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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
第二章-少女時代-
15/43

14.辺境の町 -解決-

男性のあれをあれする表現があります。

ご注意ください。

 金属の音が耳元で聞こえました。

.

.

 その音は私の背後から飛んで来た矢によるものです。

 貴族の持っていた隷属の首輪に飛んで来た矢が当たりその音を奏でたのです。


「くっ! 何事だ!!」


 貴族がそれに驚いて隷属の首輪をその手から放します。

 助かりました。私は緊張が解けて地面に座り込んでしまいました。

 腰が抜けて立ち上がることが出来ません。

 隷属させられるのは死と同義です。

 あのまま嵌められていたら、私の人生は終わってしまっていました。


 ざわざわと声が聞こえてきます。

 その中には私の良く知った声も混ざっています。


「ミーちゃん、迎えに来たよ」

「遅くなって済まない。ミレーヌ」


 コレットとアイル。

 その声を聴いて本当に助かったのだという実感が湧いてきます。

 

「ミーちゃん?」


 座り込んだまま動かない私を不審に思ったのでしょうか。

 コレットが近づいて来る足音が聞こえてきます。

 彼女は私の前に来て私の顔を覗き込んだ後、一切の表情を抜け落としました。


「ミーちゃん、その顔どうしたの?」


 無表情に平坦な声で私に問うコレットが少し怖いです。

 無言でいるとコレットは私の怪我の治療後、手と魔法を封じている魔封じの縄を解いてくれてから、この騒ぎに乗じてこそこそと逃げようとしている貴族に視線を向けました。


「あいつらがやったんだね」


 その言葉を残してコレットが貴族の元へと走っていきます。

 その速度は尋常ではありません。

 一陣の風が私の髪を攫って行きました。


「ねぇ、逃がすと思った?」

「ひっっっ!!」


 馬車に向かっていた貴族。

 その前にコレットは仁王立ちして貴族のことを睨みます。

 それから猫の獣人の能力でしょう。

 右手の爪を伸ばし、貴族の体を袈裟斬りに引っ掻きました。


「!?」

 

 そこまでのコレットの一連の動きが早すぎて、どうやら視認さえ出来なかったようです。

 貴族が一瞬呆けた後、服と皮と肉が裂けて鮮血が飛び散ります。


「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!!!」


 腰を抜かす貴族。その下半身からは湯気が上がっています。

 コレットはその様子を無表情で見つめ、貴族の()()を躊躇なく全力で踏み潰しました。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 貴族の絶叫が響きます。

 それと同じくして、別の場所からも断末魔のような声が聞こえてきます。


「ぎゃっっっっっ!!!」


 視線をそちらに向けると、アイルが愛刀のダガーで顔に傷のある女性を切り捨てていました。

 刃に魔法を乗せたのでしょう。真っ二つに一刀両断です。

 女性の中身が零れ、凄惨な光景となっています。

 私と一緒に攫われた女性たちはそれを見て体を震わせています。


「………」


 外套の衣嚢から取り出した白い布でダガーの汚れを拭き、空間にそれを仕舞ってアイルがこちらに歩いてきます。

 途中で優雅にその外套を脱ぎ、どうするのだろうと思っていたら私に被せてくれました。


「……ありがとうございます」

「ミレーヌ、立てるかい?」

「ええ。何とか立てそうです」

「手を貸そう」


 私に差し出された手を取ります。

 立ち上がると、思っていたよりも消耗していたようでフラついてしまいました。


「おっと、危ない」


 アイルが私を支えると同時に抱き締めてくれます。

 温もりを感じると我慢が限界に達しそうになりましたが、最後の精神力でなんとか耐えました。


「ミレーヌ、もう我慢しなくていいんだ。君は助かった。

 遅くなって済まなかった」

「……アイル」


 その優しさで私の限界の堤防は脆くも崩れ去ってしまいました。

 

「怖かった……」

「ああ」


 アイルの胸の中で声を押し殺しながら泣きじゃくります。

 久しぶりに年相応な子供に戻ったような気がしました。

 いつしか泣くのにも疲れて意識が遠くなっていきます。

 

 それを感じたのでしょうか?

