12.下着制作
自宅での大騒動から三日が経ちました。
あの日以降、二人の姿を見ていません。
恐る恐るお母様にその行方を尋ねると、我が家の地下で二人を私の使用人にするべく鍛えているところだそうです。
アイルには私の護衛としての学習を、コレットには私の傍使えのメイドとしての学習を行っているのだとか。
あんな問題を起こした二人ですが、それなら逆にいっそ私の傍に置いておいたほうがいい。
となったらしいです。
そうは言っても、お母様もお母さんも私を溺愛していますから、二人は相当にスパルタな学習をさせられているのではないでしょうか。
次に二人の顔を見るのはいつになるでしょう。
その時には朝から騒動を起こさないようになっていて欲しいですね。
『リンを人型にしておけば良いんじゃないの?』
〘えっ!〙
「あ!!」
目から鱗が落ちました。
たまにはいいことを言いますね。アリア。
「ということで変化させます」
〘待って待って! 私は今の方がいいなーなんて〙
「一人だけ逃げようとしていませんか?」
〘ソンナコトナイヨー〙
『してるね』
「していますね」
強制的に人型にすることにしました。
イメージは思考の中で見たリンそのままでいいですよね。
魔力感知、魔力操作、イメージ。
……発動。
フェンリルのリンの姿が人型のリンの姿に変わります。
構築が終わると、リンは呆けた姿でそこに座っていました。
家の庭の地面に全裸で犬座りでです。
時が一瞬止まります。
「ミレーヌ。服服服!!!」
『棚からスライム』
「杖だから服は構築されないんですね! ごめんなさい」
すぐにフェンリルに戻しました。
王都の真ん中だったりしなくて良かったですね。
不幸中の幸いといったところでしょうか。
〘ミレーヌのバカ〙
「ごめんなさい、リン」
『ボクは眼福だったけどね』
リンは拗ねてしまいました。
不穏な空気の中、アリアだけが大喜びで飛び跳ねています。
「リン。どうしたらいいですか?」
〘今後私を人型にしないって約束して〙
「……はぁ。分かりました。二人のことも引き受けます」
〘ありがとう。ミレーヌ〙
リンが飛びかかってきます。
押し倒されて顔中を舐められました。
うう、べとべとします。
もうすっかり犬。……狼ですね。リン。
「洗浄魔法」
ふう。すっきりです。
それでは今日もそろそろ出勤しましょう。
そう思い、リンの背に腰かけるとアリアの強烈な視線を感じました。
『魔法使わなくてもボクが綺麗にしてあげたのに』
「どさくさに紛れて何をされるか分かりませんからね」
『ソンナコトシナイヨ』
「あなたもリンも分かりやすいですね」
〘『ナンノコトカナ』〙
「はいはい。今日も離れまでお願いしますね。リン」
〘おっけー〙
リンが走りだそうとする間一髪のところでアリアが私の肩に飛び乗ります。
「一緒に来るんですね」
『ボクとミレーヌはいつも一緒だよ』
「所内では大人しくしていてくださいね」
『ワカッテルヨ』
この言い方は不安ですね。
目を離さないようにしましょう。
*
王宮離れ、王宮魔導士詰め所魔道具作成科。
つい最近までのことです。
この部署ではその機械の前に立つと姿を映し取られてしまうという、知らない人が聞くと悪魔の所業としか思えない機械の開発が秘密裏に行われていました。
しかし、現在はその開発は凍結されているということです。
本当に悪魔に食べられてしまうようなことがあったのでしょうか?
それともなんらかの事故が起こったのでしょうか?
