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白亜の魔女ミレーヌの旅行記  作者: 彩音
第一章-幼女時代-
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09.仮想フェンリル

「おはようございます。服を見せていただけますか?」

「おや、ミレーヌちゃん。おっと、白亜の魔導士様と呼んだ方がいいのかねぇ」

「ふふっ。どちらでも良いですよ。どちらも私ですから」

「そうかい。それじゃあ、あたしゃ今まで通りミレーヌちゃんと呼ばせてもらうことにするよ」

「はい。ところで試着させてもらってもいいですか?」

「ああ、勿論さ。試着室はこちらさね」

「ありがとうございます」


 こんにちは。ミレーヌです。

 現在私は服屋さんに来ています。

 王宮魔導士の仕事は本日無属性の日なのでお休みです。

 緊急招集の号令がかかれば出勤となりますが、滅多にそのようなことは起こりません。

 ですから休日を満喫するべく外出して来たというわけです。


「服を買うのは久しぶりですね」


 試着室で今まで着ていた黒のワンピースを脱ぎ、先程選んだ物を身に着けていきます。

 上は白の長袖ブラウスに黒のリボンタイ、濃いグレーのカーディガン。

 下はカーディガンよりも少し薄いグレーの膝上10cmのミニ丈スカート。

 足元は白のソックスと黒の革靴。

 

「これだけだと魔法学園の生徒のようですね」


 試着室の鏡に自分の姿を映しながら笑います。

 それにしても、何を着ても似合いますね。さすが私です。


 そのまま試着室から出て、馴染みの定員さんにこれら一式を買う旨を伝えました。

 後は帽子と外套を見せてもらうことにします。

 

「どんなのがいいんだい?」

「そうですね。……お金に糸目はつけませんので、何か加護のついているものをください」

「さすが白亜の魔導士様だねぇ。分かったよ。見繕ってくるから少し待っててくれるかい?」

「はい!」


 店員さんが戻って来るまでウィンドショッピングです。

 所狭しと並べられた服を見て、時には手にとって、体に当ててみたりしながら楽しく店内を歩き回ります。


「こうしていると、どれもこれも欲しくなってしまいますね」


 いっそ欲しいと思ったものは買ってしまいましょうか。

 これでも私はお金持ちなのです。

 王宮魔導士の給料とは別に砂糖の売り上げに応じて、その二割が私の懐に入って来るからです。

 魔道具に関しては魔道具作成科の資金となりますが、砂糖は私個人の発明として扱われることとなり、国と私との間でそういう契約が結ばれたのです。

 見ていると店員さんが私を呼ぶ声が聞こえて来ました。


「ミレーヌちゃん、こんなのどうだい?」


 その声に私は店員さんとのところへ行きます。

 見せてもらうと帽子には魔法攻撃緩和、外套には物理攻撃緩和の加護がついています。

 しかも効果:大とあるのでどうやら大幅に緩和してくれるようです。

 これはとても良いものです。


「これは良いですね」

「ただ、値段がちょっと張るけど大丈夫かい?」

「お幾らですか?」

「白金貨三枚なんだけど、ミレーヌちゃんだからね。一枚でいいよ」

「随分オマケしてくれるんですね」

「その代わりうちの店を王宮魔導士の方々に紹介してくれるかい?」

「くすくすっ。分かりました。太っ腹のお姉さんがいると紹介しておきましょう」

「おいおい、それだといつもまけないといけなくなるじゃないかい」


 私たちは顔を見合わせて笑い合います。

 ちなみに白金貨とはこの国のある大陸で一番価値のある通貨のことです。

 上から白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、銅貨、鉄貨。

 これらの貨幣がこの大陸では流通していて、日々人々の間でやり取りされています。


「冗談です。ではこれを」

「確かにいただいたよ」


 私は白金貨を払い、早速帽子と外套を身につけます。

 限りなく黒に近い紺色のとんがり帽子と外套です。

 白亜の魔導士。その称号らしい格好になったでしょうか。

 服を揃えたら、後は……。


 服屋さんを後にして道を行きながら空間から杖を取り出します。

 私の身長よりも、頭一つ分くらい低い高さのそれは、高価な宝石などがついているわけでもなく、見た目木で作られていることが一目で分かる平凡なものです。

 ただ、素材が世界樹の枝らしいですが。

 世界樹とはこの世界に魔素を生み出している神聖なる樹です。

 その樹は世界七大大陸の各所に存在し、ここリリスティア王国にも王宮を守るかのようにその背後に威風堂々と聳え立っています。

 そんなご神木な世界樹の枝を過保護なお母様が私のためにディアナ様に頼み込み、もらい受けて作ってくれたのです。

 

「これも買い替えようかと思いましたが、愛着が沸いていますからね」


 世間では派手な杖が流行りですが、私はそれに乗らずこれまで通りにこの杖を使い続けようと思います。

 そうと決まれば次の目的地へ。箒を買おうと思っているのです。


「ですが……」


 ふと思いついて杖を見ます。

 箒である必要は別にないのではないでしょうか。

 例えば杖に跨ったり、杖を変化させたものに乗ったりしてもいい筈です。


「そうしますか」


 杖に変化の魔法を使います。

 光り輝いて現れるは、全体的に真っ白な体躯に私と同じ青の瞳を持つ幻狼。

 その名も――――フェンリル。本の中で見た幻狼そのままの姿です。

 頭を撫で、私はフェンリルに屈んでもらい腰をその背に預けます。

 合図をして立ち上がらせ、もう一度頭を撫でるとフェンリルは嬉しそうに小さく鳴きます。

 

