11.コレット
アリアを家に迎えたその日の深夜。
私はいつもと違う違和を感じて目を覚ましました。
その違和感の正体を探るべく、ベットの中から視線を彷徨わせます。
ベッドの傍。そこにいるのは馬程度の大きさから今は大型犬程度の大きさになって床に寝転んでいるリン。
それとそのリンを枕にして気持ち良さそうに寝ているアリア。
「照明魔法」
暗闇の部屋に明かりを灯して半身を起こし、良く周りを伺います。
テーブル、化粧台、クローゼット、ぬいぐるみ、カーテン周り。
特に変わった様子はありません。
『気のせいでしょうか?』
っと、ここで私の足に何かが触れて悲鳴を上げそうになります。
「んっ!!」
リンたちを起こしてしまうのは可哀想ですからね。
咄嗟に口を押えてやり過ごすことに成功しました。
さすが私です。
「今のは何でしょうか?」
そんな場所に何かを置いた覚えはありません。
ぬいぐるみのような感触の何かでした。
正体を探るべく、そっと布団を捲ります。
黒い……毛玉?
いえ、違います。子猫です。
何処から迷い込んだのでしょうか?
私のベッドの足元の位置で黒猫の子供が丸まって寝ています。
「いつ入って来たのでしょうか」
ドアは閉まっています。窓も先程見ましたが閉まっていました。
「他に猫が入って来れるところはないと思うのですが……」
では、私たちがここに帰ってくる前に迷い込んで来ていたのでしょうか。
それに気が付かないまま閉め切りにしたので帰れなくなった、とか。
じっと子猫を見ているとその子が顔をあげてこちらに近づいて来ました。
「人慣れしているみたいですね。
やはり何処かの家の子が迷い込んだのでしょうか」
手を差し出すとその手に頬擦りしてきます。
可愛いですね。撫でても嫌がりそうにないので猫が好きなところを優しく撫でます。
髭の周りや顎の下、頭のてっぺんから背中。
全然嫌がりません。むしろ私に身を委ねてのほほんとしています。
手を止めると抱っこを強請っているのでしょうか?
右手を必死に私を招くように動かしています。
「これがほんとの招き猫ですね」
小さく笑ってそっと抱き上げます。
見ていると同じように私の顔を見つめる子猫。
「どうしました?」
首を傾げると、子猫が後ろ脚は私の手を台に、前足は肩にかけて私の唇にキスして来ました。
離れると同時、子猫が急速に大きくなり、人型となって私の首に手を回して抱き着いてきます。
「リンちゃ~ん、やっと会えたよ~」
嬉しそうに私の胸に頬擦りする女の子。
その子は何が何だか分からず唖然としている私にキス。
ついでに押し倒されます。
……一体何が起こっているのでしょうか?
「リンちゃん?」
女の子に見下ろされています。
ここで漸くその子の顔がハッキリと見えました。
肩までの黒髪と黄色の瞳、頭に猫耳の生えた、その子のことは記憶の中にあります。
「もしかしてコトネですか?」
その名前を呼んだ時、リンの耳が"ぴくっ"と動いたのが感じられました。
リンが頭を上げてこちらを見て来ます。
それに釣られるようにコトネもリンのことをじっと見ます。
「あれ? あの子からもリンちゃんを感じる。リンちゃんが二人!?