どちらも違います。この部署の責任者である美幼女がその開発を後回しにすることにしたからです。
はい、何もかも私の仕業です。
職員の皆さんには申し訳ないと思いますが、取り急ぎ開発してもらいたいものがあったので、カメラについては後回しにすることにしたのです。
そこまでして作りたいものはなんでしょうか。
ヒントは肌の上に必ず身に着けるものです。
すでに答えですね。そうです。下着です。
現在この世界では、胸には布或いは包帯を巻くのが主流です。
そして下はドロワーズ一択。悪くはないのですが、スカートによっては少し不格好な恰好になってしまう場合があります。
服についてはそれなりに良いものがあるのに下着は開発が遅れています。
砂糖の時も思いましたが、この世界は何処かちぐはぐなのです。
「白亜の魔導士様、開発を依頼された時から思っていたのですが」
「はい?」
「魔道具全然関係ないですよね」
「……下着の開発に当たって協力してくれる方を呼んでおきました」
「逃げた」
「入って来てください」
「完全に逃げましたね」
職員が何か言っていますが気にしないことにします。
ドアまで歩き、開けるとそこに立っているのは服屋のお姉さんです。
「本当にあたしみたいなのが来て良かったのかい。
どうにも場違いな気がするけどねぇ」
「そんなことはありません。専門家の方の意見は絶対に必要になります。
頼りにしていますので、お願いしますね」
「ミレーヌちゃんがそこまで言うなら分かったよ。
何処までやれるか分からないけどよろしくね。
皆さんもよろしく頼みますね」
「「よろしくお願いします」」
挨拶も終わったところで、私はお姉さんを連れて部署の一番奥に案内します。
様々な物が所狭しと置かれている部屋なので、お世辞にも綺麗なところとは言えないですが、そこは慣れてもらうしかありません。
「なんだいなんだい。ヘンテコなものが沢山あるねぇ。
こんなに変なものがあると見ていて飽きないよ」
「開発中の物も、完成してすでに市場で販売されている物も、全てここに置かれていますからね。
なるべく物には触らないようにしてくださいね。崩れると潰されるかもしれませんから」
「はっはははっ。潰されたら少しは痩せるかねぇ」
「お姉さんは今のままで大丈夫ですよ」
「ミレーヌちゃんは人を煽てるのが上手いねぇ」
「ありがとうございます。もっと褒めてください」
「ぷっ。あははははははっ」
「ふふふっ」
和やかに雑談を交わしながら目的の場所に到着しました。
まずは試作品をお姉さんの前に出します。
説明しやすくするために予め作成しておいたのです。
「まずはこの試作品を見てください」
「これは!!」
それを見るなりお姉さんの目の色が変わりました。
手に取って私に説明を求めてきます。
「ミレーヌちゃん、これはなんなんだい?
いや、大体は分かるんだけどね。
あたしの勘が正しければこれは……」
「はい、下着です」
「やっぱりそうかい。形も素晴らしいがこの材質はなんなんだい。
ずっと触っていたいと思う心地良さじゃないか」
「材質については後でお話するとして、まずは下着についてお話しますね。
このカップがついた物はブラジャーと言います。
胸を正しい位置で支えて、形が崩れないように保護するためのものです。
これで老後などでも美しい形の胸が保たれるようになると思います。
この留め具の位置で多少のサイズの調整が可能になっていますので、体格がどのような方でも安心して使えると思います。
それからこの三角の物はショーツと言います。
ドロワーズに変わるといいなと思いまして、それで開発した物です。
腰部のラインを美しく保ちつつ、女性のデリケートな部分を保護する目的があります。
ドロワーズからこれに変わるとスカートでもパンツでも美しく穿くことが出来るようになると思います。
最後にこれはスポーツブラとナイトブラと言います。
このスポーツブラが運動をするときに使う物で、ナイトブラが夜寝る時に使う物です」
説明を終えるとお姉さんはうんうんと頷いていました。
手応えあり。ですね。後は材質ですがこちらは少し不安があります。
ですが、なるようにしかなりませんよね。
「材質のことですが……」
私は目線で合図をして、それを持って来てもらうように職員に頼みます。
それを受けて職員がその場へ走り、それを手にしてこの場へ戻ってくるとお姉さんの顔が少し引き攣りました。
「ミレーヌちゃん、その虫はなんなんだい?」
「これはカイラと言います。その材質の正体はこの虫の繭です。
それからこの伸縮する材質はスライムが時折吐き出すものを加工して……」
「それは知ってるよ。服にも使われているからねぇ。
ただ虫のことについては初耳だよ。こんな虫がいるんだねぇ」
カイラは蜘蛛と蚕の合いの子みたいな姿をしています。
王都の外の森をリンと散歩中にリンがたまたま見つけた偶然の産物です。
シルクと似たような生地が作れることから、これから流行り出すと思いますが。
「売り物になりそうですか?」
聞くとお姉さんは「勿論さ」と力強く答えてくださいました。
「早速作ってみたいから幾つかその材料と試作品を持って行っても構わないかい?」
「はい、すぐに用意しますね」
私たちは言われた品物をお姉さんに渡します。
お姉さんは服屋さんでの試作品が完成したら、一番最初にここに持って来てくれることを約束してくれました。
出来上がりが楽しみですね。
*
そう言えばアリアは大人しかったですね。
てっきり何かしらの問題を起こすのでは? と思っていましたが。
私はアリアが何処にいるのか部署内を見まわします。
いませんね……。
ですが気配は感じます。
「魔力探知」
魔法によりその気配を探ってみます。
見つかりました! この先の床にいますね。
私はアリアのことが気になってそらちに向かってみます。
アリアは職員のスカートの中を興味深げに覗いていました。
教育的指導が必要みたいですね。
評価・ブックマーク・感想などありがとうございます。
これでミレーヌの幼女時代は閉幕し、次話からは少女時代となります。
どうぞ引き続き[白亜の魔女ミレーヌの旅行記]をよろしくお願いします。