 ……全部私の思考でやっていることですけどね。


 元が杖ですから意思がありません。

 だから見た目生きているように見えても実際は傀儡(かいらい)なのです。


「でも可愛いからいいですよね」


 フェンリルの体を撫でます。

 血は通っていませんが、生物特有の柔らかさと何故かほんのり温もりを感じます。


「さすが私ですね。まるで生きているようです。

 そんな貴女に名前をあげましょう。

 私のもう一つの名前、リンなんてどうですか?」

 

 撫でながらそう言うと、私の中から何かが零れ落ちた気がしました。


〘えっ?〙

「え?」


 フェンリルがこちらを見て喋っています。

 これは私の思考ではありません。

 彼女が生きて喋り出したのです。


〘こんなことってある?〙

「何とも言えませんが、現実に起こっていますからね」

〘私が見てるのって、ミレーヌだよね?〙

「はい。貴女はリンですよね?」

〘これって人格が分離したってことだよね?〙

「恐らくはそうでしょう」

〘……久しぶりのシャバだぜい〙

「シャバとはなんですか?」

〘ん~、ところでこれからどうしようとしてたの?〙


 はぐらかされてしまいました。

 まぁ、いいでしょう。

 私はリンに目的を告げます。


「箒を買いに行こうと思っていたのですが、必要なくなったので、この王都の外に出てみようと考えています。そこまでお願い出来ますか?」

〘任せて!!〙


 リンは始めはゆっくり。徐々に速度を上げていきます。

 馬車と同じくらいでしょうか。恐らく本気で走ればもっと早く走れるのでしょうが、私に配慮してくれているのでしょう。その証拠に背中から見るリンの顔は歩いてるのと変わらないという顔をしていますから。


「お母さん、お犬さん?」

「白亜の魔導士様だわ。あれはもしかして聖獣フェンリルじゃないかしら」

「ありがたやありがたや」


 道行く人、ほぼ全ての人々がこちらを見ています。

 注目を浴びるのは嫌いではないですが、少々やってしまった気もします。

 やっぱりリリスティア王国の守護獣には注目が集まってしまいますか。

 リリスティア王国を建国する際に最もそれに貢献した聖女様が連れていたとされる守護獣。

 真相の程は分かっていませんが、リリスティア王国ではそれが(まこと)しやかに語られているのです。


〘と、思いつつも笑顔で王都民に手を振る王宮魔導士の鏡〙

「私ですからね。ですが、そろそろ予感がしますね」

〘その予感多分当たり〙

「……そうなりますよね」


 私たちが歩いている真正面から警備兵の方々が慌てて走ってきます。

 これだけの騒ぎになっていますからね。

 無暗に彼女たちの仕事を増やしてしまいました。

 やりすぎましたね……。


「ご苦労様です。あの、白亜の魔導士様。これは?」


 どう答えたものでしょうか。

 杖であることを明かすか、フェンリルであると嘘を通すか。

 

 ……………。

 周りからの視線が痛いですね。

 これは周りの方々は本物のフェンリルであることを期待していますね。

 はぁ、困りました。偽るのは簡単ですが、偽り続けるのは心苦しくなりそうです。


〘何悩んでるの? いつもみたいに私の凄さを見せつけたらいいじゃない〙

「狼が喋った!!!」


 そうですね。私は私でありましょう。


「これは私の杖です」


 フェンリルから降りてリンを撫でつつそう告げます。

 警備兵の皆さんも、周りの観客の皆さんも、私が言っている意味が分からないという顔をされています。

 そんな反応になるのは当たり前ですよね。自分の容姿を多少変える程度の変化の魔法なら、それなりに使い手がいますが、杖など無機物を生物、或いは傀儡に出来る使い手は恐らく私だけでしょうから。


"ポンッ"

 と軽くリンの体を叩いて杖に戻します。

 それを空間に仕舞おうとすると魔法に拒絶されてしまいました。


「ああ。リンが宿ることで生物扱いになったというわけですか」

〘みたいだね~〙


「杖が喋った!!」


 もう、王都は大騒ぎです。

 私はそんな様子を余所に警備兵さんたちに話しかけます。


「これで分かってもらえましたか?」

「はぁ。……はい。目の前で見ても信じられませんが。夢でも見ているようです」

「くすっ」


 悪戯心が沸きました。


洗浄魔法(クリーン)

「ひゃっ!!」

「夢ではありません。現実ですよ」

「ははっ……。そのようで」

「ところでもう行ってもいいですか?」

「はい! 白亜の魔導士様、ご協力ありがとうございました」


 警備兵さんたちが私に敬礼するのに合わせて、私はひらひらと手を振って杖に再び変化の魔法を使います。

 

「それではリン。改めてお願いしますね」

〘うん!〙


 私たちは走り出します。

 その背後では割れんばかりの歓声が私たちの姿が見えなくなるまで続いていました。

 ふふふっ、称賛されるのは気持ちの良いものですね。

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