18.オアシスの町 その1
オアシスの町アムール。
この町は広大な砂漠の中にありながら豊かな水の町として有名です。
ですがそれは今は昔。過去形の話です。
一月程前から急にオアシスの水が枯れ、この町から離れていく人々が急増。
そのため現在は過疎と渇きの両方に苦しむ町とそうなってしまっているのです。
オアシスの水が枯れた原因は分かっていません。
一つ確かなことは、このままだと近いうちにゴーストタウンとなるであろうということだけです。
町は絶望の空気に包まれていました。
ところが、突如この町に現れた真っ白な白金髪と空や水を思わせる青の瞳を持つ美少女魔導士がこの問題を解決したのです。
その美少女魔導士は白亜の魔導士と呼ばれています。
ふふっ、私のことです。
最初は乗り気ではありませんでした。
困っている人を見捨てるのはあまりいい気分ではありませんが、私はこの町の者ではありませんし、仮に問題解決の糸口を見つけようと動き始めたところで私に何のメリットもないからです。
そもそもここは単なる通過点のつもりでした。
長居するつもりなど毛頭なかったのです。
それでも動こうと決めた理由は二つあります。
一つは町長さんのその娘さんとの話し合いにより、問題解決後にこの町に無料で別荘をもらえることになったこと。
そしてもう一つは離れ離れになったアイルたちと合流出来るかもしれないという思惑からです。
先程言ったようにこの町は通過点でした。
それならばアイルたちも私たちと同じようにこの町で合流出来るかもしれないと考える筈です。
二つの考えが一つになる。第六感のようなものなのでしょう。
私にはそれが現実になる。そう、確信めいたものを感じ、それが私を動かしたのです。
「ねぇ、本当に一人で行くの?」
「ええ。アイルたちがこの町に来た時に二人共いなくなっていては合流出来ませんからね」
「でもぉ」
「無理はしません。それと帰って来たらキス……くらいならしてあげますよ」
「ほんと! それなら……。う~~でもでも~~」
「良い子にして待っていてください」
一人で行こうとする私を心配して、なかなか行かせようとしないコレットの頭を撫で、宥めて私は歩き出します。
その途中で私が動こうと決めたキッカケの一つである町長さんの娘さんと遭遇しました。
「白亜の魔導士様。本当に本当にありがとうございます」
「気にしないでください。ですが報酬は忘れないでくださいね」
「勿論です。この町で一番の別荘を提供します」
「楽しみにしていますよ」
彼女との出会いは偶然でした。
温泉ののぼせから回復した私たちはコレットの箒で空を飛んでここまでやってきました。
そして町の惨状に困惑しながらも、アイルたちを探していたのですが、そこで彼女が私に声を掛けて来たのです。
「あ、あの……。魔導士様ですか?」
「そうですが、貴女は?」
白亜の魔導士の称号が刻まれた銀色の指輪。
その指輪が見えたのでしょう。
その場で彼女から簡単な話をされ、その後私たちは町長さん宅に招かれました。
「白亜の魔導士魔、この度は娘の急なお願いにも関わらずご同行いただきありがとうございます」
「たまたま時間が空いていましたので。
ところで娘さん……アイビーさんから大体の事情は聴きましたが、改めて貴方の口から説明してもらってもいいですか?」
「ええ、勿論です。ですが娘と同じような話となると思いますが?」
「それでも構いません。試すようで申し訳ないのですが、二人の意見が一致していればこの話が真実であると確証が持てますから」
「なるほど! いろいろ考えてのことだったのですね。
さすがは白亜の魔導士様だ」
「ふふふっ、もっと褒めてもいいのですよ」
「出た。ミーちゃんのドヤ顔」
私たちはそれから町長さんに話を聞きました。
アイビーさんと内容は同じ。
原因不明のある種の災害が起きているという内容です。
「このままでは我々はこの町を放棄しなくてはなりません。
それはどうしても避けたいのです」
「失礼ですが、他の町に行った方が良いのではないですか?