 アイルが慈愛に満ちた仕草で私の頭を撫でてくれます。

 それがとても心地良くて、心から安心して私は眠りに落ちてしまいました。



 この後のことは知りません。

 起きてからアイルとコレットに聞いたところによると、貴族はコレットが生まれて来たことを後悔させる程のトラウマを植え付けたそうです。踏み潰した後で治癒魔法(ヒール)で治して再び踏み潰しての繰り返しを何度も何度も味合わせたのだとか。コレットはそれをずっと無表情でやっていたので恐怖が倍増していたとアイルが苦笑しながら話してくれました。

 その後、一応生きたままリリスティア王国王都に連行されることになったようですが、彼はもう二度と表舞台に立つことは出来ないでしょう。

 彼らと結託していた食事処の方もアイルたちの呼びかけにより、辺境の町の近くの町から応援に来た警備兵によって調査が行われて、しかるべき処分が下されたとのことです。

 ちなみに辺境の町の警備兵を使わなかったのは、彼女たちのことを信用出来なかったからだそうです。正しい判断だと思いました。

 後はリリスティア王国から攫われた女性たちの捜索ですが、すぐに行われるようです。

 それと同時進行で今回の事件に関わった者を洗い出す尋問もです。

 戦争が行われた時のお母様の言葉が思い出されます。


「リリスティア王国の者は平和を乱す者を決して許さない。徹底的に報復する」


 今回どれだけの人物が関わっているか分かりませんが、その人物たちは漏れなくリリスティア王国の王宮魔導士や暗殺者によって処分されるでしょう。それが例え王国民であったとしても。

 残忍だとは思いません。私も被害に遭った一人ですから。

 私たちは辺境の町に留まるのは危険だという、意見の一致により新たな場所へ旅立ちました。


*


 辺境の町から旅立って五日目です。

 私たちはリリスティア王国の港町に来ています。

 魚が美味しいですね。新鮮なものはやはり、そうではないものと比べて旨味が格段に違います。

 今回の宿はまるで日本の旅館のような宿です。

 リンの記憶の中にはありましたが、畳というものは初めて触れました。

 香りも感触も何故だかとても落ち着きますね。

 リンから畳には寝転ぶのがマナーと聞き嬉々として転がっています。

 そうしながら、私は前回の反省点である魔封じの縄で手を封じられた際にどうするかという逆転方法について考えています。


「あの魔封じの縄は魔法を外に出力出来なくなる効果でしたね」


 それはつまり内側、体の中の魔力は使えるということです。

 体内の魔力を封じるものなど存在していません。

 魔力は体中を巡る血液と同じですからね。

 血液を止める手段がないように、魔力を止める手段なんてこの世界に存在してないのです。

 

「それなら内側から魔封じの縄に働きかけて壊してしまえば良さそうですね」


 思いついた理論を元に試してみることにします。

 魔封じの縄を手に持ち、杖にやるのと同じようにそれに魔力を流し込みます。

 どんどん魔力が吸われるのが分かりますが、どうやら人よりも魔力袋に魔力を貯めこむことの出来る量が多い私にはまだまだ余裕があります。

 そのまま流し続けていると、魔封じの縄はついにその容量の限界を迎えたようで火の中で木の実が弾けるような軽い音の後、バラバラと千切れて崩れてしまいました。


 それを見てニヤニヤと破顔します。


「さすが私ですね。早くも弱点を克服してしまいました」


 これで次に何かあってもあの時のように悔しい思いをせずに済みます。

 私のその役立たずになった魔封じの縄を魔法により焼失させた後、今少し畳の素晴らしさを堪能したのでした。


 今日の食事も楽しみですね。

 ですがナットウだけは出て来て欲しくありません。

 あれを美味しく食べれるリンたちはおかしいと思います。

 もし出てきたら彼女たちに押し付けることにしましょう……。

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