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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
第二章-少女時代-
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13.辺境の町 -危機-

 私とリンの人格が分かれたり、アイルとコレットと再会したり、下着などを開発したりして濃い時期を過ごした七歳の頃から三年が経ちました。

 通常ではこの歳から魔法学園に入学してより深く魔法を筆頭に様々な事柄について学ぶのですが、五歳の頃に優秀な成績で魔導士試験に合格した私は学園への入学は免除されています。

 さて、そんな私ですが今何処にいるでしょう?

 正解はリリスティア王国の辺境の町です。


 一年前、王都の皆さんの盛大な見送りを受けて私は旅に出ました。

 この一年でリリスティア王国の各所をこの目で見て周り、ここが今の目的地というわけです。


「すっかり寒くなってきましたね」


 季節は間も無く冬です。私は王都の冬しか経験したことがありません。

 同じ国でも場所が変われば大きく気温が変わるものなのですね。

 凍えてしまいそうです。


「早く泊まるところを探したほうが良さそうですね」


 冷たくなった両手に息を吹きかけていると、背後に人の気配を感じます。


「ミーちゃ~ん」

「きゃっ! 危ないじゃないですか。コレット」


 振り返ったり、避けたりする間もなく飛びかかられて転倒しそうになりました。

 首だけ動かして見ると笑顔で私に抱きついているコレットの顔が見えます。

 その奥には呆れた顔をしているアイルの姿も。

 二人共私と同じで学園の入学を免除された口です。

 そして私の旅について来てくれています。


「ミーちゃん、こうしたら暖かいでしょ」


 飛びかかって来たのはそのためですか。

 無防備な人に背後からというのは褒められたものではありませんが、その気持ちは受け取っておきましょう。


「ありがとうございます」

「どう致しまして。ミーちゃんも幸せだし、わたしも幸せ!