砂漠に囲まれていると生活が大変でしょう」
「はい。それは、確かに大変なこともあります。
ですが生まれ育った町ですし、それに……」
「それに。……なんです?」
「白亜の魔導士様はもうこの町をご覧になりましたか?」
「ええ。人はいませんが砂漠の中にある町にしては広くて何より美しい町ですね」
「そうなんです。この町は美しい。
この美しい町を世界から消してはならないのです。
俺は町長としてこの町の活気を取り戻したい。
白亜の魔導士様、どうかどうかそのお力を俺たちにお貸しください」
町長さんが私に頭を下げます。
私はそれを見ながら、先程見て来たこの町の様子を思い出していました。
水の都。その名前がこの町にはぴったりです。
オアシスを中心に作られた町。
至る所に用水路や噴水があり、本来であれば水が流れていて、道行く人の目を楽しませてくれる筈です。
建物も巨大な時計台や美しい宗教施設などがあり、確かにこの世界からそれらを失わせるのは勿体なく感じます。
「この町の本来の姿を見てみたいですね」
その気持ちはいつしか口から言葉として出ていました。
町長さんが感動したように私を見ます。
「ええ、ええ。是非見てやってください。
白亜の魔導士様を感動させる自信がありますよ」
「そこまで言うのなら……」
私は調査の依頼を引き受けました。
念のため契約魔法を用い、町長さんに約束を反故にしない契約をしてもらいます。
「ではこの書類にサインをお願いします」
「白亜の魔導士様。これは?」
「契約の魔法です。話を聞いて貴方方をすでに信用していますが念のためです。
これは、そうですねぇ。役所手続きみたいなものと思ってください」
「ふむふむ。こちらに不利になるようなことは書かれていないようだ」
「当然です。貴方が私に調査の依頼をしたということと報酬の支払いについて書いてあるだけですからね」
町長さんは書類に目を通してサインをします。
その瞬間、書類は燃え上がり消失します。
「うおっ!?」
「契約成立の証です」
「なるほど。こんなのは初めてで驚きました」
「ちなみに」
私はニヤニヤとした顔となって町長さんを見ます。
その私の顔に顔を引き攣らせて町長さんは頬から冷や汗のようなものを流します。
「あの、その顔は……」
「もし契約を破った場合、体中の毛が失われるのでそのつもりでいてくださいね。
ああ。貴方だけではなくアイビーさんも」
「ひっっ!!」
その声が聞こえたのでしょうか。
この部屋。客室の扉の後ろで聞き耳を立てているアイビーさんの小さな悲鳴が聞こえてきました。
「ふふふふふっ」
「ミーちゃん、時々酷いことするよね」
「約束を破らなければいいのですよ」
「まぁそうだけど。だってさ? 町長さん」
「はっははは。肝に銘じます」
町長さんの顔は真っ青です。
知らずのうちに大切な娘のことまで契約の対象にしてしまっていたのです。
そんな顔になってしまうのも無理はないでしょう。
まぁ、本当はアイビーさんは対象にはなっていないのですけどね。
嘘を言ったのは少々お行儀の悪いアイビーさんに対するただの牽制です。
「では早速見て来ますね」
「今からですか? 今日はゆっくり休んでいただいて明日からにした方が良いのではないですか?」
「見てくるだけです。本格的な調査は明日から始めるつもりです」
「ふむ。分かりました。この町からも誰か同行させたほうが良いでしょうか?」
「いいえ、結構です。私一人で行ってきます」
「しかし」
「結構です」
「……分かりました」
私たちは立ち上がり、執務室から出て玄関へ向かいます。
執務室のすぐ傍にアイビーさんがまだ立っていたのでニヤっと笑っておきました。
「ミーちゃん、さっきの話本気?」
町長さん宅の玄関でコレットがそう聞いてきます。
「さっきの話とは? 一人で行くという話のことですか?」
玄関を出て、門を抜けて町に出てから私は返事をします。
「さっきも言いましたが、今日は見てくるだけです。
それ以上のことは何もしませんよ」
「でも」
ここで冒頭に戻ります。
*
私は町の中心地のオアシスにやってきました。
本当ならば水を豊富に湛えている筈のそこは殆ど干上がり、僅かな水分を残すだけとなっています。
「これでは町の人々が逃げていくのも当然ですね」
何がどうしてこうなったのか。
何か手掛かりがないかと私はオアシスの周りを歩き始めます。
半周程したところで、このオアシスのシンボルである肩に壺を抱えた女性の彫像を見つけました。
「このオアシスを切り開いたとされる女神の彫像ですか。
ですがどうして裸なのでしょう? この格好でここに水を撒いたと?
水浴びでもするつもりだったのですかね」
ジト目になりながらその彫像に触れます。
そうしたことであることに気づきました。
何か違和感がありますね。
ある一定量の魔力量を持つ者にしか分からないようにする結界のようなもの。
そんなものがあるということは、ここに何かがあるということ。
魔眼を発動してその彫像を詳しく見てみます。
そうすると彫像と私との間に透明な魔方陣が浮かび上がってきました。
その魔方陣は五芒星の真ん中に文字が幾つか並べられています。
[pdeils]リンの記憶の中のアルファベットに似ていますが実際は違います。
この文字はこの世界で広く使われている文字でそのままアルテラ文字です。
「ん? どういう意味でしょうか?」
こんな単語ありません。
さっぱり分からず、首を傾げながら何気なくその文字に触れてみます。
文字が動きました。どうやら並び替えて正解すると何かが起こるようです。
「そういうことですか」
ここで[解]とさせてもいいのですが、コレットにも町長さんにも今日は確認だけと言っています。
解答するのは明日にすることにして、私は踵を返しました。




