く出来ているのですが、動きながらの魔力操作に難があるとルーナー先生に言われました。
体を動かしながらでも停止している時と同じように魔法を放てるようになるための訓練。
私は走りながら魔力を操作して使いたい魔法をイメージします。
『水の魔法。空気中の水分を使うことで魔力を節約。完成イメージは水の矢。
魔力を魔法にへんか……』
後一手で魔法の発動。
ですがここでルーナー先生がとんでもないことを言い放ちました。
「ミレーヌ、私が魔法を放ちますから、それを避けながら魔法を放つように」
『……ん。んんん!!!!?』
「ではいきます。千の炎」
「ひっっっっ!!!」
千の炎弾が私目掛けて襲い掛かってきます。
咄嗟に魔法の結界を張りますが、ルーナー先生から注意が飛びます。
「ほら、足が止まってるわよ」
転移して来たルーナー先生に脇をくすぐられます。
ダメです。今、集中が乱れたら……。
「きゃっっっっ!!」
結界が消えて魔法の直撃を受けそうになりました。
紙一重で躱しましたが、直撃だったらと思うと"ぞっ"とします。
「じゃあもう一回」
ルーナー先生はしっかり転移していました。
私は転移の魔法はまだ使えません。
ルーナー先生を恨みがましく見つめます。
「そんな目をしても辞めません」
容赦なく放たれる魔法。
必死に走りながら魔法を使って応戦しますが、魔法の質が中途半端なようでルーナー先生の魔法を打ち消すことが出来ません。
「ミレーヌ、もっと集中しなさい。
魔法だけ見ていてはダメよ。ちゃんと周りも見て動きなさい」
「はい!」
頭では分かっていますが、でもどうしても魔法を見てしまいます。
一つの炎を躱した時、足元にあった石に足を引っかけてしまいました。
「っ」
体勢が最悪です。
そんな中にルーナー先生の魔法が飛んで来ます。
とりあえず頭だけは守ろうと腕を頭の前にすると軽い衝撃を背後から受けました。
「だから周りを見るように言ったのに」
ルーナー先生が転移して来て助けてくれたみたいです。
安堵して息を吐いてから、今まで私がいたところを見るとクレーターが出来ています。
「今日はこれくらいにしておきましょう」
「はい。あの……」
「なぁに? ミレーヌ」
「降ろしてください」
転移時にお姫様抱っこで救出されたみたいです。
ルーナー先生には私の声が聞こえている筈なのに無視されます。
「そう言えばミレーヌ」
「はい?」
「私、一人っ子なの」
「……? はぁ……」
「……一人っ子なのよ」
「えっと……?」
「分からない?」
「分かりません」
むしろこれだけの情報で分かる人がいるんですか?
意味が分からずにルーナー先生を見て訝しんでいると、苦笑してからもう一度同じ言葉を繰り返しました。
「一人っ子なの」
「……ああ! もしかして妹が出来て嬉しいということですか」
「そう。私、ミレーヌみたいな妹が欲しかったのよ。夢が叶ったわ」
「それは良かったですね」
「ええ。ねぇ、ミレーヌ」
「お断りします」
「ちょっ! まだ何も言ってないわ」
「お姉ちゃんって呼んで欲しかったのですよね?」
「凄いわ、ミレーヌ。今日からプライベートでは私のことをお姉ちゃんと……」
「お断りします」
「なんでよー」
「なんとなく断るべきだと思うのでお断りします」
「そんなー。ならお姉ちゃんって言ってくれるまで降ろさないわ」
「……面倒臭い人ですね」
「うっ……。どうしてもダメかしら?」
「はぁ。一度だけですよ? ……ルーナーお姉ちゃん」
「っ」
やっと降ろしてもらえました。
ですがルーナー先生は今度は私に抱き着いてきます。
「ミレーヌ。貴女は私が守るからね」
「ルーナー先生、私お腹が空きました。
それと自分の身は自分で守りますから大丈夫です」
「ミレーヌのそういう冷淡なところも結構好きよ」
「はいはい。今日は何が食べたいですか?」
「そうねぇ。ビーフシチューの気分かしら」
「分かりました」
私はキッチンに立ち、手早く料理を始めます。
ルーナー先生と出会ってから、無属性の日以外はこうやってルーナー先生の家で共に暮らしているのです。
「先生のおかげで余計なことを考えずに済んで有難いですね」
一人でいるとどうしてもいろいろと考え込んでしまいますから。
ですが……。
私は今夜ルーナー先生に悩みを相談してみることにしました。
*
夜になり、私はルーナー先生に悩みを打ち明けました。
結果は私の気持ちについては私自身が気が付かなければ意味が無いからということで教えてはもらえませんでしたが、二人に同じ気持ちを感じることに関しては皆が納得するならそれで良いのではないかという答えをもらいました。
少し気持ちが楽になった気がします。
ルーナ先生に感謝し、私は先生の部屋を退室しようとします。
「ルーナー先生、ありがとうございました」
それまで座っていたソファから立ち上がり、頭を下げて踵を返します。
ドアへと向かおうとしていたのですが、ルーナー先生に呼び止められて私は足を止めます。
「ミレーヌ」
「はい?」
「明日は休みにするわ。だから貴女はその二人のところへ帰ってあげなさい。
こういうのは時間が経てば経つだけ気まずくなっていくばかりよ。
だから明日さっさと決着をつけて来なさい」
確かにルーナ先生の言う通りです。
それにいい加減に限界でしょう。
いい頃合いなんだと思います。
私は休みをくれたルーナー先生に感謝して今度こそ退室し、その部屋のドアの前で翌日決着をつけることを決意しました。
*
翌日、私は朝からルーナー先生の家を後にして現在滞在している町で拠点にしている宿に戻って来ました。
自分の部屋には寄らず、その隣のコレットとアイルの二人が借りている部屋の前に立ちます。
ドアをノックするためその形で手を上げ、叩く前に軽く深呼吸。
意を決して私はそのドアを叩こうとして、急に開いたドアに呆けてしまいました。
「ミーちゃん!」
「ミレーヌ」
コレットとアイルの二人が部屋から飛び出して来て、私の左右それぞれの手を二人がそれぞれ掴みます。
「入って入って」
「話があるんだ。すまないが入ってくれ」
素直に室内に入り、アイルがドアを閉めると突然頭を下げました。
「すまない。ミレーヌ」
「はい? どういうことでしょう?」
「ごめんね。ミーちゃん」
「コレットもですか。一体どうしたんですか?」
二人は顔を見合わせます。
そしてアイルが代表して頭を下げた理由を語り始めました。
「ワタシたちはミレーヌを焦らせすぎてしまった。
自分たちの気持ちのことしか考えてなかった。
だからミレーヌはワタシたちを避けるようになったんだろう?