 まさに一石二鳥ってね」

「ですが、これでは動けませんね。

 このままだと二人共寒さで凍ってしまいますよ」

「ミーちゃんとならそれもまた良し」

「一人で凍っていてください」


 コレットの腕の中から上手く抜け出して宿を探しに歩き出します。

 背後からコレットの声が聞こえて来ます。


「ミーちゃん、待ってよ~」

「落ち着け。コレット」


 再度の飛びかかりはアイルに阻止されたようです。

 その代わり「夜にたっぷりすればいいだろう」などと不穏な言葉が聞こえましたが、また私を寝かせないつもりでしょうか。


 この旅はキス魔の二人のおかげで寝不足になることが多いです。

 おかしいですね。二人共お母様たちのスパルタ学習を卒業した筈なのですが、どうやらその目が無いおかげで(たが)が外れてしまっているようです。


「部屋は別々の方が良さそうですね」


 若干遠い目をしながら、アイルたちの後ろを歩くリンを呼び寄せます。

 リンは私のその意図をすぐに理解したようで走って来てくれました。


「良さそうな宿までお願いしますね」

〘任せて!〙


 目の前で屈んでくれたリンの背中に腰を下ろします。

 それに気づいたコレットとアイルが慌てて走ってきますが、リンは二人を待つことなく走り出しました。


「嫌ではないのですが、私の意思を無視されるのは困りものですからね」

『ボクは眼福だから嬉しいけどね』

「いたのですか」

『ずっとリンの頭の上にいたよ!』

「気が付きませんでした」

『台詞が棒だよ!? ミレーヌってもしかしてボクのこと嫌い?』

「嫌いではありませんよ」

〘出会いが悪かったよねー〙

「懐かしいですね。あまり思い出したくありませんが」

『あの時のミレーヌの……』


 私の黒歴史を言おうとしているアリアを鷲掴みして「名前変えましょうか?」問いかけます。

 その問いかけにアリアの青い体がそれよりも更に青くなって懸命に左右にぷるぷる震えます。


「遠慮しなくても良いのですよ?」


 にっこりと笑顔です。

 アリアはそれを見て意識を失ってしまいました。


〘ここなんか良さそうじゃない?〙


 丁度その時、宿に到着しました。

 そこそこ大きな宿ですし、良さそうですね。


*


 まさかこんなことになるとは思いませんでした。

 今まで行ったところは、こういうこととは無縁でしたから油断していました。


 私は今、手を後ろ手に縛られて馬車に乗せられて何処かに連れ去られています。

 どうやら食事に睡眠薬が入っていたようです。

 こんなことなら宿で食事を済ませるべきでした。

 町の観光がてら外に出たのが間違いです。

 気が付くとこの状態になっていたのです。


「………」


 魔法は……発動しないですね。

 やはり封じられてしまっていますか。

 困りましたね。そうなると私に打つ手はありません。


『何が目的なのでしょうか』


 馬車の中を見回します。

 私の他に数名の人々。

 あの食事処にいた人たちでしょう。

 その中に私の知っている顔の人がいれば良かったのですが、残念ながらアイルとコレットの二人も、リンもアリアもこの中にはいないようです。


 それにしても寒いですね。

 着ていた服はいつの間にか脱がされて着替えさせられたようで、今、身につけているのはボロの貫頭衣一枚だけです。

 それなのにこの馬車は風が吹きらしの荷馬車です。

 冬の冷たい風が身に染みます。

 体が震えて止まりません。

 耳がとても痛いです。

 なんとか暖が取れたら良いのですが。


「あの…。大丈夫……ですか?」


 自分も凍えているのに、馬車の中で私と同じ境遇の女性の一人が話しかけてくれました。

 その人に微笑み、この状況を少しでも改善する案を提案します。


「皆で……く、くっつきませんか……?」


 私たちはすぐに円となって一箇所に固まりました。

 大人たちは円の外、子供たちはその中に入れてくれます。

 申し訳ないと思いながらも私も中です。

 まだ寒いですが、少しだけ寒さが和らぎました。


「こ、これから……どうなるん……でしょうね?」

「きっと……助けが来ますよ」

「もし来なかったら……」

「今は……そういうことを考えるのは……辞めましょう。

 希望を信じていた方が……きっと、良い方に……物事は動きます」

「だと、いいですけどね……」


 寒さの中で寝てしまったら最後です。

 そうならないよう、皆で雑談しながらひたすら助けが来ることを祈ります。


 どれくらい走っていたのでしょう?

 不意に馬車が止まりました。


「おい、降りろ」


 女性ですが、体格に恵まれた人物が私たちに下車を促してきます。

 瞳に殺意が宿っていることと、顔に傷などあることから裏の者であるということが分かります。

 逆らってもろくなことにはならないでしょう。

 ですから女性の命令に従って降りようとしますが、体が上手く動かずに転んでしまいます。


「っ」

「何してんだ! さっさと降りろ!!」


 蹴り飛ばされて強引に下車されられてしまいました。

 蹴られた場所と馬車から落ちた時に強く打った肩が痛いです。

 しかし、私には痛みに呻く暇さえ与えられません。


「さっさと起きろ」


 髪を掴まれて無理矢理起こされます。

 顔を痛みに歪ませると理不尽に殴られました。


「てめぇがノロノロしてっからだ」


 どうしてこんなことになったのでしょう。

 私たちはそれから横一列に並ばされます。


「これからてめぇらの未来のご主人様となる方たちを紹介する。

 心して出迎えるように」


 ここで彼女の目的が判明しました。

 私たちを奴隷として誰かに売るつもりなのです。

 私たちが並んでいるのとは別の場所から一台の馬車がこちらに近づいてきます。

 それは見るからに貴族が乗っていることが分かる馬車。

 それは私たちの前に止まると、黒塗りの客車の扉が開き、中から私の予想通りにいかにもな男の人が降りてきました。


「これが今回の奴隷共か」

「はい」

「ふむ。なかなかの上玉だな」


 私たちを見る目がねっとりとしています。

 正直言って不快を感じます。


「しかし毎回苦労しないと女が手に入らないのが困る。

 女など男の言う通りにしていればいいものを。

 男を拒む結界さえなければ。……実に忌々しい」

「しかし逆に言えば、女は無条件で結界を超えられるということですよ」

「確かにな。中途半端であることは笑えるな。

 やはり女は男に比べて知恵が足りないらしい」


 先程から聞くに耐えませんね。

 余程女性にコンプレックスがあるのでしょうか。

 情けない人ですね。


 そう思っていたことがバレたのでしょうか。

 その貴族に殴られてしまいました。


「なんだその目は? 女のくせに」

「……そんなに女性が怖いのですか?」

「なんだと!」


 頭に血が上って顔が真っ赤です。

 私が着ている貫頭衣の胸ぐらを掴み、貴族は私に告げます。


「貴様。……そんなに奴隷になりたければ、まずは貴様から奴隷にしてやろう」


"ジャラリ"


 顔に傷のある女性が貴族にそれを渡します。

 それは隷属の首輪。貴族はこれを持って来ていたようです。

 これはいけませんね! さすがに焦りを感じます。


「喜べ。貴様は犯罪者共の檻にぶち込んであいつらの娼婦として働かせてやる」


 貴族がニタニタと笑いながら私の首に隷属の首輪を近づけてきます。


 絶体絶命です。隷属の首輪を嵌められてしまったら、私の意思の効力はその時点で失われます。


「くくくくっ」


 もう、ダメ……。




 金属の音が耳元で聞こえました。

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