間違えた! リンちゃんが一人と一匹!??」
良く言えば天真爛漫。
悪く言えば少し騒がしい子ですね。
リンは暫くコトネと目を合わせた後、何事も無かったかのように再び寝に入ろうとします。
「待ってください! リンの友達ですよね!!?」
声を上げてそれを阻止しました。
リンは恨みがましくこちらを見て来ます。
〘ミレーヌ、今何時だと思ってるの?〙
「どうして私が怒られているのでしょう?」
〘おやすみなさい〙
「…………はぁ」
結局、リンは眠ってしまいました。
その一部始終を見ていたコトネは笑い出します。
「あはははっ。間違いなくリンちゃんだ~。
でもどうなってるの? 気配が二つあるよ」
私とリン。コトネは交互に見比べて唸ります。
私ももう一度寝たいのですが、この様子だとちゃんと説明するまで寝かせてはもらえないでしょう。
「仕方ありませんね」
私は私とリンのことをコトネに話します。
この子は話によってころころと表情が変わるのが楽しいです。
文字通りの百面相が私の目の前で展開されています。
話し終えると、コトネはまた私に抱き着いて来ました。
「つまりミレーヌちゃんとリンちゃんは別だけど、ミレーヌちゃんとリンちゃんは同じってことだよね?」
「そうなりますね」
「そっかぁ。とんでもないことをさらっと言われた気もするけど、でもリンちゃんが二人に増えて嬉しいな」
「ふぁ……。ごめんなさい、コトネ。そろそろ寝てもいいですか?」
「あ、ごめんね。それからわたし、こっちの世界ではコトネじゃなくてコレットっていう名前になったからそう呼んでね」
「そうですか。ではコレット。私は寝ますが貴女はどうしますか?」
「ミーちゃんと一緒に寝てもいい?」
「ミ……。仕方ありませんね。特別ですよ」
「ありがとう。大好きっ」
「んっ!!」
コレットがまたキスをして来ました。
頬が熱くなってきます。
このままではいけません。
早く眠ってしまいましょう。
「おやすみなさい」
「ミーちゃん、最後にもう一回だけ」
「……はぁ。これが最後ですよ?」
「うん!」
コレットの手が私の頬に添えられます。
その後、その手で私の頬を軽く摩り、コレットは幸せそうに微笑みます。
「やっと会えた。見つけるのに一年かかったよ」
「………」
「大好きだよ。ミーちゃん」
コレットの顔が近づいてきます。
目を閉じる私。唇と唇が重なり、離れるとコレットは私の手を握り締めて目を閉じました。
「おやすみなさい。ミーちゃん」
恋人繋ぎ、ですか。調子が狂いますね。
胸の鼓動が早いです。先程までの眠気は何処かへ行ってしまいました。
「はぁ……。眠れるでしょうか」
私は私の横ですでに寝息を立て始めたコレットをジト目で見てから固く目を閉じました。
*
翌日。朝からの予定のない訪問者に私は頭を抱えています。
起きたら始まっていた痴話喧嘩。余所でやってくれないでしょうか。
頭が痛くなってきます。
「コトネ。抜け駆けはずるいぞ!!」
「そういうアイルだって私より先にミーちゃんと会ってたんでしょう!!
そっちもずるい。それからわたしはコトネじゃなくてこの世界ではコレットだから!!」
「名前なんてどうでもいい。同衾に加えてキスまで。絶対に許さん」
「アイルに許してもらわなくたって別にいいもん。
ミーちゃんに許されたらそれでいいもん。
わたしと一緒に寝てもいいって言ってくれたのミーちゃんだもんねー?」
コレットが布団の中で繋いでいた手をアイルに見せつけるように出し、更に私に抱き着いてきます。
「キスもいっぱいしたもんね? ミーちゃん」
私を巻き込まないでください。
私はこの空気を無視するように、ため息を一つつきます。
「なん、だと」
固まるアイル。再起動後はずんずんとこちらに歩いて来て、私とコレットの間に割って入ってきます。
「ちょっと!!」
「嫉妬してしまったよ。ミレーヌ」
コレットを押しのけて私の腰に手を添え、抱きよせるように私にキス。
こういうことをスマートにするから、女性たちに悩まされるようになるのだと思いますが。
「あぁぁぁぁ!! ずるい」
「お前は昨日いっぱいしたんだろう? それなら今日はワタシの番だ」
「朝のミーちゃんはまだ味わってないもん。わたしもミーちゃんとキスする」
言うが早いか、コレットはアイルから私を奪おうと二人に飛びかかってきます。
しかしアイルはまるで円を描くようにコレットの突進を避け、ベッドから私諸共起き上がって私の顔を数秒程見つめた後、再びキスして来ました。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
これはいつ終わるのでしょうか?
そもそも私ではなくリンとそういう関係だったのではないですか?
私がうんざりし始めた頃、唐突に開かれたドアから入って来た存在によって、喧嘩は終わりを告げました。
「貴女たち、朝から何をして……いる、の」
「お母さん。良かった。助けてください」
「「あ!」」
それから二人は私の部屋から何処かへ連れていかれました。
その後私もお母様に呼ばれて朝から説教です。
コレットがいることをすぐに報告しなかった罰として、スカートとドロワーズを捲られてお尻を叩かれました。
痛みよりも乙女として恥ずかしかったです。
踏んだり蹴ったりですね。