すまなかった。この通りだ」
語り終え、再びアイルとコレットが頭を下げます。
それに焦るのは私です。
彼女たちのせいではありません。
この問題は私が逃げていたことが原因なのですから。
「アイルとコレットのせいではありませんよ」
なので二人の頭を上げさせます。
「だが」
「でも」
「今度は私の話を聞いてください。
う~ん、やっぱりいつもみたいにしてみてくれませんか?」
「いつもみたいに?」
「ええ。キスしてください」
「「えっ!?」」
私の予想外の願いで二人は困惑して動揺を始めます。
普段であれば私を奪い合うようにキスしてくる二人ですが、今回は一向に動こうとしません。
「仕方ありませんね」
二人が動かないので自分で動くことにしました。
まずはアイルに抱きつきます。
そのまま暫く。
「…………」
「……ミレーヌ?」
「次はコレットですね」
今度はコレットに抱きつき、アイルの時と同じように暫くそのまま時を過ごします。
「ミーちゃん、どうしちゃったの?」
「迷惑でしたか?」
「ううん、凄く嬉しいけど」
「自分の気持ちを確かめてみようと思いまして、それにはこの方法が手っ取り早いかなと」
目的を告げてからコレットから離れると、彼女は私を逃すまいと今度は自分から抱きついて来ました。
「そういうことなら……。ミーちゃん、大好き」
コレットの顔が近づいて来て唇と唇が触れ合います。
彼女を意識すると胸の鼓動がいつもより早くなり始めました。
「ミーちゃん、心臓がドキドキしてる」
コレットがどさくさに紛れて私の胸に手を置きます。
それを見てアイルが私とコレットの間に割り込んで来ました。
「コレット。どさくさに紛れて何をしている!」
「いいところだったのに邪魔しないでよ」
「ミレーヌ、ワタシとの愛も確かめてみてくれ」
「あ~! ミーちゃんはわたしの」
「ミレーヌ、愛している」
アイルが騒いでいるコレットを無視して私にキスをします。
そのまま私の腰に手を添えて自分の方へ引き寄せ、アイルは私に微笑みます。
「安心したよ。ワタシが相手でもミレーヌの心臓はドキドキしているね」
いつの間に胸を触られていたのでしょうか。
コレットの時とは違って気がつきませんでした。
アイルがもう一度私の唇に自分の唇を重ねてきます。
「ミレーヌ」
「アイル……」
「ちょっと待った~~。いつまで二人でくっついてるの!
わたしもいるんだから!」
「なんなんだ! 今は良いところなんだ。邪魔をしないでくれないか!」
「アイルだって邪魔したじゃん。大体ミーちゃんはわたしの恋人なんだから!」
「何を根拠に」
「知らないの? わたしとミーちゃんはねぇ。砂漠の洞窟で」
コレットはアイルにだけ聞こえるように彼女の耳元で何かを囁いています。
なんでしょうか。なんだかとても嫌な予感がするのですが、この予感には外れてもらいたいですね。
「そ、そんな……」
話を聞き終えたアイルがガックリと膝をつきます。
それを見下ろし、恋の勝利者の如くニヤニヤとするコレット。
「ね? ミーちゃんはわたしの恋人なんだよ!」
「貴女は一体何を言ったんですか?」
「知りたい?」
コレットの顔が緩みまくっています。
聞かない方がいいでしょう。
私はため息をついて返事をします。
「やめておきましょう」
「分かった! ねぇ、ミーちゃん」
「はい?」
「ミーちゃんの気持ち分かった?」
「ええ。私のこの気持ちは……」
私はその日、二人に自分の気持ちを告げました。
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これでミレーヌの少女時代は閉幕し、次話からは成人時代となります。
どうぞ引き続き[白亜の魔女ミレーヌの旅行記]をよろしくお願いします。




